第03話【ヤマトとメイ】

Last-modified: 2009-03-20 (金) 11:35:34

「う…ん。」
なのはが目を開けると、医務室にいた。
視界がややぼやけているが、アースラの医務室であることに間違いはないだろう。
「おっ、目が覚めたか?」
ちょうど医務室の扉を開けて、少年が入ってきた。
水色の髪に青黒い瞳が印象的な男の子。
(お兄ちゃんと同い年ぐらいかな?)
「えっと、ごめんなさい。ちょっと記憶が混乱してて、どなたですか?」
「えっ?あ、よく考えたら、君に僕の自己紹介をしていなかったな。」
コホンっと咳払いして
「僕は、一条寺ヤマト。宇宙世紀とコズミック・イラの統合世界というところから何かの成り行きでこっちの世界に来たんだ。しばらくの間、時空管理局所属の嘱託魔導師AAAランクと言う形でこの艦、アースラにいる。もちろん、局服とIDカード付き。高町なのはさんだっけ?よろしく」
「はい、よろしくお願いします。」
すると、再びドアが開き、今度は、リンディがやって来た。
「なのはさん、大丈夫?」
「はい、リンディさん。」
「艦長、自分はこれで…。」敬礼をし、ヤマトは医務室から出ていった。

部屋から出ると、何かにぶつかった。
「いてッ!」
「ご、ごめんなさい。急いでたもので。」
「あぁ、大丈夫。気にしないで。僕も同じだったから」
フェイトはペコリと一礼すると、医務室の中へと入っていった。
入れ違いに、リンディが出てくる。
「ヤマト君、ちょっとお話しましょう。」
「えっ?あっ、はい。」
二人は食堂へと向かった。
「協力ですか?」
「えぇ、今回の件は相当厄介な事になりそうなの。
嘱託魔導師のあなたがいれば戦力が多い方が、こちらとしては都合がいいのよ。あなたの双子の妹・メイさんも探しているよね?」
「はい。その時は一緒にいましたから、巻き込まれてこっちの世界に来ているかと思われます。」
「艦長、お茶が入りました。」
エイミィがトレーにお茶を三人分運んできてくれた。「ありがとう、エイミィ。」「ありがとう。」「いえいえ、ヤマト君は砂糖いくつ?ミルクは?」
みるとリンディは自分で砂糖とミルクをカップに入れている。
カップの中身は…緑茶。
「…いや、僕はこのままでいいです。緑茶本来の味が好きですから。(さしづめ、緑茶に砂糖とミルクはリンディ茶と呼ぼう)」
ヤマトはカップを受け取り、そのまま口に運んだ。
「それで、協力してくれるのかしら?」
「協力と言うのはなんでしょうか?」
「もちろん、戦闘面で協力してもらうわ。
住居も提供します。
毎日、三食つくわ。そして、何より、時空管理局が責任を持って、あなたのいた世界を探してあげる。」
最高にいい条件だった。
(すごいサービス精神だな、向こうも模索はしてくれるようだし。ここは戻るために協力を)

「今日から、僕は、ここに住むんですか?」
みるからに高級そうなマンションを見上げながらヤマトが言った。
「まっ、住むのは君だけじゃないがな。
母さんとフェイト、アルフそれから僕もだ。」
クロノは物資をヤマトの隣まで運び、降ろす。
「ヤマト、上がるついでにこれを部屋に運んでくれないか?」
「あぁ。わかった。提供もしてくれるんだ、ここは恩返しをしないとね」

部屋に入ると、フェイトとリンディ、なのはがいた。(あれ?使い魔のアルフは?)
などと考えていると、
「あっ、ヤマト君。こんにちわぁ」
となのは。
「あっ、なのは、手伝いに来てくれたのかな。
体の調子はもういいのか?」
「はい、体の方はもう何とも…。ただ、まだ魔法はほとんど使えないですけど…。」
声の調子を落とすなのは。「あ、ヤマト、それは何?」
「テーブルだよ。どこに置けばいいんだ?」
フェイトが丁度となりの部屋から出てきたところだった。
「それは…どこかな?リンディてい…、リンディさん?」

なんとか、家具の配置を終え、一同は一息つくことにして、みんなでお茶を飲んでいた。
「そろそろ時間ね。」
リンディが呟くと、ほぼ同時にリビング中央に魔法陣が形成され、そこから、子犬とフェレットが現れた。「新形態、子犬フォーム!」「う、うわぁぁ、犬が…喋った!?」
「わぁー、アルフちっちゃい、どうしたの?」
「ユーノ君もその姿、久しぶりだね。」
「う、うん。」
なのはとフェイトがそれぞれフェレットと子犬に話しかけている。
しかも、フェレットと子犬はちゃんと受け答えをしていた。
「フェレットも…!?って、ユーノとアルフ?これが?」
「使い魔って、言わなかったっけ?」
アルフがヤマトの方へトタトタと小走りにやって来た。「えぇ、そう言えば、言ってましたね。初めて見たから分からなかったよ」
ヤマトがアルフの顎を撫でる。アルフは目を細めつつ、眠たげな声で簡単な説明をしてくれた。
「へ~、じゃあ、あのフェレット、ユーノはなのはの使い魔なのかな?」
「いんや、あれは使い魔じゃない。」
「じゃあ、なんなんだ?」「ユーノは元が人間、アタシは元が犬。
ユーノはただ変身魔法を使って動物に変身してるだけなんだよ。」
「そうなのか。」
アルフはごろんっと仰向けになる。
「へぇ~、アルフがもうなついてる。珍しいな。」
「こいつ、ヤマトだっけか?撫でるのうまいんだよ。」
アルフはでっかいあくびを漏らした。
「動物の扱いに慣れているから、何故か凶暴なライオンまで懐かれているからね」
その言葉にヤマト以外の者は目がギョッとした。

同時刻 八神家

「あれ、メイちゃんは?メイちゃ~ん?」
メイの姿が見当たらないので、はやては探しているのだが返事はなかった。
「どうしたんですか?はやてちゃん。」
リビングの掃除を終えたシャマルがパタパタとはやての元へやって来る。
「メイちゃん、みいんかった?いつまでもサイズの合わん服を着せとるわけにもいかんから、昨日、買い物行こうやって言ったんやけどなぁ…。」
「メイちゃんなら、さっきヴィータちゃんとシグナムがつれて行っちゃいましたよ?お昼には戻るって言ってました。」
「そーなん?」
三人で一体何をやっているのか気になったが、まぁシグナムがついているから、との事ではやてはあまり気にしないことにした。

偏狭の世界
「ここなら、大丈夫だろう。」
シグナムは周囲に結界をはった。
「うわっ、何これ?」
メイの目の前の景色が一変する。
「封鎖結界、んなことも知らねぇのか。」
ヴィータは苛立たしげに言った。
「うん、ごめん。こういうの初めて。」
素直に謝るメイ。
「いや、別にいいんだけどよ。それより、デバイスを起動させろよ。」
「あ、う、うん。」
着ている服が一瞬にして、赤と黒をベースにした服になる。
そして、右手に剣、左手に盾。
「一条寺メイ、それがお前の騎士服だ。そして、手に持っているのがデバイス。
お前の持っているデバイスは、私たちのとは違うみたいだがな。」
とシグナム。
「騎士…服…ね。」
「それがあんたの体を守ってくれるんだ。デバイスは相手を攻撃するためにある。」
ヴィータはいつのまにか、騎士服になり、手にはハンマーを持っていた。それをメイに向け構える。
ジャキっと音がした。
「こいつはグラーフアイゼン。あんたのは?」
「え、えっ…とぉ~、(ジャスティスはフリーダムと共にどこかに行っちゃったから…。名前…名前。)ナ…。」
「「ナ?」」
シグナムとヴィータがハモる。
「ナイトジャスティス。」「正義の騎士?私のは炎の魔剣レヴァンティンだ。」
一通り紹介が終わったところで、メイは気になっていることを聞いた。

「シグナムさんたちは魔法の力を…この力を何に使おうっていうんですか?」
「主を御守りするためだ。」「そう…ですか。」
沈黙が流れた。
封鎖結界内では風も吹かない。まだ昼にも関わらず、明かりがない。
決して真っ暗というわけでもない。景色は一望できる。ただ、明るいとは思えない。そんな感じだ。
「とりあえず、それは置いといて、そろそろ始めるぞ、一条寺メイ。」
「はい。」
シグナムはレヴァンティンを構え、メイは盾、ジャスティスを構える。
「始め!」
ヴィータが合図した。

「はやて、ただいま!!」
「おかえり、ヴィータ。シグナムとメイちゃんは?」
パスタを魚介類をふんだんに使ったクリームソース(昨日のシチューの残りを使用)に絡めながら、はやてがヴィータを迎える。
「一緒に帰ってきたよ。」
すると、シグナムの肩を借りたメイが姿を見せた。
「た、ただいま…はやてちゃん。」
「めっちゃ、辛そうやな。何してたん?」
「ちょっと、シグナムさんに稽古をつけてもらって…。」
「お昼から服買いに外でるけど、大丈夫?」
「うん、それは大丈夫。お昼を過ぎる頃には、疲れもとれるだろうから…たぶんいけるかも。」
シグナムに椅子まで肩を借りて行って椅子に腰を下ろすメイ。
「まったく、あれだけバリバリと防護魔法を多用すれば、障壁が壊れて直ぐに魔力がなくなるのも当たり前だ。」
向かい側の席に座り、シグナムは自分のグラスに水を注いだ。
「すみません。初めての経験で」
「まぁ、初めてだというならそれも仕方ないが…。」だが、その初めての相手に何度かひやりとさせられたのも事実だった。
メイのデバイスは独特だった。
デバイス自体のモードは二つ、万能のジャスティスモードと射撃類を一切持たないが接近戦に強いエピオンモード。しかし、気にかかるのは、背中にある魔力で物質のあるバックパック。
一体なんだというのだろう。
「シグナム、ボーッとしてどうかしたん?」
はやての言葉にハッとして我にかえると、テーブルにはザフィーラを除くみんなの分のクリームパスタが用意されていた。
ヴィータを除く、メイ、シャマル、はやてはフォークを止め、シグナムに視線を向けていた。

「これなんかどうやろ?」
はやてが、いくつか見繕い、メイにその服を手渡した。
「うん、私にピッタリかも。」
「ピッタリ、やない。試着、試着。」
「あ…う、うん。」
「うちはその間にもう何着か持ってくるから、はよしてな。」
「素直に従った方がいいぞ。こういうことに関してははやてはうるさいからな。」
ボソッとヴィータ。
メイは苦笑して試着室内へと姿を消した。

「たくさん買うたなぁ。」
「本当に、ありがとう。はやてちゃん。」
両手を買い物袋に塞がれたメイがお礼を言った。ちなみに、はやての車椅子を押しているのはヴィータだ。「これからしばらく、うちに住むんならこれくらいしてやらんとな。
あっ、でも、手伝いとかはお願いするかも…。」
「私に出来ることなら何でも言って。」
「そやなぁ~、じゃあ、家事全般やってもらおうかな。メイちゃん、学校行くんだってな?」
「あと、はやての病院の送り向かえもな。」
「えっ?任せて。学校は行くよ」
「あはっ、冗談やて。学校は本当やな」
「冗談だよ、バァカ。」
はやてとヴィータにからかわれつつ、とりあえず買い物は終わったのだった。

「あれ?リンディさんは?」
午後三時過ぎ、マンションの一室のリビングのソファに座りながらテレビを見ていたヤマトは、リンディの姿がないことに気付いた。
「リンディさんならさっき本局へ行くって出ていきましたけど…。」
テーブルの上に雑誌を広げ、絨毯に座っているフェイトが答えた。
「そうか。で、フェイトは何の雑誌を何?」
「携帯電話のです。リンディさんが買ってくれるって言ってくれたんで…、ヤマトは、携帯電話、持ってないの?」
「…持ってはいたけど。」
「向こうの世界に置いて来たの?」
「ん、戦闘中にこっちに来たからね。携帯は戦艦の自分の部屋に置きっぱなしだった。」
ペラッと雑誌のページをめくる音が二人きりの静かな空間に響いた。
「今頃、ヤマトのことを心配してるだろうね。ご両親や友達が…。」
「今頃、僕を探しているだろう」
フェイトは雑誌に視線を戻し、ヤマトはテレビを消してソファの上に仰向けになり、頭の上で腕を組んだ。
(ラー・カイラムのみんなは…どうしてるんだろう…。アムロさん、ブライトキャプテン、みんな…)

日が沈み、民家に明かりがともり始めたころ。
「ヤマト、夕飯どうする?」
フェイトが開いていた雑誌を閉じ、立ち上がった。
「え、リンディさんは?」
「リンディさん遅くなるんだって…、クロノも…。だから何か適当に食べててって言われて、お金も預かってるんだけど…。」
う~ん、と考え込むヤマト。「どうするって言われても…。お金があるから何かを買って食べるや作るしか」
「…だよね。」
「フェイトはこの辺の地理には詳しい?」
床で寝ているアルフを抱き上げていたフェイトはちょっと困ったような顔になった。
「うん、まぁ一応は…それで何食べたい?」
「行ってから決めるよ」
「じゃあ、お店に行ってから決めようか。」
そうだな、とフェイトの提案にヤマトは賛成し、二人は外出の準備に取り掛かった。ちなみに、ヤマトの洋服は、アースラの男性局員から借りているものだ。
リンディがそのうちに買いにいくから、との事で部下から拝借してきたものだが、そのうち、と言うのがいつになるかはわからないらしい。
何でも、第一級捜索指定失物に含まれるロストロギア、闇の書を先の戦いの時にシグナム達が所有していることがわかったことで、本局が慌ただしくなっているそうだ。
部屋着から外出用の服に着替え、コートを着用し、ヤマトは玄関へと向かった。
フェイトも丁度着替が終わったらしく、コートを着用しながらこちらへとやって来る。
「アルフ、留守番お願いね。」
「は~いよ。」
絨毯の上でまどろみながらアルフは返事をした。

外は寒かった。
当たり前と言えば当たり前えだ。こっちの世界では12月。
まだ統合世界にいたときは月なんて関係なかった。国を転々とし、その国々で気候が違っていたし、のんびりと外に出る暇なんてなかったし、連戦で季節を感じるなんて事ができなかった。それに第一次ネオ・ジオン抗争の中盤からアークライト・ストリンガーによるアルティメット細胞事件の終わりまで宇宙にいたからだ。
「あっ、友達がいたときは…」
そうではなかった。
成り行きでモビルスーツに乗る前は、とあるコロニーのハイスクールに通うごく平凡な高校1年生だった。
友達と呼べるものがいて、個性豊かだった。
ナルシストの少年と少女、関西弁を喋る少女、神秘に満ちた少年と少女、そして双子の妹。
隣を歩いているヤマトの表情が哀しげに見え、フェイトは声をかける。
「いいよな、こういうの。」哀しげに笑いながらヤマトが言う。
「えっ?」
「こうやって、誰かと外に出てさ、賑やかな通りを歩けるって…。」
「うん、私もそう思う。」
フェイトは頬を紅く染め、微かに微笑んだ。

ラーメン、とんかつ、蕎麦うどん、ファミレスetc...「いっぱいあるね。フェイトは何食べたい?」
う~ん…とフェイト。どうやら興味を惹かれるお店が多くあるらしい。
(結構、あるな)
「どうしよう…。」
まだ迷っているフェイトにみかね、ヤマトが提案する。「そうだ!コンビニか、スーパーで惣菜か弁当買って帰るってのはどう?アルフも家でまってるし…一緒に食べればいいんじゃないかな?その方がアルフも喜ぶだろうし」
「…うん、そうだね。そうするよ。」
手近なスーパーへと入り、惣菜、弁当コーナーへ向かう。
「…、アルフって何を食べる?」
「何でも食べるよ。お肉なんかは特に大好き。」
「じゃあ、ビーフステーキ弁当で…、僕は…これにしよう、海鳴デラックス弁当。」
フェイトが持っている買い物籠にビーフステーキ弁当と海鳴デラックス弁当をいれ、ヤマトは右手を差し出した。
「籠、重いでしょ?持ってあげるよ」「ううん、大丈夫だよ。」
「いいから、フェイトは弁当選んで。」
ヤマトは笑顔で半ば強引に籠を奪い取り、フェイトを促す。
「…ありがとう。」
それからフェイトが弁当を決めるまで三十分かかったと言う。

「ありがとうございました。」
店員の営業スマイルに見送られ、二人はスーパーをでた。
相変わらず外は寒い。
体の芯から熱をうばっていくような冷えかただ。
すれちがう人々の白い吐息が空気に溶けこんでいく。(南極基地はもっと寒かったな。)
そんな事を考えながらヤマトは歩く。
ヤマトは隣を歩くフェイトを見る。
(フェイトもなのはも戦ってるんだよな。こんな、小さな子どもが…そう言えば10歳という若さでモビルスーツに乗っていた女の子がいたな。ロンド・ベルの中ではジュドーが最年少だったな)

それは、自然にとった行動だった。ヤマトは買い物袋を持っている手とは逆の手でフェイトの頭を撫でていた。
顔を真っ赤にするフェイト。
「…何?急に…。」
「あ、いや…ゴメン。いろいろ、考え事してたらつい…。気に触ったら、謝る。」
首を横に振るフェイト。
「ちょっと、びっくりしただけ。でも…、何で急に?」
冷たい空気を胸一杯に吸い込み、一気に吐き出す。
「似ているんだ、僕が…守ってあげられなかった人に…。」
「…守れなかった?」
「まぁ色々あってね。」
まだ幼い子にするような話ではない。そう思ったヤマトは笑って誤魔化した。けれど、その笑顔は何処か寂しげで、苦痛に歪んでいるようにフェイトには見えた。
「「ただいま~。」」
家に着くと、人型アルフがヤマトとフェイトを迎えてくれた。
「おかえり、フェイト、ヤマト。ずいぶん遅かったじゃないか。」
「ごめんね、アルフ。」
「選ぶのにかなり手間がかかったんだ。」
家をでたのが六時前、帰って来たのが七時半過ぎだった。フェイトが困ったような笑みを浮かべる。
「まぁ…今更驚かないけどね。」
半ばあきれたようにアルフはフェイトを見ると、ヤマトの買い物袋に目が止まる。「それ、アタシの分?」
「もある。はい、アルフにはコレ。」
ヤマトは唐揚げ弁当をアルフに渡した。
「ちょっと待って、アンタたち、そとで食べてきたんじゃないの?」
「ううん、お弁当買ってきたの。暖めてくるからちょっと待ててね。アルフ。」皆の分の弁当を持って、フェイトは台所へ姿を消した。
「アタシャてっきり外で食べてきたもんだと思ってたよ。」
「結構店が多かったから迷ったんだよ。その結果、お弁当だよ」
「ふ~ん、まっ、そこがフェイトの可愛いとこなんだけどね。」
「僕の想い人もそんな感じだったな。」
ヤマトはアルフの横を通り抜け、コートを脱いでクローゼットにかけた。
(エステルもそんな感じだったけどな…。)何かが引っ掛かるもの言いだったがアルフは気にしない事にし、フェイトが暖めている弁当を食べにリビングに向かった。

「メイ、起きろ!」
「う…。」
ドスンと腹の上に何かが乗っかった。
「ヴィ…、ヴィータちゃん、どうしたの?」
「今回はお前も連れてくんだってよ。」
メイの腹の上であぐらをかく。
「今、何時なの?」
「22時だな。」
「二時間は寝たんだね。」
「つーか、早く起きろ!時間がねぇ。」
メイの上から飛び下りるヴィータ。
「う、うん。」

「遅かったな。二人とも」
あるビルの屋上にシグナム、シャマル、ザフィーラがいた。
「悪い、シグナム、こいつが起きんの遅くてさ。」
ヴィータに腕を引っ張られ、よたよたとついてくるメイ。よほど、今朝の魔法の訓練がこたえているらしい。
「一条寺メイ、デバイスをさっさと起動させろ。」
「はい…」
着ていた服が騎士服に変わる。よくよくみてみると、シャマル、シグナム、ヴィータも騎士服に変わっていた。
「あれ?ザフィーラは?」
さっきまでザフィーラ(犬)がいたのだが、見当たらない。いるのは犬耳に尻尾をつけた見知らぬ男…。
「この姿でお前と会うのは初めてだったな。メイ。」
「えっ、ひょっとして…ザフィーラなの?」
「話は後だ、行くぞ。一条寺メイはヴィータとザフィーラと共にいけ、私はシャマルと行く。」
シグナムとシャマルはその場から飛び立つと姿を消した。
「ったく、シグナムもよぉ、こんなやつ押し付けやがって…。ノロノロしてっと置いて行くからな!ちゃんとついてこいよ!」
ヴィータ、メイ、ザフィーラも飛び立ち、姿を消した。

翌日、AM7:00
「おはようございます。リンディさん。」
「あら、おはよう。フェイトさん。ヤマトくんの魔法の訓練は終わったの?」
「はい、念話と基本的な事を少々…。」
フェイトは椅子に腰掛け、机にナプキンをひく。
「はい、フェイトさん。」
目玉焼きに、ベーコン。野菜サラダにパンののった皿をリンディが運んでくる。
「ヤマト君もはい」
「ありがとうございます」
「そう。お弁当も作って置いたから忘れちゃ駄目よ?」
「はい、ありがとうございます。いただきます。」

AM11:00八神家、廊下
「また、メイちゃんがおらへん。シャマル、メイちゃん知らん?」
「メイちゃんなら、ヴィータちゃんとザフィーラと一緒に出かけましたよ。学校に連絡をして休んで」
「そーなん?」
「えぇ、まぁ出かけたと言うより連れていかれましたね。ヴィータちゃんに…。」
「主はメイが気になるようですね。」
階段からシグナムが降りてきた。
「はやてちゃん、メイちゃんの事が好きなんですか?」
何故かシャマルが頬を染める。
「ち、ちゃうよ。ただ…。」「「ただ…?」」
「メイちゃん、異世界からきたんやろ?そうやったら、こっちの世界やと一人ぼっちやん…。
一人の辛さや寂しさは一応知ってるつもりやから…。できれば、不安にさせたくない。」
「………。」
「でも、私が心配せんでも、みんなメイちゃんと出かけたりしとるから、取り越し苦労やね。」
はやては笑った言った。

ヤマトもこの世界に来てから学校に通っている。
2日前から私立聖祥大学付属高等学校の男子校に通っている。普通科で編入。編入テストは全教科満点。
クラスではエリート級の成績を持つ。文系・理数系・運動も抜群の成績を誇る

学校から帰ってきた、フェイトとなのはとヤマトはアースラにいた。
なのはのリンカーコアが正常に回復しているかどうかを調べる検診だ。もちろん、アルフもアースラに来ている。
医務室からなのはとフェイトが出てきた。
「なのは、もう治ったのか?」
「うん、もう元通りだってさ。」
それはよかったと三人と一匹で喋っているとエイミィがやって来た。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、ヤマト君、三人のデバイス、修理終ったよ。」レイジングハート、バルディッシュ、フリーダムが手渡される。
「いい?三人とも、修理の際…。」
エイミィの言葉を遮って艦内に警報がなり響いた。

「くそっ、管理局のやつらか…。」
ヴィータ、ザフィーラ、そしてメイは多数の監理局魔導士に囲まれていた。
(どういう…ことなんだ?)わけがわからない。
そもそもヴィータが言った管理局という組織が一体なんなのか、メイには分からなかった。
すると、包囲がとかれ、代わりに
「スティンガーブレイド、エクスキューションシフト!!」

声。
淡いブルーの光の剣が三人に向かって降り注いだ。

発光し爆発がおこる。
「ザフィーラ!」
メイが声を上げた。
ザフィーラの腕に数本、剣が刺さっていたのだ。
「心配するな、これぐらいでどうにかなるほどヤワじゃない。」
ザフィーラが腕に力を入れると剣が抜け、落ちる。
ホッとするメイ。
「安心すんのはまだはぇーぜ、メイ。」
ヴィータが指す方をみると、新たに三人、転送されてきた。
うち一人とは衝撃的な再会を果たす。メイのよく知る人物だ
「そんな!!!」
「なんで!!!」
バリアジャケットを装着した。なのは、フェイト、ヤマト。何やら追加装備があったらしく、起動に手間がかかった。
「メイなのか!?」
「ヤマトなの!?」
2人は味方同士のはずだったが、今は敵同士になっている。
共に戦った味方と何故、戦わなければならないのか、ヤマトとメイの心の中を苦痛させる。

「ヤマト君?」
「ヤマト…?」
ヤマトの異常に気付いたなのはとフェイトが声をかけるが次の瞬間にはヤマトはメイを敵と認識した。
「…何で、あの騎士たちと一緒にいるんだ!?」
『ロードカートリッジ。ビームコンフューズ・ロングサーベルモード』
マガジンにあたる部分から薬筒が弾け跳び、勢いよくビームライフルの銃口から魔力刃が発生。
銃口から魔力刃が飛び出し、メイの方へ向かう
「なんで、ヤマトは2人の女の子と一緒にいるの!!?」
『シャイニングエッジ』
メイの持つシールドから投躑兼接近戦用の魔力刃を発生した武器が出てくる。そしてビームコンフューズへ投げる。
(ビームコンフューズは当たれば過剰反応で魔力刃が砕け、その破片で相手にダメージを与える)
ヤマトとは対照的な赤い魔力がリングによって増幅され、さらに圧縮される。

ビームコンフューズは魔力刃が砕けずにビームコンフューズとシャイニングエッジは相殺された。

「ちっ!」
「ちょっ、ヤマト君、まずは話を…。」
なのはが止めようとするが、静止を無視してヤマトは飛びだし、メイへと向かっていく。
しかし、突如、紫電がヤマトを襲った。
「お前の相手は私だ。一条寺ヤマト。」
管理局の戦闘局員のはる結界をレヴァンティンで強引に破り、結界内に侵入してきたシグナムだった。
こうなってしまったら話し合いどころではない。
そう判断したクロノは指示を出した。
「(なのはは、赤い服の子と、フェイトとユーノはあのもう一人の赤い子を捕えて、力が未知数だから油断するなよ。アルフは…。)」
「(わかってるよ。丁度、アタシもあいつに用がある。)」
ザフィーラを睨んだ。
クロノからの指示を受け、なのは、フェイト、ユーノ、アルフはそれに従う。
「(僕は彼等のマスターを探す。皆、頼んだぞ。)」

それぞれ、了解の声を上げ、散開した。

「この!」
自分の視界にメイを捕えながらも、シグナムに邪魔されて弁解の余地すらなかったヤマトはイライラしていた。
かと言ってシグナムを無視するわけにも行かなかった。前回よりも武器が強化され、レヴァンティンと打ち合う度にヒビが入りはしないが、剣の修行を、実戦で行っていなかったヤマトにとっては、シグナムの攻撃一つ一つを見切り、防ぐのがやっとだった。
(気を散らせば負ける。)
今は、悔しいがメイのことを出来るだけ頭から切り放し、戦闘に集中することにした。

「サポートは僕にまかせて、フェイトは前へ。」
「うん。」
ヒュッと音を立て、メイへ向かっていくフェイト。
「一体、何だって言うの…。」
メイはこの突然の状況を理解できず、呆然としていた。
「チェーンバインド!」
その隙をついたユーノのバインド。相手の捕縛を目的とした魔法だ。
声にハッとし、慌てて回避するメイ。
三本のチェーンバインドを一本、二本と回避していく。
『Warning!サーベルモード』
ジャスティスの警告。メイは振り向き、背後からのフェイトの一撃を辛うじて二刀のサーベルで受ける。
「ぐっ!!どうして、こんな…。ヤマトまで」
競り合っている間に、シグナムや、ヴィータ、ザフィーラの状況を確認する。
(駄目だ、シグナムさんもヴィータちゃんも、手が空いてない。やれるの?
やるしかないの?)
サーベルに力を込め、一旦相手、つまりフェイトとの間合いをとった。

『プラズマランサー』
フェイトの足元に魔法陣が展開され、周囲にも八つの環状魔法陣が展開される。
「プラズマランサー、ファイア!!」
「チェーンバインド!!」
ユーノが操るチェーンバインドがメイを誘導し、避けたところへフェイトがプラズマランサー放った。
「くっ。」
サーベルでプラズマランサーを弾き飛ばすが、一旦、弾き飛ばされたそれらは、空中で制止し反転して再びメイへと向かって発射される。
「これは…。」
『ライフルモード&フォルティス』
メイはさらに上空へと回避行動をとり、魔法陣を展開そしてバックパックのファトゥム-00の砲台を展開、右手のライフルを持ち、いかにもヤマトと同じく、威力はヤマト版より劣るがフルバーストモードで狙いを構えて追尾してくるプラズマランサーに狙いをつけた。
連結した銃の前後から薬筒が弾け跳び、リングが複数とりまく。
メイはトリガーを引いた。ビームコンフューズを相殺したときとは比べ物にならない太さの魔力の奔流がプラズ
マランサーを飲み込み、消滅させる。
しかし、息をつくまもなく、フェイトの追い撃ちが続く。
「はぁぁぁ!!」
振り上げたバルディッシュのリボルバーが撃ち出す圧縮魔力を刃へと変化させ、サイズフォームへと変化する。
「くっ!!」
後ろへと回避行動をとりながらトリガーを引き、通常射撃魔法を連射し威嚇するが、フェイトは放たれた魔法をバルディッシュで切り裂き、加速。
メイとの間合いを一気につめる。
さらに横から再びユーノのバインドがメイへと向かってきていた。
それを視界の隅に確認する。
(ここで、捕まるわけにはいかない。何でこんなことになってるのか皆に聞くまでは…当てられるか?)
メイは意を決し、魔法陣を展開。カートリッジをライフル・フォルティスから二発ずつ、計4発消費する。
『ハイマットモード・スタンバイ』
自分を追ってきている少女とチェーン状の魔法が三本、そしてその術者の少年が一人。
さらにターゲットを加える。
自分をよく知る少年にヴィータと戦闘中の少女。それからザフィーラと戦闘中の相手をも加える。
「ターゲット、マルチロック!!」
『オールライト』
最後に左右一発ずつカートリッジを消費する。
だがすぐには魔法を発動させない。全てに遅延をかける。
なぜなら、フェイトがすぐ目の前にまで迫って来ていたからだ。
メイの全身に汗が吹き出した。

失敗は許されない。
魔法を維持し、今からやろうとしていることに全神経を集中する。
振り上げられたバルディッシュを目の前にしてメイはシールドから熱を帯びたワイヤーらしきものが出てくる。
「ッ!?」
えっ!?フェイトはメイの行動を疑問に思いながらもバルディッシュで縦一閃を見舞う。
一方、メイはジャスティスから出てきたワイヤーで、バルディッシュを絡め捕り、受けとめる。
「そんなッ!?」
目を見開くフェイト。
「ごめん…。」
メイの左手に待機させていた魔力刃が発動する。

「バルディッシュ!!」
『ディフェンサープラス』メイの狙いに気付いたフェイトは直ぐ様障壁を展開し、直撃をさけた、五メートルほど後退する。
メイの後に手元に落ちてきたジャスティスのライフルを構え、遅延を解除し、魔法を発動させた。
『ハイパービームソード』
メイの左手の剣の魔力刃がいつもより高い。
「間に合え!!」
ユーノはなんとかバインドを間に合わせたかった。
嫌な予感がするのだ。その魔法を撃たすな。
直感がそう告げていた。
『サーベルブラスター』
「当たてぇぇぇえええ!!!!」ズドォォッ!!!
魔力刃の奔流がチェーンバインドを飲み込み砕く。
中距離だったユーノはともかく、至近距離でしかも、魔力の量が一番多い、メイの左手の剣から放たれた奔流を障壁で受けていた。
「うぅぅぅ…。」
フェイトの魔力を障壁の上からえぐっていく。
ユーノはフェイトを援護してやりたいが、こちらも防御で手一杯になっていた。

ディバインシューターのコントロールに集中していたなのはにレイジングハートが警告する。
『Caution!!』
「えっ!?」
『プロテクション!』
レイジングハートが自動で全包囲バリアを展開した直後に激しい衝撃がなのはを襲った。
「いったい何!?」

「うっ!!」
ヤマトも必死にシールドからの防御障壁を展開していた。
「くそぉぉおお!!攻撃は疎か防御も徹しにくい!」
ふと視界の隅に人影が写る。人影はただ降下を続けるだけだった。
眩しい魔力の光だけにはっきりしないが、ヤマトは確にそれを確認していた。
金髪のツインテール、フェイト・テスタロッサ。
「フェイト!!」
障壁の角度をずらし、射線軸から離脱し、落下中のフェイトを抱きとめた。
「フェイト!大丈夫!?」「う、うん。大丈夫…。ちょっと受けきれなかっただけ…。」
顔を真っ赤に染めながら、言った。着地し、ヤマトはフェイトをそっと地面に寝かせる。
「ありがとう、ヤマト…。でも、大丈夫。立てるから…。」
「無理をするな、休んでいて」
青い髪でヤマトの表情が隠れ、確認することはできなかった。
ヤマトは立ち上がり、空を見上げ、メイを見る。
かつての味方、メイがいた。第一次ネオ・ジオン抗争やアルティメット細胞事件でも彼らのお陰で終結に導いたが、互いの目は敵と認識している。

「メイ、俺と一緒に来い!今なら罪を軽くしてもらえる!」
「私は主のために守護騎士と戦うと決めたの!私たちの邪魔をするというのなら…」
「話では無理なのか…ならば!」
ヤマトの視線はメイから背け、メイは戦う姿勢を見せた。
双子同士やるしかないのか?運命の歯車が大きく狂い始め、2人の間に亀裂が生じたのである。

「仕方がない…お前を落として、無理やり連れていく」
『バリアジャケット、Hi-νスタイル』
ヤマトのバリアジャケットがフリーダムスタイルとは異なり、白は一緒だが、青がスカイブルーになっている。
背後にはオールレンジ攻撃が可能な小型機動兵器・「フィンファンネル」が搭載されている。

「はぁ、はぁ…」
疲労感覚がメイを襲った。『Warning』
ジャスティスによる警告。
「えっ?」
5つの放熱板ががメイを狙う。そのうち三つを撃ち落とし、ひとつを避ける。
『シールド』
ジャスティスが自動で防御結界を発動させた。

避けたそこには、ヤマトが待ち構えていた。右肩にある長身の砲台・「メガビームランチャー」からカートリッジを4発消費する。

右手をジャスティスの張った結界に当てがい、そして…
『メガビームランチャー』
「仕方がない…仕留める!!」『バースト』
シールドが破壊され、メイはその衝撃で吹き飛び、近くのビルに激突し、粉塵をあげた。

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