第05話【続・混迷する若者】

Last-modified: 2009-03-20 (金) 11:36:05

「早いッ!!」
フェイトは後ろに跳躍し、フォルティスを避ける。地に着弾し、爆破、砂塵を巻き上げた。
このまま距離をとられるのはまずいと判断し、バルディッシュを構え、メイへと向かっていく。
プラズマランサーからの追撃を受けているメイはフェイトをそのまま迎撃すべく、加速して行く。
バチバチ!
バルディッシュによる縦一閃を二刀のサーベルで受け、互いに力で押し合った。金色と赤色の魔力が反応を起こす。メイの背後からはプラズマランサーが追尾してきている。
もちろん、気が付いてないわけではない。
競り合い中にも関わらずメイは腕の力を抜いた。フェイトはその隙を逃さない。力を込めて弾き飛ばした。上半身がのけぞるようになってしまったメイはそのまま宙返りをする。
メイの体で隠れていたプラズマランサーがフェイトの視界に入った。、ターゲットの突然の回避行動に対応できず、術者であるフェイトへと突っ込んでいく。
「ターン!!」
すんでのところで、プラズマランサーを制止、再び制御し、メイへと放つ。
しかし、プラズマランサーのターン動作中に、通常射撃とフォルティスによって四発が破壊された。
メイのカートリッジが尽きる。
「弾切れ!?」
フリーダムに装填できるカートリッジは合計二十発。最大二十二発で恐ろしく燃費が悪い。今回は自分で作ってきたマガジンを後一組持ってきている。
総弾数残り二十発。
プラズマランサーが目前まで迫ってきている。
メイはサーベルを駆使して四発を払い除けるが、それらは反転し、再びメイを襲う。
「もらった!!」
「うっ!」
通常射撃魔法で残りの四発を撃ち落としている間に、フェイトに接近されていた。既にバルディッシュを構え、後は一閃するだけだ。刹那の間にメイは判断し、右手の実体盾からラウンドシールドを展開した。
バルディッシュの刃が突き刺さる。だが、メイは防御力が高いわけではない。
バルディッシュとフェイトの集中力と精神力によって研ぎ澄まされた刃がシールドをメキメキ音を立てて、貫通し始める。
まだ、マガジンを装填していないジャスティスを左手に焦り始めるメイ。
(まずい!何とかとないと)
額に汗が滲んでくる。
それを感じながらメイは何とか回避する手段を考えようと、必死にシールドに魔力を集中しつつ、思考にも集中する。
「この!」
フェイトもここで相手に一撃を入れ、状況を自分に有利にしたかった。
「バルディッシュ!!」
カートリッジが一発消費され、リボルバーが回転する。
『ハーケンフォーム』
途端にバルディッシュの魔力刃に魔力が集中し、シールドに食い込んだ刃が、まがまがしく形を変化させ、無理矢理にシールドに亀裂を作っていく。
「こんなことで諦めるもんですか!」
『シールドバースト』
メイが駄目かと諦めかけたとき、フリーダムが自動でシールドを爆散させ、フェイトを数メートル吹き飛ばした。
その間にジャスティスにマガジンを装填する。
『Please, call me cartridge load.』
「ジャスティス、カートリッジロード。」
ガシャンと音がし、ジャスティスにカートリッジが正常にロードされる。
『プラズマスマッシャー』カートリッジを二発消費し、フェイトが砲撃魔法の体制に入った。リングを三つ展開。最大射程を犠牲に、威力と発射速度を高める。『アムフォルタス』
一方メイも左のジャスティスから一発だけカートリッジを消費し、リングを三つ展開する。
「プラズマ…スマッシャー!!」
「これでぇ!!」
放たれるは同時。
雷を伴った金色の魔力と紫電を伴った赤色の魔力がぶつかり、爆ぜ、反応し、砂塵を巻き上げる。
「はぁぁ!!」
「このぉ!!」
砂塵を掻き分け、メイとフェイトが交差した。

ハラオウン家のマンションに再び警報がなり響き、今度はなのはが出動する。
「エイミィさん、僕をフェイトのところに転送してくれ。」
モニターをしっかりと監視しながらキーを叩いているエイミィにメイが言った。「どうして?フェイトちゃんならちゃんとやってくれるよ。」
違う、フェイトが勝つ、負けるを言っているわけではない。
「二人の方が、捕まえるのは早いじゃないですか。」
「まぁねぇ…、でもなのはちゃん並のパワーを持ち、フェイトちゃん並のスピードを持つから問題はないよね。」
「メイを説得をするまでは戦う。」
両方の拳を握り、下唇を噛む。
メイを止めるのはこの僕だ。ちゃんと話してくれればこっちだって協力などするのに…
メイを説得する…メイと守護騎士を止めたい!!!

灼熱の光がフェイトとメイの体力を削りとっていく。(この人、急所を狙って来ない。)
フェイトはメイと一旦距離をとり、そんなことを考えていた。
(なんでだろう?スピードではあの人が上だから、当てるチャンスは何度もあったはず…。なのに…)
と自分のダメージを確認する。バリアジャケットの胴の部分が少しだけ破れている。
後は足と腕にちょっとした切り傷がある程度。
(砲撃も殆んどが魔力ダメージ中心。私に勝つと言うよりは、負けないために戦ってるみたいだ。
けど…、勝つつもりで挑んでるこっちの攻撃がなかなか当てられない。
あの魔力で出来た翼が四枚になってから、スピードが増した上に、高速戦での体の安定性が高くなってる。)
フゥッと息を吐き、深く息を吸い込むフェイト。
生暖かい、空気が肺を満たした。
(やるしかないかな…ソニックフォーム。)

(反応速度が思っていた以上に早い…。)
フェイトを視界に捕えながら、メイも思考していた。(スピードは私の方が上。だけど、うまいところで射撃魔法を混ぜて、補ってる。
それに…、魔力ダメージを警戒してか、ヒットアンドウェイを基本に戦ってるみたい。戦闘技術では彼女の方が上。油断すれば私がやられる。ヤマトみたいに技術は高くはない)
ゴクリっと唾を飲み込み、相手を、つまりはフェイトを見据える。
(少しずつダメージを与えたんじゃ意味がない。
当てられるの?メガバズーカランチャーで。)
熱波が吹き、メイの、フェイトの髪がなびく。
二人の頬を汗が伝い、そして砂地に落ちる。
それを合図に同時に踏み込んだ。
(初撃をかわして、ソニックフォーム。これで行く!)
(初撃で怯ませて、ファンネルで牽制、それから、メガバズーカランチャー、これで行く!)キィィィン
何かの音が耳に入る。
その音は魔法陣を展開する音。メイの注意がそれ、フェイトはその隙を逃さない。
チャンスとばかりに、バルディッシュで横薙一閃を見舞おうと構えるが、それが振り切られることはなく、フェイトは自分の体の異常に、メイはフェイトの体の異常に目を奪われていた。

「頼む!!行かせてくれ!!このままだと嫌な予感がする!」エイミィの背後でヤマトは土下座していた。
「ヤマト君…。」
エイミィはモニタをみていない、ヤマトも額を床に押し付けているためモニタをみていなかった。
「わかったわ。だけど、非殺傷設定は解除してはダメ。いい?」
条件つきではあるが許可されたのだ。ヤマトは顔を上げ「ありがとう…」
固まった。
「じゃあ、転送の準備するから…、ポートへ向かって!」
メイがぐったりしたフェイトを抱きかかえている。
「フェイトちゃんが…!!ヤマト君、早く!!」

「あぁぁぁ…。」
悲鳴をあげるフェイト。
「あなたは…!?」
メイは驚愕する。仮面を着けた男が突然フェイトの背後に現れ、そして男の腕がフェイトの胸の辺りから突きでて、いや生えていたのだ。
「奪え…。」
男の低い声音が響く。
そして手にはフェイトのリンカーコアが輝いていた。「こ…こんな…。」
こんな形で手に入れることが許されるのか?
メイは戸惑う。
「奪え…。」
男から再度、言葉が発せられる。メイは迷った。
(どうする?いいの?こんな…、こんな形で…。

だけど…。)
(近いうちに発作が起きると思います…。)
再び蘇る担当医の言葉。
(そうだ。今は…はやてちゃんを助けることだけを考えるんだ。)
「(ヴィータちゃん、闇の書を…)」
念話を使い、闇の書を転送してもらう。
「ごめんね。テスタロッサちゃん…蒐集開始…。」
闇の書が開き、フェイトの魔力を蒐集する。
蒐集が完了するのを確認すると仮面の男は転移し消えたさった。
砂地に倒れたフェイトを抱きかかえ、立ち尽くすメイ。罪悪感がつのる。
フェイトの頬に着いた砂を拭う。
「ごめん…ごめんね…。」
「フェイトォォォオオオ!!」アルフが声を張り上げやってきた。
「あんた!フェイトに何をした?」
「早く…治療してあげてください。」
「えっ?」
アルフは戸惑ってしまう。(何故?コイツがフェイトのリンカーコアを抜いたんじゃないの?)
取り合えず、主の危機には違いあるまい。どうやら、相手には今、争うつもりはないらしい。
ならば無理に争う必要はない。
メイとアルフがしばらくの間対峙していると、転送ゲートが開き、ヤマトが現れた。
デバイスを起動させ、バリアジャケットを装着。アルフを見、そしてメイを見てから、その腕の中でぐったりしているフェイトに視線が止まった。
「やはりか…仮面の男と言い、守護騎士といい、お前と言い、なんでこんなことをするんだ!!。人の命を弄んで楽しいのかよ…満足なのかよ…」
ヤマトの顔が憎悪に歪むのをアルフもメイもはっきりと確認できた。
「テスタロッサちゃんにごめんねって言っといてください。それから、早く治療を…。」
メイはなかば強引にアルフの腕の中にフェイトを押し付け、すぐさま飛翔を開始した。
「何でだよ!!」
『ハイパーメガランチャー、set up』
ヤマトの頭の中で何かが弾けた。

「アルフはフェイトを連れていけ!!
メイは…俺が討つ!!」
説得ではなく討伐に変えたのだ。あれを見たヤマトは堪忍袋の緒が切れたらしく、怒りの頂点に達したらしい。
ヤマトは迷いなくハイパーメガランチャーをメイに向け発射した。
「メイ!!」
「ヤマト!!」
回避行動をとりつつ、さらにヤマトから距離をとる。
『バイオフォーム』カートリッジが三発消費され、ヤマトの全身からにモヤのようにオーラが形成される。そして、飛翔した。
羽が開き、その羽の間からが自身の残像が残る。
これがヤマトのデバイス、第五のスタイル・フォーミュラ。リミッター解除・バリアジャケットを少し剥離することによって軽量化をし。機動力が格段に上がる。
噴射される光は残像で、これがスピードを爆発的にあげる。
瞬間的な加速力ならばフェイトを、ハイマットモード時のメイを遥かに凌駕する。
「捕まえる!今度こそ!!」「早いッ!?」
距離をとっていたはずがいつのまにか追い付かれている。ただ、最初のような加速力はない。
恐らく、瞬間的にスピードをあげるのだろう。メイは瞬時にそう判断する。
ロングサーベルを大きく振りかぶり、メイ目がけて一閃。
『サーベルモード』
ジャスティスで受けるが、あっさりと双剣を弾き飛ばされる。
「なんで、なんで!」
大きく後退しながらもヤマトに通常射撃魔法を連射する。しかし、当たらない。当たってもバイオフィールドで直撃なのに弾かれる。
それにデバイスが残像のせいで狙いが定まらないのだ。
ロックしているのはヤマトが動いたあとに微かに残る残像。
「こ、これは…。」
メイはデバイスのオートロックを解除する。
「俺はこの目で見た!フェイトのリンカーコアを取る時、お前と一緒に仮面の男がいた!!!」
『ビームランチャー・スプレッドモード&ラウンドシールド・バースト』
メイはヤマトと拡散攻撃から回避しつつ、射撃魔法を手裏剣状態になったラウンドシールドに当てる。しかし、その隙にすぐ目前にまでヤマトが迫って来ていた。
『シールド!!』
ジャスティスによる自動防御
『G-バード』
「しまった…!」
「エマ中尉やレコア少尉の戦いの時に近くにお前がいた。なんで止めなかった!!!」
シールドが破壊され、さらに後退させられるメイ。
「なのに…守れなかったのに守りたい?」
カートリッジが一発、フリーダムから弾け跳ぶ。
「そんな言い訳あるか!!」
ヤマトのラケルタが一直線上に巨大化する。それは対象を横真っ二つと縦真っ二つの十文字斬りのように構え、
『ハイスピード・スラスト』
(非殺傷設定だ。直撃しても死なないだろう)
一直線に怒れる猛獣のごとく突っ込んでいく。
「うおぉぉぉおおお!!!」

メイはまだ体勢を立て直していない。
「くっ…このままじゃ…。」(近いうちに発作が起きると思います。覚悟しておいてください。)
何度目か思い出される担当医の声。
(はやてちゃんの足が悪くなったのは私たちのせいなんです…だから……。)
(思っていたよりも浸蝕がはやいな…。)
(はやて……。)
「こんなところでやられてたまるもんですか!!」
メイの頭の中で何かが弾けた。初めてではないこの感覚。疲労していた体がグンッと軽くなる。
目前にまでヤマトが迫ってきている。
超高速の突きが繰り出された。メイは体勢を立て直さず、そのまま体勢をわざと崩し、突きを避け、ゼータ版ハイパービームサーベルと平行に飛行する。ヤマトがメイを見下ろし、メイがヤマトを見上げる形となった。
勢いが着いたヤマトは止まらず、突きを繰り出したそのままの体勢でメイと一緒に飛行する。
左右のフォルティスから薬筒が弾け跳び、
『フォルティス』
二発の魔力弾がほぼゼロ距離でヤマトに直撃した。
「くっ!!やるな」
「ヤマトに守ってあげたい人がいるように、私にだって守ってあげたい人がいるんだよ。」
体勢を立て直し、メイが言放つ。ヤマトはバイオフィールドとラウンドシールドのおかげで十メートル程後退させらるだけで済んだ。
「確かにメイの言う通りだ…俺も守りたい人がいたのに守りたい人を殺したきっかけを作った…俺の弱さ…でも!」

激化する2人の死闘。

「ヤマト君、落ち着いて!!」
なのはの呼び掛けに、ヤマトは止まらない。いや、止まれない。ここで、メイを止めたい。今度こそ。絶対。確実に説得をしたい。
気持だけが先へ先へと走っていく。
もう、周りの雑音も、景色も視界に入ってはいない。見えているのはただ一人の少女のみ。
フリーダムに新しいマガジンを装填する。
狙うのはラウンドシールドの撃ち落とし動作にできる隙。
両方のヴェスバーから二発のカートリッジを消費した。

一方、メイはラウンドシールドを撃ち落とすかどうかで迷っていた。撃ち落とすために狙いをつければ隙をつかれ、荒業でシールドを破壊されてしまう。
これはきつい。魔力が一気に持っていかれてしまう。(それに…)
厄介なことにもう一人、管理局からの魔導士がいる。八方塞がりのメイ、なんとかこの場を逃げ切りたい。
シグナムはもう逃げ切っただろう。もう、自分がここにいる理由はないのだ。
フェイト、それからヤマトと連戦で疲れも出てきているし、カートリッジも残り少ない。
「(シグナムさん!次元転送の準備を…、今から向かいます。)」
「(大丈夫か?)」
「(スピードはたぶん、私の方が早いんで、私がついたらすぐに転移できるようにしておいてください。)」
「(承知した。)」
メイは一人で次元転移ができない。そのためヴィータとシグナム、またはザフィーラこの三人のうち一人が残ることになっていて、あらかじめ合流地点は決めてあり、そこに集合することになっている。
メイは、サーベルモードに切り替えた。

「ヤマト君、私がサポートするから!!」
『ディバイン・シューター』
しかし、メイにその言葉が届いているのかは不明だ。「今がチャンスだよね?レイジングハート…。」
『Yes, my master!』
レイジングハートは答えた。なのははその答えに背中を押されレイジングハートを構え、そして
「ディバインシューター!シュート!!」
八つの光弾を放った。

メイはヤマトを警戒しつつ、ラウンドシールドへと自ら突っ込んで行く。そして、二つの光の刃の間をすり抜け様に切り裂き、爆散させた。爆煙が発生する。
「よし、これなら!」
相手の視界を奪った。今なら逃げ切れる!
メイは背中から、ファトゥムからドラゴンの翼になり、シグナムの元へと向かう。空を駆け、風を切る。
『Caution!』
ジャスティスがメイに警戒を促す。
爆煙を突抜け、8つの光弾がメイに向かってきていた。どれも不規則に軌道を変えながら向かってくる。
「こ…これは…ッ!?」
ファトゥムに似ている。全包囲、360度。メイを取り囲むようにして、迫り来ていた。

「(弾速が速い!?)」
メイは最高速度を維持しつつ、状況を確認する。
じりじりとメイににじり寄ってくるディバインシューター。
そのディバインシューターが軌道を変え、円形にメイを取り囲んだまま内側へと入り込んでくる。
メイは急減速した。
8つのディバインシューターが互いにぶつかりあい、爆散、爆煙をあげる。
同時、ハイパービームソードでディバインシューターの衝突地点に打ち込み、衝撃波を緩和する。
「逃がさない!!」
「くっ!!」
思ったよりも引き離せていない。このままでは、振り切れない。
カートリッジ、残り四発。逃げ切れるのか?
『サーベルモード』
『MEPE』デスティニーのカートリッジを一発消費し、もうスピードで突功を仕掛けてくるヤマトを迎え撃つメイ。
「ディバインシューター!!シューート!!!」
なのはも、メイに追い付いてきていた。ディバインシューターでメイの自由を奪う。

一方、シグナムは転送の準備をし、メイが来るのを今か、今かと待ち構えていた。
「緑色の騎士服を着ている女を使って、あいつのコアを奪え…。」
気配もなくシグナムの背後に現れたのは、仮面の男。「一条寺ヤマトのことか?」シグナムはレヴァンティン抜き仮面の男へと切っ先をつきつける。
「いや…、お前たちの仲間の方だ。」
「何だと?」
「あの女は逃げ切れない。敵を連れてくる。あいつのコアを奪って逃げろ。」
「し、しかし、それでは一条寺メイが…ッ。」
「闇の書を完成させろ。」
「だが…。」
「主を助けるのだろう?主の死が先か、闇の書の完成が先か、それとも異界の少年を助けるか?…お前たちはどれを選ぶ?
それにコアを奪ったところで、あの男が死ぬわけではないだろう?」
そう言い残し、仮面の男は姿を消した。

「くっそぉぉおお!!」
カートリッジはディバインシューターを破壊するためファンネルを発動させ、使い果たした。
もう、大技は迂濶に撃てない。メイはヤマトとの距離をとった。
(考えて!どうすればいいの…カートリッジはもうない。砲撃でごり押しはできない。
けど…、捕まるわけにはいかない。はやてちゃんを…守るって、今度こそ守りたい人を守るって決めたんだ!!)

「(シャマル…、こっちへこられるか?)」
「(はい。でも、なんですか?)」
「(来てから説明する。早く来てくれ。)」

『プラネイト・サンダー』
幾つかの円盤型の電撃なのはとヤマトを襲う。
『ラウンドシールド』
なのはは防御し、ヤマトは手裏剣シールドでプラネイトディフェンサーを破壊した。
「そ、そんな!?」
「大人しく投稿してくれ!!」『バースト』
ヒートロッドに魔力を上乗せして、はねかえす。呆然とするメイは反応が遅れ、避けはしたものの、バランスを崩すことになった。メイがシグナムに助けを仰ごうと念話を繋ごうとしたとき、ちょうど念話が入る。
「(すまない、一条寺メイ…。)」
「(ごめんなさい。メイさん)」
シグナムとシャマルからだった。
「ん!!!!」
『G-バードget set』
「しまっ……ッ!?…た?」メイの胸から腕が生え、青い光の塊がその腕の持ち主の手に握られていた。
赤い光が少しずつ小さくなっていく。
「どういうことなの!?」
「メイ!」やがて、手が引っ込み、メイは魔力低下のため、飛行魔法を維持出来なくなって、落下を開始した。
薄れ行く意識の中、メイはその手が誰の手かを思い出していた。
(緑…色の…?…シ、シャ…マル…さ…。そん…な…。)
同時にメイは理解した。さっきの二人の謝罪の意味を…。
「メ、メイ?メイぃぃぃーーーーーーー!!!」

「異常はないみたいね、なのはちゃんやフェイトちゃんと同じ、魔力が奪われただけ、しばらく魔法は使えないけど…一応、拘束しておきましょう。」
アースラ艦内、医務室。リンディはベッドに横たわる少女をみやると、医務室から出ていった。部屋に残ったのは、なのはとメイの二人だった。
少女は眠り続ける。
なんでこんな目になるんだ?メイばかりが気苦労かけているわけではない。あの騎士たちのせいだ。
「駄目だよ。」
「……何が?」
何が駄目なのか、ヤマトは分かっているのにも関わらずなのはに聞いた。その問いになのはは答えなかった。そして、ベッドに横たわる少女を心底心配そうな表情でなのはは見つめていた。

「シグナム…メイは?」
八神家に帰宅したシャマルとシグナムをヴィータが出迎えた。二人の表情がいつもよりも暗いことにヴィータは気が付いた。

「あれ?シャマルが闇の書を持ってたんだ?」
二人がうんともすんとも言わないので、メイに何かあったと察し、口を開こうとしたとき
「ヴィータ…話がある。」
シグナムは重たい口を開いた。

複雑な気分だった。
さっきまでは敵同士で敵意を感じていたのに今はどうなのか分からないヤマト。
なんだろう…敵意が抜け出した安心感と信頼感。
感じる?いや感じにくい。

「こ…、ここは…。」
メイが目を醒まし、周囲を確認した。ヤマトと、なのはと目が合う。
「あなた達は…。」
「気が付いたんだね…。ちょっと待っててね。リンディさん呼んで来るから…。」
ヤマトとこの少女を二人きりにするのは不安だが…、なのははリンディを呼びにいくために、医務室をでた。
医務室はヤマトとメイの二人きり。先ほどから長い沈黙が続いている。一度だけ、船医が医務室に入ってきたが何枚か資料を持って再び出ていった。
「……ヤマト…。」
メイの呼び掛けにヤマトは顔を向ける。
「…ここは…どこなのかなっ…て…。」
「管理局の医務室だよ」
「やっぱり……」
「話を聞かせてくれ…何のためになんでそんな事をするのか」
メイは自分の知っている限りヤマトに話した。そう、闇の書のこととか
主の名は八神はやて、9歳。闇の書の主。守護騎士
はやての足、リンカーコア、蒐集
「その子も過酷な運命を背負っているな…俺もその気持ちが分かる」
「……ヤマト、ごめん…」
「俺も悪かったと思う。何のために戦っているか、馬鹿になってくる。」

ヤマトの目から涙が流れてくる。
「ヤマト、涙が…流れてるよ」
「可笑しいな…哀しくないのに…メイ、お前もだ」
「あれ、私もだ…」

時間が経つと2人の涙腺が切れて、互いに顔を見せずに泣いてしまう。
「何で…何でだろう…涙が止まらない…クソ」
「はやてちゃん…」
そこで艦内警備員を連れたリンディがやってくる。
「ヤマト君?どうしたの?」

時間が経つと2人の涙が収まり、ヤマトは謝罪をして、リンディと一緒にメイを問う。
「リンディさん、すみません、みっともない姿をお見せしてしまって」
「いいのよ、ヤマト君も捕獲は捕獲だけど説得できて」
「あなたの名前はあなたのお兄さんから聞いています」
「はい」
「そう…。私はこの艦の艦長を務めるリンディ・ハラオウンよ。ところで、メイさんはヤマト君とは…双子だよね?」
「はい…、家も部隊も同じです。地球連邦軍所属・独立部隊「ロンド・ベル」の一員です。階級は中尉」
「そう…。それで、よかったらでいいんだけど…、あなたたちの世界のことをはなしてくれるかしら?」
「はい…。」

「そう…、ヤマト君の話と大体は同じね。視点が違うだけで…。宇宙世紀とコズミック・イラの統合世界にテロリストがフィフスルナを落とす事件の前、ヤマト君の操るモビルなんとかと模擬戦闘し、あなたのその…モビルなんとかが鍔迫り合い、気が付いたらこの世界に来たと…。」
「たぶん…、そんなところです。」
「私たちの知らない世界がまだまだあるってこと…ね。それで…、あなたは闇の書のことについてどこまで知ってるのかしら?」
メイの表情が凍りつく。
もちろん、捕まった以上、尋問されることは覚悟していた。
「そ、その…詳しいことは…知りません。ただ私が知ってるのは、魔力を蒐集することで完成するということぐらいです。」
「そう…。それで…、あなたの主さんは?
よかったら住所、氏名、それから、その他四人について教えてもらえるかしら?」
メイは目を伏せた。
言えば楽になるのだろう。だが、言ってしまったら…それによってはやてが捕まるようなことになれば…万が一、そのショックで発作が闇の書の完成前に起きてしまったら…。

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