第05話【続続・混迷する若者】

Last-modified: 2009-03-20 (金) 11:03:16

「メイさん?」
リンディの呼び掛けにハッと我に帰るメイ。
「あ…、えっと、それでなんでしたっけ?」
メイの表情をみて、はぁっと溜め息をつくリンディ。「どうも事情が深そうね…。いいわ、今は取り合えずゆっくり体を休めなさい。」
リンディはメイをベッドに寝かせ、布団をかけてやった。

「これでいいのだろうか…」
ヤマトは、メイの心配をするものの転送ポートで先に帰宅し、溜め息をしながら宛てもなく街をさまよっていた。
ぶつぶつ独り言を一人呟きながら歩いているので、道行く人々はそんなヤマトを振り返り見る。
気が付けば、以前に自分が家出まがいなことをしたときに偶然たどり着いた公園に来ていた。
あの時と同じように、ブランコに腰を下ろす。
海鳴市は今日も夜には雪が降るとのこと。
そう思った側から、雪がはらはらと舞い降ってきた。「俺の居場所は、ここか?ここなのか?…。いつから、こんな…」
最初は…この世界に来た最初の頃は、馴染んでいたと思う。全てが、狂いだしたのはある模擬戦だ。
そう、自分のせいじゃない。メイのせいでもない、運命の悪戯だ。自分じゃない。メイのせいでもじゃない。
そう神様の悪戯だ、悪魔の悪戯だのと笑いながら言う
「あれぇ?ヤマト君?」
突然、自分のことを呼ぶ声に顔をあげてみれば、それはなのはだった。リンディに言われて来たのだろうか。
「何?なのはの知り合い?」眼鏡をかけ、黄色いリボンをした少女と一緒だった。買い物袋を両手に下げている。
公園の入り口から、ヤマトの座っているブランコまでやってくる少女となのは。
「ヤマト君どうしたの?もう七時だし、リンディさん達、心配するよ。」
と、声をかけながらも、じつはなのは、リンディにヤマトを探すよう頼まれていたりする。ちなみに、リンディから話を聞いて、事情も大体さっしているつもりだ。
「あっ、こちら、私がお世話になっている一条寺ヤマトさん、それでこちらが私のお姉さんで、高町美由希さん。」
行儀よく頭を下げるヤマト。「妹がお世話になってます」ペコリと一礼する美由希。「あの…世話になってるのはこっちの方でしてね…。」

メイは個室に移され、幽閉されていた。格子の様なものが監獄を思わせるが、受ける扱いもそう酷くなく、設備も悪くなかった。
(アムロ大尉もかつては同志にニュータイプの力を恐れて幽閉されたんだ)
その部屋の隅で膝を抱えて座っているヤマト。
「君は、闇の書の主を知っているな?」
声の持ち主は全身を紺色でまとめた少年。クロノ・ハラオウンだった。

「ッ!?」
ビクッと肩を揺らすメイ。「君は、彼らのもとで暮らしていたんだろ?違うのか?」
「そ、それは…その…。」
ふぅっと溜め息をつき、クロノはメイに背を向けた。「問い詰めるようなことをして…すまない、その、こっちも色々と八方塞がりなんだ。」
「……。」
「君が、話す気になってからでもいいから、話してくれ。じゃあ、僕は…これで…。」
クロノは部屋からでると、ドアが閉まるのを確認してから、背中を預けた。
「何やってんだ僕は…。私情を仕事に挟むなんて…。さて…と。」
クロノは歩き出した。
調べなければならないことがある。なのはの新型バスターを防御、そして、遠距離からのバインド。
そこからかなり離れた世界に転移し、フェイトのリンカーコアを奪った、あの仮面の男ことを。
(もし…、万が一僕の勘があたっていれば…。)

八神家
「そっか、メイちゃん…無事に自分の世界に帰れたんやね…。」
「はい、一条寺メイも、ちゃんとした別れを告げることも出来ずに帰ることを謝っておられました。」
夕食をとったあと、シグナムははやてを抱きかかえ、ベランダで話をしていた。「寂しいですか?主…。」
「ううん、そんなことないよ。シグナム達がおるし、全然、寂しいことない。」
「…雪が降ってきましたね…、中へ入りましょう。」メイがいないことは、シグナムによって八神家の皆に知らされていた。
本当のところははやてには知らされていない。
たまたま次元転移した世界がメイがいた世界だった。そういうことにしてある。はやてにはある程度、魔法に関して知らせてあるが、詳しい知識はない。
シグナムは主を欺いていることに胸が痛んだが、真実を語ってしまえば、はやてに全てがばれてしまう。
「戦いは駄目や。」
はやてが言っていた。
「ただそばにいてくれるだけでえぇ。」
だから、闇の書の完成ははやての意思ではなく、シグナム達の意思だった。
(すまない…。一条寺メイ。私は騎士として失格だ)

高町家
「外は冷えたでしょう?たくさん食べてね~、ヤマト君。」
目の前にはグツグツと煮込まれている鍋。
「それじゃあ、みんな、席につけ、食べるぞ~。」
『いただきます。』
「すみません。突然、お邪魔して…。そして御馳走も頂いて」
「あらぁ、いいのよ。なのはのお友達なんでしょう?母さん、うんと歓迎しちゃうわ!」
「どうも。」
「うまいっ!母さん腕をあげたね。お前達も感謝しろよ。こんな、おいしい料理が食べられるのは母さんのお陰なんだからな。」
「もぅ…あなたったら。」
桃子、士郎の頬をつつく。二人の世界に入り込んで行く高町夫妻。
(思い出すよ、家族団らんで鍋奉行をやったことは)
「こちら、私のお母さんとお父さん、高町桃子さんと高町士郎さん。」
二人の姿に呆れつつ紹介をするなのは。
「ほら、美由希、お椀貸せよ。よそってやるから。」
「ありがとう、じゃあ、わたしは~…」
ポツンと取り残されるヤマトとなのは。
「と、とりあえず、紹介しとくね。奥から、お兄ちゃんの高町恭也さんと、さっきも紹介したけどお姉ちゃんの高町美由希さん。」
「兄弟多いんだね。」
「うん、お母さんもお父さんも、お兄ちゃんとお姉ちゃんもとっても仲良しさん。」
「…まぁ、仲がいいのはわかるけど…、俺はいいとして。なのは、ちょっと浮いてないか?」
「あぅっ!!」
なのはにとって痛いところを疲れたのか、肩をおとして、そうなの、と肯定する。
「それはともかく、ヤマト君は何が食べたい?
なのはがよそってあげるよ。」
「お言葉に甘えて、じゃあ…適当に…。」
そう言ってヤマトはなのはに自分のお椀を差し出した。

八神家
「…メイ…。」
なんとなく、ヴィータはメイの名前を呟いてみた。
シグナムとはやては一緒に入浴中で、リビングにはザフィーラ(大型犬)とシャマルがいて、シャマルはつけていたテレビの電源を切った。
「ヴィータちゃん…。メイさんのことは…その…もう何度も…。」
「わかってるよ。仕方なかったって…、メイが逃げ切れる保証はなかったってことも。だから、一番確実な方法を選んだってことも…。」
シャマルはヴィータから視線を反らした。

「けど…さ、普通なら、今頃管理局の連中がここに…はやての家に来ててもおかしくないのに…こうして、まだ、あいつらにかぎつけられてないってことはメイがまだ私達のことを言ってないからだろ?」
息が詰まるシャマル。
「ヴィータ。お前は主と一緒に居たいのではなかったのか?」
代わりにザフィーラが口を開いた。
「当たり前だろ!」
「一条寺メイの騎士としての成長スピードは異常だ。それは、ヴィータ、お前も分かっているだろう?」頷くヴィータ。
確に、おかしいとは思っていた。シグナムからの指導をうけたのは数日、そして最初の管理局との戦闘では自分達を援護できるくらいまでになっていた。
さらに、カートリッジをシャマルと作るようになってからは圧縮技術を習得、それを魔法に応用するようにもなっていた。
言われてみればおかしい。学習スピードが異常だった。
「スピードも、我等の中では一番早い。つまり、いくら魔法に関して触れた期間が短いとは言え、簡単にやられるような奴ではないということだ。」
「何が…いいたいんだよ…。」
「つまりは…、一条寺メイ、スピード勝負ならほぼ負けるはずがない。だが、逃げ切れなかったということは、敵側に一条寺メイと同等のスピードを持った者、または、いくらスピードが早くても、そのスピードを殺してしまうような連携、魔法を使える者がいたということだ。」
そう、実は、シャマルもシグナムもはやてを優先することはもちろん、それを警戒していたからメイのリンカーコアを奪うことを選択したのだ。
シグナムがメイと別れたときは、フェイトとメイの一対一だったはず。
メイはシグナムが逃げる時間さえ稼げば、ハイマットモードを使い、逃げきれたはずなのである。
「敵が複数いた…そういうことだ。」
ザフィーラの耳がピクッと反応し、廊下から居間にシグナムとはやての声が聞こえてくる。
「一対一ならばベルカの騎士に敗けはないと考えていい。だが…、あのとき戦えたのは魔力を消費したシグナムだけだ。シャマルは補助が専門だ。勝てると思うか?」
ザフィーラの言うことはもっともだったが、ヴィータは納得できないでいた。
他に方法はなかったのだろうか?
そんなことを考えながら、居間に入ってきたはやてに笑顔を向けた。

高町家
夕食を終えたなのはとヤマトは食器を洗っていた。さすがに、突然お邪魔して、飯を喰らって何もしないわけにはいかない。
桃子は気を使わなくていいといってくれたが、そこは強引に手伝う事にした。
なのはの携帯がなる。
「あとは、俺がやっておくから電話にでてよ。」
というので、なのはは言葉に甘えることにした。
着信は管理局からだった。「はい、なのはです。」
「なのはちゃん、エイミィだよ。」
「あは、エイミィさん。丁度電話しようと思って…」
「あっ、ちょっと待ってね。艦長と代わるから…。」
「もしもし、なのはさん?」「はい、なのはです。リンディさん、ヤマト君今うちにいますよ?」
「うん、そのことなんだけどね…、ちょっと桃子さんと代わってくれるかしら?」はて、一体何なのだろう?と考えながらなのはは、桃子を呼んだ。
「お母さん、リンディさんから電話だよ。」
「はいはい。」
パタパタとスリッパをならし、やって来る。
「お電話、代わりました。桃子です。」

管理局、アースラ収容施設個室。
メイは、出された夕飯に手をつけることなく、布団にくるまったまま、考え事をしていた。部屋にはメイ以外に収容されているものはいない。
「私は…利用されただけ…なのかな…。」
ふと呟いた疑問。答える者はいない。その静けさが余計にメイの孤独を煽る。
利用されただけ、そうではないと信じたかった。たった、数日間だったけれど…、それでも、笑ったり、からかわれたりされたことも嘘だとは思いたくなかった。しかし、それもやはり
「嘘だったのかな………。」結局は、異世界の人間…、そういうことなのだろか。もう眠ろう。
考えれば考えるほど胸の内が気持悪くなってくる。
メイは寝返りをうった。
考えていても、今の自分には何をすることもできない。ジャスティスは管理局によって没収されたのだろう。自分の手元にはない。
頼れる仲間を失い、そして、友達を、知り合いを、この世界でメイは持っていなかった。

翌日
ヤマトは高町家の居間で起床し、朝食をとり、今はなのはがシュートコントロールの練習をする公園に来ていた。ベンチに座って、練習する様を見学しているところだ。
どうやら昨日、なのはの携帯に連絡をいれたのはリンディで、一日だけ預かってくれるよう頼んだらしい。
と言いたいところだが、昨日、リンディに告げ口を告げずに黙って出かけたため少ししょんぼりしている。このまま、心配しているんじゃないんだろうかと思い、謝罪することに決めた。
「クロノも心配しているだろう。メイはちゃんとやっているんだろうか…」ヤマトの独り言に集中力を切らしたなのはは、シュートコントロールの練習をやめた。
「もう、練習はいいの?」
そんなこととは知らないヤマトがなのはへと視線を向ける。
「うん、ちょっと今日は、調子悪いみたい。」
「少し軌道のキレが悪かったような…」
うんうんと首を縦に振るなのは。
「それに、ちょっとヤマト君とお話してみたかったしね。」
ヤマトの隣に腰かけるなのは。
「ヤマト君…さ、その…。えっと…。」
「んっ?何?そんなに真面目な話なの?」
言い淀むなのはをヤマトが促す。
「昨日、捕まえたよね。一条寺メイさんって女の子。」
牛乳の紙パックを片手に持つ。
「うん。」
「すっごい、悲しんでだよね?」
「…そうだね。」
紙パックがペコと形を変形させる。
「なぁ、なのは、その話はや…。」
「なんでなのかなって?」
なのはは核心に触れた。

この質問をするのが怖かった。ヤマトの戦闘記録をみる限り、一条寺メイとの戦闘の際、無茶をしてまで説得、間近で怒声を上げるヤマトを見たことがある。明らかに、異常だ。
その豹変ぶりは、子どもである自分にでも、二人の間に何かがあったと推測できる。
聞けば、メイという人も異世界から、ヤマトと同じ世界から来たと言うではないか。
「ヤマト君、おかしいよ…。あの人のことになると、周りが見えなくなってる…。」
飲み終わったコーヒーの缶をゴミ箱に投げ捨てる。
「俺がもといた世界の宇宙に戦争があった。そこでのスペースコロニーが毒ガスが罪のない人を数十万人も殺した。俺とメイはそこにいたけど、無事でアーガマに助けられた」子どもにするよう話では酷い話のようだが、もう、そんなことはどうでもよかった。自分も戦争を幾度も体験している。グリプス戦役と第一次ネオ・ジオン抗争と
ヤマトは青空を眺めながら語り始めた。

ナチュラルとコーディネイターとオールドタイプとニュータイプの違い。それによって産まれたいさかい。人類の革新。血のバレンタインやコロニー落としから始まった戦争のこと。オーブ、連合、ザフト、連邦、ジオン、ティターンズ、アクシズ、アイゼンラードのこと。
戦争を止めると願いべく、第二の愛機であるフリーダムとジャスティスと一緒に強奪。それにエゥーゴのアーガマ隊に所属。カラバナンバー1のアムロ・レイ、世渡り上手なシャア・アズナブルといった二大ニュータイプの出会い。
コロニーレーザーを巡る戦闘。アークライトのアルティメット細胞事件。レゾナンスを秘める2人の双子。そして自分とメイがスーパーコーディネーターのこと。
ルナツーでのこと、強化人間のこと。
模擬戦でメイと戦ったこと。

ヤマトは自分の話せるだけのことを全て話した。
「俺が話せる話はここまでだ。難しいとこもあったけど」
最後に吐き出すように言う。
「そんな出来事が…。」「…うん俺やメイだけではないんだ。アムロさんやクワトロ大尉、カミーユもそうだったけど、僕たちはもう何人も…、数えきれないほどの命を奪ってきたんだ。
今更、一人ぐらい…なんてことない。躊躇いもなく」
ベンチから立ち上がるヤマト。
「俺…マンションに帰るから…。なのはの桃子さんと士郎、恭也さん、美由紀さんによろしく言ってくれ。あと御馳走も美味しかったって」

ヤマトの姿を見送ってから、なのはは一人、公園に残っていた。
難しい話で理解できない部分もあったが、それでも多くの人が亡くなったこと。ヤマトの大切な人の命が、その戦争によって全てが変わったことはわかった。
そしてまた、ヤマトも大勢の命を奪ったということも。今更ながらに、聞かなければよかったと後悔していた。

「フェイトさん、大丈夫?」「はい、もう大丈夫です。魔法が使えるようになるまでもうちょっとかかりそうですが…なんとか。」
一日休養したフェイトはリンディと一緒に朝早くに管理局からマンションへと戻ってきていた。リンディはフェイトの昼食のお弁当の準備を、フェイトは学校へ行く準備をしていた。
朝食は管理局の食堂ですませてある。
「じゃあ、いってきます。」そう言って、フェイトはバス停へと向かった。
「気を付けてねぇ~。」
と見送り、いつもの緑茶にいつもと同じように砂糖とミルクをいれ、リンディはソファに腰をかける。
テレビをつけて、連続テレビドラマ小説にチャンネルを合わせた。
フェイトに作ったお弁当が、まだキッチンに置きっぱなしになっていることに彼女は気付いていなかった。

「ただいまでございます。リンディさん、昨日は黙って出て御免なさい」
ヤマトが帰宅して、リンディに謝罪をして、学校へ行く準備をしていた。
「いいのよ、ヤマト君も学校でしょ?」
ヤマトは早急に準備を終えて、弁当を取ろうとした時、何かに気づいた。
そう、フェイトの弁当だ。恐らく、忘れたではないだろうかと思ったヤマト。

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