第06話【自由と正義と夜天】

Last-modified: 2009-03-20 (金) 11:36:36

ヤマトはリビングにあるフェイトの弁当を見て
「あれ?フェイト、お弁当忘れちゃったかな」
それを聞いたリンディが傍に来る。少し表情が険しくなる。
「あら、フェイトさん、お弁当を忘れたの」
「そうみたいですね…前のこともあってじゃないでしょうか」
ヤマトも前の戦いで疲れが完全に抜いていない。まぁ運動では越したことではないだろう。
リンディはヤマトに聞いてみた。

「ヤマト君、フェイトさんにお弁当届けてくれないかしら?」
「位置が違いますが、同じ学校ですし、やりましょう」

八神家、居間。
「一条寺メイの件にばかり気をとられていたが…、あの仮面の男…、一体、何者なんだ?」
シグナムが言う。
ちなみにはやてはまだ、起きていない。居間には、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラがいる。
「私たちの敵と言うわけでは無いみたいですね。闇の書の完成を望んでるみたいですし…。」
と、シャマル。
「闇の書が完成するまで待って奪う気なのかもしれんぞ。」
と、ザフィーラ。
「でも、完成され闇の書を奪っても意味ねぇよ。主と認めたもの以外に闇の書は使えないし…。」
「ヴィータのいうことももっともだ。それに、闇の書が完成したと同時に、主は強大な力を手に入れる。」シグナムが言った。
「とにかく、用心するにこしたことはない。シャマル。」
ザフィーラがまとめた。
「はい、家にはセキュリティかけてますし、何者かが侵入すればすぐに分かります。」

「とにかく、シャマルはなるべく主から離れないようにしてくれ。」
「はい。シグナム。」
「闇の書の完成のために、メイを犠牲にしたんだ。絶対に完成させる…。」
ヴィータの言葉に一同は頷いた。
ドタッ!!
二階から音が響く。
それは、何かが倒れたときに生じる鈍い音音。
「はやて?」
ヴィータが一番に二階へとかけ上がった。

アースラ内部、一室。
「そろそろ、話してはくれないか?」
メイとクロノは向かい合う形でテーブルを挟み、椅子に腰かけている。
「…わかりません。…てか、知らないんです。」
眠っていないのだろうか、なんだかメイの目の焦点が定まってない上に、目の下に隈ができている。
「一緒に住んでいたのは間違いないんだな?」
「…はい。」
「それで…、何で異世界の君が彼等と一緒に?」
「……。目が覚めたときには一緒でした。」
「単刀直入に聞くよ?主の名前は?」
「……。」
メイは躊躇った。言っていいものかどうか。
「君は闇の書のことをどれくらい知ってる?」
メイが言いにくそうしているので、クロノは質問を変えた。
「闇の書は第一級捜索指定遺失物、ロストロギア。まぁ、簡単に言うと、それだけ危険なものなんだ。意味はわかるだろ?」
あれ?
クロノの言い方がなんだか引っ掛かった。危険?なぜ?闇の書が完成すればはやての病気が直る。そう聞いていたが…、危険なものとは聞いていない。
「…すみません。お願いできる立場じゃないかもしれないけど、その…闇の書のこと、詳しく教えてください。」
クロノはメイの突然の反応に驚き、口をパクパクさせていたが
「…あ、あぁ。丁度説明しようと思ってたところなんだが…。その変わり、君にも主の名前を教えてもらうからな。」
その要求を飲んでくれたようだ。メイもそれを承諾し、クロノは闇の書について知っている限りで説明しはじめた。

聖祥大付属小学校、昼休み「フェイトちゃ~ん、お弁当食べよう!」
「あっ、うん。」
なのはとその友達のすずか、アリサが呼んでいるのでフェイトは鞄の中から弁当を取り出そうとするが、見付からない。
そう言えば弁当を鞄に入れた記憶がなかった。
「どうしたの?フェイトちゃん。」
そんなフェイトの異変に気付いたすずかが聞いた。
「お弁当…忘れてきちゃった…。」
フェイトの顔が真っ赤になった。

『フェイト・テスタロッサさん、高等部からお兄さんがおこしになっています。至急、職員室まで来てください。繰り返します。…』

「ありがとう…ございます。」
「いや、僕の方こそ、君の弁当を見た時はあれ?思ったんだ。」
小学校のエスカレーターまでヤマトを送るフェイト。
「ヤマト……。」
「なんだい?まだ、なにか忘れものでもあるのか?」ふるふると首をふるフェイト。
「リンディさんと仲直り…した?」
「んっ?、フェイトも知っていたのか。一通り謝って来た。そして許す条件としてお弁当を届けるように頼まれたから」 そっかとうなずくフェイト。
「リンディさんはいい人だから」
「あの人はいい人だと思っている。」
そう言って、ヤマトはエスカレーターに乗り、自分の教室に帰った。

海鳴大学病院
「だいぶ状態も安定しましたね。」
「ありがとうございます。石田先生。
もう、皆して大騒ぎするんやから、ただ胸と首が攣っただけって言うたやん。」
「しかし、頭も打ってましたし…。」
「はやて!」
「なんや、ヴィータ?」
石田は、はやてとヴィータの姿を眺めつつ、
「シグナムさんとシャマルさん、ちょっといいですか?」

「今回の検査では何の異常もみられませんでしたが…、ただ攣っただけ、ということはないと思います。」やはり、とシグナムとシャマル。
「痛がりかたが普通じゃありませんでしたから…。」
「原因はまだわかりませんが、スタッフも全力で戦っています。
それから、はやてちゃんはしばらく入院させて様子をみた方がいいと思うんですが…。どうでしょう?」
シグナムとシャマルは互いの顔を見合わせ。
お願いします。と深く頭を下げた。

「と、まぁ闇の書に関してはこんなところだな。」
メイが聞いた話は、クロノの父親、クライドに関する話である。
メイが抱く闇の書に対する違和感がさらに強くなる。暴走、アルカンシェル、転生、蒸発。何だか、危機感を持たせるような単語ばかりだった。
だが、まだ確信をもてない。
「それで、闇の書に関する情報は全部ですか?」
「…、あぁ。後はまだ調査中だ。さて、約束だ。名前を教えてもらおうか?」

メイは少し迷ったが、やがてその名を口にした。
「八神…、八神はやて。」

「まずいことになったねぇ、アリア。」
猫耳に尻尾を生やした二人の少女がクロノとメイの取り調べをモニターごしにみていた。
「闇の書が完成する前に主をつかまえられちゃったら意味ないじゃん。」
「…そうだね。こんなに早く白状するとは思わなかった。どうするロッテ?」
沈黙のうち、顔を見合わせ、二人は頷き、部屋を後にした。

聖祥大付属高等学校・男子部。
「任務完了と…ふぅ」
ヤマトの目の前に来る友人一人。
「やっと帰って来たかヤマト。メシ食おうぜ、メシ」
自分の机と友人の机を合わせて目線を合わせるように座って弁当の用意をするヤマト。その友人は餓死寸前みたいに食べる気満々だ。
「食い意地張っているのね。俺なんか少し食欲がない」
「次は体育だぜ、体力つけなきゃな」
「はいはい、いただきます」
(メイは今どうなっているだろう…女子高でメイの担任に聞いてみたら、あれこれ一週間以上は来てないらしい…家の方は病気にかかって治療中…てか今はこっちの捕虜だけどね。質問など来てるだろう、闇の書のことで)
ヤマトが食欲がないのは疲労とメイのことである。
「でも、食べとかないとリンディさんに怒られるだろうな」
ヤマトはいつもは早食いだが、ロースピードで食べ終わった。
「おせーな、いつもは10分以内に食うのに、今回は15分以上かかってたぞ」
友人にどやされるヤマト。ヤマト達の方へ向くヤマトのクラスメイト達。
早食いのヤマトが遅い?何で?あれ双子の妹が見かけないと飛ぶ言葉。
「ただ、食欲がないだけだって、メイは病気で休んでいる」
「そうなのか」
ホッとするクラスメイト。
「次は体育だ!お前らを扱いてやる」
ヤマトは鬼教官みたいにクラスメイトを脅かす?そうヤマトは体育委員に所属している。
ヤマトの体育面では疲労を見せず、マラソンでも健全だ。

体育の時間の前の高等学校屋上
ヤマトは携帯電話でリンディと連絡していた。

ガスコンロの火がつく音。「本当なら、最初にヤマト君がメイさんに出会った時に、もうちょっとちゃんと話すべきことだったのよね。」なんだか、すごく懐かしい感じがした。母親といるときのような、そんな感じ。「けど…、僕はメイを殺そうとした時もあった。」
「…そんなに気にすることないわ。おっと…、こんなこと言っちゃ駄目ね。艦長として…、でも、まぁお互い様よ。私も感情的になりすぎたわ。」
鍋の中をかきまぜるリンディ。
「…でも、本当に辛い経験ばかりだったのね…ヤマト君。まだ、辛い?」
「…そうですね。少し辛いです…。たまに、思い出すんです。故郷が毒ガス事件で人がたくさん死んでいくこととか…。」
「そう…。」
お椀に味噌汁を注ぎ、座るリンディ
「今回の事件…、闇の書のことなんだけど…。」
ズズッとお茶をすする。
「私は、その前の闇の書事件で夫を失ったわ。」
「…っ!?」
「確かに、あなたの言うように、戦争の中では命を奪い、奪われる。失敗は許されないわよね。
けれど、今回の闇の書事件は失敗しても、次があった。なら、それでいいじゃない。命を落とすよりはましだと、あなたもそうは思わない?
内心、私もなのはさんやフェイトさんがやられたときは、肝を冷やしたわ…。命を落とすようなことになるんじゃないかって…。」
リンディは白濁した緑茶をジッと見つめながら、そうヤマトに言った。

「あなたたちの戦争と違って、命を落とすものは少ないわ。
だけど、命を落とすこともある。その数だけを見れば…ヤマト君からしてみれば少ないのだろうけど、命っていうのは数で計るものではないでしょう?」
「…はい。」
返事をして、ヤマトは自分の前に差し出された味噌汁を見つめる。
流れる沈黙。
室内には、リンディの書類を捲る音と、風が窓を揺らす音だけが響く。
「一条寺ヤマトさん!」
突然、名前を呼ばれたので驚き、反射神経で飛び跳ね、姿勢をただしてしまう。
「もう二度と、命令違反をしないと誓いますか?」
いつのまにか厳しい眼差しでリンディがヤマトを見つめていた。
一瞬、はいっ!と即答してしまいそうになったが、ちょっと待てよと考え込む。メイのことで感傷的なるのはよくない。自分にも相手にも不利益を得ることになってしまう。
「……。」
リンディはずっとこちらを見ている。
「はい。一条寺ヤマト、一切、命令無視をしないことを誓います!」
と返事した時、屋上にいる生徒がヤマトの方へ向く。
女子、男子関わらずその眼差しがヤマトの方へ刺す。
一応、はいと返事をしておいた。その方が何かと都合がいいと思ったのだ。
「では、今回までの命令違反は不問とします。
でも次回からは……わかってますね?」
「はい。」
「それから提案があります」リンディはそう言った。

学校、屋上にて。
「よかったね…、ヤマト君がお弁当持ってきてくれて」となのは。
「うん、ホント…助かった」「へぇ~、フェイトのお兄さんてあんななんだ?
似てないね。」
アリサが言う。
「あ、ヤマトはその…親戚で兄弟って意味のお兄さんじゃないんだ。」
「なのはちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん、あの…はやてちゃんのことなんだけど…。」
アリサとフェイトの会話が終わるのを見計らって口を開くすずか。
八神はやてのことはなのはもフェイトもアリサも前々からすずかに出来た新しい友達と言うことを聞いていた。
すずかは、はやてが入院したことを話した。
「そっか…、はやてちゃん大丈夫なのかな?」
さも自分の友達のように心配するなのは。
「それで、提案なんだけど…はやてちゃんの紹介も兼ねて一緒にお見舞いにいかない?」
そう、すずかは提案した。

アースラ一室。
クロノによるメイへの取り調べは続いていた。
「そうか…、それで君は彼等に協力してたのか…。」
「…はい。」
メイからあらかたの事情を聞いたクロノはエイミィに指示し、八神はやてを捜索させていた。
空間にモニターが開く。
「なんだ?ユーノか?」
クロノの対応にムッと顔をしかめるユーノ。
『コホンッ、闇の書についての経過報告だけど…いいの?メイさん?だっけ…、に聞かれても…。』
「あぁ、どうもメイの話を聞いていると、闇の書について勘違いしてるみたいなんだ。
まぁ、ヴォルケンたちが都合のいいように吹き込んだのかもしれないが…。
続けてくれ。」
『わかった。まずは闇の書、これは正式名ではないみたいだね。正式名は夜天の魔導書、主と旅をしながら、各地の魔法を蒐集して書きしるすもの。言わば図鑑って言えばいいのかな?
闇の書と呼ばれるようになったのは、何代目かの主によってプログラムを改変された後からだね。
闇の書と呼ばれるようになってからは酷い。闇の書を完成させると、主に際限なく魔力を使わせようとする。だからいままでの主は完成後すぐに亡くなってるね。
それから、闇の書は一定期間蒐集がないと主から魔力を奪って行く性質があるみたいなんだ。』
「そうか…、闇の書を完成前に封印する方法はないのか?」
『そっちは今調べてるとこ。だけど、完成前に封印するのは難しいと思う…。
今はここまで、また何か分かったら報告する。』
「わかった。頼んだぞ。」
モニターが消え、クロノがメイへと向き直る。
「じゃあ…このままじゃ、は…はやてちゃんは?」
「さっきのユーノからきいたろう?暴走して、魔力を絞りとられ、そして…。
だが、まだユーノが調べてくれているから、手があるかもしれない。」
そして、クロノはモニターを開き、メイに質問した。画面には、突然現れた、あの仮面の男の映像。
「君はこの男のことを知っているか?」
メイは首を左右に振った。「そうか、じゃあ、今日はここまでだ。また闇の書についてわかったら連絡する。」
「すいません…、こんなこと、頼める立場でもないのに…。」
「…いや、気にしないでくれ。どうせついでだ…。あっ、そうそう、技術部の連中が君のデバイスに興味があるみたいなんだ。見せてやってもいいか?
場合によっては手を加えられるかもしれないが…。」
「はい…。もう、私には必要ないですから…。」
メイは笑ってそう言った。

「(落ち着けシャマル、私たちが鉢合わせなければいいだけの話だ。)」
「(で…でも、もしはやてちゃんが主だってわかったら…・)」
「(幸い、我が主の魔力資質はほとんど闇の書の中だ。詳しく検査されないかぎりばれることはない。)」
「(で…、でもぉ…。
はぁ…顔を見られたのは失敗だったわ。変身魔法でも使っておけばよかった。)」「(今更、過ぎたことをどうこういっても仕方ないだろう?
とにかく、ご友人が来るときは、こちらが外そう。)」「(そんなことして…、はやてちゃん、変に思わないかしら?)」

「(それは仕方ないだろう。何か適当に理由をつくるしかない。)」
そう言って、シグナムは念話を切った。
シャマルは携帯の画面に写っている四人の少女にみいっている。
一人は月村すずか、はやての友人だ。その周りを取り囲むように三人の少女が写っているのだが、一人は管理局民間協力者である高町なのは、残り二人のうち一人は管理局嘱託魔導士フェイト・テスタロッサである。
シャマルが慌てていたのは、この画像のせいではない。多少は驚いたが…、問題はメールの内容だった。
今度四人ではやてを見舞いにいっていいですか?
そんな内容のメール。
駄目とは言えない。
すずかに、はやての病状は重くはない、検査で入院すると伝えている以上、断る理由がない。
また、はやても見舞いを断らないだろう。
そこで、シグナムに念話で連絡し、相談したのだ。シグナムは鉢合わせなければいいとそう言ったが…。
シャマルは不安を拭いきれないまま、携帯の画面を閉じた。

翌日、昼過ぎ。
メイの元に面会者がきた。リンディに連れられ、部屋に入ってきたのは、水色の髪で青色の瞳の少年だった。
「一条寺メイさん、紹介します。こちら、管理局民間協力者の一条寺ヤマトさんです。
一条寺ヤマトさん、ご紹介します。一条寺メイさんです。」
メイは視線を合わせないよう、目だけそらし、軽く頭だけをさげる。対するヤマトは、鋭い視線でメイを凝視したまま無言でいたが、リンディに後ろ手に背中をつつかれ、どもっと低い声で挨拶した。
メイはヤマトと対面して座り、間に挟まれる形でリンディは椅子に腰かけた。
「さぁ、始めましょう。」
リンディの提案、それは、メイとヤマトに一対一で話し合いの場を持たせることだった、

三人の間に沈黙が続く。当たり前だ。
闇の書のことだ。仲間を傷つき、仲間の魔力を蒐集、意味を見いだせないまま戦闘
いきなり話せと言われても、言葉が見つからないし、余計なお節介だとリンディにいいたくなる。
「あぁ…、忘れてたわね。」リンディは席を立つと、部屋から出ていく。
その前に、一旦振り返り、ヤマトに一言。
「…わかってるわね?」
「はい」
と告げ、ヤマトとメイの二人を放置したまま部屋を後にした。
暫くの間沈黙が続き、メイはヤマトと視線が合う度にそらし、ヤマトは足を何度も組み直していた。
「兄妹2人きりだね。」
「そう?」
少し微笑むヤマト。「しかし、なんでこんな事になったんだろうな」
無言のまま、ヤマトから目線を逸らすメイ。
「元の世界にいたときはネオ・ジオン総帥のシャア・アズナブルを止めたくて、この世界に来てからは一人の女の子の運命を変えてあげたくて戦ってた。」
ヤマトは真剣な眼差しでメイを見つめる。
「でも、なんで、管理局を攻撃するんだ?言ってくれれば協力だってしてくれるだろうに、ユーノから聞いた。こっちにも行きわたっているはずたけど」
「………私は…攻撃をした管理局の関係者に謝ることしか出来ない。
だけど、じゃあ、ヤマトはなんで戦ってるの?」
ヤマトも一瞬、動揺をする?
「俺だって無意味に戦いながらなぜ、主を守りたいのか分からないと思う」
「守りたかった…。はやてちゃんを守りたかった。ヤマトには人の気持ちが分からないのよ!」
メイは泣き崩れながらヤマトに反抗をする。
「メイ、強くなったな…でもそれは矛盾を生じている」
「ヤマトも守りたいものを殺したくせに!」
ヤマトの心が揺らぐ。
「出会った相手が敵軍の強化人間・エステルだっけ」
メイはヤマトにきいた。
確信があったわけではないが、ただ、そんな感じがした。
俺はあの子を守りたかった。量産型サイコガンダムに乗っている彼女を説得してあげたかった。俺は不意を突かれ、殺されそうになったところ、正気に戻った彼女が俺を庇って死んだ。俺が殺したではない。俺のために殺された!

「だから…なんだ?」
「彼女は沢山の人を殺したのよ…。」
「エステルのこと、なんにも知らない癖に!俺の第一の恋人だったんだ!なのはやフェイトを見て、彼女の面影を感じてしまう」
「ヤマトも私も沢山、人を殺した。もちろん、みんな…。」
「殺したから、殺されて、殺されたから、殺して、そんなんで名誉を遂げて死んでいた兵士などの命は無駄だと言いたいのか…!」
「…だよね。でもエステルって子があのまま正気に戻っていなかったら…ヤマトは死んでいたし、それによって、ヤマトのような子が増えてしまったかもしれない。」
ヤマトの脳が思考する。
自分達は被害者だったはずだ。だから、それを経験したから、戦争を終らせようと自分も立ち上がった。
けど、自分は…数多の軍のパイロットを数えきれないほど討ってきた。
あれ?
ヤマトの頬を涙が伝った。
自分達は、一体なんだったのだろう?
被害者のはずだった。けれど、自分が相手を討つ度、その家族が、仲間が、友達が自分を恨み、憎む。悪循環が続く。
自分が不幸の連鎖に荷担しているのだと気付く。
「俺達は…なんの為に…。アムロさんは何にも動揺していない…」
ヤマトはメイを見た。

メイとなら、なんの為にどう向かえばいいのか気がしてきた。
メイはうつむき、頭を振る。
「…私も…探してはいるんだけどね…。分からない…。まだ…。」
「…メイも…分からないのか…。これじゃ分からず終いだね」
ヤマトは流れた涙を拭き、メイを見据える。
「謝って済むことじゃないけど…。…ごめん。」
謝るメイ。
ヤマトは首を振った。
「僕は皆が無事であればそれでいい。今ははやてちゃんと言う人を救わないと」
メイは初めてヤマトと目を合わせた。
「俺も手伝う…。」
友人を倒した、管理局を襲った
それは許せないが…。
「しかし、闇の書は一体…」
プシューッ
とドアが開き、お茶とお菓子を持ってきたリンディが戻ってきた。
「話をするときはこれがないといけませんわ。」
固まるヤマトとメイ。
お茶がそれぞれの前に置かれ、テーブルの中心にお菓子を配置した。
リンディさん、今、いいところなのに!空気読んでください!
ヤマトもメイも妙なところで空気をよまないリンディに呆れながらも、互いに喋ったので喉を潤すため湯飲みを手にしてお茶を飲んだ。「どうかしら?私のおすすめブレンドは?」
二人の口の中を緑茶の風味と心地好い苦味…それに多すぎる甘味、そして濃厚なクリーミーな味わいが襲った。
『甘党でもきつい!』

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