第08話【星の鼓動は愛】

Last-modified: 2009-09-06 (日) 14:57:27

久しぶりの彼女のデート。世間話や自分の友達の話を聞きながら、これまた久しぶりに楽しくやっている
(ほんとに…デートなのか?)
半信半疑、そんな気がした。
(今までのが夢なのか?いや、だったら、エステルと俺は敵だった。お互い警戒をしていた。じゃあ…これは…。)
「ヤマト!早くしないと、映画館がいっぱいになるよ!」
「…あ、あぁ…。今行く…。」ヤマトとエステルの距離が数十メートル離れており、走るヤマト。
走り、走り、彼女に追いつく。
「間に合った、じゃあ入ろうか?」
「…ああ…。」
幸い混雑しておらず、映画館のエントランスに入る2人。

『ルプス』
「私が前衛で引き付けるから、なのはちゃんは…。」
「はい。…でも、大丈夫ですか?」
「うん、…大丈夫。…私は…大丈夫だから…。準備は…いい?」
メイはジャスティスを握る手に力を込め、なのはに聞く。
「はい。」
闇の書から放たれるファンネルがメイとなのはを襲う。羽を開き、全方位三百六十度から一斉に放たれるそれらを避けるメイ。
なのはも避けようとはしているのだが、数が多すぎる。背後からの一撃を避けたとき、自分の頭上からの攻撃に気付いていなかった。しまったと思い、障壁を展開しようとしていたら、黒い魔力の塊に赤い魔力がぶつかり、相殺された。
「なのはちゃんは砲撃することだけ考えて!あなたには当てさせない!…絶対に!」メイは自分の中の何かを自らの意思で弾けさせた。
『ビームソード&ヒートロッド』
高密度に圧縮された魔力の斬撃と、鞭みたいな扱い方で、なのはの周りを不規則に飛び回るファンネルを4つ同時に斬り落として叩き落とす。
なのははメイの言葉を信じ、魔法陣を展開した。

「…それで、上官がね。」公開される30分前。エステルの話を聞きながらヤマトは考えていた。
ひょっとして、俺は死んでいるのか?
だが、闇の書には死ぬような攻撃をされた覚えはない。しかし、死んだ者と会えるのは死んだときぐらいだろう。別に、天国や地獄を信じているわけではないが、でなければ説明がつかない。一体、何故。思考の渦にのまれていると
「もう…ヤマト!!」
エステルに頬を抓まれた。

縦横無尽に空を駆け、降下上昇を混ぜ攻撃をかわし、ときにシールドを使い。
ときに射撃、斬撃をおりまぜて、ファンネルを破壊する。
闇の書もファンネルばかりに頼っていてもしょうがないと判断したのだろうか。今度は接近戦へと転じた。なのはにとってこれはチャンスだった。

映画を観終わり、2人が外に出た時にヤマトは意外な人物を見る。
「あっ!!フォウ!!」エステルが喜ぶ。ヤマトはカミーユとフォウに出会う。
ミント色で少しショートヘア。エステルと同じく、ティターンズ寄りの地球連邦軍所属、純粋な、無垢な笑顔。
フォウ・ムラサメ。彼女もまた、ムラサメ研究所で作られた四番目の強化人間。サイコガンダムのパイロットであった。
やがて、エステルがヤマトに指を差す。そして、エステルと話しているカミーユとフォウは、ヤマトを見た。
目があった。
ステラが微笑む。エステルが笑う。
「ヤマト!早くこっち来てぇ!」
「…あぁ、今…今そっちに行くから!」
のろのろとヤマトは歩き出した。

「うがて…ブラッディーダガー…。」
メイとなのはに向かう赤い閃光。
『ファンネルディフェンサー』
メイの周囲にファンネルを展開させて電撃のバリアを張る。ダガーはメイの方へ向かい、直撃するどころが電撃でダガーを破壊する。
なのはは、砲撃体勢をとっているため、障壁は張らない。
そんななのはにレイジングハートが警告するが、
「大丈夫だよ。きっと…。」ダガーはなのはに当たる前に、メイの最後のカートリッジを消費した、ファンネルやヒートロッドにより全弾迎撃された。なのはは、メイを信じる。「アクセルチャージャー起動!ストライクフレーム」『オープン』
エクセリオンモードのレイジングハートの尖端に魔力を具現化させた矛先が形成される。
メイが一刀とヒートロッドで打撃による闇の書の強化攻撃を受けている。
バチバチ、バキンッ!!
「…うっ!!…こんなもので!!」弾き飛ばされるメイ。
攻撃後に硬直する闇の書。「今だよ!なのはちゃん!!」海面すれすれで、体勢を建て直し、なのはにメイが叫んだ。
なのはは闇の書に向け、レイジングハートを構え一直線に向かっていく。
闇の書は魔力の渦を発生させ、なのはの突攻を阻もうとするが、レイジングハートのストライクフレームが貫通し、尖端に魔力が収束し始める。
「まさか…!!」
なのはの狙いに気付いた闇の書が、目を見開き、その表情を初めて変えた。
「エクセリオンバスター!!!ブレイクシュート!!!」ほぼ零距離で、エクセリオンバスターが闇の書に直撃した。

呼吸が乱れ、なのはの息遣いが荒くなる。
「ほぼ零距離…これで駄目なら…。」
「…まだだよ。なのはちゃん。」
爆煙が晴れ、姿を見せる闇の書。ダメージはほとんどないようだ。
メイは再びジャスティスを構え直す。
『Master!!』
「もう少し、頑張らないとだね。メイさん、レイジングハート。」
なのはレイジングハートを持つ両手に力を込めた。
『メイさん、カートリッジを二組送ります。受け取って…。』
メイは転送されてきた二組のカートリッジを受取り、そのうちの一組をジャスティスに装填した。

「…ヤマト?」
「…何だ?…エステル…。」エステルが覗き込むようにヤマトの顔を見ている。
「ヤマト、今日は朝からボーッとしてるの。あんまり気にしなくていいよ」
「…調子…悪いのか?ヤマト」
心配そうにヤマトを気遣うカミーユ。
「あぁ、いや、大丈夫。、別にそういうわけじゃない。ただ…」
「「ただ…?」」
エステルとカミーユが聞き返す。「…いや…、何でもない。」「ね?…変でしょ?」
と、カミーユとフォウにエステルが言う。ポツリと手に水滴が降ってきた。いつの間にか空が曇り、辺りも暗くなっていた。
「今日は晴れだって言ってたのに…。…ヤマト、カミーユさん、フォウ、そこで雨宿りしよ。」
「…そだね。」
フォウもベンチから腰をあげ、カミーユに手を差し出す。「三人は先に行ってくれ。…俺は、ここにいる。少し…雨に打たれたい気分なんだ。」
頭を冷やしたかった。考えれば考えるほど、この世界が現実ではなくなっていく。夢だ。現実じゃない、ただの夢…。
だけど…自分が望んだ世界だった。失ったものがある世界。
「じゃあ、私もここにいるよ!2人は?どーする?」
「僕たちもヤマトと一緒にいるよ。」
降ってきた雨は最初のうちは激しかったが、やがて霧のように細かく、辺りを真っ白に染める霧雨になった。
それが心地いい。三人もそう感じているようだった。
「なぁ…エステル。これは…夢…だよな。」
できれば現実であってほしい夢。だが、もう自分はこれが夢だと知っていた。
だから泣いた。
自分が一番欲しかったもの、取り戻したかったものだったから。
この夢が覚めてしまうのが怖い。だが、どうしても聞きたかった。
エステルとフォウは答えなかった。
ヤマトは二人を見つめ、
「俺は…ずっと、…これからもずっと、ここに居ていいのかな?」

一番知りたかった事を聞いた。

「お前達は…なぜ眠らない?」
闇の書の言葉。
「眠りにつけば…望んだ世界にいける。」
メイが弾き飛ばされる。なのはがディバインシューターを放つ。
「そして…その望んだ自分の世界は…永遠だ…。」
ディバインシューターを交す闇の書。体勢を建て直すメイ。
「永遠なんて…ないよ!人は変わってく…、変わらなきゃいけないんだ。
私たちも…あなたも…。」放たれるプラズマランサー。そして、それを撃ち抜く赤き魔力の閃光。
「誰だって…こんなはずじゃない人生を送ってる!」メイを囲む青と白のフィンファンネル。昇華している。
ヤマトの顔が、友人たちの顔が頭をよぎる。
ビームソードとヒートロッドでフィンファンネルを撃墜する。
「私も!ヤマトも!フェイトちゃんも!生きている人たちはみんな!!…でも、それでも、生きていく!」両腕をクロスさせ、衝撃波でフィンファンネルをもう一つ落とす。
「どんなに辛くても、悲しくても、夢の中なら幸せだから、平穏だから…。そうやって逃げてちゃ駄目なんだよ!!」
『エクセリオンバスター』「だが…、それは…大きな苦しみを…、深い悲しみを…伴う…。」
闇の書がスターライトブレーカーを発動させる。
「覚悟はある!!」
『エピオンシステム・フルドライブ・アルティメットビームソード』
「私たちは…戦う!!」
「「シュート!!/当たれぇ!!」」

「なぁ、俺は…本当にここに居ていいのか?」
濃い霧雨の中、ヤマトはエステルに問掛ける。
「…ヤマトが…それを望むなら…。」
居たい。ずっと、ここに居て、エステルと幸せに暮らしたい。でも…現実じゃない。
「でも…この世界は…。エステルも…みんな…夢…なんだろ?」
エステルの頬に触れる。エステルもうつむくだけだった。
「私は夢でもいい…。ヤマトと、一緒…。
だから…行こう…。ヤマトが望んだ…あったかい世界に…。」
エステルは歩き出す。真っ白な景色の中を。
俺は…もう、グロッキー…かな。
このまま、この世界で、夢で、エステルと永遠の時を過ごすのも悪くはない。ヤマトは、エステルを追って歩き出した。

はやては、暗闇の中で闇の書と会話をしていた。
眠れば、騎士たちと平和に暮らせる。
あの楽しかった日々が戻る。けれど、それは現実ではない。だから、はやては拒んだ。
「せやけど、それはただの夢や!」
眠りかけていた、はやての意識が覚醒し、はやての足下に真っ白な純白の魔法刃が展開された。

ヤマトは歩く、エステルの元へ行くために、家族を…幸せを取り戻すために。
だが…袖を引っ張られ、歩みをやめた。
カミーユだった。
「…ダメだ、ヤマト。死者の魂の重力に惹かれてはダメなんだ」
うつ向いたままの姿勢から顔をあげるカミーユ。
「…何で…だよ。俺は…、エステルと一緒に居たい!これからも、ずっと…。もう苦しいのは、悲しいのは嫌だ!」
「ヤマト!!歯ァ、喰いしばれ!こんな大人、修正してやる!!」
カミーユが痺れを切らし、ヤマトを思いっきり殴った。ヤマトは少し吹き飛んだ。
「ヤマト…決心したんじゃないか…。前を見るって、前を向いて歩くって…、過去に捕われては駄目だって…。俺もそうだった」
カミーユの、ヤマトの頬の痣をポロポロと涙が伝う。
「…ヤマト…みんなが…ヤマトとメイの帰りを…待ってる人たちが…居るんだぞ?
元の世界にも…こっちの世界にも…。」
「…ヤマト…これ…。」
エステルが手を伸ばし、ヤマトの手をとって何かを握らせる。握らされた手を開くと、フリーダムだった。
ヤマトの中で止まっていた時間が動き出す。エステルの死を受け止める。
認めたくない現実を受け止める。過去が取り戻せないものだと知る。
涙が溢れた。歯をくいしばり、声を殺そうとするが…それは鳴咽となって外に漏れる。
「うぅぅぅ…うぅ…うっ…」膝をついて、エステルを抱き締める。
「ごめん…守ってあげられなくて…、守ってやるはずだったのに…、守ってやれなかった。
死なせてしまった…。」
エステルが、そっとヤマトの体を抱き締める。
「私、ちゃんとヤマトから昨日をもらったよ。」
エステルの体が徐々に薄くなっていく。
そんな光景みたくない。だが、これが最後の別れだ。涙でくしゃくしゃになった顔をあげるヤマト。
「…ありがとう…ヤマト…。」
そう言い残し、三人はは光となって消えた。
「…みんな…、ありが…とう…。」
そして、ありったけの大声を空に向かって張り上げた。

「名前をあげる。」
暗闇のなか、闇の書の両の頬に、はやては手を触れる。膝まづく闇の書。
「もう、闇の書とか、呪いの魔導書なんて言わせへん。私が呼ばせへん!
私は管理者や、私にはそれが出来る。」
「無理です。自動防御プログラムがとまりません。管理局の魔導士と異世界の魔導士が戦ってますが…それも…。」
そんな闇の書の言葉を無視し、はやては目を閉じ、強く念じる。
「止まって…!!」

「…くっ……。」
メイの顎を汗が伝う。バリアジャケットはところどころ損傷していた。
なのはもメイと同様、疲労し、息を切らしていた。
駄目だ…。…きりがない。攻撃が当たっているはずなのに、闇の書はそんなそぶりを全く見せない。
終りが見えない。
それがなのはとメイの疲労を加速させていた。
闇の書が再び、メイとなのはを襲おうとしたとき、その動作がまるで電池が切れた玩具のように突然止まる。そして
『外の方!管理局の方!!私はそこにいる子の保護者の八神はやていいます。』
「「はやてちゃん!?」」
『その声は、なのはちゃんとメイちゃん?なんでなのはちゃんがここに?メイちゃん、自分の世界に帰ったとちゃうん?』
「うん、なのはだよ。色々あって闇の書さんと戦ってるの!」
「話すと長くなるから…、それよりはやてちゃん!」メイが促す。
『ごめん、二人とも、なんとかその子とめたげてくれる?
魔導書本体からのコントロールを切り離したんやけど、その子がああしてると、管理者権限が使えへん。今そっちに出てるのは自動行動の防御プログラムだけやから…。』

なのはとメイが押されていることを管理局から知らされた、ユーノとアルフ。
その援護に向かっている途中ではやての言葉を聞いた。
「闇の書完成後に管理者が目覚めてる…これなら…!なのは!」

「(分かりやすく伝えるよ!今から言うことををなのはができれば、はやてもフェイトもヤマト君も外に出られる!
どんな方法でもいい、目の前の子を魔力ダメージでぶっとばして!!
全力全開、手加減なしで!!)」
そのあまりに簡単な方法になのはは笑う。
「さっすがユーノ君、わっかりやすい!!」
『It's so...』
動けない闇の書の自動防御プログラムに変わり、海面下からたくさんの触手が姿を現す。
「メイさん!お願い!!」
「うん!!」

「行くよ!ジャスティス!!エピオンシステムはそのままフルドライブで稼働」『アルティメットビームソード&ヒートロッド・フルヒート』
左右の武装から弾き飛ばされる四発の薬筒。
防御プログラム以外の触手を全てロックする。
メイは両手の武装を大きく振りかぶり、狙いをつけた。
遠距離から片方ずつに繰り出されるビームソードの巨大な斬撃とヒートロッドのガンダニュウム合金すら溶かす熱で触手を切り裂く
「エクセリオンバスターバレル展開、中距離砲撃モード!!」
『All Right, バレルショット』
柄が伸び、レイジングハート本体から桜色のつばさが生える。
そして、魔力による衝撃波を放った。防御プログラムの自由を強制的に奪う。

「夜天の主の名において、新たな名前を汝に贈る…。強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール…リィン・フォース」
はやての真っ白な魔法陣が輝きを増した。

一方、フェイトも、自分の望んだ世界に、アリシアに、プレシアに、リニスに別れを告げていた。
「バルディッシュ…ここから出るよ。ザンバーフォーム…いける?」
『Yes, sir』
「…いい子だ…。」
バルディッシュを掲げ、バリアジャケットを装着する。両手でしっかりと柄を握るフェイト。
『ザンバーフォーム』
カートリッジを二発消費することでバルディッシュは大剣に姿を変えた。
魔力が具現化できるまでに高められた紫電を帯た太い魔力刃。
フェイトは魔法陣を展開した。

エステルから受け取ったフリーダムを大事に胸に抱き締め、しゃがみこんでいたヤマトは立ち上がる。
もう…、いいだけ泣いた。目を拭い、空を仰ぐヤマト。霧雨が、優しく、熱くなった目頭を冷ます。
メイの顔、エステルの顔を思い浮かべる。
さようなら…。そして共に行こうメイ
自分の過去に別れを告げる。もちろん、忘れるわけではない。
もう、二度と、恨んでも憎んでも、どんなことをしても取り戻せないものだと、変えられないことだと理解することだ。
そして…ありがとう。
自分の背中を、前に踏み出すことが出来なかった自分の後押しをしてくれたエステルのにもう一度だけ礼を言う。
「…ふぅっ!」
息を大きく吐き出し、泣いて乱れた呼吸を落ち着かせる。
「…行こう、フリーダム、闇の書の運命を変えるために…。繰り返される悲しみの連鎖を断ち切るために!」
そして…、自分のこれから運命を、未来を切り開く為に…。
『Freedom Style All Style』
青と白がベースのバリアジャケットを装着し、武装は全てのスタイルの武装を装備。
背中には蒼色の翼。
『ダブルG-バード』
蒼色の魔法陣が展開。クスィフィアスの柄が伸び、それを腕と間接を使って固定する。
切っ先に収束して行く魔力が巨大な塊になった。

「エクセリオンバスターフォースバースト!!」
なのはの言葉と共にレイジングハートから蒸気が排出される。
そして形成された魔力の塊が輝きを増し、巨大化していく。
なのは一呼吸を置いて叫ぶ。
『ブレイクシュート!!
スプライトザンバー!!
全てを呑みこむ!!G-バード!!』
内部空間のフェイト、ヤマト、そして、外部のなのはが同時に繰り出す攻撃。
レイジングハートから発射されたエクセリオンバスターは4つに別れ、たった一人のターゲットへと向かい直撃する。

桜色の光に飲まれ、そしてその光を貫くように天に伸びる一本の金色の閃光と二本の緋色の閃光。

『新名称、リィンフォースを認識。管理者権限の使用が可能になります。
ですが、防御プログラムの暴走がとまりません。
管理から切り放された膨大な力が、直、暴れだします。』
明るい光に包まれるはやてにリィンフォースが状況を説明する。
「…ぅん、まぁ、それは何とかしよう。」
本形態のリィンフォースがはやての前に現れる。
「いこか…、リィンフォース…。」
『はい、我が主。』
それを胸元に抱き締め、はやては純白の光に包まれた。

ヤマトもフェイトも無事に闇の書からの脱出を完了していた。
「フェイト!ヤマト!」
いち早く気づいたアルフが二人の名前を呼ぶ。フェイトはアルフに微笑み、ヤマトに顔を向ける。
「ちゃんと…お別れできた?」
ヤマトも微笑み、頷く。
「フェイトは?」
「うん…、出来たよ。ちゃんと…。」
「そうか…。」
言葉にしなくても、闇の書の中で何をしていたのかは不思議と分かった。
フェイトは一本の大剣バルディッシュを構え、ヤマトは二本の長剣ハイパービームサーベルを構えた。
まだ、終わってはいない。空間が震動する。
『みんな気を付けて、闇の書の反応、消えてないよ!』

アースラ。
「さぁ、ここからが本番よ!クロノ!」
『はい、もう現場につきます。』
リンディは小さく息を吐き、自分の手に握っている赤い鍵を見る。
「アルカンシェル…使わずに済めばいいけど…。」
アースラスタッフに緊張が走った。

震動は続き、海面にその半分を沈めた、ドス黒い光の塊が姿を現す。
『みんな!下の黒い淀みが暴走の始まる場所になる。クロノ君が現場に到着するまで、むやみに近付いちゃ駄目だよ!』
六者六様の返事をエイミィに返した。

はやては光に包まれながら暴走の妨害と破損したプログラムの修復を行う。
「管理者権限発動…。」
『防衛プログラムの進行に割り込みをかけました。数分程度ですが、暴走開始の遅延ができます。』
「うん…それだけやったら…充分や…。
リンカーコア送還、守護騎士システム…破損修復。」4つのコアが輝きを増し、シャマル、ザフィーラ、ヴィータ、シグナムがその姿を取り戻す。
「おいで、私の騎士たち。」カッ!!
と真っ白な光が輝き、天に地にその光が伸びる。
そのあまりの眩しさに、その場にいる六人、なのは、フェイト、ヤマト、メイ、ユーノ、アルフは目をかばう。
中心に純白の丸い光を残したまま、同色のベルカ式の魔法陣が展開され、そしてその光の球体を守るかの様に、四人の人影が立っていた。
「ヴィータちゃん!?」
「「シグナム!?」」
なのはとフェイト、ヤマトは驚き、メイは緊張で険しかった顔を一瞬緩めたが、すぐに顔を背けた。
「メイ…。」
フェイトが名前を呟く。聞く話によれば、メイは自分との戦闘のあと彼等にコアを抜かれ、管理局に捕まったと言っていた。
また、闇の書の主をかばっていたようだが、それを途中、情報交換を条件とし、管理局に彼等を売ったとも聞いた。メイにも色々と思う所があるのだろう。
「我等、夜天の主の元に集いし騎士。」
シグナム。
「主あるかぎり、我等の魂、つきることなし。」
シャマル。
「この身に命があるかぎり、我等は御身のもとにあり。」
ザフィーラ。
「我等が主…夜天の王八神はやての名のもとに!」
ヴィータ。ここに四人が完全なる復活を宣言した。

やがて、光が晴れると、そこには黒い甲冑に身を包んだはやてがいた。
掲げられる、金色の円を貫く十字の杖、そして夜天の魔導書。
「夜天の光よ、我が手に集え!祝福の風、リィンフォース!」
ユニゾンデバイス夜天の魔導書、リィンフォースは漆黒の闇と、対の純白の光を放ち、はやてと融合する。目の色が透き通るブルーに、髪の色が白く染まる。インナースーツにジャケットが追加された。そして背中には六枚の漆黒の翼。
「はやて…。」
今にも泣きそうな顔で、声でヴィータが主の、はやての名を呼ぶ。
「…うん。」
頷き、ヴィータに微笑みかけるはやて。
「すみません…。」
謝るシグナム。
「あの…、はやてちゃん…私達…。」
命令に反した事、そして、こんな事態を巻き起こしてしまったことを詫びようとする騎士達。
「えぇよ、みんな分かってる。リィンフォースが教えてくれた。そやけど…、細かいことはあとや…。今は…おかえり…みんな。」
一番にヴィータがはやてに抱きつく。そして声を上げ、涙を流す。はやての名を何度も、何度も叫びながら…。そんなヴィータをはやては優しく抱き締めた。
そこへ、なのは、フェイト、ヤマトがやって来る。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、ヤマト君ごめんなぁ、うちのこ達が色々迷惑かけてもうて…。」
「うぅん。」
となのは。
「平気。」
とフェイト。
「どちらかと言うと。あなた達に礼をしたかったのだ」
とヤマトが言って笑った。なるほどと思ったフェイトも笑った。

「よかったね…、はやてちゃん。」
遠巻きに、はやて達を見守るメイは小さく呟いた。ジャスティスモードになりを腰に下げ、手を楽にする。
「いいの?行かなくて?」
そんなメイを見ていたユーノが言った。
「今は…いいかな…。どんな顔をして…会えばいいか、わかんないし…。」
「…でも…。」
とアルフを見るユーノ。アルフが眉間にシワをよせ、目を閉じている。片方の眉がピクピクしていた。
「…私は…ッ!?ちょっ…アルフさん?何を……。」突然ジャケットの襟首をアルフに捕まれたヤマトは
「女々しいこと言ってんじゃないよ!!気になるなら行ってくりゃいいだろぉ!」はやて達の元へブン投げられた。

突然のことに対応が遅れたが、翼を展開して、慌てて静止するメイ。
だが、目の前にはヤマトの後頭部があった。
背後の気配に気付き、ヤマトが振り向いて言う。
「何やってるんだ?メイ…。」
「……あ、いや、その、私は…。」
皆の視線が痛かった。
「メイちゃんも、ごめんな…うちの子たちが迷惑かけて…、それから、ありがとな、止めてくれて…。」
「…うぅん。管理局にいる間、ずっと心配だったから…。だから、今は、こうしてはやてちゃん達とまた会えたことが本当に嬉しいの。」
少し、目に涙をためて笑うメイ。
「メイ、目線…俺に礼を言ってどうするんだ。そーらよ」
ヤマトに背中を押され、前に出るメイ。
「すまない、一条寺メイ。」
「ごめんなさい、メイさん…。私達…。」
シグナムとシャマルがメイに謝る。
「…うん。…私は大丈夫だから…ねっ?」
中々頭を上げてくれないシャマルとシグナムに戸惑いながら
「…心配してくれて、ありがとう。」
とたまった涙メイは拭った。
「すまないな、水を差してしまうんだが…。」
突然の声とともに上空からゆっくり降下してくる一人の少年。
時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだった。

目次