第14話【危険な遭遇】

Last-modified: 2009-08-17 (月) 14:26:38

降り頻る雨。
灰色の雲が空を覆い、日光を遮断していた。
まだ昼間にも関わらず外はほの暗い。
轟く雷鳴が暗い森を短い感覚で何度も瞬間的に照らしだす。
そんな中を歩いている二つの人影と、浮遊する一つの影。
連続して数度、稲光が空をかけたとき、ふと地を歩く、小さな影が足を止めた。
「どうした?」
一番大きな人影、低い声音の男、ゼストは自分の服の裾を握る少女、ルーテシアにつられ、足を停める。
「…あれ…。」
暗闇に向かって指を指すルーテシア。
「あちゃ~…こりゃ酷い怪我だな…。」
ゼストの傍らを飛ぶ小さな少女、アギトが言った。
アギトはサラッと空を手で撫で、明かりを灯す。
「…傷が相当深いな…、治療魔法での完治は難しいだろう…。ちゃんとした設備があれば…あるいは…。」
ゼストの話を聞きながらルーテシアは倒れている二人の少年もとへと歩いていった。
「この人達をこのまま放っておいたら…死ぬの?」
無言で頷くゼスト。
「この森を抜けるまで医療施設どころか町もない。
運んだとしても…この出血ではもたないだろう。」
うつ向いてしまうルーテシア。
「旦那ぁ~、何とかならないのかよ。」
アギトもゼストに対し、策を捻出すよう促すが、首を降るばかりだ。
「私が何とかする…。」
そんな二人の様子を見ていたルーテシアはそう言って、とある人物へと通信回線を繋いだ。

スカリエッティは不意に入った通信を疎ましく思った。
何せ、捜し物があるためネットワークを駆使して調べているところだったのだが、通信の相手が珍しくもルーテシアであったため、繋ぐ。
「やぁ、ルーテシア、嬉しいよ君から通信があるなんて…どうしたね?」
口許の端を軽くつり上げ、ニヒルな笑みを浮かべたままスカリエッティは通信に応じた。
『私からのお願い…聞いてくれる?』
モニター越しにルーテシアが指をさす方を見てみれば、体に何かの破片が刺さり、多量の出血をし、倒れている1人の青年と1人の少女の姿があった。

「ほぅ、これは興味深い…。」
液で満たされたポッドで眠る二人の青年と少女。
所々に包帯が巻かれ、そしてそのポッドはいくつものコードに繋がれていた。
スカリエッティの付近にあるモニターには二人のバイタルなど他にも詳細な情報が表示されている。
ルーテシアからの通信のあと二人は転送魔法によりスカリエッティのもとへと送られて、それから五日が経過していた。
一つのモニターに目をとめるスカリエッティ。

「2人とも白狐(びゃっこ)の妖怪で人化している…1人は何らかの事柄で妖気が通常の妖怪の半分になってしまった、通称・半妖か…。」
見れば見るほど、調べれば調べるほど興味深かった。
明るい紫の少女は兎も角、漆黒の髪をした少年は身体能力に置いて無害で精神不安定が一切なく、暴走もしない薬物投与をしている。すなわち、理想の強化人間ならず半妖。
この世界にはない技術だ。
「成程…、さて、少しだけ、記憶を覗かせてもらうよ。」
ポッドから溶液だけが排出された。

それから二日後。
『こんにちは、ドクター。二人の調子は…どう?』
「黒色の髪の彼、半蔵の方はうまくいっているよ、ルーテシア。」
世界、名前、年齢、経歴、人間関係、記憶を覗き、把握できるものはできるだけ把握しておいた。
体の内に強大な魔力を秘めているし、うまく利用できれば、自分達の計画をスムーズに進行させてくれるのに協力してくれるかもしれない。
興味深かったのはMSと言う兵器だったが、その詳細については記憶を覗いただけでは分からなかった。
彼が握り締めていた黒い欠片について調べたところ、特殊なデバイスだということが判明。
益々利用価値がました。
「ところで…、先程半蔵が目を醒ましたんだがね、ルーテシア。」
『…うん…。』
画面にうつるルーテシアは頷く。
「『命を助けて頂いたお礼がしたい』とそう言っているんだが…どうするね?」
『別に…いい。そう、伝えておいて…。』
スカリエッティは少し考えるようにしてから、相変わらずニヒルな笑みを浮かべ、口を開く。
「私がね、ルーテシアがとあるナンバーのレリックを探していることをうっかり話してしまってね。
それで、彼がどうしても捜索に協力させてくれと言うのだよ。」
スカリエッティの表情は相変わらず、モニター越しのルーテシアの表情にも変化はなかった。

「邪魔が入ったとき、きっと彼ならかなりの戦力になると思うがね。
ゼストやアギト、ガリュウの負担も減るだろう?
好意に甘えてみても悪くはないと、私は思うがね。」
『ドクターがそう思うなら、それでもいいよ。
…次のところへ行くから…ご機嫌よう、ドクター。』
ルーテシアからの通信が切れた。
「ご機嫌よう、優しいルーテシア。」
スカリエッティは通信が切れ、ノイズが入るモニターに向かってそう呟いた。
「ドクター、おはようございます。」
「おはよう、半蔵君。」
声の主は半蔵。
スカリエッティは二人に治療を施す過程でいくつか記憶を操作した。

ある一件、列車にて、ガジェットでレリックの回収を失敗したとき、自分には興味のない人物だったので、ヤマトとメイについては記録に納めるだけで、あとは調べもしなかった。
しかし、半蔵、千歳、この二人の記憶を辿るうち、ある一人の少年へとたどり着いた。
一条寺ヤマトと一条寺メイ。
世界最高のコーディネイター。
是非ともみてみたい、調べてみたいではないか。
二人には動機を持たすには丁度いい記憶があった。
スカリエッティはそこに目をつけ、利用することにした。

「体の調子はどうだい?」
いくつかモニターを操作しながらスカリエッティが言った。
「お陰さまで…もう、大丈夫です。本当に、何と言っていいか…。」
「いや、気にしないでくれたまえ。
ルーテシアは君の協力を承諾してくれたよ。」
口の端がつり上がる。
「そうですか、それで、ルーテシアは今、どこに?」
「また、彼女から近いうちに連絡があるだろう。そのときに、転送してもらうといい。」
スカリエッティの言う通り、そののち、すぐに通信がはいり、半蔵はルーテシアのもとへと向かった。
「さて、残るは千歳か…。」
半蔵とは違い、千歳の治療にはあと数日の時間を要した。

ルーテシア、ゼスト、アギトの三人と合流した半蔵。

ルーテシアは相変わらずの無表情。
ゼストも無表情なうえ、半蔵に対して悟られないように様子をうかがっている。
露骨に警戒心と不快感を態度に表しているのはアギトで、常にぶつぶつと不満を漏らしている。
それも、半蔵の耳に入るようにだ。
そんな雰囲気の中、四人はレリックの探索に励むのだが、半蔵は役立たずである。
まず、レリックについての知識がないし、地理にも疎い。
基本の魔法も念話ぐらいしか使えなかった。
「何が役に立つ…だ!あの変態ドクターめ!」
アギトが悪態をついた。
夜、火を囲む三人と、そこから少し離れたところに一人座っている。
火を囲んでいるのは、ルーテシア、アギト、ゼストの三人で、一人離れたところで缶詰の様なものを黙々と食べているのが半蔵だ。
アギトの声が聞こえたのか、一瞬、フォークをとめる半蔵。
「まぁ…、あくまで戦闘面で役立つとドクターは言ったのだろう?」
「戦闘面って…あたしらで十分じゃんか!」
小さな体、全身で猛抗議のアギト。
ゼストは、どうしたものか、とルーテシアを見るが、当のルーテシアは無言、無表情のままに、缶詰をつついていた。
「用は、奴の力量がわかればいいんだな?」
「…旦那?」
小言をぶつぶつとたれているアギトにゼストが言った。
無論、ゼストもアギトに賛成ではあるのだが、半蔵が果たしてスカリエッティの手先であるかと聞かれれば難しい。
助けたのは自分達で、治療をしたのはスカリエッティ。
治療の過程でいくらかいじられている可能性もゼロではないが、短に本当に恩返しという可能性もゼロではない。
「アギトは…半蔵が強ければ認めるの?」
それまで黙って食を進めていたルーテシアが口を開いた。

「それだけじゃ納得いかねぇな。ドクターが戦闘面では役に立つっても証拠がない。」
アギトを頭の後ろで手を組、あぐらをかく。
ルーテシアは無言で立ち上がると、半蔵の元へと歩いていった。
自分に近付いてくる足音に顔を上げる半蔵。
「何だ?」
「これからガリュウと戦ってもらうけど…いい?」
半蔵は顔をしかめた。
「…ガリュウ?」
頷くルーテシア越しに半蔵はアギトやゼストの様子を窺ってから
「成程…」
といって頷き、腰をあげる。
「…わかった…。やろう…。だが、お前はいいのか?ガリュウは君の…。」
「…いい。」
ルーテシアは魔法陣を展開し、ガリュウの召喚準備に取り掛かる。
場所を移し、半蔵は黒色の指輪を左腕に握り締め、天にむけ、拳をつきだした。
「ダブルオー!!」
拳の隙間から溢れ出る鮮やかな朱の光に包まれ、その光が爆散。
空気中に飛び散った魔力のカスが霧散していく。
「魔力反応…でけぇ…。」
宙を見上げるアギトとゼスト。
漆黒に白のラインと青のラインの入ったバリアジャケット。
両腰部に添えつけられた銃に変形できる剣。
背中に魔力刃が発生する白い筒二本と両肩にあり実体剣形態が可能な盾。
「行くぞ!ダブルオー!」
『Yeah!!オーライザー Stand by...Complete!』
背中に発生する戦闘機と合体する。
「ガリュウ、…お願いね。」
少しだけ調子を落とし、ルーテシアが言った。
「半蔵!ガリュウ、準備はいいか?始めるぞ。」
アギトがその体格には似合わないほどの大声で言った。
半蔵とガリュウがたがいに相手を見据え、構える。
『GNソードⅡ・ダブルソードモード』
両腰の剣の柄尻を連結、実体剣が白く輝く。
ガリュウの手の甲からは暗色の紫の魔力刃が発生。
ドォンッ!!

アギトが一発の花火を放った。

先手必勝、持ち前のスピードを駆使し、半蔵へと向かうガリュウ。
右手甲の魔力刃を半蔵目がけつき出す。しかし、連結されたシールドに阻まれ、今度は半蔵が右手に持つ連結ソードに魔力刃を発生し、下段から手首を返し、振り抜いた。
だが、朱色の魔力刃は空を斬った。

ライトパープルの少女は、痛みにより目を覚ました。
頭部、腹部、両腕、両足に走る痛み。
カチャカチャと音がするので見てみれば、白衣を着た紫色の髪の男が何やら片づけをしているところだった。
「……ここは……。」
第一声はそれだった。
白衣の男がこちらへとやって来る。
「おや?もうお目覚めかい?
早いね…。」
少女は体を起こそうとするが
「まだ動かない方がいい、せっかく塞いだ傷が開いてしまうからね…。」
軽く少女の体をベッドに押さえ付ける白衣の男。
「さて、君にいくつか質問したいのだが…、いいかね?」
少女は力なく頷く。
「君が住む世界の名は?」
「ミッドチルダ…です。」
ふむ、と一人うなずき、クリップボードにペンを走らせていく。
「君の、名前は…?」
白衣の男は持っていたボードで口を隠した。
口許には笑みがこぼれている。
「……、雪代…千歳?」
千歳と名乗る少女は何故だかそれが確であるか疑っているかのように答える。
「君の友人の名前は、覚えているかね?」
「…半蔵。」
スカリエッティは満足そうに目を細めた。
「どうやら、異常はないようだね…。
今はまだ眠るといい。」
スカリエッティは部屋をあとにした。

「これで…、ちゃんと認めてくれるな?」
ダブルオーライザーから発生する大型の魔力刃の切っ先が、ガリュウの首に突き付けられていた。
「あ、あぁ…。」
不機嫌そうな返事をするアギト。だが、認めないわけにはいかなかった。
魔力槍との連携。
そして、圧倒的な武装の数。
時間を確認すると、十分も経っていないのだから驚きだ。
半蔵は無傷、ガリュウも無傷で決着した。
千歳が合流したのはそれから数日後である。

そして現在。
「さて、行くとするか…。」
座っていた岩からゼストが腰を上げた。
「おう、旦那ぁ!」
アギトはゼストの肩に腰かけたまま言った。
「地上本部…か…。」
「まぁ、ドクターのナンバーズ達に手をかすだけです。
何とかなるでしょう…。」
「そうだな、ドクターには世話になったしな…。」
半蔵と千歳も立ち上がり、最後にルーテシアが立ち上がった。
「もうじき、地上本部での公開意見陳述会がある。我等の役目は分かっているな?」
「おう、分かってるぜ、旦那!」
「あぁ、わかってる。」
「分かってる。」
ゼストの問いにアギト、半蔵、千歳が答え。
そしてルーテシアが頷いた。

機動六課、医務室。
「はい、傷口の消毒、終わりましたよ。」
「ありがとうございます。」
シャマルにパシンと軽く背中を叩かれ、シャツを着るヤマト。
「もう、痛みはないですか?」
「はい、痛みはないですよ。これなら訓練にも戻れ…」
「駄目ですよ!ヤマトさん、完治するまでは…。
今、無理したら傷口が開いてしまいますよ?
ちゃんと治してから、訓練に参加してください。」
シャマルが険しい表情をして言う。
そんな彼女の表情に気押され、たじろぐヤマト。
「そ、そうですね…。ところで完璧完治まで、あとどれくらいですか?」
「そうですねぇ~、あと一週間弱ってところですかね…。」
やんわりと微笑みシャマルが言う。
「今は怪我を治す事だけを考えて…ね?」
シャマルはそう言ってヤマトの来ているシャツの襟首を整えた。

時空管理局 地上本部 公開意見陳述会まであと7日。

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