第15話【その日、機動六課(前編)】

Last-modified: 2009-08-17 (月) 14:27:23

公開意見陳述会五日前。
機動六課、技術室。
「マリエルさん、どうですか?」
パネルを操作しているマリエルに、ヤマトが聞いた。
「ん~、難しいね…。排熱機関を増やせば、その分、デバイスの耐久性が落ちちゃうし…。
かと言って今のフレームのままだと十分に機能が発揮できない…か…。」
う~ん、と唸ってしまう。
「うーん、そのまま酷使するととんでもないことになりますねぇ…あの、マリエルさん、これでうまくいきませんか?トランザムの機能を落として長時間持続やバリアジャケットの強化など。あくまで具体的な考えです」
ヤマトが自分の案を話す。
「うん、そうだね、それで行ってみよう。
取り合えず、今片方を片付けちゃいますね。」
「お願いします。」

公開意見陳述会の前日、PM19:14、機動六課隊舎ロビー。
「明日はいよいよ、公開意見陳述会や。
明日、十四時からの開会に備えて現場の警備はもう始まってる。
なのは隊長とヴィータ副隊長とリィン曹長、それからヤマト君を除いたフォワードメンバー五名はこれから出発…。」
「はやてさん、俺も出られるが。」
前線から外されたヤマト。もう怪我も完治寸前で痛くもなんともない。
「ファーウェルもまだ片方だけど…完成してます。」
しかし、はやては許可を出さなかった。
「あかんよ、ヤマト君。最近、訓練もろくにしてへんやろ?
それに、ファーウェルもまだ完全やない。そんな状態で戦ったら、ファーウェルがかわいそうや…。
病み上がりやし、今回はここ、六課で待機。ええな?」

「……お言葉に甘えさせて頂きます。部隊長」
渋々とうなずくヤマト、はやては頷くと続ける。
「今言ったメンバーはナイトシフトで警備開始。
私とフェイト隊長、シグナム副隊長は明日の早朝に中央入りする。
それまでの間、よろしくな。」
フォワードメンバーは元気よく返事をし、ヘリポートへ向かった。
ヘリポートには見送りにきたヴィヴィオとヤマトの姿、それから、ヘリに乗ろうとしているなのは、後ろに続くメイの姿があった。
「ヤマトの分まで、私が警備してやるよ。」
にやっと笑いながらヤマトに言うメイ。そんなメイを苦笑いしながら、ヘリに乗り込むのを見送るヤマトだった。
飛んで行くヘリを見送るフェイト、はやて、シグナム、ヤマト、ヴィヴィオ。
ヴィヴィオの手を引いて隊舎内に戻ろうとするヤマトをはやてとシグナム、フェイトが呼びとめる。
「一条寺ヤマト、お前は待機と言うことになっているが…、分かっているな?」
シグナムが不意にそんなことを言うので、ヤマトの頭上には?が浮かんでいた。
「前線メンバーがほとんど六課からいなくなっちゃうでしょ?
だから、何かあったときはヤマトが六課の攻めの要。」
「一応、シャマルとザフィーラは残るけど、どっちも援護と補助が本領や。
せやから、うちらがおらん間、しっかり留守番…頼むで」
フェイトをはやてが引き継ぎ、ヤマトの胸を軽くこづいた。
「了解。蜘蛛の子一匹も通らせはしない」
そう返事をするとヤマトはヴィヴィオを連れて隊舎内へと戻っていった。

管理局地上本部へと着いたメンバーたちはそれぞれ指示された配置に着き、警備を開始した。
メイもヴィータたちに色々と指示をされあちこち走り回っている。
それからしばらくして日が昇ってくると、なのはは内部警備をしにいくため、一旦、フォワードメンバーを集合させた。
「そろそろ、私は中に入るんだけど…。
内部警備の時はデバイスは持ち込めないんだ。
だから預かっておいてね。」
とスバルにレイジングハートをなのはは渡した。

日が高くなるにつれ、地上本部周辺も騒がしくなり始める。
テレビ局や、上司を向かえる下位の魔導士たち、人混みを整理し、きちんと並ばせている。
丁度、その頃合いにはやて、フェイト、シグナムも到着。
彼女らもデバイスをフォワードメンバーたちに預け、局入りした。

「一先ずは何も起こりそうな気配はなさそうですね。」
肩にフリードをのせたエリオが、周囲を警戒し、視線を走らせながら隣を歩くメイに言った。
「…えぇ。」
もう公開意見陳述会は始まっている。
ふと、メイが空を見上げるといつのまにか太陽は遮られ、暗雲が広がっていた。

周辺警戒をしつつ、ヴィータは念話を用い、なのはに話しかけていた。
「(予言通りの事が起こるとして、内部の反乱によるクーデターって線は薄いんだろ?)」
何でも、最新の予言情報では、この公開意見陳述会を機に管理局崩壊の危機が訪れるとの事である。
だから、普段よりも警備が厳重なのだが…。
「(アコース査察官が調査してくれた範囲ではね…。)」
「(そうスッと外部からのテロだ…。でも、目的は何だよ?
犯人が、例のレリックを集めてる連中…スカリエッティ一味か…やつらだとしたら、さらに目的がわからねぇ。)」
スカリエッティは兵器開発者であり、ならば理由はその威力証明が該当しそうだが、正直なところはわからない。
いくら考えたところで答えにはたどり着けなかった。

「開始から四時間…か…。中の方ももうすぐ終りだよね…。」
メイが腕時計をみながら言った。
フォワードメンバーたちは今、集まって警備にあたっているのだが、未だに何か起きそうな気配はない。
「最後まで気を抜かずにしっかりやろう!」
スバルが喝を皆にいれ、シャキッとさせた。

雲を貫きそびえたつ時空管理局地上本部の塔。
それを遠くから見守る4つの陰があった。
アギト、ゼスト、半蔵、千歳である。
「連中の尻馬に乗るのは…どうも気が進まねぇんだけど…。」

半蔵と千歳が顔をしかめる。
「まぁ、それでも、いい機会ではある。
今日、ここで全てが終わるのならそれにこしたことはない。」
ゼストが開いている空間モニターにはレジアス中将が写っていた。
ターゲットだろうか。
そして半蔵、千歳の開いているモニターには一条寺ヤマトの顔が写っている。ちなみに、命令は捕獲だ。
「まぁねぇ、つか、私はルールーも心配だ。」
腕を組つつ喋るアギト。
「大丈夫かなぁ~、あの子…。」
「心配ならルーテシアについてやればいい。」
千歳が言う。
「ゼストには私と半蔵がついている。」
鋭い目付きで千歳を睨みつけるアギト。
「ドクターの回し者が…。」
千歳が表情を険しくさせる。
「私は許されないのだ?ドクターを悪く言うのは…。」
「何ィ!!」
睨み合う二人。
「おい、よすんだ。二人とも…。まぁ、今回は大勢が相手だ。
きっと、アギトも、ゼストの事が心配なのだろう?」
そういってアギトを見る半蔵にケッと言葉を吐き捨てた。

「まぁ実際、俺もルーテシアが心配ではある…。だが、ガリュウやジライオン、他にもいるんだ。
その点を考えると、やはりゼストの方が心配だ。
それに恐らく地上本部には…」
「やつも…一条寺ヤマトも来ているだろうな…。」
千歳が半蔵を引き継いで言った。

「ナンバーズ…、ナンバー3ドーレから、ナンバー12、ディードまで全機…配置完了。」
次々と準備完了と報告してくるナンバーズ、半蔵、千歳、ルーテシア、ゼスト、アギト。
スカリエッティは笑いを堪えきれず、笑った。
「楽しそうですね?」
情報整理を行いながらスカリエッティにウーノが言った。
「我々のスポンサー氏に特と見せてやろう、我等の思いと、研究と開発の成果をな。
さぁ、始めよう!」
目を見開き、スカリエッティは口の両端を歪にゆがめる。

ここから遠いところでヤマトは殺気を感じた。
(嫌な予感がする…なんだ!?この胸のざわめきは)

全てが一斉に動き出した。

一気に増大する魔力反応。しかし、管制はそれを伝えられないでいた。
通信管制システムに異常が発生してしまったためである。
また、それだけではなく、クラッキングまでされている。
モニターが次々と閉じて行き、管制室はパニックに包まれた。
クアットロのIS、シルバーカーテンの仕業である。
そして館内で突然、爆発が起こる。その煙を吸った局員たちが次々と意識を失っていった。
セインのIS、ディープダイバーを使った奇襲。
そしてチンクのISランブルデトネイターにを用いた、内部施設の破壊。
さらに、ルーテシアの遠隔召喚を使い、とんでもない数のガジェットを地上本部に転送。
それに加えディエチのヘビーバレンを使い、管理局の外壁を破壊した。
多くのガジェットのアンチマギリンクフィールドにより、建物を覆う防御障壁が消失。
魔力で動いているもの全てが停止。
ヴィータを除く機動六課隊長陣を含め、多くの魔導士たちが閉じ込められた。
そして、援護に駆け付けた管理局航空部隊はドーレとツェッテに押さえられている。
頼みの綱は早くも外の警備に当たっていたフォワードメンバー五人とヴィータ、リィンフォースⅡの七人にかけられた。

機動六課管制、ロングアーチでもその状況はモニターしていた。
しかし、隊長たちの安否は確認できない。
地上本部内部に通信が通らないのだ。
ロングアーチスタッフたちも対応に四苦八苦していた。

「ヴィータ副隊長!私たちが中に入ります!なのはさんたちを助けに行かないと!」
スバルがレイジングハートを握り締め、言う。
ヴィータはメイ以外の四人を隊長陣救出に向かうよう指示。
ロングアーチから入る報告。
航空戦力四。
推定オーバーSが接近中とのこと。
「航空戦力はわたしとリィン、それからメイとやる!!
地上は残りの四人がやる!」
ティアナたちにシグナム、はやてのデバイスを渡し、ヴィータはリィンとユニゾン。
いつもは真紅のバリアジャケットの色が純白に染まる。
『バリアジャケット・エピオン&メリクリウスフォーム』
そのあとを追い、メイは翼を展開。
鮮やかな魔力噴射炎を散らしながらヴィータのあとを追った。

フェイトとなのはも局内でじっとしているわけではない。
閉じ込められた部屋から脱出、エレベーターのロープを伝い、下へと降りていった。

一方、空。
「こちら、管理局!あなたがたの飛行許可と個人識別表が確認できません。
ただちに停止してください!
それ以上進めば…迎撃に入ります。」
リィンフォースが警告するが、止まらない四人に12の真紅の光弾が襲い来る。
ゼスト、アギトは急停止、その後ろを飛んでいた千歳が同じ数だけ何かをばらまいた。
灰色の閃光によって瞬くまにその数を減らしてい行く真紅の光弾。
そして、注意のそれたゼストを狙うヴィータ。
「ギガント…ッ!?」
『シールドワイヤー』
「何っ!?」
シールドから離れる実体剣が魔力刃へと変え、バインドがヴィータを拘束、半蔵だ。ネットガンは廃止されている。そしてそのままたぐりよせようとしたその時
『プラネイトアタック』
三枚の円盤状が電撃で繋ぎ、ヴィータと半蔵を繋ぐバインドを切り裂いた。
「何で!何で半蔵が!ちーちゃんが!こんな!!」
ビームソードによる一閃をシールドで受ける半蔵。
その一瞬の間に、ゼストとアギトが融合。
黒髪が金髪へ、騎士甲冑の色も変化していた。

別の空。
ルーテシアはウーノと通信していた。
「こっちはもういいね?次に行くよ?」
『はい、未確認のレリックと、聖王の器が保管されていると思われる場所』
ウーノが確認を取る。
「機動…六課」
ルーテシアは抑揚ない声でそう呟いた。

機動六課。
ロングアーチ管制モニターにアラートの文字。
「そんな…、これは…。高エネルギー反応二体、高速で飛来!」
シャーリーが席をたち、言う。
「こっちに向かってます!」
グリフィスは待機部隊を出動させ、近隣部隊に応援の要請をするように指示をだした。

館内を走っているヤマト。その腕にはヴィヴィオを抱いている。
隣を走っているのはザフィーラだ。
「ヤマト、お前は一先ずバックヤードスタッフとヴィヴィオを避難させろ!」
「了解!」
ヤマトとザフィーラはここで別れた。
確に、デバイスは今手元にない。のこのこ外に出ていっても格好の的だ。
ファーウェルは技術室で保管されている。
「嫌な予感が的中した…くそっ!!相棒さえいれば!」
ヤマトはヴィヴィオを抱いたまま、走るスピードをあげた。

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