第17話【その日、機動六課(後編)】

Last-modified: 2009-08-17 (月) 14:27:52

「なんで!!」
数多の奔流を避けるメイ。
ヴィータはゼストと、メイは千歳と戦うので精一杯なのだが、無論一対一と言うわけにはいかない。
機会を見つけ、余った半蔵のとも代わる代わる戦闘を行う。

『ビームトマホーク・ブーメラン』
『GNダガーブーメラン』
放たれる二つの黄色と朱色の魔力刃が衝突。
二人の魔力が反発しあい、爆発した。
動きを止めればビットの餌食。
しかし、戦わなければ半蔵のに捕まってしまう。
千歳に向かい、ビームトマホークを投剣するメイ。
その一瞬の隙をつき、半蔵が接近しようとした刹那、ウーノからの通信が割って入った。
『半蔵、一条寺ヤマトは機動六課にいます。』
「何?」
機動六課の様子がモニターに写った。黒き翼、ライトブルーの髪、ダークブルーの目。
間違いなく、ヤマトである。
『妹二人が戦闘したようですが、失敗したようです。』
「わかった、すぐに向かう。」
半蔵はメイとは反対側に向かって飛翔を開始、緑色の光が段々と小さくなっていく。
「ッ!?」
急な半蔵の戦線離脱を疑問に思いつつ、メイは後を追おうと翼を開く。
「ヤマトのとこへは行かせはしない!!」
しかし、
『Warnning!』
目の前を駆け抜ける緑色の奔流。
急停止、ステップ、降下。瞬時に判断し、ビットをかわす。かわせない分はシールドを使用。
「ちーちゃん!」
メイは追跡を阻んだ相手を睨みつけた。
「(メイ、そいつの相手はまかせた!私はゼストを叩く!)」
言われなくてもそのつもりである。
メイの沈黙を了解と受取り、ヴィータとゼストが激しく火花を散らす。
それが合図だった。
千歳を中心に散開する紫色の魔力光。
「くッ!!」
シールドを発生させながら全てを回避するため宙を舞う。
ぐるぐると回る視界。段々と地上側と空の境界がわからなくなってきた。
『GNキャノン』
「ッ!?」
目の前には砲撃体勢に入った千歳の姿。距離は五メートルと離れていない。
紫色の爆光がメイを飲み込んだ。

『トランザムダブルオーライザー Set Up』
「行くぞ、ダブルオー!」
加速し、輝きを増す朱色の魔力光がフェイトと二人のナンバーズの横を駆け抜けていく。
「あっ、待て!!」
半蔵は六課に向かっていったはずだ。
だとすれば、エリオとキャロの二人が途中で交戦する可能性が高い。
恐らく、あの二人では半蔵を止めるのは不可能。
フェイトは光を追跡しようとするが、それを阻止する二機のナンバーズ。
「くっ!バルディッシュ、サンバーフォーム」
バルディッシュの形状を一刀の大剣へと変え、フェイトはナンバーズ二機を迎え撃った。

時空管理局地上本部。
「ギンねぇ…。」
スバルは呟く。
脳裏によぎる嫌な予感が告げる。
ギンガを早く見つけだせ…と。
狭い通路をマッハキャリバーを器用に操り、猛スピードで駆け抜けていく。
「スバル!先行しすぎ!!」
遥か後方からなのはに抱えられたティアナが叫ぶが、スバルの耳には届かない。
ぐんぐん小さくなって行くスバルの姿。
「仕方ないね、こういうところだとスバルの方がスピード早いから…。
こっちが出来るだけ早く追い付けばいい。」
なのははスピードをあげたまま角を曲がった。

機動六課。
「カートリッジ残り二発。次は?」
先程までいた数えきれないほどのガジェットは、ただの残骸と化していた。
六課周辺のガジェットに動いているものはない。
ヤマトは地面に這いつくばったままのオットーとディードのもとヘ向かう。
スカリエッティのアジトを聞き出すためだ。
「ッ!?」
しかし、すでに二人の姿はなかった。四肢を破壊し武装解除もしたはず…。
なのに、何故。
「そう言えば…。」
ヤマトは視線を走らす。機動六課を覆う炎は今だその勢いをうしなっていない。
「こちらスターズ5、ヴァイス陸曹、応答願う…。」
『………。』
ヤマトの脳裏にキャロの言葉が蘇る。
『優れた召喚魔導士は転送魔法のエキスパートでもあります。』
もし、ディード、オットーの他に機動六課に向かっていた敵戦力があったら?
もし、ディード、オットーが待機部隊の目を引くためにこんなに派手に暴れたのだとしたら?
そして、敵の狙いは?
決まってる狙いは…。
「ヴィヴィオ!!待っててくれ!」
ヤマトは翼を開き、ヴィヴィオに待つよう言った場所に向かった。

ズドォンッ!!

轟音がメイの耳に飛込んできた。視線を一瞬だけ、音源へと走らせる。
ヴィータとゼスト、二人の姿がない。
目の前、背後にビットの発射体がこちらを狙っている。
強引に体を捻ってかわし、片方のファフニール・ビームトマホークを千歳へと向かい投剣。
しかし、何なく千歳は回避。
直後、メイの肩へ走る衝撃。リフレクタービットの直撃だ。
「ガッ!!」
メイを囲む数多の障壁発射体。そして奔流が一斉に放たれ全てがメイを直撃する。
声にならない悲鳴。
アロンダイトが砕け散り、バリアジャケットもセイグリッド、エピオン、ジャスティス、メリクリウス、サザビー全てがパージされるまでビットによる攻撃はやまなかった。
(何…で…)
そして気を失い、脱力して地へと落ちていくメイを千歳は捕まえ、ビルの屋上で呆然とこちらを見ているヴィータを一捌すると、ゼストを追って行ってしまった。
「何やってんだメイ!起きろ!!
メイ!!!起きろぉぉおお!!!」
そんな千歳の背中に向かって悲鳴じみた大声で叫ぶヴィータ。
しかし、メイはピクリとも動かなかった。
降り出す雨がヴィータの足元の破壊されたグラーフアイゼンと、手の中で眠るリィンフォースツヴァイを濡らしていった。

機動六課。
「そんな…、これは…。」
意識を失い、地に伏している局員たち。ヴァイスにいたっては血を流している。
燃え盛る火の中佇むヤマト。
ヴァイスが少しだけ目を開け、腕を動かし、空に向け指を差した。
「……ぉ……ぇ……。」
「喋らないで!でも……、このままじゃ…。」
腕を下ろさず、尚も目で訴え続けるヴァイス。
ヤマトは頷くと一ヶ所に局員たちを集め
「ファーウェル!」
『シールド』
障壁を張り、ヴァイスの指差す方向へと向かった。
「今行くからな…ヴィヴィオ…」

機動六課、海上付近。
フリードに乗るエリオとキャロ。
その横をすれ違うガジェット二型に乗った人影、ルーテシア。
「あれは……。
キャロ、援護お願い!ストラーダ!フォルムツヴァイ!」
「えっ?…エリオくん!」
キャロの静止も聞かず飛び出すエリオ。
ストラーダの第二形態は空戦を可能とする。
バックファイア全開でエリオはルーテシアへと向かっていった。

「おおぉぉぉぉ!!」
咆哮と共にルーテシアへ向かうエリオ。
不意に視界内に入ってくるガリュウの蹴りをストラーダの柄で防ぐ。
「ぐっ。」
力で押し負け、蹴り飛ばされるも、ストラーダを巧くコントロールし体勢を建て直す。
そして…。
「はぁぁああ!!」
ガリュウに向け、渾身の突きを放ち、エリオとガリュウが鋭い音を立て交差する。
ガリュウの手の甲の刃がへし折れ、エリオの肩から少しだけ血が飛んだ。
そして、そのままルーテシアを捕えようとした刹那、目前を駆け抜ける朱色の野太い閃光。
ストラーダを瞬時にコントロールし、上昇離脱。しかし、目の前に現れる半蔵。
『GNソードⅡ』
「ッ!?」
エリオはストラーダの柄でGNソードⅡを防ぐ。
しかし、ダブルオーライザーで強化された刃を防ぐ事は叶わず、柄は二つに切断。
次の瞬間には半蔵がエリオを叩き落とそうと大剣を振るう。
『Warnning』
高速で飛来する二発の魔力弾。

GNフィールドで防ぐも、衝撃までは殺せず、バランスを崩す半蔵。
「お前、お前、お前ぇぇぇぇぇー!!!!」
エリオの腕を掴み、通常射撃を連射するヤマト。
それらはフィールドにより防がれる。
「キャロちゃん!エリオ君を頼んだよ!」
フリードの上にエリオをのせ、ヤマトは半蔵、そしてルーテシアが保護しているヴィヴィオを取り戻すため飛翔して行く。
「ヴィヴィオ!!」
名前を呼びながらルーテシアとヴィヴィオが乗るガジェット二型に迫る、だが、その間に立ち塞がる半蔵。
「ガリュウはルーと共にいけ…、こいつは俺が捕獲する。」
『GNマイクロミサイル・コンテナ』
「ッ!?」
半蔵付近に無数に発生する魔力弾。それはヤマトが以前使った空間攻撃魔法。
半蔵が使うのであれば多少効果が違うかもしれないが、六課をバックに戦う限り避ける分けには行かない。
「ダブルオー/ファーウェル」
「「ターゲットマルチロック」」
手当たり次第にロックして行く半蔵。一方ヤマトは慎重にマルチロックして行く。
フルバーストは撃ってもあと二発が限界。
二発も撃てばファーウェル本体、ヴェスバーに装填されているカートリッジはゼロだ。
となれば、あとは誘爆による連鎖破壊を狙うしかない。
エリケナウスとハイマットフルバーストが同時に放たれた。

中央から左右へ広がって行く爆光。
「うっ!」
「きゃっ!」
衝撃波がエリオとキャロを襲う。
「あぁぁぁぁぁッ!!」
「おぉぉぉぉぉッ!!」
全長ニ十メートルはあろうかという魔力刃を振り回す半蔵。
刃同士で打ち合う、ヤマトが弾き飛ばされ、失速、しかし、海面ギリギリで体勢を建て直し、収束砲四発をかわす。

水しぶきが盛大に舞い上がった。
しかし、追い討ちをかけるようにして、半蔵のGNフィールドニ刀による中距離からの斬撃、縦一閃。
『ヴェスバー』
ヤマトの腰部の砲芯が持ち上がり、放たれる魔力弾。
シールドで防ぐが、やはり衝撃までは殺せず一瞬だけ動きが鈍った。
(今だッ!!!)
両肩部に展開される魔法陣、腰部の持ち上がった砲芯をそのままに、右手のファーウェルで半蔵に狙いをつける。
「ヤマトさん!!援護行きます。」
『Boost up burret power and buster power!』
フリードの上で、両手を広げケリュケイオンを構えたキャロ。
「ブーストアップ、バレットアンド、バスター!」
ケリュケイオンから放たれる桃色の魔力光がファーウェルとヴェスバーに注がれる。
『Resieve』
光の輝きを増すヤマトの魔力光。
「これで決める!!!!」
勢いよく溢れ出す6の閃光が半蔵を飲み込み、爆煙を舞い上げた。
至近距離で一点集中型の、しかも強化型のフルバーストに当たったのだ。無事では済まないだろう。
「すまない…半蔵…。」
『Warnning!』
ヒュッ
ヤマトのすぐそばを何かが通りすぎた。

時空管理局地上本部周辺空域。
何とか外に脱出したシグナムはヴィータとメイのもとへと向かっている途中だった。
「(シグナム!)」
「(ヴィータか…どうした?)」
シグナムは遠目に魔力光を捕え、その動きをとめた。一人の男と、融合器と思われる少女。
「(リィンが…アイゼンが……メイも…!!)」

次いで通りすぎようとする千歳に目が止まる。いや、正確には、千歳が手に抱えているものにだ。
「メイ…。(安心しろ、ヴィータ…メイは私が取り返す。)」
念話で告げるとシグナムはメイを追って飛び出した。

「えっ…?」
ヤマトの背後に姿を表すガリュウ。とっさの回避行動に頬を切るだけですんだ。
「くっ!!」
『サーベルモード』
歯を悔い縛り、振り返りながらの縦一閃。
「ヤマトさん!後ろ!!」
「ッ!?」
『シールドスティンガー』
煙の中からとびだしてきたバインド。
そして引っ張り寄せられ、ヤマトの腹に一発、半蔵の拳がめり込んだ。
「がっ…まだ…生きて…いた…。」
気を失うヤマト。
「ヤマトさん!!!フリード!ブラスト…。」
「待って、キャロ、ヤマトさんを巻き込んじゃうよ。」
キャロを制止し、折れたストラーダを構え、フリードの背に立つエリオ。
「やめろ、抵抗するな…でなきゃ俺は…お前達を撃たなきゃいけなくなる。」
「…ヤマトさんを…放せ…。」
エリオが静かに言う。
「命令は捕獲だ…、それはできない。」
「お…れ…のことはいい…やってくれ…」
ヤマトは途切れながらの小声で言った。
やるしかない、ストラーダを握る手に力を込め、尖端を半蔵に向ける。
『オーライザー』
エリオとキャロに向け放たれる魔力槍。
しかし、それは目の前で方向を変え霧散した。
その光景に目を奪われていたエリオとキャロが半蔵とガリュウに視線を戻すとすでにそこに姿はなかった。
雨足が早まり、六課の火を鎮火してゆく。
フリードに連れて行ってもらい、六課だった場所に着いた二人は愕然としていた。
変わり果てていた。
隊舎には大穴があき、風が吹けば崩れてしまいそうな、そんな有り様だった。
エリオの力の抜けた手からストラーダがすり抜け、地に落ちる。
「……何にも…出来なかった……。」
六課だった場所にはガジェットの残骸が数えきれないほど転がっている。
「…僕は…何も……。」
キャロはエリオの様子を窺う。
幾つもエリオの頬を伝う筋。雨のせいで涙かどうか判別出来なかった。
「私たちは……。」

キャロも呟いた。
ヤマトを助けられなかった。戦う事すら出来なかった。自分の無力さを胸にキャロは静かに涙を流した。

「うちのフォワードを返してもらおうか…。」
シグナムは千歳に向け、レヴァンティンの切っ先を向けた。
「残念だが…、お前の言葉は聞けない。ディバイン!」
『リフレクタービット』
千歳を中心とし弾けるように紫色の魔力光が散開しようとした刹那。
『シュヴァイゼンフォルム』
刃連ねる蛇が、渦を巻き、ビットを絡め破壊する。
「くっ!」
「飛龍…一閃!!!」
次いで一旦、引っ込む刃連ねる蛇が魔力を帯、今度は直線に放たれる。
千歳は紙一重でそれを避け、
『GNランス』
魔力槍を生成、放とうとするが
「大人しく一条寺メイの解放、投降すれば命までは奪わん。」
背後からの声。
慌てた千歳は振り向き様にランスを放つ。
「紫電一閃!!」
だが、被弾覚悟で振るうシグナムの一閃がメイを抱える千歳の腕を霞めた。
腕の中からすり抜けるメイ。
「ぐっ…ちぃっ……。」
千歳は撤退。
シグナムはメイを抱え、千歳を見送った。

時空管理局地上本部。
スカリエッティからの声明を受け、さらに六課の壊滅を知らされたカリムとはやて。
「予言は…覆らなかった…。」
カリムの沈んだ言葉に、はやてはただ沈黙で返すことしか出来なかった。

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