-第2話-

Last-modified: 2014-12-11 (木) 01:09:53

<惑星ナベリウス・森林の奥地>>
着々とダーカーを倒しつつ、要救助者を保護していくブルーベリー達。 座標の地点へは殆ど周った所で、カイトがある地点を指差した。
「ルーフェさん、この辺りにまだ一人います」
「把握済みよ。ただ問題なのが、ここはファングパンサー達の巣に近いのよね……」
「ふ、ファングパンサーって? 」
「あれ、アフィンさんは習いませんでした? 森林エリアに生息してる大きな四足歩行の原生生物ですよ。大きなたてがみが首に生えてて、鋭い爪を持ってて、獰猛そうな……。あぁそう、ちょうどこんな感じのです~」
「…………うん、リンシャンの目の前にいるね」
「って呑気にしてる場合じゃないのよ!! 戦闘体制、全員散開して! 」
ルーフェの合図に全員は応え、5方向にそれぞれ散開する。
「で、でけえ! 研修の時に名前だけ知ってたけど……」
「新人! こいつは今までの連中とは違う! 油断してたら死ぬわ! 」
彼女の言葉がアフィン達に突き刺さった。 そんな中、先陣をブルーベリーが切る。
「寒蘭桔梗! 」
自らの周囲に神速の斬撃を繰り出すが、その皮膚を傷つけることはできない。
「うげぇっ!? 」
「ラ・グランツ! 」
ビーム状の光の槍がファングパンサーの足を貫く。 爪を割り、体制を崩した。
「でぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁッ!! 」
カイトの渾身の一撃がファングパンサーの頭に直撃し、完全に地面に叩きつける。 その後、立ち上がろうとするもののルーフェとアフィンの精密射撃により他の足を銃弾によって貫かれた。
「決めてください! 」
「まっかせなさーいっ! 」
その隙を逃さずブルーベリーは抜刀の構えをとる。
「波濤竜胆! 」
力を込めた剣撃が地を這い、倒れるファングパンサーを追撃した。 ファングパンサーは倒れ、全員は安どのため息を吐く。
「いやぁ、リンシャンの目の前に現れた時はどうしようかと思ったよ」
「びっくりしました~」
「や、やった……生きてる……生きてるぞアフィン……」
「あ、ああ……。そうだな……」
新人であるカイトとアフィンは腰を抜かし、その場にへたり込んだ。 しかし。
「なに安心しているの!! まだもう一匹いるわよ!! 」
「ッ! カイト君、後ろ!! 」
カイトが振り向く頃には、既にファングパンサーと対をなす"ファングバンシー"が鋭い牙と爪を掲げ、彼に襲いかかろうとしていた。
(こ、腰が! 立てねえ、ヤバい! チクショウ、死んでたまるかってんだ!! )
彼は不意に目を瞑る。
「ま、間に合ったぁ……」
「よくやったな、新人」
カイトはおそるおそる目を開けた。 そこには怒りの矛先を別方向へ向けるファングバンシーの姿が。
「なーに言ってんだ? ギリギリってとこだろ、なあノエリィ? 」
「お姉さんならもっと痛めつけるわ、アダムス。まあ、ナイスよミラ」
「あの二人は相変わらず物騒だなぁ……。おい! そこの新人! 無事かー? 」
「はっ、はい! 」
その先には救援にやって来たセリーネ達のパーティであった。 途中で合流したミラも加えて、合計8人となっている。
「もう、みんな遅いよー! 」
「すまない。些かダーカーの殲滅に手間取ってしまった」
「最も、笑いながらダーカーぶっ潰してたのはグラハムだけどな」
「はいはい、話は後で聞くわ。とりあえず……」
「殺っちゃうか……♪ 」
ブルーベリーの一言によりその場にいた全員が武器を手に、ニヤリと笑った。
「わ、笑ってる……」
「あの状況でよく笑えるよな……」
引いている二人を横目に、彼らは一斉にファングバンシーに飛びかかる。
不意打ちなんて真似、あたし達に通用するとでも思ったのかぁ!? 」
「四肢を打ち砕いてあげる」
アダムスのワイヤードランスが両前足に巻き付き、電撃を流す。 その直後に素早くノエリィが近付き、爪や骨を砕いていった。
「葵ぃっ! ぶち込みなァッ! 」
「あいよぉっ!! 」
一直線に突き進む葵がソードの剣腹を叩きつけ、一瞬だけ怯ませる。 その後葵の背後にいたシキジの裏拳がファングバンシーの鼻を命中し、大きく吹っ飛ばされた。
「ミラ! 行くわよ! 」
「ま、待ってよルーフェちゃん! 」
追撃するようにランチャーとライフルの銃弾の嵐がファングバンシーを襲い、それに合わせるようにテクニックが猛威を振るう。
「合わせるぞ、ユーリィ! 」
「任せるといい」
咆哮と共に立ち上がるファングバンシーにグラハムとユーリィは一瞬で距離を詰め、各々の得物を構えた。 「今宵も我の妖刀は疼いている……不動梔子! 」
衝撃波により動きが停まったファングバンシーの背中をグラハムが駆け抜ける。
「これぞ、人呼んでユーリィ&グラハムスペシャルッ!!
X字状に斬りつけた傷は深く残り、ファングバンシーはうめき声を上げた。
「じゃ、とどめもーらいっ」
追撃するように倒れたファングバンシーに幾多もの剣撃が襲いかかる。
ブルーベリーが刀を鞘に納めた瞬間、間もなく四散した。
「ま、及第点ってとこかな」
「見事な太刀筋。我の妖刀も負けてはいないがな」
「つーか、その前置きはどうにかなんないのかい? そんなの言ってるうちにやられちまうんじゃないのかい? 」
「……かっこいいから良し」
息を一つも乱さず、全員は腰を抜かした彼らの元へ向かう。
「へへ……す、すげぇや……」
「お、おいカイト! しっかりしろ! 」
「揺らすな、緊張の糸が解けて気絶しただけだろう。お前も立てるか? 」
「あ、はい……」
気絶したカイトはシキジの肩に担がれ、そのままアフィンは彼の手を借りて立ち上がった。
「お前……」
「は、はいっ! 」
「……意外と可愛い顔をしているな」
「へ、へっ? あ、ありがとうございます」
シキジの一言によりアフィンに若干の焦りが見られる。 その光景を一瞥しながら、グラハムと葵は要救助者の元へ急いだ。
「女の子……だな」
「そのようだ。武器を装備しているが……彼女もアークスなのだろうか? 」
「端末には所属不明って書いてあるぜ。ま、保護しないわけにもいかねーだろ」
「了解した。本部へ連絡しておこう」
葵は美しい銀髪の少女を抱きかかえ、ブルーベリー達の元へ戻ってくる。 その横でグラハムはオペレーターと通信で会話していた。
「あーっ! 葵がセクハラしてるー! 」
「これのどこがセクハラなんだっつーの! 普通に抱きかかえてるだけだろーが! 」
「あっはっは、これは上層部へ報告だなー」
「ちょっと姐さん! シャレになってませんって! 」
女性陣からの反発を受けつつ、彼は転送装置へ向かう。 そんな中、グラハムはある事を思い出した。
「あぁ、ブルーベリー。そういえば一つ伝言しなければいけないことがある」
「どうしたの? 」
「戦闘機を一機ダメにした。始末書ものだな」
「それもっと早く言ってよ!! 」

 
 
 
 
 
 

<アークスシップ内、チームルーム>
「うぅぅぅ……どうしてあたしまで始末書を書かなきゃならないのよぉ……」
「そう落ち込むな。私は書いていて楽しいぞ」
「そういう問題じゃなーい! 早く作業しろし! 」
「失礼した」
カイトと少女をメディカルセンターへ搬送した彼らは一旦チームルームに戻っていた。 メディカルセンターに行く際にコフィーから膨大な量の始末書を送信されて今に至る。
「じゃ、私たちは先に戻るわ。クライアントにオーダーの報告もしなきゃならないし」
「嫌だーっ! あたしも行きたいーッ!! 」
「駄々こねないの。アンタはチームリーダーなんだから仕方ないでしょ? 」
「そりゃそうだけど……」
「……わかったわ。なら後でなんか買ったげるから」
「ほんと!? じゃあたし頑張る! 」
黙々と一人で始末書の判子を押していくグラハムを横目に、ブルーベリーがルーフェに抱き付いた。
「あいつは子供かっつーの。あ、そういやシキジ、この後メシでもどうだ? 」
「ちょうど俺も腹が減っていた。行こう」
「じゃ、私も行こうかしら。葵の奢りで」
「誰がいつそんな事言ったよ……」
「まあまあ、小せえ事は気にすんな。ほら、行くぞ」
「ちょっ、待ってくださいよ姐さん! 」
メンバーの大半がチームルームを後にし、残ったのはミラとグラハムとブルーベリーだけ。
「ミラ、君はいいのか? 」
「私はここで手伝うよ~」
「うわーん!! ミラちゃーんっ!! 」
「えへへ、私に出来る事ってこれくらいしかないから」
「何を言っている、私たちが持っている武器の製作はみんな君が創ったものだ。胸を張るといい」
「うん、ありがとう」
「よーし、ちゃちゃっと片付けちゃうぞー! 」
3人で始末書の束を片付けると、彼らはチームルームを出た。

 
 
 
 
 
 

<メディカルセンター>
二人と離れた後、ブルーベリーは単身メディカルセンターへと足を運ぶ。 保護した少女とカイトの容態を確認する為である。
「ブルーベリーさん、何の御用ですか? 」
「保護した子とカイト君のお見舞いだよ。どこにいるかな? 」
「二人とも同じ病室です。もうお目覚めになってますよ」
「分かった。ありがと、フィリア」
フィリアという看護師に導かれ、彼女は病室の扉をノックした。
「よ、元気? 二人とも」
「ブルーベリーさん! 」
「カイト君の方は元気そうだね」
「あ……こんにちは」
「こんにちは。私はブルーベリー。貴方の名前を教えてくれる? 」
「マトイ……っていうの」
ブルーベリーはベッドの上に座っていたマトイの所に歩み寄る。
「えーと。じゃあマトイちゃん。あの時何が起こったか覚えてる? 」
「それが……思い出せなくて……」
「思い出せない? 」
「はい……」
「マトイ、どうやら記憶喪失みたいなんです。自分の名前以外思い出せないそうで」
「そっか……」
申し訳なさそうにマトイは表情を俯かせた。 そんな彼女の肩をブルーベリーは優しく叩く。
「大丈夫、安心して。ここは安全なところだから。記憶も少しずつ思い出していけばいいよ」
「あ、ありがとう……」
「カイト君とは仲良くなった? 」
「う、うん! カイトといるとすごく安心するというか……
照れくさそうにカイトは頭を掻いた。
「ほほう、どうやら好かれてますなぁ。カイト君? 」
「こ、こう面と言われると恥ずかしいな……」
「うふふ。さっきもカイト、私に面白い話してくれた」
「ばっ、マトイ! その話は秘密だって言ったろ! 」
マトイの笑う姿を見て、彼女は安堵のため息を吐く。 すると、ブルーベリーの端末に連絡が入った。
『ブルーベリーさん。六芒均衡のレギアスさんがお呼びです』
「はいはい、今行くって伝えといてー」
「……もう、行っちゃうの? 」
「ごめんね、ちょっとジジイからご指名でさ。また来るよ」
「じゃあ、またね。ブルーベリー」
「うん、ばいばーい」 渋々別れを告げると、ブルーベリーは病室を出る。 ため息を吐きつつ、彼女はレギアスの元へ向かった。