-第3話-

Last-modified: 2014-12-26 (金) 01:52:53
<レギアスの部屋>

「やっほー、レギ爺。私に何か用? 」
「来たか、ブルーベリー。お前に折り入って話があるのだ」

「レギ爺が話なんて珍しいじゃん。結構大事な話? 」
「うむ。ついさっきのダーカー襲来があったろう。あの事故、妙にきな臭くてな」

「やっぱレギ爺もそう思った? アークスの新人くん達が研修してる中でただ一つ惑星ナベリウスにダーカーが襲来した…。誰の仕業かなぁ? 」

部屋に入るなり、重苦しい空気に包まれる。
ブルーベリーはイスに座るレギアスを見た。

「……そんな目で見ないでもらおうか。まるで、私が犯人を知ってるみたいだ」
「どうせ見当はついてる癖にー。ま、いいや。レギ爺や私の友達がやったことじゃなければ」

「そうだな。少なくとも言えるのは、犯人はこの中にいるという事だろう。おおらかには出来ないが、我々の方でも調査を進めておく」
「"六芒均衡"さんはやっぱり大変だね。前みたいに気軽に稽古申し込みに行けないや」

「手が空いたら稽古に付き合ってやる。それまで我慢しろ」
「はーい」

彼女はぶっきらぼうに椅子に座ると、装備をソファの上に置く。
それと同じようにレギアスがブルーベリーの目の前にコーヒーの入ったマグカップを差し出した。
嬉々としてそれを受け取ると、彼女はコーヒーを啜る。

「調子の方はどうだ? 」
「ぼちぼち、かな。新人くんたちの中で有望そうな子もいたし、多分大丈夫」

「そうか。私はそろそろ本部へと戻らねばならん。コーヒーを飲んだら好きにしていいぞ」
「じゃあレギ爺のいかがわしい本探ししてるね」

「私は思春期の男子ではない」

にひひ、といたずらに笑う彼女を横目にレギアスは部屋を出て行く。
一人になったブルーベリーは、仕事の疲れを癒す為にしばらく休息することにした。

<シップ内、ショップエリア>

「はー、食った食った。やっぱフランカの作る飯はうめえな」
「毎回何使ってるのかは分からないけどね……。たまに依頼でダーカーの足とか届ける時があるのよ」

「…………すまん、今ので吐きそうだ」
「えっ!? シキジそういうのダメだっけ!? 」

真顔で顔を青くするシキジの背中をリンシャンがさする。

「なんで食った後にそんな話すんだよアホ! 」
「なっ……! 葵に言われたくないわよ脳筋! 」

「んだとぉ!? 肝心なとこで外すクセに! 」
「何よ! アンタだって前に突っ込むことしかしないじゃない! 」

「ほらほら、こんな道端で喧嘩しないの。あそこで喧嘩してる中二病とクソッタレリア充みたいになっちゃうわよ? 」
「なんかゼノに対して私怨入ってない? 」

「んなこと言ってる場合か! 止めねえと! 」

セリーネが睨み合っているゼノとゲッテムハルトを指差した。
二人は今にも殴り合いを始めそうであり、周囲にいたエコーやシーナが困惑している。

「ち、ちょっとゼノ! 止めなさいよ! 」
「うるせぇ! こいつは今師匠の事を言いやがった! 」

「そうだ、その調子で怒れ! それで俺に掛かって来い! 」
「おいおい! その辺にしとけって、何があったのか知らねーけどさ」

そんな彼らの間に葵が割って入った。
エコーは安堵のため息を吐き、葵の背後にいたルーフェたちの元へと歩み寄る。

「なんだぁ葵? テメェも喧嘩してえのか? 生憎俺ぁこの甘ちゃんとの相手に忙しいんだよ、失せな」
「お前と喧嘩なんてしたくねぇよ、つい手が滑って殺しちまうかもしれねーしな」

「はっ! よく言うぜ! 甘ちゃん同士で群れ合ってる馬鹿がよぉ! 」
「…………あぁ? 殺すぞテメェ」

「更に状況悪化してない!? 」
「ちょっと葵、止しなさ――――」

ゲッテムハルトの胸倉を掴み、葵はより険悪な雰囲気を纏った。
その時である。

「喧嘩両成敗」

「ふごっ!? 」
「げふぅ!? 」
「ぶべらっ!! 」

睨み合っていた3人の身体がその場に倒れ込み、全員は唖然とした。
瞬間、一人のツインテールの少女が姿を現し、倒れ込む三人を見る。

「シップ内での戦闘行為は禁止。していいのはダーカーが襲来した時のみ」
「ヴ、ヴァルム……なんで俺まで……」
「葵も戦闘行為を行う危険性があった。この処置は当然」

ヴァルムと呼ばれた少女はゼノをエコーの元へ軽々と運んでいく。
ゲッテムハルトは自力で立ち上がったようだが、どこか足元がおぼつかない。

「……ちっ、白けちまった。おいシーナ、行くぞ」
「はい。では皆様、失礼します」

「今度戦闘行為を行おうとしたらあなたの中二病的発言を全シップにラジオ放送する。もちろんクーナの主催する番組で」
「やめろォ!! 」

「ぶふっ」

割と必死なゲッテムハルトに耐えられなかったのか、エコーとルーフェは吹き出す。
彼は睨みを利かせつつも、その場を立ち去った。

「……悪ぃ、ついカッとなっちまった。葵、立てるか? 」
「俺もキレそうになってたからお互い様だよ。それよりヴァルム、ありがとうな」

「気遣いは不要。元々はあなた達に報せを届ける為に来た」
「報せ? 」

ユーリィの問いにヴァルムはコクリと頷き、通信端末を操作して文書を全員に送りつける。

「研究員のロジオさんという人からのオーダー。惑星ナベリウスの凍土地区を調査してほしいとのこと」
「へぇ、ついに研究員から依頼が来るようになったか。いやぁ、EQUESも有名になったもんだ」

「止めてくれたお礼と言っちゃあ何だが、俺も手伝うぜ。エコー、お前もやってくれるか? 」
「え、ま、まあゼノがどーしてもって言うならやるけど……」

「決まりだな。じゃ、俺は先に凍土に行ってるぜ」
「あいよ。俺達は準備してから行くわ」

ゼノとエコーに別れを告げ、葵はため息を吐いた。
その瞬間、背後でリンシャンに介抱されていたシキジが彼の肩を掴む。

「お、シキジ。元気になったか? 」
「あぁ、食ったもの全部出したら楽になって腹が減ってきた。葵、行くぞ」
「行くわけねーだろ! 」

<<惑星ナベリウス・凍土地区>

準備を終えた葵達は、2チームに分かれて調査を行う事にした。
葵はリンシャンとセリーネをメンバーに加え、ルーフェはヴァルムとシキジとユーリィを連れて各々シップから降り立つ。

「無事上陸完了、ってね。そっちはどうだ? 」
『上陸したわ。ユーリィが着地に失敗して涙目だけど』

「了解、怪我はないか確認してやれ」
『そのつもりよ』

そう言うと彼は通信を切り、寒さに身を竦めた。
さっきまで暖かった陽気が嘘のように寒い。

「葵さん、大丈夫ですか~? 」
「ま、まあな。身体動かしてく内にあったかくなってくだろ」

「もしアナタがいいならフォイエで温めてあげるわよ? 」
「髪の毛まで燃やされそうだから遠慮しとくわ。お前やりかねないだろ? 」

「あら、バレてたのね」
「……マジでやるつもりだったのかよ……」

笑顔でロッドを向けるセリーネに身を震わせながら、葵は自分のソードを肩に担いだ。
その時、通信端末から着信音が聞こえる。

『こちらミラです。ヴァルムさんからオーダーを受けて輸送機を操縦中です』
「葵だ。サンキューな。ブルーベリーとグラハムはいるか? 」

『ブルーベリーさんは応答なしで、グラハムさんは単身で調査を開始したとの事です。そちらの状況は? 』
「俺達も今しがた始めたとこだ。俺とルーフェで二手に分かれて調査を始めてる」

『把握しました、ルーフェさんにも後で連絡を入れておきますね』
「頼む。ある程度調査が終わったらまた掛け直す」

はい、とミラは通信を切った。
どうやらブルーベリー以外はこの凍土地区のどこかにいるらしい。

だが葵には一つ疑問があった。
なぜブルーベリーが依頼の連絡に反応がないのだろうか。

「……まさかな」
「どうしたんですか? 葵さん」

「いや、なんでブルーベリーがこの依頼に参加していないのか不思議でな。いつもはあいつ、一番乗りで着いてるのに」
「そう言われれば確かにそうね。彼女にしては珍しいわ」

セリーネは顎に手を当て、考え込む素振りを見せる。

「セリーネ、悪いがブルーベリーの様子を見てきてくれないか? 何かあったのかもしれん」
「過保護のように思えるけど……。まあいいわ、この借りは高くつくわよ? 」

「あいよ。今度何か奢ってやる」
「うふふ、分かってるじゃない。私の代わりにグラハムを呼んでおくわ」

「頼むわ。異論はないか? リンシャン」
「わたしは大丈夫ですよ~」

また出費がかさむと内心ため息を吐きつつも、彼らはテレバイブでシップへと戻るセリーネを見送った。
彼女が転送されたのを確認すると、各々の武器を構えはじめる。

「ま、二人だけでもなんとかなるだろ。行くぜ、後方は任せる」
「任されました~」

凍土の雪原を二人のアークスが今、掛け抜ける。