はじめに言います。ごめんなさい。
お気に入りの喫茶店。円形のテーブルの上には白のカップが三杯。
席に備え付けられた椅子は四脚。腰掛けているのは三人。金と茶と銀の髪の女性。
「サラはどうしたの?」
銀の髪の女の子が二人に尋ねた。
二人は顔を見合わせて首を傾げた。ティニーも解らないの?と付け加えて。
「きっとあの子の事だからすぐ来るわよ。」
茶色の髪の女の子。ミランダがカップに手をつけながら答えた。
「サラの分も注文してあげましょう。」
付け加えるのはナンナ。紅茶の入ったカップの取っ手をなぞりながら。
あの子のお気に入りは濃い目に入れたココア。
名物四人娘の作戦(何の?)会議場でもあるこの喫茶店、名前は『Creamia』(クリーミア)。ある財閥が出資元。
店主のユリシーズさんと、兄弟家の次女の親友ルキノさんとその弟のジョフレさんで基本構成されている高級感たっぷりなお店。
であるのにもかかわらず、価格はお手ごろで学生たちの憩いの場としてマケドナルドに匹敵する人気がある。
また、先述のとおり、ルキノさんの親友という事で兄弟家のエリンシアさんが臨時でお手伝いをしに来るときもあり、
その時は『クィーンズデイ』とされユリシーズさんとルキノさんとジョフレさんのテンションがやたら上がって頼んだ覚えのない物までサービスとして運ばれてくる事もある。
サラはここがお気に入りでミランダやティニーを、ワープ→♪→ワープで強制的に付き合わせたり、私と二人できたりしたっけ。
「最近、リーフのお兄様にお熱みたいだし、今頃もエフラムさんの所じゃないの?」
カップに口をあてた後、ミランダ。心なしか少し不貞腐れたようにもみえる。
彼女のカップにはブラックコーヒー。砂糖、クリームを入れないのは彼女のポリシー。
「どうしたの?ミランダ。ちょっと怒ってる?…もしかしてコーヒー苦かったとか?」
クスクスと笑いながら悪戯少女のように片目を瞑ってティニー。
「…そんなんじゃないわよ。ただ…。」
…ただ、あれだけ一緒になっていぢめたり、気になったりしていたリーフをほおっておくのは、複雑な感情を抱かずにいられない。そう続けた彼女はカップの中身を一気にあおった。苦味からかそれとも別の何かからか、顔をしかめるミランダ。
「サラがエフラムさんと仲良しなのは喜ばしい事。あの子が安らげる場所が増える事は私も嬉しい。…今はエフラムさんにべったりで寂しい気もするけどね。」
ミランダとは別の意味で複雑そうな表情をしているであろう私。私の知る限りでは、サラが懐いているのはリーフ様やエフラムさんを除くと私くらいだから。
エフラムさんの包容力、リーフ様の寛容力…、敵わないなぁ…。
「「…はぁ。」」
溜息が重なる私とミランダ。
「はっ!もしかして!!」
突然のティニーの声に顔を上げる。
特徴的なツインテールが重力に逆らって天を指している。彼女が何かを閃くと、そのひらめきの度合いに応じて髪がこのようになる。
電気的な何かだと思うが詳しくは知らないし聞かない。多分、遺伝。ううん、しらないけれどきっとそう。
ともかく、こうなった時のティニーの冴えは凄まじい。メモ帳を取り出し迅雷の如くに何かを書していく姿は鬼気迫るものすらある。
はじめて見た時は驚いたけれど、今となっては慣れた物だから驚いたりはしない。
…だけれど、今回はメモ帳は取り出さずに落ち着きを取り戻した後に口を開いた。
「サラ…エフラム…結婚…、後は解るわよね?」
「解らないわよ!あえて解ることを言うなら、神竜の暴走で町が、酷い有様です、になるくらいしか。」
確かに、ミランダの言うとおり、ミルラちゃんが恐ろしく暴走するのは間違い無いだろうけれど、そういう事じゃないのだろうな。ティニーが言いたいことはきっと違う。
「だから、サラがリーフ様の義姉様になるって事!!つまりサラは兄弟家ダブルスコア(二人攻略)をやってのけられる可能性があると言う事なのよ!!!!」
「「「「な、なんですってーーー!!!」」」」
あれ?なんだか私達の席の周り凄く人イッパイ。意外にも皆さん、ノリが良くてビックリです。
「それはよろしいのですが、ティニー。音量下げようよ。恥ずかしいよ。」
その言葉でティニーのツインテールが元に戻り、回りの人が席に戻った。
「それに、仮にサラがエフラムさんと結ばれてリーフ様の義姉様になったとしても大丈夫。」
「「どういうことなの?」」
はもる二人に思わず微笑み答えた。
「サラはおねえさんにはなれないの。」
「ナンナ、変よそれ。義姉様になる話が前提でしょ?」
間髪いれずにミランダ。
「そうよ。義姉様になれてもね、おねえさんにはなれないの。」
変わらず答える私に二人とも訳がわからないと首を傾げる。
「つまり、形式的にお姉さんになった所でダメってこと?」
思った事を口にしてみたという風にティニー。
「そういう事になるかな。リーフ様が言うお姉さんって言うのはね、内面からお姉さんじゃないとダメなの。」
高らかに二人に伝えた。根拠は今までリーフ様の傍でずっと観察してきた私。
「ぐぅ…あいつ無駄にハードル高いわね…リーフ学権威のナンナが苦戦するわけね。」
ミランダの何気ない一言で顔が真っ赤になるけれど取り乱さずに続ける。
「ちょっと実験しますから、兄弟家に行きましょう。」
会計をしようとレジまで行くと、兄弟家に行く事を聞いていたらしいルキノさんに“エリンシア様に渡して”と小包とテイクアウト用の容器に新しいココアを入れなおして持たせてくれた。ついでに紅茶も1カップテイクアウトしておいた。
「ちょっと待っていてね。」
そう二人に言い残しリワープ。向かった先は
「ナンナ、どうかしたの?」
「姉様、お願いがあるの。」
ラケシス姉様の所。
「何かしら?ナンナの為ならお姉ちゃん頑張っちゃうわよ。」
「お姉様のお洋服かりてもいいかしら?」
頷き、悶絶しながら服を脱ぎだす姉様は放置して姉様のいつもの服を借りてリワープ。
「…ナンナ、ノー突っ込みでリワープだなんて酷すぎるわ…。…あれは何かしら。」
ナンナがリワープした所に可愛らしい紙袋。中にはテイクアウト用の容器に入った紅茶とカード。
『ラケシス姉様、ゴメンネ。どうしても急いでいたから。ここの紅茶美味しいから飲んでお仕事頑張って。今度お店にも一緒に行こうね。~ナンナ~』
その日、ノディオン家、ラケシスの執務室からは彼女の感涙の声が響き渡ったらしい。
「お待たせしました。」
「あ。会長。」
「あ、ナンナのお姉様。」
着替えた私。私と姉様は体の一部分と性格を除けばそっくりだから二人の反応は無理もないかもしれない。
「ラケシス姉様の格好をしていますがナンナです。それでは、兄弟家に行きましょう。」
よく解らないといった風の二人。ともかくついて来て。
ピンポーン♪
軽快になる呼び鈴。出迎えるのは
「あらあら?ラケシスさんとミランダちゃんとティニーちゃんね。いらっしゃい。」
女王様。次女エリンシアさん。
「…これ、この子達と喫茶店に行って。…ルキノさんだったかしら?彼女から貴女にって。」
私の方を見るミランダとティニー。姉妹だからできる姉様の立ち振る舞いと声色。
「まあまあ!ルキノったら…。では皆さん、わざわざこれを届けに?」
困ったような、申し訳なさそうな表情で問いかけるエリンシアさん。
「いえ、ついでみたいなものだから気にしないで。リーフさ…君と、この子達のお友達…サラちゃん、居ないかしら?」
笑顔で答えて用件を伝える。
「ええ、リーフちゃんはまだですがサラちゃんは家の中ですわ。三人ともお上がりになってくださいな。」
一礼し、家に上がる私達。
案内されたのは大きなリビング。大きなテーブルに沢山の椅子。見知った顔が2人。
「あ、ミランダとティニーも来たのね。あとナンナのお姉様かしら。…ねぇ、ナンナは来てないの?」
「ああ、ちょうどいい所に。サラを頼まれてくれ。ミルラ達が最近俺が遊んでくれないと言ってユリウスがひどい有様らしくてな…。気の毒でならん。」
サラとエフラムさん。
サラはエフラムさんに抱き付いて本当に嬉しそう。見ているこっちまで暖かくなってくる。
「…二人には喫茶店で偶然会ったのよ。これ、貴女にって。」
ココアの入った包みを二人に渡す私。
「にいさま、開けて見せて?」
「まったく…、このくらい自分で…。む、飲み物か?これ。」
手にもって吟味しているエフラムさんからカップを取り上げて、ストローを挿し、再びエフラムさんにカップを返すサラ。
「にいさまが飲ませて?」
ミランダ、ティニー、笑ったり驚愕したりは絶対にやめた方がいいと思う。サラは後が怖いから。
むぅ、と困った表情で唸り声をあげ、サラの口元にカップを運ぶエフラムさん。サラが一口それを含むと
「…ん、これって。…ねえ、これ誰が頼んだの?」
ミランダとティニーが私を見る。
「…ふふ。今日はそうやってリーフと遊ぶんだ。面白いかもね、ナンナ。…にいさま、今日は解放してあげる。ナンナ達に感謝してね。」
何故解ったといった感じの二人に、驚きのエフラムさん。
「…凄いな本当にラケシスさんじゃなくてナンナなのか?姉妹とはいえ、完璧にだまされてしまったぞ。…俺も修行が足りんな。」
「にいさま、私でも最初は解らなかったんだから。にいさまじゃ解りっこないわ。」
もう一度、むぅ、と唸りエフラムさんは出かけていった。
「なんでナンナって解ったの?サラ、あんたって子は本当に底が見えないわね。」
ミランダが口にした。
「まあ、ね。…それより、リーフまだかな。」
多くを口にせず、ココアを楽しむサラ。
程なくしてエリンシアさんが部屋に戻ってきた。その手にはお茶と菓子が乗ったお盆。
「あらあら、エフラムちゃんは出かけちゃったのね。一人分多く持ってきてしまいましたわ。」
盆の上の5杯のカップが湯煙を上げている。隣にはシェル型のマドレーヌ。喫茶クリーミアの看板お菓子のひとつ。
「…御一緒しませんの?」
思わず口にしていた。
「そうですよ!私もエリンシアさんと一緒がいいです。」
「忙しくなければで構わないので、リーフ様のお話聞かせて下さい。」
「…私も、一緒がいい。」
三人も同意見だったらしくて、後に続いてくれた。
後はエリンシアさんの答えを待つだけ。
「まあ!それでは御一緒させて頂きますわね。…ルキノの所のマドレーヌ、絶品ですよ。持ってきてもらった御礼というのも変ですけれど、早速頂きましょう。」
笑顔で快諾してくれた。
エリンシアさんを交えてのティータイム。
ティニーがあれこれとリーフ様についての質問をしたあと、ヘクトルさんとビラクさんの関係を問い合わせたり、
もう少しだけ、せめてシグルドさんが結婚するまでKINSHINを控えてくれないかと私が言われたり、
エリンシアさんが持ってきたアルバム(リーフ)の最新ページにミランダとリーフ様のツーショット写真が掲載されててミランダが真っ赤になったりで…。
アルバムをめくって行くとリーフ様と私の写真があまりにも多くて思わず
「…懐かしい。リーフ様も私もまだ小さい。」
口に出してしまった。
「え?…あら?…まあ!ナンナちゃんだったのね!私、気がつかなかったわ。カリスマオーラもお顔もそっくりでわからなかったわ。」
流石にばれてしまったけれど、意外にも
「他の子たちは見破れるのかしら。誰かかえってこないかしらね♪」
ノリノリだった。
最初に戻ってきたのはヘクトルさん。サラ達には、おう。と挨拶をしていたが、私の姿を見るなり
「レイヴァンって奴しってるか?…あんまりあいつの妹の暴走を助長するんじゃねえよ。日に日にあいつの剣に力がぬけていってよぉ…。気の毒にもなるって話だ。」
考えておくわ。とだけ答えさせてもらいましたが、プリシラさんは病気です。万が一、ラケシス姉様が止めたとしても結果は同じ。
まあ、どうでもいいんだけどよ。と付け加えて、また出かけていってしまったヘクトルさん。
「あーラケシス!ティニーもサラもミランダもー!」
次に現れたのはセリス様。
今日はこれからユリウスさんと買い物に出かけるらしいが、待ち合わせに間に合わないかもしれないとの事なのでワープで送ってさしあげた。ティニーがユリアに、ミランダがマナにTELしているみたいだが私は気にしない。
続くセリカさんもアルムさんも私がナンナである事に気がつかず、セリカさんがそっと
「…ラケシス会長、シグルド兄さんとの決戦はまだ早いと思うの。せめて兄さんが結婚してからにしてあげて。」
お願いされた。シグルドさんとラケシス姉様の仲の悪さは私とエルト兄様の頭痛の種。…昔はそんな事なかったらしいのに。
他の兄弟の方もわからず、結局見破れたのは
「ナンナさん、格好や言動だけでは私を欺くことは出来ません。…姿だけでは…。形も。…くっ。」
涙ぐんで走り去ったエイリークさんと
「やあ、ナンナ。ラケシスの格好をしているなんて本当に姉さんが好きなんだな。エルトも、出来た妹で助かるって褒めていたぞ。」
即答でシグルドさん。
あと…
「ただいまー。…っと。あれ?サラにミランダにティニー!僕、今日は何もしてないぞ!」
今日“は”ですね。解りました。
「…ん?ラケシス…さん?あれ?うーんと…?」
何か釈然としないといった感じで首をかしげるリーフ様。
その様子に
「憧れのお姉さんじゃない。ちょっかいださないの?」
ミランダと
「会長は妹であり姉でもあるんです。あのアルテナさんと同じで最高のハイブリッドですよリーフ様。」
ティニーと
「…ん。ラケシスって凄くいい香りするね。」
いつの間にか抱きついていたサラ。
「…違う。」
ポツリとつぶやいたリーフ様。
間違っていたら失礼かもしれないけれどと前置きをした後に続けた。
「君はラケシスさんじゃあない。おねいさんオーラはあるのになんていうか違うんだ。
ラケシスさんはカリスマ的オーラで“奮い立ってくるオーラ”(ダイブしてなでなでして貰いたくなるなんて言ったら死ぬ。)なんだけれど、
君のは確かにカリスマ的オーラなんだけれど“安心するオーラ”っていうか、傍にいるとカリスマ以外の何かでも力強くなれるかと言うか…
とにかく違う感じなんだ。」
頬を指でこすりながら看破したリーフ様。少しだけ赤面したリーフ様がたまらなく愛しくなって。私が誰であるかを特定は出来てはいないけれど凄い告白をされてしまって。
「それにね、君はラケシスさんを語るには足りない物があるんだ。」
なんでしょう?確かに姉様と比べて私は非力だし、気品も優雅さも足りないかもしれないけれど…。
「それはね、胸なんだ!!おねいさんを語るには、最低でもあと一カップ以上はレベルアップさせないとわかる人はすぐに看破し…」
「…リーフ。覚悟は出来ましたか。」
大地の剣を抜く前にリーフ様の後ろから内容とは裏腹にとても優しい声が。
「貴方は、女性を胸で判断するのですね。私は貴方の姉だと思っていましたが胸が無ければ姉ではないと。そうですか。」
鞘に納まっているジークリンデは使用者のように美しくて、華奢で、それでも鋭くて。
「え、エイリーク姉さん!違う!誤解だって!今日はノーHDNデイだと思ったのに!」
「怒っているのはエイリークだけじゃないわよ。」
いつの間にか現れたミカヤさんの声。隣に居た漆黒の騎士様とサザさんが後退した所をみるとここで始めるようです。
ミカヤさんがセイニーを選び、ミランダがボルガノンの書を開く。エイリークさんがジークリンデを抜き放ち、ティニーがトローンの詠唱を始める。サラはクスクス笑って観察を決め込んだようで。
「…もしかしなくてもその☆100大地の剣は…っ!!」
危機的状況で真っ青だったのに、急に真っ赤になるリーフ様。
「…はい。ナンナです。…じゃあ、皆さん、ご一緒に。」
嬉しかったです、リーフ様。言葉には出さずに唇だけ動かして。
「私でもこれは…かなり、むり。だ。」
「骨くらいはひろってやんよ…。」
二人の声が引き金となって。
「「「「「「お仕置きです(よ)!リーフ(様)」」」」」」」
「こ、これは流石に僕でも!この、ひとで、ひとでなしぃぃぃ!!!」
その日の出来事はエリンシアさんがバッチリ写真を撮っていたのでリーフ様のアルバムを飾る一枚になった。
これからもリーフ様と、ミランダやティニーと、サラと兄弟家の皆さんといっぱい思い出を綴っていけたら素敵だと思う。
四人分写真のやきまわしをエリンシアさんにお願いし私達はそれぞれの帰路へとついた。
おしまい。
「で、結局さ、リーフのおねえさんセンサーの感度はわかったけれど。」
「ナンナ、貴女いつの間におねえさんオーラを?」
それはね…。
「…ナンナ、抱っこして。…今度怖い夢見たらいつも通りナンナの所行く。にいさまを独り占めするのはまだ危険だから。」
「ええ、いつでもいらっしゃいな。…ふふ、サラの髪、とっても柔らかくていい香りね。」
「…ナンナとにいさまだけ。…抱き付いて甘えて、優しくしてくれて。」
「ふふ、サラは甘えん坊だもんね。」
「…うん、…好き。…ナンナ、ねえさま。」
内緒の秘密です!
おまけもおしまい。