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Last-modified: 2014-01-30 (木) 23:41:06

ああ、それにしても貴族になりたい!

 

よう、仕事じゃセーラ達に馬鹿にされ、私生活じゃオルエンに振り回されるイリオスだ。
徐々に身体共に限界に近づいてきたのだが、最近憩いの場所が新たにできた。
それは…今から行くから見てもらった方がいいだろう。

「オルエン様。お帰りなさいませ」
おい、今メイドカフェだと思った奴は腹筋10回を4セットな。ワンモア、セッ!
それはさておきここはメイドカフェではない。だがまあ、似たようなもんだ。
ここはな…貴族の生活を味わえる…しいて言えば貴族カフェってところか。
ここなら貴族(笑)とか平民、オルソンって馬鹿にされる心配もない。
執事服を着たスタッフに先導され、貴族の服が満載の更衣室に向かう。
ふ、今日は予め用意された服ではなく持参の服だぜ…叶うなら日常で着たいがな…
手早く着替え、更衣室を出る。再び執事に案内され、席へ着く。
「旦那様、飲み物は何をご所望でごさいますか?」
「コーヒーを頼む」
「かしこまりました」
ああ…夢にまで見た貴族の生活…癒される……料金が少々高いのがたまに傷だがな。
「いらっしゃいませ、お嬢様。失礼ですがこちらは初めてですか?」
どうやら新しく貴族願望のある女性が来店したようだ。どれ、軽くあいさつでm…
「え、私はそこにいる…あ、イリオス!やっと見つけた!」
…オ、オルエン!?ど、どうしてこんなところにいるんだ!?
「オルエン!?な、なんでこんなところにいるんだよ?」
「え、せっかくお菓子作ったから持ってきたの。それにしても似合わない服ね」
グサッ…今俺の心臓にキラーランスが必殺で直撃したぞ…ぐふっ…
「オルエンだったら…あの服が似合うかしら。フレッド」
「かしこまりましたお嬢様。さあ来いイリオス、貴様に貴族の服装を教えてやる」
入口から現れたフレッドに引きずられ、俺はオルエンの車に乗せられた…
……あ、服と会計……ちょ、オルエンさん何故持ってるんですか!?
隣に座るオルエンの手には更衣室にあったはずの俺の服がある。
「うーん、だいぶ痛んでるわね。あとで直してあげる」
…それ、ダメージ加工のジーンズです。余計なことしないでくれ…

気がつけば俺はオルエン家…!
どこかわからぬ部屋の側、貴族の服が満載のクローゼットにいた…!!!
悪夢…なんで俺がこんな目に!?そうっ、悪夢!これが悪夢でなくてなんだっ!?
ああっ、それにしても金が欲しい!!!

なんて、馬鹿やってる場合じゃないよな…ちなみに金も欲しいが爵位も欲しいぞ。
そんなわけでオルエンの家にあるクローゼットに今俺はいる。
先程からいろいろな服を探すオルエンと運ぶフレッド。俺はただ見つめるだけだ。
しかし…ここにいると今俺が着ている服が情けなく思えてくる。
確かにこんな服で満足していたら情けないわな…ありがとうオルエン。
心の中で感謝をしていると選び終えたオルエンとフレッドがやってきた。
「よし、とりあえずこれを着てみて」
「あ、ああ…更衣室は?」
「こっちだ」
フレッドに案内され、あのカフェより遥かに広い更衣室にたどり着く。
「ほら、お嬢様が選んだ一着何十万もする服だ」
そういうのは内緒にして欲しいもんだぜ…とりあえずお借りします。

まず一着目。比較的派手さはなく、落ち着いた印象のタキシードである。
ドアを開き、2人に見せるとなかなか好評だった。
二着目。これは簡素なように見えて地味に加工されたスーツだ。値段も高い。
やはり2人からの評価はよく、これも似合うとのことだ。
三着目…四……と、いろいろ着たが、ふとあることに気づく。どれも地味だ。
「なあ…気のせいかどれも地味な気がするんだが」
「甘いな、最近の流行りは派手さを排した服だぞ」
「ええ。タナス公みたいな方はまだ派手な服を好んでますが…」
マジか…あの週刊貴族って本は嘘だったのか…
「わかった…じゃああと一着だから待っててくれ」

その後、オルエンとフレッドに貴族の嗜みも軽くレクチャーされた。
こうして本物から習うといかに自分が間違った貴族を覚えていたのかがわかる。
というかへこむ…いろいろ。オルエンはともかく何故かフレッドも気品があるし…
「む、失礼な。私も貴族だぞ」
「え!?」
「執事とは貴族の長男がなる仕事だぞ。それぐらい覚えときたまえ」
「マジか…知らなかった」
意外だ…だがそう言われて見ればフレッドもどこか気品がある…

誰か…助けてくれ……この家は……地獄だ。
今、俺はラインハルトとイリオスと何故か食事している…
楽しそうなオルエンはいいのだが目で人を殺せそうなラインハルトとフレッドが怖い…
オルエンさん…お願いですから俺のことを嬉しそうに話さないでください。
ラインハルトは俺の名前が出ると笑顔で応対するが目が笑ってない…
数十分間、味を感じられない食事を過ごしているとオルエンが退出した。
俺も退出しようとしたのだが…ラインハルトとフレッドの無言の視線で立てなかった。

「さて、イリオス君だったかな。いつも妹が世話になってるね」
「い、いえ!オルエンお嬢様にはこちらこそお世話になっております」
「いやいや、君に会うと必ずオルエンは君の話をするのだよ」
「は、恐縮です」
「けどねぇ…ちょっと最近オルエンに近づきすぎじゃないかな?」
やばい、目が笑ってないのに笑顔だ…これはやばい。
「別にね、私はオルエンには好きな人と幸せになってもらいたいよ。それは嘘じゃない」
「………はあ」
「けどね、やっぱり兄としてはこんな情けない平民は不安なんだよ」
ラインハルトから笑みが消え…テーブルの下からは…
「というわけで…死んでもらえるかな。なに、痛いのは一瞬だよ」
マスターソードとダイムサンダが握られた手が現れた…
「いや、あの…前後の脈絡がおかしいのですが…」
「オルエンには悪いが君は平民だから我が家には相応しくないのだよ!」
ラインハルトはそういってダイムサンダを唱えはじめた…

それからのことは覚えていない。気がついたら見慣れたぼろい自宅にいた。
夢…か。そうだよな、ラインハルトさんがあんなわけないよな…
そう思って立ち上がり、たんすにある服を取り出そうとする…
ダメージ加工されたジーンズが…縫い合わされてる…まさか…
少々高い金を出したジーンズが縫い合わされ、価値もなくなっていた。あの貴族の服もない…
げ、よく見たらもう出勤時間じゃねえか!急がないと!
慌ててスーツに着替え、食事も取らずに駆け出す。
くそっ、やっぱりオルエンに関わるとろくな目に遭わん。
と思っていると階段を踏み外し、俺は地面へとダイブする。
その日、仕事に間に合わず、セーラや社長から馬鹿にされたのは言うまでもない。
心身がもう限界だ…そうだ…貴族カフェに行っていやしてもらおう…

『誠に申し訳ありませんが閉店します』
…………………誰か…助けてください…

終わり