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Last-modified: 2014-01-31 (金) 16:27:40

今年もよろ漆黒!其の一

 

わたしはしっこくの騎士
こう見えても多方面に渡る大手チェーン会社を経営するやり手の実業家だ
また、剣の腕はあの兄弟家のアイク殿に勝るとも劣らず、
トレードマークの漆黒の兜を外せば美男子と、まさに三拍子揃った男と言ってもいい

……そんなネプ○ューンマン並に完璧超人な私だが、最近ある悩みを抱えていた
ここの所、異様なまでに不運に見舞われているのだ

春は花粉を防ぐために特別注文した、接合部分を強化した鎧が脱げなくなり、一週間鎧の中で過ごした
夏に毎年開いている海の家では、台風が直撃してお客がこない所か店を修理する羽目になった
秋はお客様感謝デー・味覚の秋フェアの食べ放題コーナーで、紫髪の魔道士に地獄を見せられた

そして今雪が降り積もる中、私の経営店舗の中でも大きい部類に入るレストランにて、食中毒事件が発生したという訳だ
これはもう、ツイていないというよりも何かが憑いているとしか思えない

そんなオカルト的発想に取り付かれた私は、想いを寄せる巫女の元へ相談に行くのだった
一応言っておくが、乙女に会える口実ができて喜んでいる訳ではないぞっ

……………
…………
………

―――兄弟家・居間

「成程……だいたいの事情は分かりました」
「すまない、突然お祓いをして欲しいなどと無理を言って」
早速私は乙女の家に赴き、巫女にこれまでの経緯を説明した
何度も訪れている為か、一部だけ新しい壁など最早見慣れたものだ
「とんでもありません!普段騎士様には、家族全員お世話になってますから。
 むしろ巫女として頼りにされる機会が最近なかったので、少し嬉しい位なんですよ」
本心からそう思っていることが見て取れる笑顔で、乙女は――ミカヤ殿はそう言ってくれた
……この人に相談して、この人を好きになって本当に良かったと思った瞬間だった

 

今年もよろ漆黒!其の二

 

しかしそこで、乙女は顔を曇らせてこう続けた
「でも……」
「なにか問題でもあるのだろうか?」
「……本来私は、お祓いは専門外なんです。
 ユンヌの力を借りればできないこともないんですが……」

ユンヌ……あの邪神か
ミカヤ殿は信用しているが、正直あの邪神に頼りたくはないというのが本音だ

「そうか……うーむ」
「ですから、これから騎士様がどのように行動すれば運気が向上するのか私が占うというのはどうでしょうか?
 お祓いと違ってすぐ効くと言うわけではありませんが、先一年の道筋を示してくれることだと思います」

「占い……そう言えばミカヤ殿は、占い師もしておられたな」
「はい、といっても収入は微々たるものですけどね」
舌を出して苦笑いする顔もやはり乙女の様に可憐だ
ダキュンダキュンダキュン歳とは思えな……ゲフンゲフン
「それでシグルド殿が成人なさるまで家族を養ってきたのだろう?
 ならば謙遜なさる必要はない。
 是非、その力を私の為に使ってはもらえないだろうか」
「騎士様……
 はい!喜んで!!」

こうして私は乙女に厄払いをしてもらう代わりに、今後のことについて占ってもらうこととなった
しかしこれがまさか、あんなことになるとは……

……………
…………
………

―――○○寺御社前

「ふぅ……こんな所か。
 しかし護符というものも、大量にあるとこれだけの重量があるとはな……」
ミカヤ殿に占ってもらってから三日後
私は紋章町の外れにある、古びた寺院の前で大量の商品の積み込みを行っていた
…ちなみに何故○○と表記しているかというと、汚れすぎていて鳥居の文字が読めなかったからだ
見た所、かなり昔の書式のようだが……

 

今年もよろ漆黒!其の三

 

「よぅ、追加の商品持ってきたぜ。
 これで最後の荷物だよな?」
「ああそうだ。
 手伝わせてすまないな」
「なに、しっこくの旦那にはいつも定期的に発送の仕事もらってるんだ。
 これ位サービスだとでも思ってくれ。
 それに手伝わないとジルの奴がうるさいしな……ふぁあ…」
欠伸をしながらそう言って、居眠り運び屋は飛び去って行った
私は年末の寒空へ消えていく黒竜を目で追いながら、これからのことについて考えていた
(これからが本番、だな)

三日前、ミカヤの占いの結果は
「来たるべき元日、○○寺院に十万Gの賽銭を与ふべし。
 ただし、十万Gは全て○○寺院で得た物でなければ意味をなさぬ」
という、よくわからないものであった
しかしとにもかくにもミカヤの占った結果である以上、従わない訳にはいかない

(しかし私も色々な商売に手を付けてきたが、神社を舞台にビジネスすることになるとはな。
 ……人生、何があるか分からないものだ)
思わず過去を振り返りたい衝動に駆られてしまった
今が年末だからだろうか?
そんな暇はないというのに

「さて、ここからが正念場だな」

そう呟いて、私は再び開店の準備にかかった

…………
………
……

 

今年もよろ漆黒!其の四

 

ワイワイガヤガヤ……

時はあれから数日、大晦日の午前零時過ぎに移る
寂れた寺院であるこの場所にも、それなりの人数が参拝へとやって来ていた

「店主さん、お守り2つ!必殺喰らいにくくなる奴で!!」
「このお守りを受け取られよ」

「私はそこの破魔矢を十本ほどくれ。
 ドラゴンゾンビを狩りに行かねばならないのでな」
「サービスで聖水も付けておいた。
 気を付けて行かれるがよい」

「おみくじください!」
「……もう12枚目だが?」
「大吉が出るまでやるって決めたんです!
 ……あ、また凶………」
「………せめて中吉にしてはどうだろうか」

初めはこんな寂れた所で商売になるのかと危惧していたが、どうやら杞憂だったらしい
むしろ思った以上の賑わいに人手が足りない位だ

(……しかし、十万Gか)

確かに、想像以上に商売繁盛している、それは間違いない
しかしもともと薄利多売の副業で一日で十万G稼ぐというのは実際かなり厳しい
正直、八万G」いけば良い方だろう

 

今年もよろ漆黒!其の五

 

(しかし、なんとしても……)
「……い、おい!聞こえてるか!?」
「!!!」
いつの間にか考え事に没頭していて、客を待たせてしまっていたようだ
慌てて声のした方を向いてみると
「す、すまない。少々考え事を……」
「まったく、緑風と呼ばれたこのサザを待たせるなんてどういう料簡なんよ!
 事と次第によってはシュンコロに……」
毎回のように小競り合いを挑んでくる見慣れた緑の姿があった

「帰られるがよかろう(ガラッ」
「ちょっ!?それのどこがお客様に対する態度なんよ!?」
「お客様だと?身の程を弁えよ」

そういっていつものように月光を喰らわせようとすると、
緑風はいつになく真面目な顔でこちらの方をじっと見てくる
そして、こう言った
「ミカヤに話を聞いたんよ。
 ……お前とはライバルだから手伝うことはしないけど、
 お守り1つ買わせてほしいんよ」

「……これを受け取られよ(ポイッ」
「はいはいなんよ……って、なんで対空ガードのお守りなんよ!!
 恋愛成就のお守りをよこすんよ!!」
「あれはもう売り切れだ。
 AKJに大分買い占められた」

※恋愛成就のお守り…隣接時の支援ポイント3倍ボーナス
          材料はチェイニーの頭髪にサラが術を掛けた物を厳選している

 

今年もよろ漆黒!其の六

 

「お守りならお前の首にもぶら下がってるんよ!
 そいつをよこすんよ!!」
そういって緑風は、私の首にぶら下がったお守りを指差した
まったく目ざとい奴だ

「これは自分の為に取っておいた物だ。
 我儘を言うな」
「どっちが我儘なんよ!?
 だいたい、なんでいつもの漆黒の鎧じゃなくて
 左右紅白の鎧なんて着てるんよ!
 最初別人かと思って話しかけづらかったんよ!!」
「これはお正月verだ。
 乙女とお揃いにすべく他にも色々と(ry」

ワーワーギャーギャシュンサツ!ミノホドヲワキマエヨ!アッー

…………
………
……

カチャ、チャリン………
日が出ていた頃は盛況を見せていたこの寺院も、
辺りが闇に包まれるにつれていつもの静寂を取り戻しつつあった
お守り等の商品目当ての客も減ってきたため、漆黒の騎士は売上計算を始めた

(現時点で八万G程あれば大分楽なのだが……厳しいな)

 

今年もよろ漆黒!其の七

 

まだ日が沈んではいないが、もう売上のピークは過ぎ去ってしまった
今現在、稼げたのは七万G弱であった
すでに人影もまばらであり、ここから三万Gを捻出するのは並大抵ではないだろう
そう考えていた時だった
「おい、お守りが欲しいんだが」
「了解した。しばし待たれ、よ……!?」
そこに立っていたのは、よく見慣れた人物だった

「あんたがこんな所で商売しているとはな」
「アイク殿………一体どこでここのことを」
「ミカヤ姉さんから聞いた。
 あんたには何かと世話になってるからな」
「とんでもない。世話になっているのはこちらの方だ」
この言葉は嘘ではない
海の家を直した時も、新しい店舗を展開する時も、
グレイル工務店や兄弟家にはよく世話になっている

「俺は仕事が早く終わったから来たんだが……
 もう少ししたら皆来ると思う」
その言葉が終るか終らないかの内に、境内の入口からこちらに人の集団が駆けてきた

「こんなところに神社なんてあったんだねぇ……
 いつもは近場の神社かセリカ姉さんの神殿で礼拝だから知らなかったよ」
「そういえばセリカ姉さんはなんで来たの?
 いつもなら異教徒は撲滅すべし!とかいってこういう所には絶対来ないのに」
「う、それはその……他宗教の調査に来たのよ!
 ミラ教を脅かすほどのものであるかどうか見極めるためにね!」
…リーフ、ロイ、セリカ

 

今年もよろ漆黒!其の八

 

「エリウッド、おみくじでどっちの方が良いか勝負しようぜ」
「うん、いいよ。元々姉さんに何か買ってくるように頼まれてるしね」
「フロリーナも来れば良かったのに……
 まぁ我が家と同じでお姉さん達と過ごすみたいだからしょうがないけど」
…ヘクトル、エリウッド、リン

「我が政党の繁栄を祈願するという意味では、ここに来るのも悪くないかもしれないな」
「まぁ、所詮こういうのは気休めですからね。ほどほどにしておいた方がいいと思うけど」
「マルス兄さん、そういうことは言っちゃだめだよ。
 こういうのは信じるのが大事なんだから」
…エフラム、マルス、セリス

「姉上は何をお願いするつもりですか?」
「私はそうねぇ……家族皆健康でいてくれたらそれだけで……」
「うむ、私は今年こそ出世してディアドラと………!!」
(今年こそ胸が大きくなりますように……!!)
…エイリーク、エリンシア、シグルド

そして
「ごめんなさい、騎士様!
 みんなに占いの結果のこと……話しちゃった」
聞きなれた声に思わず振り返ってみると
この上ない笑顔を浮かべた兄弟家長女、ミカヤの姿がそこにはあった

「……乙女よ」
「でも皆騎士様に協力しようって言ってくれたの。
 まったく、いい弟達を持ってお姉ちゃんは幸せだわ」

「そうだな。そして私も……こんな友人を持つことができて、本当に……幸せ者だ」
今日は久しぶりに、鎧を着ていて良かったと心から思えた
愛しい人に涙を堪える所を見せなくて済むのだから

 

今年もよろ漆黒!其の九

 

―――同日夜・境内
兄弟家の助けもあり、なんとか期限内に目標であった十万Gを稼ぐ事に成功した
ずっしりと、実際の重量以上の重さを持った金袋を、賽銭箱へと引きずるようにして運んで行く
その様子を、陰ながら兄弟家の一部の面子が見守っている

「なんであんな大きい袋で運ぶ必要があるの?」
「多分売上をそのまま袋に入れたからじゃないかな。
 商品がお守りとか百G単位の物ばかりだから細かい硬貨があの中にはギッシリと……」
「両替位はいいんじゃないかな……多分」

そんな会話を背中越しに聞きつつ、私は袋を運び終えた
そしてそのまま深く一礼し、今年の商売繁盛を一心に祈った
思えば、これ程真剣に神頼みしたのは初めてかもしれない

(どうか今年は、無事に商売繁盛しますように……
あとそれから、乙女との仲もくんずほぐれず…………?)
「仮にも神の御前で何不埒なお願いしてるよあんたは……」
ふと気配を感じて目を開けて見ると、目の前に幼女……もとい、ユンヌの姿があった

「ぬおおおおおお!!」
「……そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「なななな何故ここに居る!?」
「だってここ、あたしの住居の一つだもん」

「「「「な、何だって―!!!!」」」」
突然現れたユンヌのトンデモ発言に、思わず私も兄弟家の面子も某AA風のリアクションをとってしまった

 

今年もよろ漆黒!其の十

 

衝撃の事実がいまだ飲み込めないこちらをよそに、目の前の幼女神はぺらぺらと喋りつづける

「ほら、あたしって一応昔はもっと信仰されてた神様なわけじゃない?
 だから兄弟家にある神棚に普段はいるんだけど、他にも私を祀ってある所がいくつか残ってるの。
 そこでたまに寝泊まりしたりするんだけど……
 今回は家に誰もいないから、久しぶりにこっちの方に遊びにきたって訳。
 それに入口に書いてあったでしょ?混沌神社って」
汚れていて読むことのできなかった地名を教えてもらい、私は思った
ああ、心底どうでもいい……と

「ま、まぁ何でもいい。とにかく私に憑いている何かを祓ってほしいのだが」
当然ここは快諾するだろうと思った私だが、予想に反しユンヌは疑問符を浮かべながら言った
「は?一体何の話よ」
「いや、ミカヤ殿の占いで……」
「ふんふん……でも私が今見た限り、別に何も取り憑いてなんかいないわよ」
私の周りを軽く飛び回りながら、ユンヌはそう言った
表情を見る限り、嘘をついている様子はない

「そうか……では何故、これ程までに悪運に付きまとわれるというのだ……?
 この女神の加護を受けた鎧を付けているというのに」
「……ちょっと待って、その鎧………もっと良く見せて」
突然目の前の女神の口調が変わる
どうやら何か、鎧に違和感を感じたらしい
……まさか、鎧の色の事ではあるまいな

 

今年もよろ漆黒!其の十一

 

「どうした?まさか、私ではなく鎧に呪いか何かが……」
「黙って。…………………………」
ユンヌはしばらくじっと鎧を眺めたあと、重々しい口調でこう告げた
「どうやら間違いなく……女神の加護の消費期限が過ぎてるわ」

……………………え?

「「「「な、なんd(ry」」」」
その後、本日二回目の総突っ込みが入ったのは言うまでもあるまい
それを完全に無視し、目の前の幼女女神は説明を続けた
「女神の加護とはいえ長い年月が経てば劣化するのよ。
 この鎧、もともとは不吉なものみたいだけど、女神の加護でそれを打ち消していたのね。
 まぁアルテスタに頼めばすぐによくなると思うわよ?」

……ここまで引っ張っておいてこの結論とは
私の今日の努力はなんだったんだろうか

へなへなと、身体から力が抜ける

確かに呪いは解けたかもしれないが、今年も無事に商売繁盛というのどうやら無理そうだ
私は体力の限界で雪の積もった境内の上に倒れながら、ふとそんなことが思い浮かんだ