38-462

Last-modified: 2014-02-02 (日) 14:46:24

「あねうえ、ただいまー!」
「…籠いっぱいのお菓子はいいとしても、何故ボロボロなのシグルド?」
「えっとね、ディアドラからおかしもらおうとしたんだ。
 そしたらアルヴィスが『ぼくが先だ』っていうから…」
「だからといって神器でケンカするのはやめなさい…。
 っていうか、子供が子供からお菓子貰う日じゃないでしょ」
「えー?でもおかしくれたよ。ほら!」
「はぁ…まぁいいわ、楽しかったなら何よりね」

「…何故肉が籠いっぱいなのかしら、アイク」
「みんなが、おかしといっしょにこれも食えって」
「女の子もいっぱいくださってましたわ」
「もう、みんな貰う側でしょうに。エリンシアはどうだったの?」
「はい、みなさん、わたしにもこんなにくださいました!お茶といっしょに食べましょう!」
「ええ、そうね」

「ヘクトルはいいとして、何故エリウッドまでボロボロなの?」
「何でおれだけいいんだよ、ひどいぞあねうえー!」
「ふぃ、フィオーラと、ニニアンが、こ、こわかった」
「どっちのかそうがかわいいかって、たたかってた」
「あぁ、成程…あぁよしよし。それで、ヘクトルのほうはどうしたの?」
「……えっと」
「大丈夫よ。怒らないから、正直に言って御覧なさい?」
「大きいやつらが、小さい子からおかしとってたから…ごめんなさい」
「そうだったの…いいことをしたわね。謝ることなんてないわ。
 さぁ、みんなでお菓子を食べましょ?」

「エイリークは籠のみならず他に袋たくさん貰ったのね…」
「学校の友だちが、たくさんくださいました!
 とくにラーチェルとターナはわたしたちにと、たくさん!」
「…だから子供が子供から貰う日じゃないのに。エフラムは少ないけどどうしたの?」
「…なんか、小さい子がたくさんよってきて…」
「トリックオアトリート、と。ほんと、小さい子に優しい子ね」
「マルス、どこで何をしたらこんなにお菓子をもらえるのかしら?」
「大人の人のひみつをいろいろ言ったらこんなにもらえました。
 あ、リンねえさんがおこるからないしょ――」
「マールースー?」
「あ、やばっあだだだだだだごめんなさいごめんなさいいいいいい」
「…いつもどおりねぇ。リンはどう?沢山貰えた?」
「うん!おねえちゃんもいっしょに食べよーね!」
「ええ、そうね」
「あだだだだだだだやめてやめてごめんなさいいいいいい」

「なんだか嬉しそうね、セリス。楽しかった?」
「うん!ユリウスとユリアに会ったけど、二人ともすっごくかわいかったんだよ!
 それでね、二人といっしょにいっぱいおかしもらってきたの!」
「…リーフは?」
「うんとね、すぐ『きれいなおねえさんからおかしをもらうぞー!』って」
「いなくなったのね」
「うん」
アッーコノヒトデナシー!
「……」
「どうしたの、おねえちゃん?」
「なんでもないわ。たぶん、すぐ帰ってくるだろうし」
「?」

「二人の仮装は本当にぴったりねぇ。作った甲斐あったわ」
「うん!ウェディングドレス、かわいいねっていっぱい言ってもらったの!」
「ぼくも、セリカとおそろいのいしょうがすてきだねって」
「うんうん、やっぱりフランケンと花嫁の組み合わせはいい感じね」
「KINSHINは許さ」
「たまには黙りなさいシグルド。あんたテスト前でしょ」
「(´・ω・`)」

「ロイ、一人で大丈夫だった?」
「一人じゃないよ!ウォルトとか、いろんな子と回ってきたんだ!」
「そう、それはよかったわ」
「だれが一番かわいいってきかれたけど、そんなの決めれないからこまっちゃった」
「…罪作りな子ね。でも、皆と一緒なら楽しかったわね」
「うん!おかしもいっぱいもらったし!」
 写真の中の可愛いお化けたちは、誰もが笑顔を向けている。
そっとアルバムを閉じれば、もう空は紫がかっていた。
商店街のほうかしら、怖そうな、でも楽しそうな音楽が流れている。
この町のお化けたちは今が稼ぎ時なのは変わらないわね。
うちには、もう、お化けたちはいないけど。
少し寂しいような、物足りないような。
「まぁ、言ってても仕方ないわね」
 一人溜息をつく。と、部屋の戸が開いた。
「姉上、そろそろ窓を閉めてはどうですか?」
「あらシグルド、早かったのね。そうね、もう閉めるわ」
 戸の方には青い髪の青年、或いは私の弟のシグルドが立っていた。
…ああ、随分大きくなったわよね。窓を閉めてから向き合ってみると、やはり私より頭一つ以上は高い。
可愛いお化けが今やこんな立派になっちゃって。
「今日は所用で早く上がりまして。っと、早いな、もう来たのか」
「来たのかって何が」
 言い終わる前に、人影が四つ、扉から押しかけてきた。
「姉上、少しお時間をいただきますわ」
「まず目隠しをなさってくださいね」
「目を開けるまでのお楽しみだから、じっとしててよ?」 
「さ、張り切ってやらなくっちゃ!」
「え、ちょ、えええええええ!?」
 あっという間の出来事だった。
エリンシアが化粧箱を手に入り、エイリークが後ろへ回り込み、リンが姿見をドンと置いて、セリカが何やら服を広げる。
嗚呼去り際に華麗なウィンクを決めたシグルドが恨めしい。
今なら言えるわ――どうしてこうなった。
或いはコノヒトデナシー、と。
 ……黙々と作業をして何事もなかったかのように去っていくのはやめて欲しいわね。
ったく、揉みくちゃにされて酷い目に遭ったわ。老体を労わりなさいよね。
さて、いなくなってから外すよう言われたとおり、目隠しを外す。
姿見に映る…これは…。
「魔女ね。どう見ても魔女だわ」
 本当にありがとうございました。しかも律儀に箒まで置いていってるし。
あらこの箒バレンシア製だわ。魔女のための純正品ね。そういえば今だったら彼女たちも稼ぎ時なのかしら。バルボだけじゃ大変だろうし。
ってそうじゃない。問題はそこじゃない。
この歳にもなって仮装なんて、どういうことかあの子達に聞かなくちゃ。
居間に皆いるみたいだけど、さて。
「ちょっと四人ともこれはいったい」
「えー、違うよミカヤ姉さん」
 入って早々セリスにぶーたれられた。
軽く首を回せば皆が並んでこちらを見ている。一体なんだと言うの。
「違うって、何が」
「姉上、今は魔女になっているだろう」
「そうそう、この日に魔女と言ったら」
「仮装と言ったら」
「「「言ったら」」」
 皆、手を後ろに待ち構えているのに気がついた。
体が動くのに合わせカサカサと袋のこすれる音がする。
「…いつも姉さんが私たちのために頑張ってくれていたからな。
 たまにはこんな年があってもいいだろう?」
「ですから、私たちが衣装も作りました」
「さ、今年はミカヤ姉さんの番だよ」
 成程、そういうことなのね。
「ふ、ふふふふっ…ああもう、皆して」
 笑いが止め処なく溢れてくる。大きくなっても相変わらずのお化けたちだわ。
別に皆のためだけに毎年頑張っていたわけじゃないのにね?
「さぁ姉上、言ってくださいませ」
「今年は姉さんがお化けなのよ?早く早く」
 皆が楽しそうににやにやと笑みを浮かべている。
ああ、嬉しいわ。こんなに楽しい悪戯(トリック)に引っかかるなんて。
「ふふふ、じゃあ行くわよ?」
 今年もこんなに笑顔(トリート)が貰えるなんて!

――トリック・オア・トリート?