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Last-modified: 2014-02-03 (月) 23:41:44

クレイン「……もう駄目だ……」
何度目だろう?この台詞を吐くのは。
両親不在で只でさえ手間が増えてる時期、普段なら多少の注意ですむような小さなミスが奇跡のように積み重なって大きな問題となった上、また社の資金が抜かれていた為、その穴埋めに書類に掛かり切りになっている。
備え付けの冷蔵庫からSドリンクを取り出しながら、誰か仕事を手伝ってくれる人間は居ないかと思いを馳せるが、
パーシバルは頭は良いが教職関連で忙しく、エルクは魔道研究が佳境に入っており、その姉弟子(だが余りにも駄目で妹弟子扱いの)セシリアは能力的に足を引っ張るだけで自分の仕事が五倍になるだけだろう。
クレイン「重役会議までに多少直しておくか」
ダース買いしたSドリンクの最後の一本をごみ箱に投げながら、鏡の中の幽鬼のような見窄らしい男に苦笑する。
心も体も休息を求めて、今は手の届かない女性が思い浮かぶ。
クレイン「ああ……ティト……」
未練な男だと自分を笑う間もなく、書類の山を片付けにかかる。
終わりはまだ見えそうに無い。
アレン「なあ、クレイン専務なんだがな」
ランス「最近オフィスから出て来ないらしいな」
アレン「なんだ知ってたのか。
……なあ何か俺達に手伝える事は」
ランス「無いな。敢えて言うなら自分の仕事を確実に問題なく片付けるくらいだ」
アレン「即答か。まあ確かに重役の仕事に俺達が触る訳にはいかないよなあ……」
?????「もし!」
アレン「ん?」
ランス「これはクラリーネ様。お久しぶりです」
クラリーネ「あら、見覚えが有ると思ったらランスでしたの」
アレン(おい、あれパント様の娘さんだろ?いつ知り合った?)
ランス(この間社内で迷っていた所を案内しただけだ)
クラリーネ「何をコソコソ話してますの?丁度良いからクレイン兄様の所に案内なさいな」
ランス「失礼ですが火急のご用件がお有りで?」
クラリーネ「ここ何日も兄様のお顔を見ておりませんの。解ったら早く……」
ランス「左様でございますか。
ではご案内出来かねます」
クラリーネ「な、何を仰いますの!?」
ランス「現在専務は非常にご多忙でして、失礼ながら業務上必要ない用件でお通しして専務のご負担を増やす訳には参りません。勝手なお願いでは有りますがご理解下さい」
クラリーネ「そ、それ位解っておりますわ。我が社の社員が首を縦に振るだけの木偶の坊ではないか試しただけです!」
ランス「は、差し出がましい口を聞きました」
クラリーネ「ま、まあ構いませんわ。それより兄様はそんなに大変そうですの?」
アレン「はい。パント様が居られれば多少楽なのでしょうが……」
クラリーネ「そうですの……ではランス。お父様を呼びに行きます。お共なさい」
ランス「は、承知しました」
ランス(アレン)
アレン(解ってる、このまま専務に倒れられたりしたら俺達の暮れの休みも危うくなるからな。マーカス殿に言ってフォローしておくさ)
ランス(すまん)
ランス「ではクラリーネ様、参りましょうか」
アレン「それではクラリーネ様、お気をつけて

パント様が帰られたら専務も休まれるだろう。
会いに行って差し上げたらどうだ」
???|壁ビクッ!!
此処……は?
確か僕はオフィスで……
そうだ!寝てる場合じゃない!急いで仕事を片づけないと!
???「専務」
あ、あれ?この声は……それに頭の後ろが柔らかい。これは……
クレイン「ティ…ト…?何で……僕は一体?」
ティト「パント様からの伝言です。「無理をさせすぎた、今日はゆっくり休むと良い」と」
クレイン「そう……か…急に睡魔が来たから夢かと思ったけど現実だったんだね」
となるとあの眠気はスリープの杖か。多少強引だが父の魔力を考えるに確実でも有る。
ティトの膝枕という状況で気恥ずかしさより安心感が先に来てクレインは再び夢の中へ向かいそうになる。
が、その前に、まるで譫言のように言葉が出た。
クレイン「ティト……悪いけど…もう少し…こうして貰っていても…良い…かな」
再び心地よい眠りに落ちる間際、私で良ければという言葉と優しく頭を撫でる手の感触を、確かにクレインは感じていた。

オマケ
ディーク「失礼するぜ社長。出掛けるならちゃんと俺達を護衛に……」
パント「やあ久しぶり」
ディーク「社長、確かクレイン坊ちゃんの処理しきれなかった書類を処理してたんじゃ?」
パント「ああ。ついさっき終わった所さ。あれ位の仕事も手につかない程疲れていたなんて、クレインは頑張り過ぎが玉に瑕だね」
ディーク(相変わらず同じ魔道軍将でも(笑)とは比較にならない程有能だよな……)