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Last-modified: 2014-02-02 (日) 17:59:26

吹き荒ぶ秋風も大分冷たさを増してきた今日この頃……

10月も終わり、これから本格的な冬に差し掛かろうとしている。

私の故郷のイリアでは、皆冬の為の蓄えを終えてとっくに雪が降り始めている頃だ。

無論、ハロウィンなんて能天気なイベントが出来るはずもない。

「いらっしゃいませー!ハロウィンにて、本日はお菓子全品10%オフとなっております。

 是非お買い求めください!」

……が、紋章町中央区ではまだまだ初雪のはの字も見えておらず、お祭り好きな住民達がこんなイベントを逃す訳もない。

私個人としても、割の良いバイトが出来るので異論は無い。

そんな訳で私、すご腕のファリナは本日とある雑貨店にて売り子に精を出しているのでした。

「はい、毎度ありがとうございました!」

「こら、そこのあんた!買う前に食べないの!」

「お客さん、今どこ見てました?

 うふふ……あそこの商品全部買ってくれたらちょっと過激な悪戯してあげるんだけどなぁ」

ちなみに今の私の格好は黒い三角帽子に、同じく黒一色の際どいワンピースとミニスカだ

どこからどうみても魔女っ娘です、本当に(ry

最初は着るのに少し抵抗があったが、着たら自給200GUPと聞かされた数秒後には気が付いたらこの格好をしていた

(着てみると案外悪くないわね、この格好)

自慢する訳じゃないが、それなりにスタイルには良い方だと思う。

さっきから妙に客に男性が多いのも、おそらく気のせいではあるまい。

最も、肝心の"アイツ"には全然効果がないのが癪だけど……

タイトル入れ忘れたorz
あと改行がひどすぎたからPC変えてみました

働き始めて2時間程が経過した。
夕方になり風も強くなってきたためか、客足が大分大人しくなってきた。
すると買い物客が途切れたタイミングで、雇い主のおじさんが近づいてくる。

「お疲れ様、そろそろピークも終わった頃だし売り子はもういいよ。
 今度は大通りの方に行って、店の宣伝をしてくれないか」

そういって店長は、一口サイズのお菓子が入ったバスケットを私に手渡した。

「別に構いませんけど、このお菓子ただで配っちゃっていいんですか?」
「ああ、日持ちの悪い物やこの時期はあまり売れない物が殆どだから気にしなくても良い。
 お腹が減ったらちょっと位食べても構わないから」

……それはまた、なんとも太っ腹なことだ。
他に質問は、と言われたのでもう良い時間だが配り終わったら直帰してよいか聞くと快諾してくれた。
給料は来週の休みにまとめて振り込んでくれるらしい。

「それじゃ、よろしくね」
「はーい」

久し振りの好待遇に、返事の声も弾む。

外に出た途端、鋭い寒風が薄着に遠慮なく吹き付けてくる。
あまりの寒さに一瞬上着か何か持っていこうかとも思った。
しかし給金を上げてもらった以上勝手に着替えるのも悪いと思った私は、そのまま大通りへと向かった。

(まぁここはイリアじゃないし、まだ10月だし……なんとでもなるでしょ)

割の良いバイトに浮かれていたとしか思えない。
再び店を出て数分後、私は自分の見通しの甘さに後悔することとなる。
…………………
………………
……………

「○○商店でーす、本日ハロウィンにつきお菓子セールやってますー」

お菓子を配り始めてから十数分。
風が強い外の寒さは室内と比べ物にならない程だった。

「……ックシュン!」

我慢していたがとうとう本日二回目のくしゃみが口から飛び出した。
辛うじて手で押さえたが、こんな状態では当然配れる物も配れない。

(あーあ……失敗しちゃったな。
こんなことになるなら上に羽織るコートかなんか持ってくればよかった)

(一端上着を取りに店に戻る?
いやいや、まだ配り終わってないし印象悪くなって下手したら減給かも……)

そんなことをうだうだ考えている間に、ますます風が強くなる。
周りに人気はあまり無く、出歩いているのはカップルばかり。

無意識の内に、人恋しさが芽生えたのか。
ふと、もし口うるさい姉や心配性の妹がこの場に居たらどうなるだろうか。
きっと姉は小言をいいつつもこっちを心配して、妹は泣きながら冷えた自分に抱きついてきたりするのだろう。
そしてもしあいつがいたら、きっと……
「風邪ひくぞ」

突然背後からぶっきらぼうな声で声を掛けられた。同時に、上着が投げかけられる。
顔を見るまでもなく、声の主が特定できた。
その声は、さっきまで隣にいたらいいなと思っていた人の声だったから。

「なーんだ、誰かと思ったらヘクトルじゃない」
無論、そんな事言えるはずもなく、咄嗟に気付かなかった振りをしてしまった
まぁヘクトルじゃなくても、今の私の格好を見たら知り合い全員声を掛けるだろうけど……
「何だとは何だ。つーか何でそんな格好でこんなとこに……」
上着を私に貸した分、少し寒そうにしながらヘクトルはそう聞いてきた
そんなに寒いなら最初から貸さなきゃいいのに
……まぁ、鈍感な上に馬鹿だから風邪は引きそうにないけど
 
「見て分からない?バ・イ・ト。
 ついでに、今日は何の日でしょうか?」

寒さが和らいでほっとしたからか、思ったより辛辣な口調になってしまった。
こういう時、自分の勝気な性格がたまに疎ましくなる。
しかし目の前のヘクトルは慣れっこなのかたいして気にした様子も見せずに答えを返した。

「ハロウィンだろ?さっきもガキ共に菓子を強請られたからな……
 ったく、渡す側になるとこの手のイベントは面倒なことこの上ねぇな。
 姉貴達に少し持たされたが、あっという間に無くなっちまった」
口調は厳しいが、なんだかんだで人情の塊のようなこの男の事だ
どーせいざ目の前にしたら甘やかすに決まっている
まぁ、それがこいつの美点ってのは知ってるけどね。

「ふーん。なら、これ持っていきなさいよ」
そういって持っていたバスケットの中身を少し手渡した。
「いいのかよ。お前、バイト中なんじゃねえのか」
「配って宣伝するのが今の仕事だから、まぁいいんじゃない?
 もし気になるんなら、そうねぇ……知り合いに宣伝しておいてくれると助かるわ。
 明日も在庫処分の為に安くなるだろうしね」

「へぇ、そういうことなら遠慮せずに貰うとするか」
そう言ってヘクトルは、貰った内の一つを早速開け始めた。
兄弟家の二男坊程でもないが、この男の食欲もまた相当なものだと思う。
……料理、少し練習しようかな

ここでそのまま立ち食いを始めそうな勢いだったので、近くのベンチに座らせる
ここだけの話、隣に座るのに10秒程要したのは決して緊張とかそういう類のものではないと言っておく。
あれよ、体調不良とは言え勤務中に中座するのはどうかとか悩んでただけなんだから。多分。

美味しそうにお菓子を食べる目の前の男を見ている内に食べたくなったので、
私も包みの内の一つを空け、頬張った。
口当たりの軽い、焼き菓子独特の食感と甘みが口いっぱいに広がる。

しばらくの間、互いのお菓子を食べる音だけが辺りに響き渡った。

「そういえばよ」
「んー?」

数分も経った頃だろうか、ヘクトルが思いだした、というような口調で話しかけてきた。
その時丁度二個目の焼き菓子を食べていた私は、喋らずに音だけで返事をする。
「お前はさ、言わねぇんだな。
 絶対言うと思ってたんだが」
「?……何をよ」
要領を得ない発言に、当然の質問を浴びせた。

「ほらあれだ、トラップオンデリートだかなんだか」
「……トリック・オア。トリートね。
 いわゆるお菓子を寄こせって奴」
「そ、それだそれ。
 がめついお前なら会った瞬間にでも言うと思って身構えてたってのによ」
女の子と二人っきりでベンチに座ってする会話がこんなのだなんていい度胸だわ。
……問答無用でいたずらしてやろうかしら。

「どういう意味よ。
 まぁ、本来ならお菓子に加えて普段のお世話、妹をたぶらかしてる余罪に、
 今の発言の慰謝料……」 
「おい!」
「って所まで本来なら請求するとこだけど、今日はいいわ」
「……今日は随分、太っ腹じゃねぇか」

それはそうだ。いくら私がお金にうるさくたってこれ以上は貰えない。
(もう、先に色々貰っちゃったしね)

「は?俺、何かやった記憶はねぇぞ」
頭の中だけに納めていたつもりが、いつのまにか口に出していたらしい。
慌てて今の失言を取り繕う。こんな恥ずかしいこと、死んでも話すことはできない。

「あ、あれよあれ。
 さっき上着貸してもらったじゃない!
 ともかく、そういう訳でこれでチャラ、貸し借りナシってことで!」
そう言うやいなや、私はバスケットを持って駆けだした。
とても今、見せられた顔をしていないだろうから。

「おい、ファリナ!」
背後から声を掛けられるが足は止めない。
「上着なら明日洗って返すからー!
 それとさ……今日はありがと!」

がさつでデリカシーなんて欠片もありゃしない。
でも、一緒にいると妙に暖かい気持ちになる。

甘酸っぱい時間とはいかないが、今の私にはこれで十分。
今回は、これで勘弁しておいてあげるとするか。

と言っても現状に甘んじるつもりはない。
来年の為にも、今よりもっとがんがん責めて行かなくては。
覚悟してなさいよ……ヘクトル!

「ヘッッックション!
 やっぱ、半袖じゃあきっついな。
 にしても、姉貴達に上着のこと何て説明したらいいんだ……はぁ」
「ただいま。あー、寒かったー」
「あ、お姉ちゃん。お帰りなさい。
 ……?どうしたのその格好」

フロリーナが指摘するのも無理は無い。
なにしろこの時のファリナの服装はバイト時の魔女の服装そのままだったのだから。

「バイト先での売上貢献の為に、このファリナ様の魅力をちょっと貸してあげただけよ。
 ……まぁ、おかげで風邪引きかけたけど」

言い終わった後に、心配そうな妹と視線が合う
しまった、余計な事言ったかも。
これはフロリーナから姉貴に連絡→説教フラグね。oh……

「大丈夫?晩御飯にスープ作っておいたけど飲む?」
「お、気が利くねぇ。
 それじゃ早速もらおうかなー」
「うん、じゃあ温め直してくるね」

ぱたぱたと足音を立てて、妹が台所に消えたことを確かめる。
……よし、今の内。
あいつから借りた上着を、素早く洗濯機の中に投げ込む。
明日の洗濯当番は自分、これで誰にも見つかることはない。うん、完璧ね。

(ヘクトル一筋なフロリーナのことだし、見た目だけで誰のか特定されかねないわよね。
あの子ナイーブだし、ばれないようにしないと)

しかし翌日、風邪気味の姉を心配して仕事を先取りした妹の優しさにより、
彼女の恋敵への配慮は見事に打ち砕かれるのだった。