「…………膝枕 魔法の愛撫 夢心地……」
目を覚ましたのかと、エフラムが視線を下に向ければ、変わらず寝息を立てるミタマの姿。
どうやら、寝言だったらしい。少々器用すぎる寝言ではなかろうか。
「……日が落ちる前には、起こしておくか」
穏やかで幸せそうな安眠を妨げるのは心苦しいが、家ーー神社への連絡も無く泊める訳にはいくまい。
送っていく時間も考慮して、適当な時間を図るべきだろう。
そもそも、サクラやキヌの友人、という程度の関係である彼女を、どうして膝枕で撫でているのか、と思うものの。
その辺りについては、少女に頼まれれば、余程の無茶以外は応じる彼の性(サガ)だ。
珍しく、いや、バレンタインの時を除けば初めて、彼女の方から訪ねてくる程の用件となれば、断る選択肢は無かった。
まあ、「最高の寝心地、というものを、体験しに参りましたわ」と言われた時は、流石に面食らったが。
誰からの情報かは…………大体想像がつく。
ともかく、最高かどうかは別にして、承けた以上は全力を尽くすのが彼の流儀。
太股は適度に脱力させて、彼女の要望を聞きつつ、枕に程好い堅さに。
寝転んだ頭を、眠りに誘うよう、柔らかく一定のリズムで撫でる。
エリーゼに膝枕してもらった経験も活かした、より相手に安心感をもたらす、熟練の業である。
そうしてかれこれ、1時間強。
恋人でもない女性を相手にこんなことをして良いのか、と今更な疑問も過るが、彼女が望むなら良しとする。
ここで、自分の予定などを考えないのが、彼が彼たる所以だろうか。
「…………想像を遥かに上回っていましたわ……」
結局、昼過ぎから夕暮れ時まで熟睡していた。
まさに夢心地。最高の謳い文句に偽りは無かった。
「……やみつきになりそうですわね……」
それも、段々と頻度が増していきそうな中毒性。
なるほど、彼を囲む少女達が、結ばれた後も、いまだに撫でられたがるのも頷ける。
「次は、まっさーじ、というのも、お願いしてよろしいでしょうか?」
「そうだな。見たところ、時折脚に疲れが残っているようだ。
普段から動かしていれば改善されそうだが……」
「…………善処いたしますわ……」
洞察力が達人である。見ただけで、何故そこまで分かるのか。
しかし、まっさーじを受けられるのは、疲労がある時のみ……。
もう少しだけ、巫女として働きましょうか、と、彼女の兄が聞いたら驚愕しそうなことを考える。
「では、神社まで送ろう」
ごく自然に差し出される、先程まで彼女を撫でていた手のひら。
「……はい。よろしくお願いしますわ」
その手を取り、歩き始めて10分後。
彼女は、当たり前のように手を繋いでいた自分と、覇王のたらしっぷりに、目を見張ることとなる。
ちなみにその頃、カザハナはサクラの紹介で、アメリアと模擬戦を通じ交流していた。
一連の動きの裏に、とある少女の暗躍があったことは、言うまでも無い。