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Last-modified: 2017-03-06 (月) 17:49:40

「…………膝枕 魔法の愛撫 夢心地……」

 

 目を覚ましたのかと、エフラムが視線を下に向ければ、変わらず寝息を立てるミタマの姿。
 どうやら、寝言だったらしい。少々器用すぎる寝言ではなかろうか。
「……日が落ちる前には、起こしておくか」
 穏やかで幸せそうな安眠を妨げるのは心苦しいが、家ーー神社への連絡も無く泊める訳にはいくまい。
 送っていく時間も考慮して、適当な時間を図るべきだろう。
 そもそも、サクラやキヌの友人、という程度の関係である彼女を、どうして膝枕で撫でているのか、と思うものの。
 その辺りについては、少女に頼まれれば、余程の無茶以外は応じる彼の性(サガ)だ。
 珍しく、いや、バレンタインの時を除けば初めて、彼女の方から訪ねてくる程の用件となれば、断る選択肢は無かった。
 まあ、「最高の寝心地、というものを、体験しに参りましたわ」と言われた時は、流石に面食らったが。
 誰からの情報かは…………大体想像がつく。
 ともかく、最高かどうかは別にして、承けた以上は全力を尽くすのが彼の流儀。
 太股は適度に脱力させて、彼女の要望を聞きつつ、枕に程好い堅さに。
 寝転んだ頭を、眠りに誘うよう、柔らかく一定のリズムで撫でる。
 エリーゼに膝枕してもらった経験も活かした、より相手に安心感をもたらす、熟練の業である。
 そうしてかれこれ、1時間強。
 恋人でもない女性を相手にこんなことをして良いのか、と今更な疑問も過るが、彼女が望むなら良しとする。
 ここで、自分の予定などを考えないのが、彼が彼たる所以だろうか。

 
 

「…………想像を遥かに上回っていましたわ……」
 結局、昼過ぎから夕暮れ時まで熟睡していた。
 まさに夢心地。最高の謳い文句に偽りは無かった。
「……やみつきになりそうですわね……」
 それも、段々と頻度が増していきそうな中毒性。
 なるほど、彼を囲む少女達が、結ばれた後も、いまだに撫でられたがるのも頷ける。
「次は、まっさーじ、というのも、お願いしてよろしいでしょうか?」
「そうだな。見たところ、時折脚に疲れが残っているようだ。
 普段から動かしていれば改善されそうだが……」
「…………善処いたしますわ……」
 洞察力が達人である。見ただけで、何故そこまで分かるのか。
 しかし、まっさーじを受けられるのは、疲労がある時のみ……。
 もう少しだけ、巫女として働きましょうか、と、彼女の兄が聞いたら驚愕しそうなことを考える。

 

「では、神社まで送ろう」
 ごく自然に差し出される、先程まで彼女を撫でていた手のひら。
「……はい。よろしくお願いしますわ」
 その手を取り、歩き始めて10分後。
 彼女は、当たり前のように手を繋いでいた自分と、覇王のたらしっぷりに、目を見張ることとなる。

 

 ちなみにその頃、カザハナはサクラの紹介で、アメリアと模擬戦を通じ交流していた。
 一連の動きの裏に、とある少女の暗躍があったことは、言うまでも無い。