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Last-modified: 2017-03-21 (火) 23:21:29

ミコト「では、後は若い方のみでごゆっくり」
シェンメイ「アクア、変な事になったらすぐに知らせるのよ……」
アクア「…………はぁ」

 

 母2人が去った後、アクアは1人、溜息をついていた。
 ここは町内にあるカフェのオープンテラス、突然、義父であるガロンから話があり、母であるミコトとシェンメイに連れられここに来たのである。
 場所を考えると自分は見合いでもさせられるのだろうか?
 有り得る話だ、彼は非常に爺馬鹿で、孫を求める為なら兎に角なんでもする。
 見合い等まだ序の口、結婚している子供の直属の部下を養女に迎えたり、娘婿の血の繋がらない孫を全力で甘やかしたり、数え切れない。
 これまでは長男のマークスが常に見合いを薦められていたが彼の頑なに拒む態度に最近諦めがちになっていたのを感じていた。
 その結果順番的に次に喪……もとい、相手の居ない自分にお鉢が回って来たと言うわけか、自分を溺愛する実母シェンメイが知らなかった事から可能性が高い。
 自分の場合歌が好きで、歌手としての活動を楽しんでおり、恋だの愛だのよりこちらの方が大事だからだ、だが彼からすると、もどかしかったのだろう。
 まぁせっかくここまで来たのだし、相手の顔を見て、適当に会話をして終わりにしようと思った矢先………

 

?????「あの……」
アクア「?」
?????「アクアさん……ですよね」
アクア「ええ……そうよ」
エイリーク「良かった、今日貴女とお話するために参りました、エイリークと申します、よろしくお願いします」
アクア「え……ええ」

 

 やって来たのは自分より濃い空色の長髪の女性、何とか対応したが内心唖然としていた。
 彼らは自分を長女カミラのようにするつもりか……そう考える間に彼女は自然な動作で自分の正面に座る。

 

エイリーク「改めて自己紹介しますね、兄弟家のエイリークと申します」
アクア「白暗夜家のアクアよ、よろしく」

 

 もっと素っ気なく対応するつもりだったが先程の驚きで大分普通の対応になっていた。

 

アクア「貴女は、どうしてここに?」
エイリーク「兄上から、友人になって欲しい女性がいるとお話がありまして」
アクア「友人……ね」
エイリーク「どうかされましたか?」
アクア「いいえ、こっちの話よ、気にしないで」

 

 引っ掛かる物はあったがむやみに空気を悪くすることもないので普通に話を始める事にした。

 

アクア「そう言えば、貴女のお兄さんには妹達がお世話になっているのよね、ありがとう」
エイリーク「いえ、こちらこそ、兄上がお世話になっておりまして、ありがとうございます」

 

 お互いの兄妹を交えた話題で話を始め。

 

エイリーク「アクアさんはあの劇場の歌姫をされているのですね、凄いです」
アクア「貴女も、あの楽団で楽士をしているなんて、凄いわよ、今度、聞かせて貰える?」
エイリーク「私などの演奏でよければ」

 

 お互いの共通点である音楽の話題で盛り上がる等、会話は和やかに進んで行く。
 その内にアクアは今まで考えていた疑問を彼女にぶつけた。

 
 

アクア「ねぇ、エイリーク、貴女は恋についてどう思っているのかしら?」
エイリーク「恋………ですか?」
アクア「ええ、私は今まで、他が恋や愛で盛り上がっていても気にしてなかったの。
    でも、最近私の回りでそんな話題が増えて来たから……」
エイリーク「アクアさん……そうですね、私としての意見になりますが……」
アクア「聞かせて貰える?」
エイリーク「私は………初恋は兄でした」
アクア「兄?」
エイリーク「ええ、双子の兄であるエフラム兄上に、私は昔から恋をしていました。
      実を言うと、ほんの少し前まで、その恋は、続いていたんです」
アクア「そう……なの」
エイリーク「でも、やはりそれは、許されざるもの……幼い夢でした。
      そして夢は、何時かは覚めるものだったのです……」
アクア「………」
エイリーク「ご存知の通り、兄は他の女性と愛し合う事になりました、そして他の女性とも……
      始めはショックでした、他の要因があったとは言え兄に怒りをぶつける事もありました。
      それでも、その内に変わりました、私にも、愛する方が、出来ましたから」
アクア「そう………」
エイリーク「私の体験で言えば、兄上に恋をしていた時は、切なく、苦しいものでした。
      そして今は、甘く、幸せなものです……そして、その2つは、大切な、宝物です」
アクア「何故、今は兎も角、前の恋は、苦しかったのでしょう?」
エイリーク「確かに、許されない恋は辛いものはありました。
      でも、同時に輝いていました」
アクア「……………」
エイリーク「例え報われない想いでも、兄上の事を想うと暖かくなりした。
      それは理屈ではなく、私にとって何物にも代えがたい、大切な事なのです」
アクア「そう………」
エイリーク「アクアさん?」
アクア「エイリーク、今日は、貴女に出会えてとても良かったわ、だから、私の友達に、なって貰えないかしら?」
エイリーク「私としては、とても嬉しいです、でも、よろしいのですか?」
アクア「私は、昔から歌が好きで、今の仕事に誇りを持ち、そして楽しんでたわ、友情や愛情なんて二の次だと、思っていた。
    でも、貴女の強さと優しさを見て、貴女と仲良くしたいと思ったの」
エイリーク「そんな……でも、とても嬉しいです、こちらこそ、よろしくお願いします」
アクア「ありがとう、それから私はアクアって呼んで」
エイリーク「はい、アクア」

 
 

アクア「只今帰ったわ」
シェンメイ「アクア、おかえりなさい、大丈夫だった?」
アクア「ええ、とてもいい子だったわ、友達になれたの」
シェンメイ「なら、良かったわ」
アクア「それと、エリーゼとサクラがどこにいるかわかる?」
シェンメイ「あの子達は自分の部屋にいるはずよ、呼んで来ましょうか?」
アクア「いいえ、自分で行くわ、ありがとう」

 

 それから少し時間が過ぎ、就寝前、月を見上げ、今日の出会いを考えていた。
 その後、エリーゼとサクラから話を聞き、確信した、今日の出会いは、始めに考えていた、見合いだったのだ、それもかなり遠回しな……
 そして、生憎その思惑は成功してしまった事になる。

 

アクア「覇王の傍らに常に優王女あり……ね。
    流石双子だわ、大した人たらしね」

 

 今日出会い、そして数時間会話した事で感じたもの、彼女は、双子の兄で、妹達の恋人である彼同様、人を惹き付ける何かが出ているのを感じた。
 彼女自身の穏やかさを始め、細やかな気遣い、優しさ、彼女が人に好かれるのも無理のない話だ。
 今日結んだ彼女との友情が今後どうなるか解らない、このまま続くか、或いは彼らの思惑通りになるのか。
 だが、今は、お節介な義父達に感謝しよう、彼女と関われたことは、間違いなく良いことだと確信できるから。

 

アクア「何時か、彼女の演奏で歌えるときが、来るといいわね」

 

 そして、暖かいものを抱えたまま、眠りについた。