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Last-modified: 2017-03-07 (火) 23:46:46

少し普段と趣向を変えてみたり
ちょっとだけ政争っぽい感じが染み出ていたり

 
 
 

「こうして集まるのも、何度目か……」
「繰り返し呼び出した張本人が、よく言うものだ」
「しかし、これも必要な場であろう」
 ロプト教団大司教、マンフロイ。
 竜王家三巨頭が一角、デギンハンザー。
 白暗夜家当主、ガロン。
 まさしく、紋章町でも指折りの有力者達。
 この密会で某かが定められたならば、他の権力者達にも、容易には覆せないだろう。

 
 

 そして、そんな彼らが、何の為に集まっているかと言えば。

 

「ところで、我らが娘達は、まだ孫を授からんのか?」
「こちらの孫まで勝手に娘扱いするな」
「固いことを言うな黒竜王よ。
 婿殿は我が義理の息子。ならば、息子の妻も等しく義理の娘である」
「ガロン殿の言葉ももっともでしょうな。
 なあに。婿殿は平等に愛情を注いでおられる。我々がいがみ合う必要もありますまい」
「発端はそちらの孫娘だと記憶しておるがな、マンフロイ殿」
「いやお恥ずかしい。どうにも寂しがりな子でして」
「まったく……まさか、イドゥンまでもが……」
「儂はむしろ感謝しておる。故に、初孫、早よう。2人目以降も」

 

 親バカ爺バカを炸裂させているだけだったりする。
 ぶっちゃけ、覇王の嫁の保護者会だ。
 アメリア母を呼ぶのは、勘弁してくれたらしい。
 ニシキやアサマは、次回辺りに呼ばれるかもしれない。頑張れ。

 

「近頃は、カザハナも義娘達と交流させてくれておるらしいな。
 まことに、あの娘は良く動いてくれる」
「情報部の者らは、些か多忙なようですがのう。
 まさか、1度解体させたベルクローゼンまで引っ張り出すとは……」
「孫の手綱はしっかり握るべきではないか、マンフロイ殿?」
「おや、デギンハンザー殿。それを言うならそちらも……」
「………………何か?」
「孫に振り回されるのも羨ましい」
「……ガロン殿。そう言っておれるのも、今の内ですぞ」
「実感が滲み出ておるな」

 

 その後も、殆んど雑談な近況報告が交わされる。
 中でも、互いの子達に関する、本人から伝わらない情報は、非常に貴重かつ重要だ。
 この為にこそ、彼らはこうして集まっていると言って良いだろう。

 
 

 しかし、この場を単なる保護者の懇談と見なす者は、三者にも、会合の情報を得た者達にも居ない。

 

 古今東西、有力者間の婚姻による縁は、恐ろしく重い。
 戦乱の時代から、それを巡って、数多の血が流されてきた。

 

 そして、ロプト教団、竜王家、白暗夜家は、各々の子を覇王に嫁がせている。
 それを推奨したか本人の気持ちを尊重したかは別にして、事実として、彼らは間接的な「縁」で結ばれた。

 

 敢えて大袈裟な表現をすれば、この三勢力こそが、覇王の後ろ楯となっている。
 密会が開かれる、という情報だけで、他の勢力への牽制になる程に。

 

 覇王を介した繋がりの強固さを、内外に知らしめる。害することは許さぬと。

 
 

 それが分からない三者では無い。

 

「……お爺様ったら……いい仕事をしてくれるじゃない……」

 

 そして、それが分からない、彼女では、無い。

 

 期待には応えなくちゃ、と笑いつつ、夕食の飲み物を、新作のEドリンクとすり替える。
 ついでに、唯一成人しているイドゥンの分には、度数の低い酒も混ぜておく。

 
 
 

 第一子懐妊は近い。我々の勝利である