61-22

Last-modified: 2017-04-23 (日) 23:27:38

「「「「「…………」」」」」
 5人分の沈黙が、放課後の教室を満たす。
 満ちているのは同時に、些か剣呑な緊張感。
 それも当然だろう。
 リリーナ、シャニー、ララム、スー、そしてソフィーヤ。
 彼女達はそれぞれ、1人の少年を巡り長いこと争っていた間柄だったのだから。
 そう、争って『いた』間柄『だった』。
 その関係性に生じた変化が、今回、特に示し合わせた訳でもなく、彼女達を集まらせた。

 

「……まずは、おめでとう、ソフィーヤ。
 皮肉とか嫌味とかじゃなくて、本心からね。幸せになれて何よりだわ」
 短い深呼吸を挟んで、沈黙をリリーナが破る。
 やや緊張を引きずりつつ、微笑みと共に贈られたそれには、言葉通りの祝福が込められていた。
「ありがとう……ございます……」
「うん! おめでとうソフィーヤ! 端から見てても幸せオーラ出てるもんね!」
「おめでとー! それに、何だか前より可愛くなったっていうか色っぽくなったよね!
 男子も噂してたよ! 覇王に嫁入りしたのを聞いて、『勝てねぇ』ってガックリしてたけど!」
「おめでとう……。うん……よく笑うようになった……気がする」
「え、と……あの……」
 これまでの関係ではあり得なかった、和やかで温かな、友達同士の雰囲気。
 慣れないやり取りと、自覚していなかった自分の変化について知らされたことに、ソフィーヤは恥じ入るように俯く。
 幸せオーラとか色っぽくなったとかよく笑うようになったとか、面と向かって言われると、物凄く恥ずかしい。
 しかし、彼女達に悪意などなく、心から『友達』の幸せを祝福してくれていることが、胸の奥まで伝わってくる。
 それが嬉しく、だけど、もっと早くこの関係を築きたかったと、少し寂しく。
 でもまずは、贈られた祝福に応えるために、息を整え、顔を上げる。
「……ありがとう、みんな」
 心からの、笑顔と共に。

 

シャニー「それにしても、ロイ君以外との幸せ、かー。全然考えたことなかったなー」
リリーナ「え? なら、あの隊長さんのKINNIKU貰っていいの!?」
シャニー「ダ、ダメー! 絶っ対っに、ダメーッ!!」
リリーナ「冗談よ、じょーだん、オホホホホ」
ララム「……ダメって言われなかったら、本気で貰っちゃうつもりだったよね、今の」
ソフィーヤ「…………きっと……」
スー「……間違いなく」
リリーナ「ところで、話は変わるけど」
シャニー「……ごまかした……ダメだからね、絶対……」
リリーナ「分かってるってば。
     で、最近、スーが『あの』リーフさんに狙われてるって聞いたんだけど、大丈夫?」
ララム「え!? あの噂の変態葉っぱに!?」
スー「大丈夫。毎回、マルスが来て撃退してくれる、なぜか」
ソフィーヤ「……そうですか……よかった、です……」
シャニー(マルスさんって、どういう人?)
リリーナ(ロイのお兄さんで、スーのことが気になっているらしいわ)
ララム(え、それって、それってつまりそういうこと!?)
リリーナ(スーには、伝わっていないみたいだけど)
シャニー(うん、それは確実)
リリーナ(マルスさん彼女いるから、踏み込みにくいのかしら。分かんないけど)
ララム(そりゃ、リリーナには分かんないって。女王だし)
スー「……何を話しているの?」
ソフィーヤ「…………さみしい……」
リリーナ「あーごめんごめん! 仲間外れにしたとかじゃなくてね?」
シャニー「そ、そうそう!」
ララム「そんなしょんぼりしないで!」

 

キャス「……あれ? 何かの集会?」
リリーナ「あら、いらっしゃい。そっちこそ、バイトじゃないの?」
キャス「今日は剣道部の手伝いだよ。フィル姉ぇに、どうしてもって頼まれてさ。
    で、それが終わったから、ちょっと忘れ物取りに来たとこ」
ララム「なるほどねー。フィルと家族になったって、本当だったんだ」
ソフィーヤ「姉妹で仲良し……素敵、です」
リリーナ「それがやがて、愛に至って、1つのベッドの上で2人は……」
キャス「ないよ! 娘2人がくっつくとか、とーさん混乱しすぎて爆発するよ!」
シャニー「落ち着いて落ち着いて」
スー「姉妹で一緒に寝るくらい、普通」
キャス「寝てないよ! ったくもう! フィル姉ぇ待たせてるから帰る!」
5人(あ、帰るのは一緒なんだ)

 

ヒノカ「…ソフィーヤが結婚…か。学生結婚も増えたな。最近」
セシリア「私たちはまだ独身なのにね。ふぅ…子供たちにも先を越され…」
マークス「運命の人はどこにいるのだろうかな…はぁ…」
ヒノカ「やめい!職員室が切ない空気になるだろう!」
セシリア「そりゃーヒノカ先生は余裕あるでしょうけど。こないだもロスに告られたんだっけ?」
ヒノカ「う…あ、あいつらは浮かれているだけだ。だいたい教師と生徒で…だな」
セシリア「無問題よ。フリーダム&クレイジー」
ヒノカ「それでいいんかい!?」
マークス「やはり年頃の近い相手がまっとうな気がするのだが…」
セシリア「マークス先生はそうしてどんどん縛りを作るから見つからないんじゃないかしら」