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Last-modified: 2017-05-22 (月) 21:02:46

アルム「ハァ………」

 

 アルム村長宅の自室に入ると人知れず溜め息を吐いた、原因はここ最近の物寂しさ、そして自身に燻る衝動だ。
 村の生活は充実しているが最近帰省しているクレアがグレイ、ロビンとのイチャつきを常に見せつけられるのだ。
 そして久しぶりに自宅へ帰ってみればそれ以上の状況、三傑を筆頭に嫁婿持ちの兄弟達は遠慮なくイチャつく、最近は今まで浮いた話のなかった次姉エリンシアまで恋人との惚気をよく聞かせるほどだ。
 イチャつくだけなら自分もセリカとできる、だが自分を悩ませている物は生物として根本的な部分、ぶっちゃけていえば性欲だ。
 これはセリカ相手では絶対に進めない、兄妹としての倫理観とかKINSINキラーな長兄という問題ではない。
 彼女は敬虔なミラ教徒として非常に厳格で潔癖だ、一線を進むどころか匂わせるだけで彼女自身から燃やされかねない。
 以前はそこまで気にしなかったもののここ最近では周囲のカップル達がそんな雰囲気をみせるため衝動が溜まってくる。正直な話少しリーフの気持ちがわかってしまった。
 そんな思いを発散させるように周囲で暴れまわり草の全てとオブジェクトを破壊し多くの銀貨と発酵乳を手に入れたところで区切りをつけた。
 取得したばかりの発酵乳を飲みつつもう寝て仕舞おうかと思った所自身に違和感を感じた。誰かに抱きつかれている?

 

アルム「え、これは?」
ジャンヌ「こんばんは、アルム君」
アルム「ジャンヌ、どうして?」
ジャンヌ「夫が悩んでいるときに妻が慰めるのは当然ですよ」
アルム「ジャンヌ、それは……」

 

 突っ込もうと彼女に振り向き言葉が止まる、湯上がりらしい、水気を含む髪、艶やかな肌、立ち上る湯気と香り、そして割と薄着故に、豊満とは言えずとも女性らしい彼女の身体がしっかり見えてしまった。
 思わず赤面しそっぽを向くも彼女にはよく解ってしまった様だ。

 

ジャンヌ「アルム君、私は貴方が望むのなら……」
アルム「ジャンヌ、そんな、僕は……」
ジャンヌ「こんなに苦しんでいるのにですか?」

 

 彼女はアルムの胸に飛び込み、その胸に耳を当てた、暴れても収まりきらず燻り、そして彼女の姿を見たことで心臓が高鳴っているのが自分でも解る。

 

ジャンヌ「アルム君が男性として苦しんでいるのは端から見てもよく解るんです。
     私は、愛するあなたのことなら何でもしてあげたい、それだけでなく、愛するあなたと結ばれたい。
     それは、女の子としての心からの願いなんです」
アルム「ジャンヌ………」
ジャンヌ「それに、私だけではありませんよ」
エフィ「アルム!」
アルム「エフィ!」

 

 ジャンヌの反対側から抱きついてきた女性、それはかつてグレイ達同様幼馴染であるが諸事情で離れており、最近再会した少女エフィ。
 彼女の自身に見せる愛情表現は、嘘偽りなきものと解っているのだ。そしてそれだけでなく……

 

シルク「アルムさん」
アルム「シルク!」

 

 村の教会のシスター、シルク、毎日欠かさずお祈りをしつつ彼女に仕事の事、家族の事等を相談し、母や姉のように思っていた少女だ。

 

エフィ「私は、アルムの事が好き!アルムの傍に居させてくれるなら何だってする。
    ジャンヌ達と一緒でも私は………」
シルク「私もです、常に村のみなさんの為必死で働く貴方の姿に、いつしか、惹かれていました。
    貴方が望んでくださるのならば、私は…」
アルム「で、でも、シルクは教会のシスターだろう、そんな……」
シルク「アルムさん、誤解されていますので申し上げますが、ミラ教において、信者は純潔でいるべきとは、ありえないことです」
アルム「ど、どういうこと?」
シルク「ミラ様は非常に寛容な方であり、教えには享楽、愛欲は認められているのです。
    勿論過度な堕落、他者を傷つけてでもな偏愛は認められていませんが」
アルム「え、じ、じゃあ、何でセリカは……」
シルク「あの方の場合、本人の潔癖さと、教えを本当に最初期から忠実に守っているのだと思います」
アルム「どういうこと?」
シルク「先程も申しましたが、愛欲に寛容なミラ教ですが、信徒として最初期はそれらに溺れないよう、やや厳しい戒律があります。
    ですがそれも、1年程修業を終えれば解除されますが」
アルム「そうなんだ」
シルク「セリカさんはミラ様にのめり込むあまり、そこまで厳しく強いているようですね、自分にも他人にも。」
アルム「そうか……」
ジャンヌ「アルム君……」
アルム「ジャンヌ、君は良いの?こんな急いだやり方で……」
ジャンヌ「急いでいません、あなたに初めて会ったあのころから、あなたへの思いは表しているはずです」
アルム「そ、そうだね……」
エフィ「アルム、覚えてる?」
アルム「え?」
エフィ「子供の頃、私が騎士崩れの盗賊に拐われそうになった時……」
アルム「あ、あの時は………」
エフィ「最終的に助けてくれたのはマイセンおじいちゃんだけど、1番最初に駆けつけてくれたのはアルムだった……
    その時から、アルムは私にとっての王子様なの」
アルム「エフィ………」
シルク「アルムさん」
アルム「シルク………」

 

アルム「僕は……やっぱりどうなってもセリカを忘れる事は出来ない」
ジャンヌ「…………」
エフィ「…………」
シルク「…………」
アルム「でも、そんな僕を思ってくれる君達の思いを、とても嬉しいと思っているんだ」
ジャンヌ「アルム君……」
エフィ「アルム……」
シルク「アルムさん……」
アルム「男として最低な事を言っている自覚はある、それでも君達は………?」
ジャンヌ「どれだけの間、セリカさんとの仲を見てきたと思っているんですか?
     それは、承知の上ですよ」
エフィ「私は、アルムの傍にいられるだけで幸せ、だというのに、アルムと結ばれるなんて、天にも昇る心地だよ。
    セリカを思っているにしても、もし、何かの弾みで、セリカも一緒になるにしても、私は、傍にいるよ」
シルク「長年続く想いを切り離すのは簡単ではありません。
    でもその間、貴方の身体が苦しんでいるのなら、私は助けてあげたい。
    そして、例えその後がどうなるとしても、私は、貴方の傍にいたいです」
アルム「みんな、ありがとう………それなら、僕は皆を……だから……」
3人『………///』コクリ

 

 それから村長宅を中心に熱い空気が漂った。今まで逆風に耐え続けていた灯火は遂に消えることとなった。
 そして翌日、多幸感に溢れた3人の姿が村で見られる事となる。

 

 余談だが危機を感じたセリカは村を意地でも探そうとしたがその晩に限り森が異様に深くなっていたという。