62-223

Last-modified: 2017-07-03 (月) 22:34:39

前書き
この作品は『若獅子の呻吟』『若獅子の疾走』『若獅子の苦闘』の続きです。
また作中現実にあるものと違いがありますが、フィクションとして見てください

 

六月の梅雨半ば
ロイはこの日紋章町のサーキットにいた
雨にもかかわらずバイクを走らせており、走り方を忘れずまた自分のレベルを上げるため
週単位だが練習は怠らない
2時間走り終えピットへ戻り廻った分のタイムを見ると、いつも以上の走りができず
タイムも自分で設定したタイムに及ばなかったか
(ダメだタイムが思うようにできてない、これ以上走ればマシンに悪影響だ
それに焦りが走りに現れている。)
何故彼がこうなったのかと言うのは、事の発端は過去に遡る

 
 

8:00
剃れば五月終わりの土曜日に遡る
早朝ロイは友人の誘いに任天都のサーキットに来ていた
そこは異様な盛り上がりをみせていた、数多のライダーやスタッフは緊張感が表に出している、
無論ほぐすためのムードメーカーの役割果たす人もちらほら
朝にも関わらずその熱気の中観客は優に三・四千集まり、
どのチームが上がるか楽しみバトルが待ちきれない人ばかりだ
熱気と緊張の中でロイは友人と出会った、バイクを貸したり走り方を教えてくれる
初めてサーキットに走った時から出会った一人だ
「ようロイ、相変わらず元気だな」
「はいおかげさまで、しかしここまで多く集まるとは知らなかったですよ」
「まぁそうだろ何せ大事な大会のひとつだからな」
「そうですね、絶対に負けられない闘いという感じですもの」
ロイが参加する大会というのは世界大会くらすの耐久レースの決勝の参戦権をかけた予選レースである
この大会で参戦条件ランクに入らなければ大会に参戦が出来ない狭き門だ
ここにいるチームはその切符を賭けたバトルに参加する
勝つか負けるかの待ったなしの一発勝負
何故ロイはこの場に居るのかというと
プライベーターでありながらロイは地方いわば紋章町そして任天都で行われてる
スポーツ走行をほぼ上位完走、またジムカーナで表彰台にあがれるほどの実力をもち
さらにわずか数ヶ月で国際ライセンスのレベルに達した
ロイの実力はもはやプロの世界にも便りが集まっている
しかし紋章町はその話には全くというほど届いておらず
無論家族や友人はバイクに嵌まってるというのしか知らない
紋章町にとってモータースポーツはマイナーの部類に過ぎないのだ
そのロイはプロ・セミプロ級の相手に参戦するレースに初めて挑戦する
そしてプロと闘えると友人の誘いで今日サーキットへ訪れた
滅多にない機会を見逃すわけにはいかない
どこまでいけるかわからないが、ロイの中には闘争心でいっぱいである
「そうだな。さてとお前に乗ってもらいたいものがある」
「え?自分のマシンじゃなくて?」
「あぁお前のためにマシンを用意した、ついて来い」
走るのは愛用のバイクではないことに疑問を持ち彼の後をついて行く

 

ついた先はピットガレージ
そこで見たのは彼が率いるチームとそのスタッフやライダーが老若男女20人いる
「みんな集まれ、早速だが今日お世話になるロイだ、よろしく頼む」
「ロイです、よろしくお願いします」
集まった人達の眼差しは歓迎をしめしている
ロイはチームスタッフやライダーに挨拶を交わして行くも
独りのライダーがロイにチラ見するも挨拶をせずバイクの確認をしていた
「・・・あの人は?」
「あぁ、お前よりだいぶ先にチーム入りしたライダーさ。
ちょっとお前にライバル心が有るのさ」
「そうでしたか、・・・はじめましてロイです。
よろしくお願いします」
挨拶とチームライダーと握手を交わそうとするロイ
見た目中身ともにロイより年上で少々筋肉質である男は
差し伸べられた手を見るやいなや
「はじめまして、チームである以上協力するが馴れ合いはしない」
手を握らずぶっきらぼうに言うライダーはその場を後にしてピットレーンの方へ行く
「・・・どうしたのですか?あんなに言う理由は一体」
「ま、彼奴なりに色々有るのさ・・・色々とな」
「・・・そうですが」
人の裏に影があることを知ったロイは彼の後ろ姿を見る、どこか苦い感情が映っているのを感じるのだ
「所で自分が乗るマシンは何処に」
「あ、あぁ後ろに有るぞ。さっきちらっと見えたろ」
話題を変え後ろを見ると数秒前はマシンの一部分しか見えなかったが
ロイは目を見張った
紅蓮のカラーリングに仕上がったカウルが外されたのスーパースポーツバイク
ハイパワーの咆哮を示すエンジンとマフラー
マシンが覆われる流線形の姿はまさに地上の戦闘機ひいては、大地を翔る竜であろう
市販されているバイクでありながらここまで仕上がっておることに
思わず唾を呑み込み息を止めるほどの感動をおぼえるレーシングマシンをロイは
目の当たりにした
「これが・・・僕が乗るマシン!?」
「そうだ、お前は二日間このマシンと付き合ってもらう、もし通れば一ヶ月後もだ」
「えぇ、僕たちはこのマシンで勝負するんですね
必ず勝ちに行きましょう」
友人ひいてはチームの監督の提供するマシンにロイは決意を示す
二日間行われる大会で勝利を勝ち取り、気は早いが一ヶ月後に行われる大会でも
このマシンで勝ちに行くことを
まじまじと見てるとロイはエンジンの大きさに疑問
250を乗るロイにとって妙に大きく感じる
「このマシン、250にしては大きすぎませんか?
何か、350か400位はあるかとおもいますよ?」
「何言ってるんだか、そいつは600はあるぜ、お前にはもってこいのマシンだ」

 
 

「・・・・・・え?
・・・監督、今何て言いました?聞き間違えかと思うのですが?」
思わぬ解答にロイは二、三秒凍りつく
自分の聞き間違いであることを祈らんばかりに金属の音が鳴るかのように
頭だけをゆっくり後ろへ向けた
「おう、もう一度言うぞ

 

『600cc』だ。」

 
 
 

「はあ!?600ぅ!?」

 

最早聞き間違えではないその言葉にロイは思わず裏声になってしまい声が上がる
大声で全スタッフとライダーはびっくりしロイに注目した
「貴方無茶苦茶ですよ!
てっきり僕は250クラスで挑むかと思ったのですよ。それを400踏まずいきなり倍の600って何で言わなかったのですか!」
「言ったら言ったで色々と思ったのだからさ
いいじゃないか一気に大型にチャレンジ出来るし、良いこと尽くしだ」
「良くないですよ!半月前のモトを貸してくださった時に250ccを何で出すのですか!?しかもそれに乗れと
85cc位から始めるのが一番でしょ!流石に一日でやっと物にしましたけど・・・」
「お前の腕を信用したのさ」
「そんなのありますか!?一気に上位のを出来るようにするなんて
こんなの絶対おかしいよ!?」
監督の無茶苦茶に思わず声を荒げてしまうロイは次々とボケに対してツッコミをいれる
ロイの中ではこんな考えがあった
大会は下位クラスの250、上位クラスの600、最上位の1000があり250に挑むことをを考えていたが
いきなりの上位クラスへ参加と聞いてロイの中での計画はあっけなく崩れた
ちなみに1000を走るライダーは予め3人おり
残るライダーは3人いるがその内250は既
決まり残されたのは朝挨拶しなかった男とロイ
つまり予め決まっていたのだ
半月前のモトクロスを走った後、モトを知らなかったので帰ってモトについて調べたら
自分は本来50〜85から乗るべき所をいきなりの250に乗せられので呆れたのだ
今回で二回目の無茶ぶりにロイは呆れながらもつっこまずにいられない
ちなみにロイは普通二輪を取って半年も充たず、それをいきなり乗りこなすのは凄腕になってるのはちがいない
そんな漫才を聞いたスタッフは思わず手を止めた
「ねぇ君、一日でモトを乗りこなせたって本当?」「マジで?詳しく聞かせて」
「え、えぇもう最初は苦労しましたけど」
次々とスタッフ達は手を止めロイに質問をしていく、最早チーム注目の的になって行く
ロイとライダーやスタッフは一気に輪を作っていくも監督から作業にもどるようにと注意され散り散りになってゆく
「一気に仲良くなれたな」
「えぇ、皆さん個性的ですごいですね。それに貴方のおかげでもありますが」
「それはそれほどでも」
「あんまり褒めてないですけど」
監督とロイのじゃれあいという名の漫才が再び始まるなか、そんな様子を妬ましく見てる人がいる
「どうした、いかないのか?」
「別に、あんなことしなくてもうまくやるさ」
「意地張ってばかりはよくないぜ」
「・・・」
相方のライダーとスタッフがロイの様子を見てライダーは一人ガレージへ戻っていった

 

10:00

 

(・・・ったく、監督も意地汚いなぁ)
朝の運営からの説明が終わった後
文句を言いながらもロイはバイクにまたがりピットのスタートラインに入る
午前の練習走行で短時間でものにしろという無茶苦茶な指令を受けながらアクセルをふかして走りゆく
最初は慎重に走り行く、初めて免許とったときのようにマシンを丁寧に乗りこなして行く
2・3週走ってるとあることに気づく
(大型だろうかいつも乗ってるのより乗りやすいな)
初めて大型乗ったことで驚いていくロイ、彼の中では大型は暴れ馬だとおもっていたのだが、
実際はそうでもなく思った以上の乗りやすさに驚いた
このマシンなら愛車と同じく安心して行き、自分の今までの枠の部分を乗り越えようと思いっきり踏み込もうとする
「監督これから回していいですか?」
『あぁいいぜ、こっちもそろそろお前が回すのを待ってたよ。さぁ行って来い』
「了解」
通信で連絡を取った後ロイは思いっきりまわし始めた、全力で回して数分ロイはマシンをものにする、タイムも徐々に伸ばしていった
「すごいですねあの子」
「だろ、俺の目に狂いはないのさ」
「そういって、彼や自分自身調子のってますと足元掬われますよ」
「なぁに彼奴なら大丈夫だ、問題ねぇ」
監督やスタッフはロイに注目しながら彼の走り方をチェックしていく、
たとえプロと戦える技術があったとしても何処かにロイには
見えない悪いところがあれば其が仇となり走りに影響を与えることもある
其を直すこともチームの仕事である
「ロイ!今の高速コーナーの半ばの膨らみはインから刺されるぞ
そこはアウトインアウトでやるんだ!」
「今抜けたところのコーナーはギア下げすぎだ3速で回せ、3速で!」
(まるで鬼教官だよこれは、そういえば昔マーカス先生から武術習った時もこんな感じだったかも)
「聞こえてるかロイ!?」
「すいません、気を付けます」
小学時代の恩師を思い出しながらもロイは指令通りにマシンを操り最初の全開より2秒縮めてゆく
スタッフ達はタイムの出来に感嘆する、だが彼や監督は縮めれるはずだと考えてる

 
 
 

12:00
チームが昼食に入るとロイはチームメンバーと一緒に談笑とミーティングを取ってゆく
交流を深めると同時に予選と本大会への戦略と対策をたててゆく
「ここのヘアピン抜けてすぐの低速コーナーはインベタの方がいいでしょうか?」
「いやこの場合はアウトミドルアウトの流れがいいと思うぞ、
何せ外へ行く方が立ち上がりで速く抜け出せるからな」
「そうですか・・・、じゃあ・・・ん?」
次の質問に入るが、ロイは質問をとめていった。彼の目に相方のライダーがこちらをみている
仲間に入りたいような羨望と自分に対して妬みに似た眼差しがささる
「すいません、一緒にミーティングどうですか?」
相方を誘うも返事もなく去っていきバイクのチェックを行う、その様子にロイは疑問を考えた
(どうしてあそこ迄露骨に避けたがるのだろうか、時間があれば話してみたいな)
話すことを後回しに今このわずかな時間で、午後の予選タイムアタックへ向けての作戦を立てていく

 

14:00

 

午後のタイムアタックが始まって一時間が経過する
タイムアタックは一時間もしくは一時間半交代でライダーを変え換え行われチーム
クラス別にチーム早いタイムが先頭に行く形式となる
最初の一時間は相方のアタックから始まり徐々に上位に食い込んで行く
ピットに戻る相方と代わりロイのコースインが始まる
ピットスタートにてシグナルブルー、アクセルを回す
先ずは全力を出さす70パーセントで回し始める
バックストレートから低速コーナーを5,4,3,2速
と落としアウトインアウトへ
半ばでアクセルを半分回しながらフロントブレーキで小突くように調整しながら旋回
出口の立ち上がりにゆっくりとアクセルを回し脱出する
第3セクションに入ると後方から一台迫って行く
(一台来てる・・・、どうしようか。ここは無理にスピードを上げず譲ろうか)
まだアタックし始めてないあるため、マシンに無理をさせないように
スピードを落とさず譲るロイ
其を見た後続のマシンはスピードを上げる
だがそのライダーはロイのマシンギリギリまで接近、まさに煽るかのように抜いていった
(・・・!あ、危ないなぁもう)
相手のひどい悪態にロイは軽い苛立ちをおぼえる
彼は今まで悪態をつくライダーを一人や二人はみてきたがまさか危険な悪態をつく
プロのライダーがいるとは思いもしなかった
『大丈夫かロイ?今あおられたが』
「ああ大丈夫です、危うく大事なマシンをダメにするところでした」
『大事に扱えよそいつ、お前たちの大切な戦闘機だからな。さてそろそろ行けるな』
「了解、アタック始めます!」
ホームストレートに入りフルスロットル、スタートラインを越え全力のタイムアタックがはじまる
(確かここは3速で回りながらスロットルをゆっくり上げろって言ってたね)
監督やスタッフのアドバイスを思い出しその通りに走り行く
コーナーを抜け次はシケイン、その先にに中速コーナーが待ち構えてた
(シケインはまっすぐ走るように行き、脱出後はアウトミドルアウト!)
ライン取りをアドバイス通りに行い予選にて順位を上げてゆく
他チームのライダーよりも上に行き上位に食い込むも、まだ相方のタイムよりコンマ秒及ばず
600クラスの全ライダーのなかでロイの一回目のアタックは11位と中堅上位の結果に終わる

 

16:00
予選のタイムアタックが全部終了しロイ達のチームは、600クラス決勝で5番グリッドからスタートとなった
二本目のタイムアタックでロイと相方は徐々にタイムを上げていき最終的に良いスタートを切れそうな順位におわる
チーム内の順位は相方、ロイの順番となりロイは自分の走りがプロに食い込みつつも
まだその先に行ってない自分のツメの甘さに痛感の納得をおぼえる
(プロは自分のその先の位置にいることは理解するが、ここまで行くとはね。
だけど、相手がプロである以上負けるわけにはいかないな)
プロのレベルの高さを確認しつつロイは決勝へ向けての闘志を燃やし、チームの後片付けを手伝いチームパドックへ戻っていく
「何だと!もう一度言ってみろ!」
帰る間際に突如聞こえた怒声、それは何処か聞いたことのある声であった
声のする場所へ向かうと、そこはロイのチームの相方が他のチームのライダーに怒声にて吠えていた
ロイは物陰に隠れながら彼らの話をきく
「ああもう一度言わせてもらうぜ、てめえじゃ勝てねぇしこの場で負けるんだよ。てめえの相方も一緒にな」
「ふざけやがって!そうやっててめえはッ!」

 

ライダーの挑発に頭に来た相方は掴みかかろうとするも、相手のライダーのチームメンバーに阻まれる
だがそのメンバーも相方に対して煽るような嘲笑を表に出す
「まあまあ落ち着きなって」「熱くなるなよそう」「落ち着けって」
そして落ち着かせるのに反して挑発するような下衆な口調で煽ってゆく
相方は苛立ちを押さえるように奥歯を噛みしめ握りこぶしをつくってゆく
そんな様子を物陰から見たロイは、苛立ちをおぼえながらも呼吸を整え自然に表へ出る
「どうしました?どなり声が聞こえたのですが」
「・・・ロイ」
来客が来たと同時に相手チームのメンバーは相方から離れライダーのところへ戻る
「一体どうしました、何かあったのですか?」
「・・・何でもねぇよ」
そう言いながら彼はその場を後にして、チームのパドックへ戻っていく
一部始終を見たロイは彼が気の毒におもい、彼の後をおっていくようにその場を立ち去ろうとする
「おめえが彼奴のパートナーか?」
「あ、どうもロイです。よろしくお願いします」
相手のライダーに呼び止められ、挨拶と一礼をするロイ

 

相手のライダーがロイに近づきまじまじと見てゆく、しかし何処か見下す様な眼差しである
ロイは相手のライダーのスーツの色柄を見て思いだす、最初のアタックの時に挑発行為を仕出かしたライダーであったことを
思い出しながらもロイは嫌悪感を感じながら表に出さず彼と目が合う
「・・・どうしました?」
「・・・ロイね。レースの世界へようこそ。ま、せいぜい頑張るんだな」
煽るように挨拶をした相手のライダーはその場を立ち去りメンバーも一緒に彼の後をついてゆく
ロイは挑発には慣れてるが、彼の怒りを浮かべると握りこぶしを作る
(あの人、何か許せないな)