62-238

Last-modified: 2017-07-05 (水) 23:06:37

サカ草原

 

 広い草原のなか、ラスは目を閉じて佇み、その近くにスーが立っている。

 

ラス「……来たか」

 

 気配を感じ目を開ける、その先には待ち人である蒼髪の少年、そして彼の姉で、友人である少女、彼らは羊と馬を一頭ずつ連れて来ていた。

 

ラス「ここに来たと言うことは、どう言うことか解っているな」
マルス「はい、彼女に僕の想いを示すため、あなたと戦います」
ラス「解った、草原の流儀に則り、マルスからのブフを受ける。
   俺に勝ったなら、我が妹スーを連れて行くがいい」
マルス「解りました」
ラス「ルールはリンから聞いていると思うが一応伝えよう、このサカの大地に膝より上、掌を除く部位を着けたら負けだ。
   そして俺が勝つ度に、お前の持ってきた貢物を貰う」
マルス「はい」

 

 そして2人が向かい合い立つ、その間にリンがたち、審判役を務めるようだ。

 

リン「では2人とも、見合って……始め!」

 

 リンの合図で飛び出す2人、だがそれは圧倒的にラスが速かった。
 突き出した張り手がマルスの頬に打ち込まれ、怯んだところを服を掴みあっさりと投げ倒した。

 

リン「勝負あり、勝者、ラス!」
ラス「ふむ」
マルス「ぐぅ………」

 

 あっさりとした決着、文明の中安穏と過ごした者と自然と戦いの中で生きたサカ民族ではかなり地力に差があった。

 

ラス「俺の勝ちだな、その馬を貰い受ける」

 

 リンが馬を連れ、スーの傍に留めた。

 

ラス「まだやるか?」
マルス「や……やります!」
ラス「よし、立て」

 

 息を整えラスの前に立つ、先程より気合いが入った様だ。

 

リン「では、始め!」

 

 再びラスから飛んできた張り手、それをうまく見てか、避し、今度はラスの服を掴んだ、直後にラスもマルスの服を掴む、暫く2人組み合うも勝ったのはラスだった。
 マルスを引き倒し地面に叩き付けた。

 

マルス「ぐぇ!」
リン「勝負あり、勝者ラス!」
ラス「俺の勝ちだな、その羊を貰い受ける」

 

 先程同様羊が引かれスーの傍に留められる。

 

マルス「これで……終わり?」
リン「マルス……」
ラス「まだ続けるか?」
マルス「え?でも持ってきた物は全部……」
ラス「あるだろう……」

 

 その瞬間視線がリンに向いた。それを見て嫌な予感がし、彼もリンを見る。

 

リン「敢えて言わなかったけどね、嫁取りのブフに置いては3つのものを貢物として用意するの。
   1つは馬、もう1つは羊、そして最後の1つは………女………」
マルス「そ、そんな!」
リン「当然でしょう、相手方の女性を求めるのに、自分がそれを出す覚悟を持てないようじゃ、それは不平等よ」
マルス「で、でも……」
リン「ここで退くこともできるわ、でもどうするの?逃げるのかしら?」
マルス「………!」

 

 逃げる……その言葉は彼にとって棘だった、今まで彼は逃げ続けた、自分の気持ち、そして彼女達の想いから……
 そう考えた瞬間、彼の想いは決まった。

 

マルス「………受けます」
ラス「よし、立て」

 

 再び向かい合う2人、それを見守る女性2人、スーは祈る様に、リンは強い瞳で男2人を見つめる。

 

リン「始め!」

 

 最後の戦い、ラスは最大の力を込め3度力強い張り手を繰り出す、だが、今回は今までと違った、。マルスはそれを避けず、自身の手で受け止めたのだ。
 ラスも冷静にもう片方の手で突き出すもマルスはそれも受け止める。
 手を組み合いお互いの力で押し合う、だがここでも地力の差が響き、マルスが少しずつ後退を始めた。
 ラスは好機と見ると一気に力を込める。相手をよろかせ、一気に倒そうとしたのだ。
 だが、その力が一気に無くなった。マルスは力が込もったのを見計らい、そこから逃れた。
 彼は力は強くない、だが、頭がよく、駆け引きが巧かった。相手がたたらを踏んだところ素早く背後に回り、その肩を押したのだ。流石のラスもバランスを崩し、次の瞬間には地面に膝をついていた。

 

リン「勝負あり、勝者マルス!」
ラス「負け……か………」
マルス「え……勝て……た?」
スー「マルス!」ギュ
マルス「スー……」
スー「見せて貰った、マルスの想い、覚悟……掟に従い、私はマルスのものになる」
マルス「スー、ありがとう……でも、今言うのも何だけど、いいの?ロイの事は……」
スー「すぐには忘れられない、でもマルスの傍に居て、いずれ思い出に変わる……ソフィーヤの様に。
   だから、私を………幸せに、して?」
マルス「わかったよ、君を、ずっと大切にすると、誓う」
スー「ありがとう……」

 

リン「スー、嬉しそうね」
ラス「マルスが葉っぱから助け出す度に、少しずつ意識していた。ロイに対し疲れ始めていたのもあるんだろう」
リン「全く、弟達は……」
ラス「リンは……良かったのか?」
リン「私は、大丈夫よ、2人が幸せなら、とても嬉しいから」
ラス「そうか……」
リン「もしマルスが負けてラスの元に行くのも、悪くはなかったけどね」
ラス「そうか?」
リン「でも、今はメイドの仕事とか楽しいし、草原に入り浸る訳にもいかなかったからね、これで良かったと思うわ」
ラス「そうなのか……頑張れよ、リン」
リン「ありがとう、ラス」

 

 戦いの余韻に浸る4人を草原に沈む夕陽が暖かく包んでいた。

 

続く

 

【隠れ里・自警団詰所】

 

ケント「む……!」
ルカ「どうしました?」
ケント「……なんというか……危ういところで助かったような……確実に1歩先を行かれたような……」
ルカ「ふむ。街で何かあったのでしょうか?」
ケント「そうかもしれない。しかし、今の私は……」
ルカ「ですが、すぐにでも向かいたいのでしょう?」
ケント「!?」
ルカ「大丈夫ですよ。この村は、やりたいことを見つけた者を縛りはしません」
ケント「しかし……!」
ルカ「クレーベもアルム君も、きっとそう言います。
   そして、もしも街に疲れたなら、また来てください。
   住民としてでも、旅行者としてでも、我々は歓迎しますよ」
ケント「…………恩に着る」
ルカ「ええ。どうか幸運を」