ルフレ「クロムさんから逃げるようにホテルを出てきてしまいました…これからどうしましょう…」
ルフレは一人考えながら歩を進める。そしていつの間にかイーリスの森に来ていた。
ルフレ「ここは…。クロムさんと初めて出会った場所…。私がクロムさんに一目惚れした場所……」
クロムと自分を引き合わせてくれたこの森に特別な思いを抱きつつ、自分がもうクロムのもとへ帰れないと感じてルフレは涙した。
ルフレ「いけませんね。昨晩あまり眠れなかったせいでしょうか、今さら…眠く……」
ルフレの意識はそこで途切れた。
ルフレを追いかけるようにホテルを後にしたクロムもまた、導かれるようにイーリスの森に来ていた。日も徐々に西に傾きかけている。
ここにルフレがいるという確証はなかったが、ここに間違いないと自分の勘が告げる。
クロムがイーリスの森を歩いていると、ルフレと初めて出会った場所の近くまで来ていた。
クロム「ここは…。懐かしいな。そうだ、俺はここでルフレと出会ったんだ。
今から思えば俺はそのときからずっとルフレのことが好きだったんだな……」
クロムが感傷に浸っていたそのとき、ふと近くから人が呼吸するような音が聞こえた。
クロム「どうした? こんなところに誰かいるのか? ──っ!」
クロムの視線の先にはまるであの日と同じように、ルフレが森で眠っている光景が目に入った。
クロム「ルフレ!!」
クロムはルフレが気を失って倒れているのではと思いルフレのもとに急いで駆け寄る。
幸いルフレはただ眠っているだけのようだったが、クロムは自分のせいでルフレがこうなってしまったと悔やんだ。
クロム「ルフレ…昨日は本当にすまなかった。いくら俺が姉さんたちを敬愛しているからとはいえ、あの場でおまえにそんなことを言うべきではなかった。
ルフレ、俺にはおまえしかいない。おまえが一番だ。おまえだけを、ずっと愛している────!」
クロムは眠っているルフレの身体を抱きかかえながらルフレにそう伝えた。
そして、ルフレにそっと口づけを交わした。
クロムの唇が離れていくのと同時に、ルフレの目が開いていく。
ルフレ「…クロムさん……!」
零れんばかりの涙を目に浮かべ、クロムに微笑みかけるルフレ。その笑顔は世界中の誰よりも輝いていた。
ルフレ「…クロムさん……!」
クロムの心からのプロポーズの言葉は、眠っていたはずのルフレにも確かに届いていた。
そして、ルフレがクロムに言葉をかけるより先に、ルフレの身体が黄金の光に包まれていく。
クロム「ルフレ?! いったいどうした────」
まばゆい光がおさまった後、クロムが見たのは純白のウェディングドレスに身を包んだルフレだった。
そのドレスはかつてルフレが羨ましそうに見つめていた、あのウェディングドレスだった。
クロム「ルフレ?!」
ルフレ「えっ、ええ?! これはいったいどういうことなんでしょう?」
サーリャ「私の呪いよ……」
ルフレ「サーリャさん?!」
クロム「サーリャ?! おまえ、どうしてここに」
サーリャ「ルフレが心配だからに決まっているでしょう…まったく、一時はどうなることかと思ったわ…」
クロム「む…」
ルフレ「サーリャさん、呪いとはなんのことですか?」
ルフレの問いかけにサーリャはそっと答えた。
サーリャ「私が前にあなたに協力すると言ったのは覚えてる? その時の約束を果たしたまでよ…。
この男があなただけを本気で愛していると誓ってキスをすればそのとき、ルフレが憧れていたウェディングドレス姿になるように呪いをかけておいたの」
クロム「そうだったのか…。しかしサーリャ、どうして今、俺たちに協力してくれる気になったんだ? その、普段のおまえなら絶対に俺に邪魔をするはずだが」
サーリャ「いつまでも…ルフレが幸せになる邪魔をするわけにもいかないわ……」
クロム「サーリャ…そうだったのか。ありがとう」
サーリャ「フン…あなたは私のルフレを奪っていくのよ……幸せにしないと呪うわ。いい?ルフレはあなただけを愛しているのよ…?それを裏切ったら許さないから……」
クロム「ああ! 必ずルフレを幸せにする!」
???「おめでとう。クロム、ルフレ。これで僕も一安心だよ」
クロム「おまえは…」
ルフレ「兄さん!」
現れたのはルフレの兄であり、サーリャの恋人でもあるルフレ♂だった。
ルフレ♂「君たちがようやく上手くいって僕もうれしいよ。本当におめでとう。それとクロム、これは僕からのプレゼントだよ」
ルフレ♂が指を鳴らすと同時にクロムの服もまた、上品な白いタキシードに変化した。
そしてクロムとルフレをまた黄金の光が包んだ。