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Last-modified: 2017-08-13 (日) 21:32:35

この作品は『若獅子の屈辱 中編』の続きです

 

作中現実のものと違うところがありますがフィクションとして見てください
キャラの口調と性格が異なる(改変もしくは崩壊)してるところも
またオリキャラが登場しますが注意をお願いします
一部物理無視の描写が有るため此方も注意を
以上の内容が苦手の方はスルーをお願いします
では投下します

 

13:00

 

昼休憩・ファンサービスを済ませた選手達はグリッドについた
監督達との最後の打ち合わせをやっており、スタッフはタイヤウォーマーを
取り外していき、ピットに戻っていく
まだレース前、雨であるが辺りには稲妻が走るほど空気が張り詰めている、ピット内から雰囲気をロイは読み取れた
(やっぱり改めてみてこの緊張感は凄いな、それに・・・、
全クラス一斉にスタートするから余計に”重圧”という名の稲妻が走って見えるよ)
監督のイーライをはじめ全スタッフもデニムをモニタ越しで注視する

 

予選決勝はクラスごとに分かれてるが全クラス一斉にスタートするレースとなる
参加してるマシンだけでも1000クラスが42台、600クラスが37台、250クラスが35台と
合計102台のマシンが勢揃いしている
しかしその中で本戦の『切符』を手にいれるのは、各クラス14台という狭き門に入れた者だけ
かつ後日予選大会も行われるが今日(こんにち)に参加したチームのクラスは再参戦できないという一発勝負である
勝つか負けるか、喰うか喰われるか、栄光か挫折か、今ドックファイトが始まる
無論観客も固唾を呑んで見守っている

 

(・・・何だろう、緊張感と高揚感と同時に胸騒ぎがしてきた?何故?)
しかしロイの胸中には何故か緊張や高揚、不安が募りはじめてきた
それはデニムに何かいやな予感がしないかなのか、はたまた自分に何か起こるのか
わからなく胸中が震えていく
ロイは思わず握りこぶしを作り胸に当てる、高鳴る鼓動、抑えられぬ闘志
そして響く煩悶、それらを表に出さないように必死になる

 

フォーメーションラップ全マシンが一斉に動きだした、スタートして巻き込み事故が起きないように
各クラスとの間隔は約70m、トップからラストまで380mにおよぶマシンの列が
雨でありながら右へ左へマシンを振りながらタイヤをさらに温めてゆく

 

コースは全長4,328m、コーナーの数は14本
前半はダウンヒルとS字にヘアピン、1kmのバックストレート
後半はヒルクライムに連続コーナー、立体交差からの左270度と上りのコーナー
そして約800mにもおよぶホームストレートが鍵となる
ハイスピード&テクニカルステージとなっている
また雨が時間まもなく豪雨となるため規定走行時間を4時間から3時間に変更された
豪雨のレースは事故の元やレースにならないこともあるためである

 

一番手に走るデニムはタイヤを温めながら600クラスポールポジションのオズのマシンを、
獲物を狙うかのごとく見据えていると同時に、正面に見える1000クラスの
動きも見極めようとしてる
距離が大きく開けられてもスタート直後に水しぶきで前方をさえぎられるのは必然であり
どう回避するかはたまたどう攻めるかと思考してゆく
(スタートだ何が起こるかわからない、
 あいつがもしかすると仕掛けてくることもありえる・・・そのときは・・・!)
かつての大いなる敗北を経験したデニムは、オズが何かを仕掛けてくるというのを予測し
二度とあの惨敗を味わわないよう警戒してゆく、そしてスタート直後に起こることも

 

(さぁ来なデニム、お前は今度こそ真っ逆さまに落としてやる、
 ・・・雑魚ははいつくばって泣き喚くのだな)
サイドミラーからデニムを確認するオズは不敵な笑みを浮かべながら睨みつけてゆく

 

フォーメーションラップもまもなく終わり、全ライダーたちはグリッドどおりに
ホームストレートへ向かう、レースオフィシャルはグリーンフラッグが振られていく
ローリングスタートながらホームストレートの信号が赤1つ照らされ、
ライダー達はいっせいに身構えてアクセルをキープしながら準備を待って行く
2つ、3つ、4つ、5つと赤ランプが徐々に照らされる
全チーム、スタッフ、そして観客が見守る中

 

ランプが全て消えた

 

高鳴るエンジンとエキゾーストが一斉に木霊し各マシンがロケットの如く駆ける
だが先頭を走る1000ccクラスの上位のマシンが、後方のマシンの行く手を遮る
水の壁を作られていく
予想された事態であったがやはり先頭集団がどんな状態かわからずじまい
それでも各マシンはアクセルを落とさずクリアしようとする

 

しかし悪魔はこの状況をあざ笑うかのごとくライダーに悪夢を降らせた

 

1000クラスの中位のクラスが前後左右不明で、マシンと接触したのだ
このクラッシュがわからずに次々と雪崩の如く後続のマシンをも飲まれこんでしまった
ロイはこの状況に戦慄を覚える、もちろんスタッフもだ
次々と放り出されるライダーとマシン、そして一瞬にて鉄くずとなるこの状況を
ただ見守るしかなく、デニムが無事スタートしてくれることを祈るしかなかった

 

(やな予感が当たったな・・・!)
悪い予感がしたデニムはコース端に逃げようとするもマシンに囲まれ逃げ場を失う
無論前方の霧の壁に入り前がわからない状態だ
下手を打てばマシンは大破、リタイアは必須かつ切符も手に入らない
スタッフ達はは万事休すと思われた
(だがな、ここであきらめる俺じゃない。なめるな!)
しかしデニムは炎をたぎらせており、ロイとイーライは切り抜けると信じていた
前方に居るだろうオズに勝つためにここで終わるわけには行かない
デニムは自分の培った技術・視覚・直感を頼りにこの場を切り抜けようとする
正面をとらえて左に避け続けて右へもどる、そこには1000クラスの下位のライダーが
続けて右に避ける、その先にはバイクのパーツの破片が転がっていた
一歩間違えればタイヤはバースト(破裂)に違いなかった
さらに正面を中止すると、霧の壁が小さくなり50m先に左コーナーの外側の
アスファルトが見えた
最初のコーナーが差し迫りフルブレーキ、5速、4速、3速、2速と落としてゆく
オールアウトでコーナーをクリアする
このまま一気に走りぬけようとするとコース外のスタッフが旗を掲げた

 

赤旗(レース中断の合図)だ

 

ホームストレートはコース上やセーフティゾーンにはクラッシュでやられたバイク
ならびに飛び散った破片にオイル、タイヤの滓が散らばった
またクラッシュでコース外に退避するライダーや
衝撃を受けて身悶えたライダーもコースアウトにいる
救護班やスタッフは急いでコース上の清掃、ライダーの応急処置を行っていく
幸いけが人は居たものの、死傷者は居なかった
このアクシデントで1000クラスは21台、600クラスは18台、250クラスは11台
合わせて50台も大破
どんなことがあろうとここは戦場、負けても事実を受け止めなければならないものだ
アクシデントを乗り切ったデニム、スタッフは安堵し呼吸をついた。
ロイは表に出さないが溜飲が落ちてるもいまだ不安の鼓動が鳴り止まない
(あぶなかった、一歩間違えれば大惨事になりかねなかった
 ・・・だけど何だろう、まだ不安が収まらない。いったいなんだ?)

 

レースは一時中断し30分後のスタートとなり結果、約2時間半のレースとなる
予備を用意したチームは出場できるが予備のマシンやライダーが居ないチームはここでリタイアとなる
またピットスタートでレースが再開され一台一台ずつライダーがピットを後にする
先頭にセーフティーカーが走ってライダーたちは一列ずつ一定速度を走るのを余儀なくされる
セーフティーカーがでたらレーサーたちは追い越しもできない
この間ライダーたちはまだかまだかと、セーフティーカーがピットへ入るのを待つしかなかった
ピットに入ればレースは再開される各マシンは一斉に走り行く、待ち遠しさに焦がれていく
そして一週入りセーフティーカーはピットに入る
再びエキゾーストが轟き各クラスのマシンが再び一斉に走り出した

 

2回目のスタートは特段クラッシュやアクシデントもないスタートとなった
時間が短縮された分各ライダーたちは全開で飛ばしてゆく
600クラスはオズのチームがトップ、デニム出走のイーライのチームが3位になる
まだ走ってまもなく前半のバックストレートに差し掛かる
2位のライダーの背後に取り付きスリップストリームで仕掛けようとする
だが雨であるか下手をすればあらぬ方向に行くこの状況でオーバーテイクが仕掛けられない
目の前に居るのに届かない仇敵の存在がいるもどかしさで、デニムはあせる
(・・・くそっ、追いつけない。追いつけない・・・
 届くのに届かないあいつの所に!)
サイドミラー越しに見えるデニムの姿にオズはあざ笑う
(負け犬はそこでおとなしくしてろ
 ・・・さて、あれを仕掛けるのはレース終盤になってから)
オズは更なるたくらみを備えた、それはいつ仕掛けるのか

 

45分経過してピットに入るデニム
タイヤは雨の影響か溝は磨り減っておらず、今のままでも走れるかもしれないが
やはり油断大敵何が起こるかわからない
ピットクルーはタイヤ交換・給油を行い、デニムは降車しロイと交代する
「デニムさん、行ってきます」
「・・・」
言葉交わすも一方通行、返事も返ってこないことにロイはため息をする
気持ちを切り替えてプロの戦いにはじめて挑むロイは
緊張感を心に留めながら、闘争心たぎらせていくのだが
『ロイ、お前は今日始めてのプロでのレースだから無茶してバトルとか行うな。
 上位もしくは条件順以内をキープしながら走れ、いいな』
「わかりました」
『勝つことも大事だがまずは、生き残ることを優先だ。行ってこい!』
イーライからの忠告を受けロイはピットレーンをかけてゆく

 

(さてとどうしたものか・・・)
ピットから出て40分、今の状況は最悪である
初陣が雨、短時間での耐久レース、後方に2台と前方に1台と最悪な条件だ
ましてや相手はプロいつ抜かれてもおかしくない状況であり
迫ってくる重圧が重石となって圧し掛かってゆく
現在6位であるロイはこの状況に痺れを切らしたくても切らせられない
仮に状況の打破を試みようとも、下手を打てば下位に転落最悪リタイアである
この膠着状態が10分も続いているが、誰もこの状況を打破するものも居ない
この場に居るライダーは読み合いにらみ合いが続いているのだ
S字からの低速ヘアピン抜けて後半セクションの入ると、後続の一台がペースを上げてきた
(ここでペースを上げてきた!?
 次のコーナーがチャンスというわけか)
サイドミラーでペースを上げる一台を確認するロイ、次のコーナーは中速から低速のあとの
高速コーナーの複合コーナー、”通称・蛇の道”とも呼ばれている
その一台につられるように二台目の後続車も追い上げをはじめた
これをチャンスと捕らえた後続車はロイとその先の1台をロックオンする
(バトルするには分が悪すぎる、相手はプロだから勝てる要素は万分の一に等しい・・・)
ロイはこの状況でバトルするのは悪手であるのは理解した、条件順位に入ればそれでよいと
思ってもいた

 

だが、ロイにも意地はあった
(ここでもう逃げたら意味がない、たとえ分が悪くても相手がプロであっても
 それでも勝負に逃げたらレーサーじゃない・・・
 すいません監督、僕は彼らと・・・勝負します!)
ロイはスロットルをまわし勝負に仕掛ける
モニタ越しでペースを上げるロイにスタッフは目を見張り、デニムはにらみ目で苦虫をつぶし
イーライは目を細めた
「お、おい大丈夫かあの子!?」「初陣でバトルするなんて無茶な!?」
「まずいよこれ、リタイアするかも」
(あいつ、分の悪い賭けを仕掛けるのか!?
 バカヤロウ、監督の忠告を無視しやがって)
スタッフ、デニムは最早この世の終わりかのようにネガティブに捕らえていった
プロ相手に無茶な勝負をしでかしたことに
しかしイーライは沈黙を貫き、ロイの勝負を見守っていく

 

複合コーナー入り口50m手前に差し掛かり先頭からロイそして後続の二台がブレーキをかける
先頭のブレーキポイントよりロイは早めのブレーキを仕掛けるの対して
後続の二台は2テンポ遅くに掛けて来た
先頭はインに仕掛け後方の二台も同じくインに進入しようととする
しかしロイは彼ら2台の描くラインより少し外側に攻めようとしてきた
レイトブレーキにより前の一台のテールにつくことができ攻め懸けてゆく

 

また後方の2台はインにねじ込もうと仕掛けようとするも、ロイの絶妙なラインが
彼らの精神にブロックを駆けている
前の一台とロイの差はタイヤにくっつきそうでくっつかない位置におり
この雨の中一瞬のミスが命とりな勝負で仕掛けようとするも、彼らの心理では
『踏み込んだら死ぬ』という攻めにブレーキを掛けた
後方二台との距離が少し離れたのを確信したロイは、次のコーナーでも仕掛けようとする
「旨い!あのラインを維持しながら、後方にプレッシャーを与えてる」
「それだけじゃない、少なからず前にもプレッシャーを与えてるはず」
「いける、いけるかも!」
チームのスタッフはロイの攻めにいけるという確信を持ち始め祈っていく
それでもイーライとデニムは口に出さず沈黙を貫いていく

 

先方との距離は立ち上がりでテールトゥノーズ、そのあとの短いストレートで
同じスピード行きで2つ目のコーナー入り口で再度レイトブレーキを掛ける
次はイン側に攻めようとしたが、コーナーで前方の執念のラインブロックで仕掛けれずに居た
無理にインにねじ込もうとすると縁石に上がり、最悪バランスを崩して降下や巻き添えもある
ここは攻めずに3つ目のコーナーでチャンスを待つのを伺った
立ち上がってシフトアップせずレッドゾーンまで回して行き、三度レイトブレーキで仕掛ける
先方はインからロイはアウトから進入する、先方とロイの差はほんのわずかだが
ロイのほうはスピードが少し上で攻め込んでゆく
そして出口には隣の鼻の先にまで縮まった

 

四つ目のコーナーは左、入り口に差しかかると二台がサイドバイサイドで進入する
同じブレーキタイミングだがロイのほうがアウトからインに変わったため多少苦しい状況である
インに差し掛かれば突込みでは有利だがコーナリング・立ち上がりになる
また相手のマシンと隣り合わせになればアウト側がおおかぶさってインのインに詰め寄ることも
下手をすれば下位に下がるか、コースアウト直行である
だがそれでもロイは果敢に攻め込まんとする
コーナリングで隣にライバルが居ることを確認したらインに切り詰めつつ
スピードを徐々に上げてゆく
隣のマシンもロイを抜かせまいとインへ被せようとし、アウト側を維持する
コーナリングでも横一列の状態、まさに一触即発である
観客もスタッフもこのバトルに釘付けである
互いが互いに譲れない意地を示しながら出口に差し掛かる
二台がアクセルをあける、目の前は最終コーナーへつづるストレート
ここで勝負がつけねばその次のコーナーで勝負をしかけようとする
また立ち上がりに有利なアウト側が少し前へ出た
最早、誰もがロイの負けを確信した

 
 
 

しかし

 

立ち上がりに、アウト側の一台が後輪を滑らせた
どうやらレッドゾーンまでアクセルを開けてしまったことで、スリップが起きた様だ
思わぬ出来事にとっさの判断でアクセルとブレーキ、カウンターを使って直そうとする
だがそのままでは終わらなかった
マシンのグリップが強制的に『戻らされた』ことで車体が暴れだし
暴れ馬に乗って振舞わされるかのようにライダーの体ははねてゆく
これを勝機と見たロイはスロットルを維持したあと出口で再びまわす
あわてて体勢を立て直すライダーは暴れ馬を抑えようとするも
隙が生まれたことでロイにリードをとられてしまった
ロイは賭けに勝利した

 

「よしっ!」
「何がよしだ、お前無茶するなって言っただろうが!」
オーバーテイクで安堵したロイに出発時の指示を無視したことでイーライから怒鳴りを受ける
「すいません監督、あの状況でじっとしていたら負けると思って・・・」
「ったくお前は、まぁいいそのまま今の順位をキープしろ
 無事に戻って来い今はそれだけだ」
「了解!」
ロイの無茶に怒ったイーライは注意を終えると彼の行動にどこかご満悦のようだ
(ふっ、やるじゃないか)
ロイは監督からお怒りを受けた後最終コーナーを回りホームストレートへ
ピットクルーから現在5位のボードを確認しうなずきを入れて走ってゆく
「ロイ君ガンバ!」「いいぞ坊主その調子だ!」
スタッフが歓喜の声をあげる中デニムはロイの走りを黙して睨んでいた

 

そんな中別チームのライダーがロイに対してターゲットと感じた
(あの新人確かデニムのチームの・・・
 これはやれるかもしれないな、さてデニムお前の相方利用(つかわ)せてもらうぜ)
男は下衆の笑みを浮かべていた

 

ピットに入るラスト一周、ロイは複合コーナーを抜けストレートを走ってゆく
コースサイドにスタッフが青旗(早いマシンが迫ってるという合図)を掲げてるのが見えた
サイドミラーに確認しても、該当のマシンが見えてなかったが
前方に一台周回遅れのマシン、おそらく250クラスだろう
それがわかるとロイは前方のマシンを外側から追い越してゆく
追い越したマシンを見ると、見覚えのカラーリングのマシンであった
(あのマシン、確かオズという人のチームのマシン・・・)
オズの所属するチームのマシンを確認するロイ、すると胸騒ぎが再び起き始めた
(なんだ、追い越したらいやな予感がしてきた・・・
 いったい何か来るのか!?)
胸中の不安を考えると差し迫った最終コーナー入り口を見てブレーキングを仕掛ける
ロイは不安を取り除くかのように曲がるときの速度を普段より-10Km/h前後で曲がる

 

後方の250のマシンのライダーがコーナーをブレーキポイント仕掛けたと同時に
マシンも一緒に倒して曲がってゆく
ところが深く曲げすぎたのかまた雨のせいでもあるかマシンは横に倒れ
ライダーはマシンから落ちコースをすべりゆく、そしてマシンは

ロイにめがけて発射されていった

 

(何今の音!?)
一瞬、何か鉄がもしくは物体が何かにぶつかった音が聞こえたロイはその方向に目をやると
後方の250のマシンが倒れ滑ったままロイに迫ってきた
(・・・うそ!?マシンが!?)
あまりの出来事にロイは驚愕し、何とか回避しようとアクセルを開けるかブレーキをかけようとするも、時既に遅し
マシンはもう一台とぶつかり、250のマシンを覆いかぶさるようにコースアウトへ滑ってゆく
そしてロイはぶつかった衝撃でマシンから落とされ宙に舞い、アスファルトに叩きつけられ
滑りながら外へ放り出されていった
思わぬ事態にイーライをはじめスタッフは驚愕する
「ロイ君が!」「うそだろ?!」
「おいロイ、無事か?応答してくれロイ!?」
スタッフはどよめきはじめ、イーライはロイが無事かを確認するため無線で呼びかける
デニムはこのクラッシュを見て血眼で握りこぶしを作り、口が切れて血が出る
そしてその身に怒りを震わせ、ヘルメット越しだが顔をこわばらせてた
(オズ!お前はどこまでふざけた真似をすれば気が済むんだ
 許さない・・・絶対に許さない!!)
デニムはオズの策略で初陣のロイにターゲットを付け、チームメイトにわざとマシンロケットを
行わせて、リタイアにさせるつもりだというのがわかった
スタッフとデニムはレーンへ向かい次の準備を始めていった

 

(・・・ん・・・・・・僕は・・・)
一瞬の出来事でロイは気を失ってしまった、まだ意識がはっきりしていない状態である
起き上がるロイは辺りを見回すとバイクがコース方向とは逆に倒れているのが見えた
(!そっか、さっき僕は・・・ッ!)
先ほどのクラッシュを思い出したロイは、バイクの方向に走ろうとすると
左腕から激痛が伴いだした
地面に叩きつけられた際左側のほうを強打してしまい動かせるものの、
痛みが大きく走り出しバイクを起こそうとするも、起こせない状態だ
バイクを起こそうとするロイはスタッフの助けもあって、ようやく起こすことができた
問題はエンジンが再動できるかどうかである
モータースポーツのマシンは一度ミスが起こると立て直しにすぐできることがあれば
何らかの影響で動かずじまいということがある
エンジンを再び鳴らすロイ、だが
(クラッシュの影響かエンジンがかからない・・・!頼む・・・動いてくれ!)
いくらキックスタートしようとも心臓が始動しない、マシンが動かないことは
謂わばリタイアである
自分のミスでここで台無しにさせるわけにはいかなく、2回、3回キックをしてゆく
そして、エンジンから振動が体に伝わった
(よし、かかった)
やっとの思いでかかったマシンをゆっくりと動かしコースへ復帰する
『ロイ無事か!?今戻れるか?』
イーライからの通信が入りロイは状況を報告する
「マシンのほうは立ち直りましたが、どうかまだわからないです
 これからピットに戻って状態の確認をお願いします
 それから・・・左側を打ってしまったので交代もお願いします」
『わかった、とりあえずピットへ戻ってマシンの状態を確認する
 それから応急処置も行う、今はただそれだけだ』
「わかりました、今戻ります」
監督の指示ををうけロイは悔しさを押し殺しながら返答をする
自分が無茶をしなければこんなことにならなかったのか、そう思いながらピットに入っていった
「ロイ君大丈夫か?」「痛いところはない?」
「直ちに応急処置を、マシンチェックも行うぞ」
スタッフがそれぞれロイ左肩の応急処置、マシンのダメージチェックならびに
給油、タイヤ交換を行う

 

「すいません皆さん、僕のミスでこんなことがおきてしまって」
「気に病む必要はない、ロイはロイなりにやろうとしてたから
 まさかあんなことが起きたら誰も予測がつかないさ」
「・・・」
ロイの応急処置を済ませたスタッフは先ほどの自体のことで気に病んだロイをなだめようとする
だがロイは沈黙してゆくのみだ
デニムは先ほどの事態で苛立ちを隠していけず、足踏みをはじめてゆく
彼是チェックをして10分は経過しており、現在8位に降下されてるのだ
一刻の猶予を争う大勝負にて、大幅なロスで苛立ちと焦りが募っていく
「いつまで待たせるんだよ!もう10分は経過してるんだ!」
「もう少しで出せます!今最終チェックを行ってます」
「・・・くぅっ!」
ついには苛立ちを口に出していった、最早なだめても逆効果な状態である
傍らで見るロイはデニムの苛立ちを納得するだけだ
他のクラスのライダーに指示を出しながらイーライはただ傍らでデニムを見てゆく
「チェック終了、行けます!」
「・・・遅いぞ!」
ようやくチェックが終わりデニムはピットを後にしようとする
「デニム今チェックが終わったがマシンに無茶はさせるなよ、いいな」
「・・・」
「デニム」
「・・・了解です」
デニムは怒りを振るわせながら促していき、コースへ復帰した
レーンを出た後デニムは今までの怒りを糧にしながらマシンを走らせて行く
ロイはその様子をただ見つめるだけでしかなかった
(デニムさん・・・すいません)
そしてただただデニムに懺悔することしか今はできなかった

 

そして1時間後
「5,4,3,2,1、レース終了!」
アナウンスの合図とともにレースは終了した
結果ロイ達のチームは、1000クラス7位、250クラス5位そして
600クラスは辛うじて13位に入った
あのあとデニムはマシンの80%前後をキープしながら走ったが後方より迫ってきたマシンに
譲らざるを得なくなり、また14、15位のマシンが見えたとき
残りの全力を出し切りながら逃げるしかなかった
最早限界に近い形で走行させて辛うじて切符を手に入れることができた
だがピットに戻るときにスローダウンが起きた
どうやらマシンが限界を迎えたのだ、あと1、2分耐えれなかったらもしかしたら
切符を手に入れなかったのかもしれなかった

 

スタッフやライダーは全員本選に出場できたことに安堵するも
ロイとデニムは納得のいかない結果になった
たとえ予選であっても常に堂々と全力で走りこむのが大事である
そのことを胸に秘めながらロイ達は後片付けに入った
表彰式を迎えてる他チームを憧憬のまなざしで見るロイ
そこには喜びを分かち合い、笑顔で満ち溢れていた
『いつか自分もあの場所に立ちたい』という思いである
だが、自分がプロになれるかどうかはわからない
まだ中学生でもあるロイはこれからの進路がさまざま、行くか行かないかまだ未知である

 

後片付けを済ませる中ロイはデニムが居ないことに気がついた
もしやと思い他スタッフに伝えデニムを探しゆく
逸る心を抑えられなくなったのかと思いながら探してると、物の数分でデニムが見つかった
そこにはオズとその取り巻きも一緒だった
悪い予感が的中したロイ、その様子はまさに一触即発の状態であるのがわかった
ロイは物陰に隠れて彼らの様子を伺おうとする
「お前ふざけんなよ!あんなことをした事をしらばっくれるつもりか!?」
「さてな、何のことやら?」
「ロイに向かってロケットを指示したのだろ、お前のことだ何かするかと思ったら
 ここまで卑怯な真似をするとはな!」
デニムの怒りは頂点に達しており、一歩間違えれば手出しかねない状態だ
対するオズはその事を一向に知らぬ存ぜぬの一点張りである
握りこぶしを震わせながらデニムはそれでも手を出さず言及してゆく
「ふん、あんなの気づかないやつが悪いのさ。俺達は一向に知らないし
 むしろミスしたのが馬鹿なのさ」
自分たちのしでかしたことを単なるミスだといい、相手がミスしたのを一方的に罵りゆく
ロイは自分のミスを理解してる、また心の中で自分が馬鹿にされてるのは構わないが
ましてや仲間が馬鹿にすることは聞き捨てならなかった
心の中で怒りを抑えて状況を見るロイ、だがデニムは我慢ならずオズたちに手を出そうとした
だが、またしても取り巻きによって身を拘束され下種の笑みで挑発してゆく
「テメェら・・・ッ」
「デニム君熱くなりすぎぃ〜」「ホントたかが予選でムキになって」「かっこ悪いねぇ〜」
最早流血沙汰になっても構わないと思ったデニム、振りほどいて一発でも殴ろうと
そんな怒りが彼の中でふつふつと湧き上がってきた、右手の握りこぶしが震えているの見え
さすがにこれはまずいと思ったロイは飛び出してデニムをとめようとした
「デニムさん、どこに行ったのですか?探しましたよ」
「・・・ロイ」
わざとらしく言葉掛けをするロイ、オズの取り巻きも第三者が来たことで放していった
「一体どうしたのですか?なんかそちらの方と何か・・・」
「何でもねぇよ・・・」
前日と同じくぶっきらぼうにしゃべりデニムはその場を後にする
「あ、デニムさん待ってください」
ロイもデニムのあとを追いかけようとしてその場を立ち去ろうとする

 

「お前確か昨日あった・・・誰だったかなぁ?」
それをさえぎったのはオズの言葉であった、ロイは後ろに振り返り彼らと面を向かう
「誰だったっけ・・・ロ・・・ロ・・・ロム?」「ロンじゃねぇ?」「ロキかも?」
デニムが居ない時でもロイに対してわざと名前を間違えて挑発を繰り出してゆく
この人たちのデニムへの嘲笑は聞くに堪えれないが、それでも表に出さずにいる
「ロイです、それでは」
呆れながらも自分の名前を名乗ったあと、その場を後しようとする
「あぁそうだったそれそれ、後ロダン君『奇跡の』決勝参戦おめでとう
 決勝で合えること楽しみにしてるね」
帰ろうとするロイに対してダメ押しの挑発を繰り出すオズ
これでもかと言う位の勝者の挑発はロイの耳につんざくぐらいのものだった
ロイは唇をかみ締めながらチームのところへ戻っていった

 

チームパドックのトレーラーにデニムは佇んでいた
ただその背中にはいろいろなものを背負っている漢字でもあった
ロイはその彼の後姿を見て気の毒に思い声をかける、
「デニムさん、大丈夫ですか?」
声が聞こえたのかデニムはロイのほうに睨みをかけた、その目は赤く怒りと悲しみに満ちており
今にも目頭が熱くなる感じであった、心中を察するロイは彼の気持ちを落ち着かせようとする
「・・・お前悔しくないのかよ?」
「デニムさん・・・」
「あんなことされて悔しくないのかよ?!どうなんだ!」
予選での出来事で頭にきてるデニム、まさしく彼の言うとおり悔しい思いでいっぱいだ
しかし今回のことで嘆いてばかりではいられないと思いロイは話しかける
「確かにあんなことがあって悔しいですよ。
 もちろん自分が最悪の事態に気づかなかったことにも非はあります。
 でも僕が言うのも何なのですが、その悔しさを糧にしないと
 決勝勝てるに勝てないと思います。だから・・・」
自分はプロではないため言える立場ではないのだが
過去の経験上大乱闘に参戦したロイにとってその言葉を口に出そうと
次の決勝で勝って彼らに見せてあげようと言おうとした
しかしそれが逆に彼の神経を逆撫でになってしまった
「・・・あぁそうだな、全部あんたのせいなんだよ!!」
「デニムさん!?」
デニムの怒りが頂点に達したか、彼の怒りはロイに咆哮を向けた
そしてチームのスタッフや他ライダーもデニムの声が聞こえたか、次々と集まっていく

 

デニムは怒りや憎しみをロイにぶつけ今回の結果を、ロイの責任であることと奴当たる
悔しくて悔しくてたまらないデニムは彼らに怒りぶつけられず、ロイにぶつけていく
スタッフやライダーはその怒りを止めれずただ見ることしかできなかったが
ロイは彼の状態を察しなだめようとする
「あんたが出なければ俺はあいつらに勝てたかもしれなかったんだ!
 イーライの誘いに乗っからなければこんなことにならなかったんだ!
 俺一人で十分だったのに、あんたが参戦したことで狂っちまったんだよ!
 全部あんたのせいなんだよ!!」
しかしかえって収まらず彼の怒りの咆哮から感じる悲しみ
目に浮かぶ涙にロイは目に焼き付けてゆく
「デニムさん、そんな言い方は・・・」
「黙れぇッ!」
「!!」
ロイはそれでもデニムの怒りをとめようとするが、彼の怒りは止まらなかった
そしてついにはデニムの握りこぶしがロイの左頬に食い込んでいった
頬に伝わる鈍い音と鋭い痛み、ロイは揺れながらも踏みとどまってゆく
周りのスタッフはロイが殴られる瞬間を見て驚愕した
監督のイーライもその様子を見ており、チーム全体に沈黙が走った
デニムの怒りはいまだに消えず呼吸も荒くなっている
「・・・おまえに、お前に何がわかるって言うんだ!
 才能に恵まれてるお前に一体何がわかるって言うんだ!」
かれ枯れの涙声でさけぶデニムはチームのキャンプカーに入っていく
一同が沈黙していきスタッフはロイに声をかけてゆき、デニムと話したりする
いまだに肩の痛みが残るロイは逆の手で赤くなった頬を触ってゆく
彼の怒りと悲しみが今もまだそこに残ってゆく感触がある
(わかるからこそ言いたかったが、あの状態じゃ逆効果だった
 それに”恵まれてるやつか”・・・)
ロイはこのときとある少女のことを思い出した、学友でありながら
貧しさゆえに盗賊行為を繰り返し、引きとめようとしても逆効果になり
ついには居場所を見つけた、狐色の髪をした女の子を

 

(・・・ほんと、あの時の怒りが今の焦りになっていくなんて
 だけどもう時間もあと少ししかない・・・)
現在に戻り、予選のことを思い出すロイ
サーキットのタイムを見て、カメラに写った走りを再確認する
レースまで最早1ヶ月切っており、ロイは着実に成果を伸ばそうとしてゆくも
彼にとって今のタイムは出来てないものである
そのためにも練習に練習を重ねてゆく

 

(さてと今日はここまでにして、昼どこかへ食べに行こう)
タイムを確認しロイはピットにて片付け作業に取り掛かっていく
このときも予選のことを思い出した
(レースが終わってあの後は少しショックがきたよ・・・)
予選が終わった後ロイは、イーライから病院へ連れて行き左肩の検査をする
特に異常はなかったが1週間は激しい運動を禁ずるといわれ
一週間体育の授業を休まざるを得なかった
イーライから暫くはマシンやチーム等の調整に入るからお誘い(スポーツ走行等の)は
ないと言われ、一人で練習をせざる得なかった

 

先人が居ないと自分の走りを第三者の視点で観測できないのが痛恨である
また家族や学友、心配をかけてしまったことも
特に長兄のシグルド、次女のエリンシアから帰宅後に説教を受けてしまったのだ
そして学友のチャドやアルにからかわれたことも
今となっては苦い思いでだが、ロイはいい経験になったと思ってゆく
(そういえば、雑誌の新刊も出てるかもしれないから今日はアンナのデパートにしよう)
片づけを終えた後ロイはサーキットを後にする
雨がいまだに続く露の昼、少年はデパートへ向けて駆けていった

 

若獅子の屈辱 後編 了