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Last-modified: 2017-08-07 (月) 07:48:05

紋章町の夜――そこには日中企業戦士として戦いを終えたサラリーマン達が解放される大人の世界。
今日もまた、多くの男女がその闇夜へと吸い込まれていく。
アレク「お疲れ様で〜す」
ノイッシュ「お疲れ様っす!あー、今日も働いた働いた〜」
シグルド「うむ、皆よく頑張ってくれた。おかげで残業もあまり出せずに済んだな。」
アレク「んじゃ、ということで!仕事終わりの一杯行きますか?」(クイクイ)
アーダン「どうです?シグルド様も一杯。」
シグルド「……すまないが、ラケシスが待っているので私は先に帰らせてもらうよ。今日は早く帰ると約束していたのでね。」
ノイッシュ「くう〜、所帯持ちはこれだから!憎いですね〜!」
アレク「奥さん待たせてるんじゃ仕方ないですね。んじゃ、独り身は寂しく三人で飲みに行きますかねー。」
アーダン「……」
ノイッシュ「どうしたよ、アーダン。グズグズしてないで行くぞ!」
アーダン「……ん、ちょっと気が変わっちまった。今日は一人で飲みたいから二人で行ってきてくれよ。」(クルッ)
アレク「何だ、付き合い悪いな〜。」
ノイッシュ「まま、いいじゃないか。折角二人なんだ、これからかわいいお姉さんに癒されにキャバクラつ(ブラムセル)にでも行こうぜ。」(コソッ)
アレク「お、いいねえ。」(ニヤ)

 

アーダン「シグルド様も所帯を持たれて随分落ち着かれたなあ……結婚か。今の今まで女性に一切縁のなかった俺には無縁だな……」
少々感傷に浸りながら、アーダンはこっそりと行きつけにしている居酒屋へと立ち寄った。そこはラルゴとカリルの夫婦が経営する店。年齢・性別・種族を問わない温かく居心地のよいこの店はいつも多くの人で賑わっている。
明々と店内から溢れる明かりと、客の賑やかな話し声を暖簾に戸をくぐると、女将のカリルが元気のいい笑顔で迎えてくれる。どことなく家に帰ってきたかのような安心感を与える迎え方は、アーダンもだが他の客達に仕事に疲れた心を癒してくれる。
カリル「おや、アーダン。今珍しいね。今日は一人なのかい?」
アーダン「ま、そういう気分の時だってありますよ。」
カリル「そうかい。おかげさまで騒がしいけど、ゆっくりしてっておくれ。いつものでいいかい?」
アーダンが頷くと、カリルは厨房を仕切っている夫の元へと向かっていく。空いているカウンターの席にどっかり腰を下ろすと、酒とつまみが来るまでアーダンは他の客の話に耳を傾ける。この居酒屋には様々な人が来る。
この店がを気に入っているのは美味い酒と料理もそうだが、様々な種の人の人生の切れ端をしがむのもアーダンの楽しみであった。

 

ティバーン(グビグビプハッ)「……お代り……////」
ヤナフ「ちょ、ウィスキー10杯目とか流石に飲みすぎっすよ〜王、自重してくださいよ〜。」
ティバーン「うるせえ!これが飲まずにやってられっか!!////」(ヒック)
リュシオン「そうだぞヤナフ!仕事の終わりに酒を煽らないと毎日やってられるか!」(オレンジジュースチューチュー)
ウルキ「……オレンジジュースをチューチューしながら言われても……」
ネサラ「つーか、アレだろ。荒れてんのは仕事のことじゃなくて女のことだろ、面倒くせーな。」(ビールグビグビ)
ヤナフ「あっ(察し)」
ティバーン(グビグビ)「……俺だって……男なんだぞ……!!向こうが好きなだけKINNNIKUペロペロすんならこっちだってOPPAI好きなだけprprしてえわ!バッキャロウ!!////」(ドンッ!)
ネサラ「あんま大きい声で言うなっつーの!ったく鷹はこれだから品がないねえ〜。」
リュシオン「というか、そこは無理矢理押(prpr)しちゃえばいいではありませんか。貴方らしくない。」
ティバーン「……らめなんら……エリンシアの世間知らずそうな無邪気な(鼻血ボタボタの)顔で『ペロペロさせてくださいまし』って言われたらことわれないんら……れも、俺らって……エリンシアのイイOPPAIでいっぱいチュパチュパ色々したいんら////」(ヒック)
ウルキ「……い、意外と純情なんですね……」(……願望はものすごーく邪だが……)
ネサラ「誰得www」

 

ヤナフ「ケッ、王は女持ちの癖に贅沢なんすよ、贅沢。こっちは知らないうちに目当ての女がとっくに人のもんになってたってのに……」(ブツブツ)
ウルキ「……情報……遅すぎやしないか?」
ヤナフ「るせー!!色々忙しくて知らなかったんだっつーの!!何だよ!!アイクの野郎だけズルイぞあんなにいっぱい!!」(バンバン!)
リュシオン「千里眼www」
ヤナフ「ホント、鷺とかマジで絶滅すればいいのに。」(真顔)
ネサラ「つーか、そんなにアレなら別れりゃいーだろ、ベオクの女なんかよー。元はといえば向こうから猛烈に迫ってきたんだろ?」
ティバーン「……うう……それれもらいしゅきなんら……ほんろは、あいちゅがガキんちょの頃に『お兄ちゃんのおよめさんにしてください』って言われたときから、俺はずっーと待ってたんら……////」(ヒック)
ヤナフ「えっマジで」
リュシオン「」
ウルキ「……い、意外な一面だなこれは……」
ネサラ「ヒエッwwwティバーンのやつ泥酔するとこうなんのかwwwこれは脅迫用に録音しとけばよかったわwww」
ティバーン「俺は……俺はエリンシアとふつうにチュッコラしたいらけなんらあ〜!////」(おろろろろーん)

 

カリル「ちょっと、いくらお得意様だからってうちで潰れないでおくれよ!……もう、すまないねえ。うちはいっつもうるさくって。」
アーダン「いや、それもここの味ですから。それが気に入ってるんで。」(……ふう、ラクズの人も恋愛面では色々と苦労してるんだなあ……)
やって来た通しの野菜の浅漬けに舌鼓を打ちつつアーダンはビールを煽る。炭酸の粒が胃に染みこむ感じが心地良い。ビールの後に、ラルゴお勧めの本日の料理と共にお気に入りのグランベルの地酒をちびちびやる。
そうして、他の客たちの話もところどころつまんでいく。うちの隊長が一向に振り向いてくれないとか、相手と自分に恋の自覚はあるもののなかなか進展しないだとか。
今日は妙に恋愛の話が多い。だがそれで悲観はしない。いいのだ。自分には、自分のペースがあるのだ。固い遅いと言われながらも今まで真面目に、コツコツとやってきた。のんびりかまえていればいい―――

 

???「一人だけど、お席空いてる?」
カリル「カウンターしか空いてないけど、いいかい?」
???「ええ。すみません。お隣いいかしら。」
アーダンがふっと視線を向けると、そこには美しい聡明そうな女性が微笑んでいた。どこかで見たことがある人だ。確かいつかどこかのバーで会った、教師をしているという……
セシリア「あら、お久しぶりですね。確か……」
アーダン「あ、覚えててくれたんですかグランベル商社で事務やってる、アーダンです。ええと、以前しっこくさんのお店で会った……」
セシリア「セシリアです。どうも。」
アーダン「お一人で?」
セシリア「ええ。女性が一人で居酒屋に来るのはいけないかしら。」(クスッ)
アーダン「とんでもない。ここ、初めてですか?」
セシリア「ええ。ふふふ、もしよかったらおすすめとか……教えてくださる?」
アーダン「任せてくださいよ、こんなゴツむさい男のお勧めでよければ。」(フフッ)

 

セシリア「このお店、よく来られるんですか?」
アーダン「……ええ、まあ……一人で来たい時によく。」
セシリア「あら、だったらお邪魔だったかしら?」
アーダン「とんでもない!貴女みたいな美人な人と話せるなんて、俺にとっちゃ天の恵みですよ。……最近ね、色々と思うことが溜まってましたけど、セシリアさんと会えたことで全部チャラになっちゃいましたよ。なんてね。」(ハハハ)
セシリア「お上手ね。……そうね、なんだか私も……色々と疲れちゃって。」
アーダン「教師って、大変な仕事ですもんね。人を導く仕事ってのは……凄いと思いますよ。」
セシリア「あら、私からすれば会社員の人の方が大変だわ。」
アーダン「そうですかね。……あっ、悩みとかあれば、聞きますよ。俺、耐久だけはいっちょ前ですから。」(ハハハ)
セシリア「フフフ、アーダンさんって、結構面白い方ね。外見だけ見てると、すごく固くて怖い人かなって思ってたわ。」(クスクス)
アーダン「固いは当たってますね。怖いも……当たってるかな、俺ってグランベルじゃコワモテですっごい浮いてますからね〜。この前なんか……」

 

それから、不思議と二人の会話は弾んだ。仕事の愚痴から、他愛のないことまで色々と―――
途中で酔いが冷めたでっかい鷹のオッサンが、泥酔時のセリフを完コピして再生してきたちっさい鷹のオッサンをブッ飛ばしてたが気にしなかった。

 

セシリア「……あら、やあね。もうこんな時間だわ。帰らないと。」
アーダン「よければ、送っていきましょうか?」
セシリア「お生憎様だけど、暴漢を倒せるぐらいには腕はありましてよ、私。」(クスクス)
アーダン「これは失礼しました。」(ハハハ)
セシリア「では失礼するわ。夜道の護衛は頼まないけれど……」
アーダン「ん?」

 

セシリア「このお店のメニューのエスコートは、またお願いしてもいいかしら?」
アーダン「ええ、是非喜んで。」
脈ありとか、脈なしとかそういうものではなく、また彼女と一緒にこの店で飲めるということが素直に嬉しい。
人生、待ちの選択肢もある―――アーダンはほんの少しだけ、気分を明るくしながら家路に着いたのだった。