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Last-modified: 2017-09-27 (水) 01:32:40

アイーダ「アルヴィス様、次期社長就任、おめでとうございます」
アルヴィス「アイーダ、いくらなんでも逸りすぎだ、まだディアドラとの結婚が決まっただけだぞ」
アイーダ「ですが現社長の一人娘である彼女と結婚すれば直系の男子は貴方に、そして貴方の優秀さなら後継者指名は容易です」
アルヴィス「そう言ってくれるのは嬉しいし私自身も勿論その地位を狙っている。
      だが私は所詮1人での力は限界がある」
アイーダ「ですが……」
アルヴィス「私1人では難しい、だが優秀な味方がいれば、その目標は近くなる………アイーダ、お前の様なな……」
アイーダ「アルヴィス様……」
アルヴィス「アイーダ、これからも公私ともに私を支えてくれ、君も彼女と共に、愛することを誓おう」
アイーダ「アルヴィス様……ありがとうございます、私は、永遠に貴方と共に……」
アルヴィス「ありがとう、お前が居てくれれば私の未来は更に磐石になる」
アイーダ「ありがとうございます、差し当たりまして、此れからを思うのですが」
アルヴィス「何だ?」
アイーダ「今後において、あの男、シグルド係長を解雇……或いは僻地に左遷し追放いたせませんか?」
アルヴィス「……何故だ?」
アイーダ「はっきりと言って無能だからです、仕事はそこそこですが頭が古く特にPC関係に非常に弱い
     最近は無くなりましたが持病だか知りませんが仕事を放り出す事もありました。
     人柄は良いかも知れませんがそんなもの仕事に置いては役に立ちません、それにそんな男の元で彼より優秀な社員達が……」
アルヴィス「そこまでにしておけ」
アイーダ「アルヴィス様……」
アルヴィス「確かに能力は高いとは言えない、部下達の方が優秀かもしれん。
      だがあいつだからこそ部下も慕っているんだ。それは理解してやれ」
アイーダ「解りました……」

 

ディアドラ「アルヴィス様、アイーダさん、ここにいましたか」
アルヴィス「ああ、ディアドラ、なんだい?」
ディアドラ「お父様がお呼びです、社長室に」
アルヴィス「クルト社長が?」
アイーダ「何でしょう?」

 

社長室

 

クルト「アルヴィス課長、アイーダ課長、よく来てくれた」
アルヴィス「はい、どのような御用でしょうか?」
クルト「あまり固くならないでくれ、まもなく義息子になるのだ。
    それはともかく、今後君は私の後を継ぎ、このグランベル社の社長となるのは濃厚だ。
     その為にも、私に関わる人々にも、君の顔を覚えて貰おうと思ってね、今来てもらっているんだ」
アルヴィス「承知致しました、お会い致します」
クルト「解った、こちらへ来てくれ」

 

 そしてクルトに通された部屋で待っていた相手、銀の髪をした彼女ははっきり言って若い……と言うよりまだ学生と言える少女だった。
 彼女を見ると過去に会ったアルヴィスは驚愕し顔を知らなかったアイーダは眉を顰め、ディアドラはニコニコとしていた。

 

カムイ「カムイと言います、よろしくお願いしますね」つ 名刺
アルヴィス「グランベル社総務課課長アルヴィスと申します、その節はお世話になりました」
アイーダ「あ……あのカムイグループの総帥!? あ……アイーダと申します!!」
ディアドラ「カムイさん、お久しぶりです」

 

 かつて人材運用の面で注意された経験からやや固い挨拶となるアルヴィス、取引先ながら社長の顔まで知らなかったのか驚愕するアイーダ。
 父との交流の最中彼女とも交流があったらしく笑顔で応対するディアドラと反応は三者三様であった。

 

クルト「彼女はまだ若いが数年前に起業したカムイグループをあそこまで発展させた才媛でね、プライベートでも関わることも多いんだ、娘、ディアドラもね」
カムイ「今後のグランベルとも良い関係を築きたいですし、交流を図りたいですね」

 

 それから、後継者として今後の会社方針等を話し合った、そして話が終わりに近づいた頃……

 

カムイ「そう言えば、こちらで働いている兄はどうでしょうか?」
アルヴィス「兄……ですか……」

 

 その言葉に少し固い表情で答えるアルヴィス、誰の事だろうかと思案するアイーダ、笑顔のディアドラを見て。

 

カムイ「ええ、貴社で働かせていただいていますシグルドなんですが」
アイーダ「!!!!!」

 

 それを知っていたアルヴィスとディアドラは驚か無かったがアイーダは非常に驚く、まさか少し前に話題にした相手が目の前の大口の取引先社長の兄だったとは。
 それ故恐怖する、彼の仕事の能率が悪いのは確かだが実際は愛するアルヴィスの対抗派閥故に必要以上に辛く当たっていたことに自覚があるからだ。
 どのように答えるのか、じっと思案するアルヴィスを見る。

 

アルヴィス「………彼は、仕事の能力は悪くありませんが……要領が良くないですね

アイーダ「!!!!!」

 

 驚愕した様子で彼を見る、確かに仕事の要領よく良くないのは事実だが、それをはっきりと言ってしまって、相手の機嫌を損ねたら……だが話し合いは続く。

 

アルヴィス「以前よりかなりましになりましたがアレルギーの影響でKINSINを感じると集中力が無くなりますし、それに人が良すぎる面もどうかと思います」
カムイ「……………」
アルヴィス「………しかしだからといって無能と言うわけでもありません、回りに助けられてもいますがそこそこ業績は出ていますし、何より彼の人柄です、その人柄を彼の部下は慕っていますし外部に置いても彼の人となりを好意的に観てくれる人がいます」
カムイ「クスッ、しっかり見ててくれるんですね。でも随分遠慮なく言いましたね、お兄ちゃんをキツく言われて、怒らないと思わなかったんですか?」
アルヴィス「以前お会いした際、貴女が仕事に真剣に向き合っており、公私混同はしない方と知っていましたので、それに家族を愛している方だからこそ、美辞麗句だけ述べるわけにはいかないと思った次第です。
      そして彼にたいしては、そうですね、学生時代からの腐れ縁ですかな、色々見てきました」
カムイ「ふふ、流石、クルトさんの言うように優秀な方ですね。
    アルヴィスさんは既にお2人のお嫁さんを迎えるそうで、せっかくなので私ともどうですか?」
『!!!!!』
アルヴィス「し、しかし……」
カムイ「ああ、私も女帝と呼ばれる程多くのお婿さんがいますから気にしませんし、私が気に入らなければ形だけでも、私と貴方、並びにその会社が結婚を通じ強く繋がれば、この紋章町財界において早々太刀打ちできないほどの磐石な位置にたてると思いませんか?」
アルヴィス「……………」
アイーダ「アルヴィス様……私は……」
アルヴィス「せっかくですが、お断り致します」
アイーダ「!」
カムイ「あら、私ではご不満ですか?」
アルヴィス「いいえ、貴方は優秀ですし素晴らしい女性ですし、その地位も魅力的でしょうな。
      ですが、貴女に言われて気付かせて頂きました、私は、彼女達を愛していますし、それを易々と裏切りたくありません」
カムイ「ふふふ、ノロケられちゃいましたね、とても良いお話が出来ました。
    今後とも良いお付き合いが出来ることを祈っています」

 

アイーダ「アルヴィス様……」
アルヴィス「確かに彼女と婚姻を結んでいれば私の立場は磐石だろう、だが……やはり許せなかった。
      君を、そしてディアドラをこんな形で差し置いて他の結婚相手を作るなんて……
      皮肉なものだな、あいつに、ビジネスの世界では愛など捨て置くべきだと言っておいて」
アイーダ「アルヴィス様……確かに貴方は一大のチャンスを逃したかも知れません……ですが、私は嬉しいです」
アルヴィス「アイーダ……」
アイーダ「私は確信しています、彼女と結ばなくても、貴方なら、必ず、上に昇れます、その為に私も、一生支えますから」
アルヴィス「………ありがとう、必ず、君を連れて行って見せる」
ディアドラ「あの……アルヴィス様……」
アルヴィス「い、すまない、ディアドラ、君も愛するし、大切にするよ」
ディアドラ「その……それは嬉しいのですが……お父様が……」
アルヴィス「へ?」
クルト「あー、すまん、夫婦仲の良い場面で申し訳無いのだが、会って欲しい人間はまだまだいるんだ」
アルヴィス「は?」

 

 それから……彼ら3人はもう1つの大口取引先、ベグニオン社の社長サナキ(義妹)、筆頭株主マンフロイとその孫娘サラ(義妹とその祖父)、協賛する白夜相撲のスターでありディアドラもファンの横綱ヘクトル(実弟)、社に置ける一番の売れ筋商品「Eドリンク」の開発元であるグラド研究所の開発主任リオン(義弟)、社内食堂に置ける農畜産物の契約農家代表アルム(実弟)等etc...
 立場は大小様々、しかし、決してどれ1つとして欠かすことの出来ない立場の人々が実はシグルドの関係者達が殆どであることが判明し、アルヴィスは心身共に疲労困憊し、アイーダは魂が抜けた様子で、ディアドラは終始笑顔だった。(ヘクトルと会った際はキラキラしていた)

 

 後日、どうしても気になった2人(というかアイーダ)はディアドラに協力してもらいシグルドから聞き出した。

 

『どうしてあれだけ強力なコネがあるのに活用しないのか?』

 

 その回答はこうだった。

 

シグルド「それらのコネはそれぞれみんなのものだろう?
     実力でのしあがったにしてもそんな良い相手を射止めたのもそれら兄弟の力で私の物じゃない。
     私の出世の為に、兄弟を利用したくないし無理に上まで出世しなくても私は愛するラケシスといずれ産まれるだろう彼女との子がそこそこ良い暮らしができれば十分さ」

 

 その答えと人の良さにアイーダは呆れアルヴィスは苦笑した。
 だが同時に感謝すべき事なのだろうと気がつく、もし彼にそこまでの野心があったのなら今の立場は彼の物になっていただろうから。

 

 それから、2人はシグルドに対し、仕事のミスに関しては厳しく叱責するが理不尽な当たり、嫌みは抑える様にした事でシグルドの職場での負担が少しだけ小さくなった。

 

終わり