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Last-modified: 2017-10-15 (日) 22:24:45

歯車に 雷落ちて モーターに

 

モーターにはコイルとか磁石とかが必要? 細かいことは気にしない!
高速回転で押し進める! 自重は無い!

 
 

ティルテュ「フィーンーッ!!」
フィン「ティルテュ!?」
ティルテュ「フィンー! フィンフィンフィンフィーンーッッ!!!」
フィン「えーっと、ティルテュ、状況の説明……は、無理そうだから、申し訳ないが、頼めるかな、アーサー、ティニー」
アーサー「……そうですね」
ティニー「はい、お話させていただきますね……父様」
フィン「っ!? ……いや、そうか……。知ったんだね」
ティルテュ「ふぃん〜」
フィン「うん、ティルテュ、抱きついたままで良いから、少し静かにしていてくれるかい?」
ティルテュ「フィンフィン?」
フィン「ああ、離れろなんて言わないから」
ティルテュ「フィン!」
アーサー「すげぇ、会話が成立してる」
ティニー「やっぱり、父様が私たちの父様なんですね」
フィン「そこで判断されてもね……。一先ず、このままだと、喫茶店で話を、という訳にもいかないだろう。私の家に来てもらえるかい?」
アーサー「まあ……そういうことなら……」

 

  一行、レンスターへ

 

ティルテュ「フィンの家だー! 久しぶりー!」
フィン「狭いところですまないな」
ティニー「あ、いえ、お気になさらず」
アーサー「母さん……即行で寝室に行っちまったぞ……」
フィン「ティルテュはしばらく寝ていると思うから、こっちはこっちで話をしようか……と言っても、何から話すかな……」
ティニー「では……ヒルダおば様からの伝言を……」
フィン「…………頼む」
ティニー「ティルテュ母様については、父様に任せる、と」
アーサー「俺とティニーは、フリージに残るように言われた」
フィン「そうか……分かった。ティルテュのことは、私が責任を持つ」
ティニー「……父様は、母様を愛しておられるのですね……」
フィン「そうだね。君たちからすれば、捨てたくせに何を、と思うだろうが、私は今も昔も、彼女と君たちを愛している」
アーサー「……っ、だったら! どうして……!」
ティニー「父様にとって、それほどまでにフリージは受け入れ難かったのですか?」
フィン「……私がそういう対象に描かれるだけであれば、目を瞑ることはできた。
    トラバントだろうとロプトマージだろうと、好きに描いて構わない」
ティニー「トラバント×フィン……鬼畜調教すれ違い純愛……湧きました」
アーサー「今ちょっと自重しようか?」
フィン「しかし、私が語った主君との思い出を、そういったモノとして描かれることだけは……絶対に認められなかった」
アーサー「……その結果、俺たちを捨てることになっても、か」
フィン「そうだ。だから、アーサーが私を父親と認めないなら、それはアーサーの自由だ」
ティニー「兄様……? そうなんですか?」
アーサー「…………俺は、父親が誰なのか、知っていた」
ティニー「え!?」
フィン「やはりか……占い屋かい?」
アーサー「ああ。だけど、あんたが名乗り出ないなら、母さんとティニーがあんたに会いに行くなんて言わなきゃ、来るつもりはなかったよ」
ティニー「兄様……」
フィン「……私に育てられた覚えはない、と思うだろうが、母と妹を大切にする男になってくれて、嬉しく思うよ」
アーサー「…………ふん……」
ティニー「……父様……私、父様のお話が聞きたいです。母様と出会った時のことや、今日までのことを……」
フィン「……ああ。私も、君たち……いや、お前たちがこれまでどう過ごしてきたのか、聞きたい」
アーサー「…………そのくらいなら、な」
ティニー「はい……! たくさん、お話しましょう……!」

 

「ふわぁ……おはよぉ……」
「もう夕飯の時間だよ、ティルテュ」
 とっくに日が沈み、辺りが暗くなった頃、少女ーーにしか見えない二児の母が、ようやく起き出した。
「アーサーとティニーは?」
「フリージに帰ったよ。あの子たちは、フリージ家の者だからね」
「そっか……ねえ、フィン?」
 ベッドから上体を起こしたティルテュがフィンの腕を引き、その頭を胸に抱き締める。
「寂しかったら、泣いて良いんだよ?」
 慈愛に満ちたその表情は、さながら聖母のように。
「……寂しいはずがない。初めてあの子たちと、親子として会話できて、今こうしてティルテュと一緒に居る」
「でも、あの子たちはこっちに残れなかった……やっと会えたのに……ごめんね……」
「…………ティルテュが謝ることじゃない」
「うん……それでも、ごめん……」
 言葉は少なく、ただ抱き合うだけの時間が、十五年間の二人の空白に染み渡る。

 
 

「……温め直したが、やはり出来立ての方が良かったかな」
「んー! それでも美味しーよ! フィンって料理もできるんだね!」
「独り暮らしの手慰みだよ」
「美味しいから何でもオーケー!」
 ずっと独りだった食卓に、十五年ぶりに、二人の声が響く。
「あ、でも……今度から、フィンが仕事の日は私が作らなきゃなんだ……練習しよ……」
「今まで自分で作っていたから、二人分作るだけなら私が……」
「ダメダメ! 私はフィンの奥さんなんだから! ね!」
「……そうだね……お願いしようかな」
「よーし! がんばるよー!」

 

 氷を溶かした歯車は、雷を帯びて、勢い良く回る回る。

 

「あ、そうだ! ご飯作りも大事だけど、せっかくまた一緒に居られるんだから、三人目の子供も作りたい!」
「ブハッ!?」
「食べ終わったら、コンビニでEドリンクっていうの買いに行こ!」
「…………ああうん……こうなったティルテュは止められない、か……」

 

 停滞も空白も巻き込んで、超高速で回り出す。