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Last-modified: 2017-10-20 (金) 22:00:11

アイラ「ふぅ……」

 

 今日の仕込みは完了したし店内の掃除も完璧、割り箸や胡椒等の補充も完了した。
 午前11時、早目の昼食を求める人々が動き始めるこの時間帯、暖簾を揚げ我が店、流星軒は開店する。

 

 今日は休日故に開店後そこそこ客が入る、また普段ならこの時間だとサラリーマン等だが今日はカップルや家族連れが多い、そんな中やって来たのが。

 

シグルド「失礼するよ、席は空いているかな?」
ラケシス「お久しぶりです、アイラ」
アイラ「ああ、シグルド殿、ラケシス、久しぶりだな。カウンターになるが構わないか?」
ラケシス「ええ」
シグルド「すまないな」
アイラ「それにしても夫妻で来るなんて珍しいな、突然どうしたんだ?」
シグルド「どうしたと言っても今日は久しぶりにデートだったんだよ。
     それでこの店の事を話したらラケシスが行きたいと言ってな」
アイラ「そうだったのか」
ラケシス「アイラは昔から料理が上手でしたから、期待していますわ」
アイラ「まぁ、できるだけ頑張ろう」

 

 シグルド殿とラケシス夫妻、学生時代からの友人であるが始めて結婚を聞いたときには驚いた物だ。
 学生時代この2人は仲が悪かった、KINSINアレルギーで自身もKINSIN嫌いのシグルド殿と実兄への狂的なブラコンの示すラケシスの意見は真っ向から対立し、ことある毎に争っていた。
 そんな2人の結婚はとても驚いた……だが良く良く考えてみると納得できる部分があった。 確かに当時は喧嘩ばかりだったが何らかで協力するときはかなり息があっていたのを覚えている。
 そして2人には以外と共通点も多い、失礼ではあるが『破れ鍋に綴じ蓋』とは当に2人の為にあるような言葉では無いかと感じた。

 

レヴィン「よう、アイラ、席空いてる?」
フュリー「お邪魔いたします」
シルヴィア「アイラ、元気そうね」
アイラ「お前達か、そっちのテーブルが空いてるから座るといい」
レヴィン「あいよ、アイラの愛情たっぷりのラーメン、期待してるぜ」
アイラ「私を口説くのはいいがな、お前の嫁達が睨んでいるぞ」
レヴィン「げ……いや、俺にとって一番大切なのはお前達だよ、だから機嫌直して……な?」

 

 レヴィンは昔から言動が軽く、女癖が悪かったがハーレムブーム到来と同時に手を出していた女全員と結婚するとは思わなかった。
 始めは彼女達全員にタカってのヒモ生活かと思ったがあいつ自身も酒場での唄歌いをしたり細々ながら稼いでいるらしいし、あの様子から見て嫁の扱いは上手い様だ。
 とは言えその言動の軽さは相変わらずだから必要なところでは彼女達に締めて貰えるよう期待したいが。

 

エーディン「こんにちは〜、アイラ、何か食べさせて貰える?」
アイラ「ああ、夜勤明けか? 随分疲れてるな」
エーディン「ええ、ここで食べたらゆっくり寝るつもりよ」
アイラ「仕事も頑張っているんだな」
エーディン「まぁね、それで疲れて帰ってから寂しさを感じてたけど、いまはミデェール達が必要な時助けてくれるから本当に有り難いわ」
アイラ「成程な」

 

 レヴィンがハーレムを築いたとすれば彼女、エーディンは逆ハーレムを成立させた。
 彼女は元々シグルド殿に好意を持っていたが彼が結婚した事でしばらく落ち込んでしまっていた。
 その彼女を慰めたのが今彼女の回りにいる男達でありそこから今の関係に発展したそうだ。
 思うところが無いわけでは無いが本人達は幸せな様だし私が口を出すことではないだろう。

 

アーダン「アイラ、席空いてるか?」
アイラ「ああ、今は空いてるから好きな所に……ん、そちらの女性は?」
セシリア「失礼します……その……」
アーダン「ええと……彼女はセシリアさんと言ってな……その……今度、結婚するんだ、彼女と」
アイラ「へ?」
セシリア「//////」

 

 しばらく思考停止してしまったのも仕方ないだろう、彼、アーダンは友人の贔屓目に見ても厳つく、女性受けする外見では無い、そんな彼が結婚と……しかもあんな美人との等と、申し訳無いがエイプリルフールは半年前だぞと言いそうになってしまった……
 だがそんな2人の様子に間違いなく互いに思っているのが見てとれ、人柄はいいのに外見で損をしている彼がやっと幸せを掴めた事が喜ばしく感じた。
 話を聞くと2人は馴染みの酒場の飲み仲間らしく一緒に過ごす内に互いに想い合うようになったそうだ。

 

フィン「失礼します、席は空いてますか?」
アイラ「ああ、久しぶりだな、フィン……と、な……ティルテュ!!」
ティルテュ「やっほー、アイラ、元気?」
アイラ「ああ……じゃなくて……お前達一体どうした!? 確かお前達は……」
フィン「ええ、実は……」

 

 誰かの結婚には驚かされてばかりだが今日一番に度肝を抜かれた。
 フィンとティルテュの2人は互いに愛し合いながら彼女の実家の仕来たりなどで引き離されるという物語の様な悲恋をした2人だ。
 そんな2人が並んで入って来れば驚かない筈が無い。その後話を聞くと家の許しを貰い一緒になることができたが子供達は家に残ったそうだ。
 普通なら子供を置いて愛を取った事を怒るべきかもしれんが実家が面倒をみることは確約しているし子供達本人含め良く話し合い、納得の結果になったこと。
 会うことは禁止されていないため会って親子の会話は出来ていることから部外者の私はそこまで入り込めなかった。
 それに15年経ってようやく結ばれた2人を思うと、そこまで口だしできなかった。

 

 今日は千客万来、それも何の因果か友人達が、幸せな姿を見せにやって来ていたのだ。
 そんな姿を微笑ましく、喜ばしく思いながらも……少しだけ羨ましく感じた……子供達も未熟ながらも確実に成長している、そんな姿を……あいつとみられたらどれだけ良かっただろう……
 どこで、何をしてるのかな……そんな想いを抱きながらも、暖簾を片付け、中に入るのだった。

 

リーフ「寂しい心の隙間を埋めるのなら僕に任せ………」
スカサハ・ラクチェ『流星剣!!』
リーフ「コノヒトデナシー!!!」