そうだよ未来設定にすれば結婚も育児もグレーゾーンもありじゃないか(目から鱗
と言うわけで、我慢できずにグレーゾーンネタでございます
白っぽい灰色を自称しております
「ん……ぁ……ぅく……っ!」
壊れ物を扱うように慎重に、愛情を込めて丹念に、トリスタンの両手がセリカの肉体を解きほぐす。
触れている箇所は、普通のマッサージを行う部分と同じでありながら、与えられる快感は、一般的なそれを遥かに上回る。
「……っ、んぁ……っ!」
つう、と脇腹を撫でると同時に落とされた、ほんの一瞬の、掠めるような口付けで、セリカの身体が跳ねた。
最初の準備とはこのくらいで良いのだろうか、と表情に出さず悩むトリスタンを、やや涙目のセリカが上目遣いで睨む。
その仕草が、鋼の大剣を余計に錬成することを、セリカは知らない。
「…………なんだか……慣れてない……?」
「いや、初めてだぞ」
「じゃあどうしてそんなに上手いのよ!」
結婚初夜に浮気を疑われる気の毒な夫である。
とはいえ、彼女が良かったのなら、まぁ良いかと、気を取り直す。
ここで言い淀むのは勿論、疑惑を晴らそうと焦るのも逆効果。
一呼吸置いて、冷静に、沈着に、誤解を解こう。
なお、余りに落ち着き過ぎていても、慣れているという疑いを加速させる。難儀である。
「『セリカさんは私たちのマッサージを何度も受けていますから、もし下手くそだと愛想尽かされるかも知れませんよ』と言われてな……」
「ジャンヌーッ!!」
なので早々に妹を売った。致し方無し。
「『対セリカさんに限ればエフラム義兄さんレベル、が最低ラインです』と、エフラム殿……義兄上から、徹底的に指導を受けた」
「何してんのエフラム兄さんっ!?!」
ついでに、義兄弟になったばかりの義兄も。
決して、下心が微粒子レベルでも存在しないと分かっていても、彼女の体を理解している義兄に嫉妬した訳では無い。少ししか無い。
「まあ、そんなこんなで、『妹と将来の義弟のためなら』と、鍛えてもらってな」
「…………練習台として付き合ったの、誰?」
「人形だけだ」
ロプト教団謹製、『触感だけなら人間ちゃん ver.セリカ(非売品)』である。彼らは何を目指しているのか……。
「………………そう……なら良いわ」
余談だが、ここで兄弟家の姉たちやジャンヌの名前を言えばセリカが不機嫌になり、それ以外の女性であれば真・ライナロックだった。
自分と完全に同じ体型の人形、という詳細を知っても、製作したロプト教団が襲撃されるが。
「……ところで」
「わ、分かってるわよ……! 後ろを向いて、合図したら灯り消してから振り向いてよ!」
「…………それだと、何も見えんぞ」
「だって……見られるのは…………まだ……その……」
うちで買った勝負下着見せなくてどーすんのー!? と幻聴。女帝の声に似ていた気がする。気のせいだろう。
ちなみに、まだ二人とも服は着ている。Tシャツ短パン。マッサージしやすい格好である。
これからという時に恥じらうセリカの姿を見て、トリスタンは、馬鹿者だな、と内心で苦笑する。
彼女にではなく、この状況で、焦れったさをほんの僅かにしか覚えず、彼女の恥じらいを可愛らしく、愛しく想うばかりの自分にだ。
「分かった。心の準備ができたら言ってくれ」
「……心の方は、とっくに覚悟できているわよ」
「どうだかな」
本当に、どこまで惚れ込んでいるのやら。
加えて呆れるのが、そんな骨抜きにされた体たらくを、悪くない、などと感じることだ。
「………………………………良いわよ」
待つこと約1分。
「なら、電気を消すぞ」
「…………ええ」
カーテン越しの月と星しか光源の無い暗い部屋で、夜が始まる。