大人ナエギリ番外編 初冬は編み物日和

Last-modified: 2014-11-10 (月) 00:03:13

苗「えっと…ここの結び目に、これを通して…」

 

霧「いい年の男が編み物、ね。ジェンダー差別は嫌いだし、あなたの趣味に口を出すつもりはないけれど…」
苗「じゃ、その物言いたげな目線は何なのさ」

 

霧「…別に。最近美味しい料理も作ってくれないし、飲みに誘っても断るし」
苗「いや…夜中の三時に誘われても、飲みに行く気にはならないから」
霧「私をほったらかして何をしているのかと思えば、手芸に熱中していた…なんて」

 

苗「もしかして、構ってほしいの?」
霧「……失礼な言い草ね。私が、苗木君に構ってあげているの」
苗「それはいいんだけど、暇だからって僕のこと三つ編みでぺチぺチ叩くのはやめてね」

 

苗「霧切さんも趣味の一つや二つ、見つけなよ」
霧「私はいいのよ。あなたで遊ぶのが趣味だから」
苗「そんなんじゃ、いい人も出来ないよ?」

 
 

苗「あはは…えっと、次はこっちの毛糸を…」
霧(……ホント、どの口が…)

 
 

翌日

 
 

霧「…珍しいわね。あなたの方から、私の家に訪ねてくるなんて」
苗「そうかな。まあ…女の人の家って、なんか気軽に入れないんだよね」
霧「……今日は、編み物はいいのかしら。私に構っている暇なんて、ないんじゃないの」
苗「あれ、もしかしてお邪魔だった? 今忙しいなら、すぐ帰るけど」
霧「……」

 

苗「これ、渡したくてさ」
霧「……紙袋?」
苗「プレゼント」
霧「開けていいの?」
苗「うん。そのために作ってきたんだから」

 
 

霧「……これ、」

 

霧「毛糸の手袋…手編み、って、もしかして…」

 

苗「本格的に寒くなる前に渡せて、よかったよ…明日から雪が降るみたいだし」
苗「なんか霧切さんがいつもしてる手袋、寒そうだったからさ」
苗「あ、でも…気に入らなかったら返して。僕が使うからさ」

 

霧「…返さないわ。あなたが作ったものは私のもの、よ」
苗「理不尽な…まあ、受け取ってもらえるのならよかった」

 
 

霧「……あの、…ありがとう…」

 
 

苗「……熱でもあるの?」
霧「相変わらず失礼ね…厚意に感謝を忘れるほど、礼儀知らずじゃないわよ」
苗「じょ、冗談です…」

 

苗「さて、じゃあ僕、帰るね」
霧「え、もう…?」
苗「霧切さん忙しそうだし」
霧「そん、な…忙しいって、程でも……」
苗「あまり長居しても迷惑だろうし。次ウチ来る時は、ちゃんとメールしてね。…あ、夜中の三時とかはダメだけど」

 

霧「ま、待って…」
苗「ん、何?」
霧「今日くらい、久しぶりに二人、で……」

 

霧(……苗木君、目の下にクマ…)
霧(もしかして、明日雪が降るからって、徹夜で…?)

 

霧「……ゴメンなさい。なんでもないわ」
苗「そう? じゃ、帰るね」
霧「ええ…おやすみなさい」

 

霧(……寒くなる前に、ね)
霧(…明日から雪も降り始めるという割に、今日はずいぶんと顔が熱い…)

 

苗(霧切さん…照れた時に目をそらす癖は、相変わらずだな)
苗(…実は僕とおそろい、だなんて、僕の方が恥ずかしくて言えなかったけど……)