全催馬楽曲一覧/あ行

Last-modified: 2012-12-19 (水) 12:55:48

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催馬楽wiki
催馬楽wiki/全催馬楽曲解説

あ行

あがこま

本文目録拍子一段二段同音1同音2備考
鍋01我駒我駒1266--
天--我駒------或絶後及数十年或依不伝家説不書也(巻末)
三---------
仁---------
〈催馬楽〉
(さいばらく)
整定本文
一段) いで我が駒 早く行きこせ 真土山 アハレ 真土山 ハレ
二段) 真土山 待つらむ人を 行きて早 アハレ 行きて早見む
現代語訳
一段) さあ私の馬よ 早く行き越してくれ 真土山を アハレ 真土山を ハレ
二段) 真土山の向こうで待っているだろう人に 行って早く アハレ 行って早く会おう
語釈
いで さあ。相手に行動を促す時に用いる語。
こせ 上代の助動詞で希求を表す「こす」の命令形「こそ」の転。~てほしい。~てくれ。
    ただし、音としては「行き越す」の命令形にも通じ、
    現代語訳には両義を残した。解説参照。
まつちやま 歌枕。「待つ」にかかる。大和と紀伊との国境にある峠をさす。
アハレ 囃言葉
ハレ 囃言葉
校異
 「末川也万」(「又説」)
   「由支天美半 安波礼 由支天美半 安波礼」(「異説」) 
 「いでがこま」「ゆきせ」「(二段)つらゝやま」
 「(二段)つち山」「ゆきて_あはれ」
 「(二段)つち山」
 「ゆきせ」「(二段)つちゝ山」「ゆきて_あはれ」
参考歌
万葉集巻12(3154) 

いで我が駒早く行きこそ(早去欲)真土山待つらむを行きて早見む

万葉集巻1(54,55)

   大宝元年辛丑秋九月、太上天皇(持統)幸紀伊国時歌
巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を
   右一首、坂門人足
あさもよし紀人ともしも真土山行き来と見らむ紀人ともしも
   右一首、調首淡海

万葉集巻3(298)

   弁基歌一首
真土山越え行きて廬前(いほさき)の角太河原(すみだがはら)にひとりかも寝む
   右、或云、弁基者春日蔵首老之法師名也

万葉集巻4(543)

   神亀元年甲子冬十月、(聖武)幸紀伊国之時、
   為贈従駕人、所誂娘子作歌一首、并短歌
(前略)あさもよし紀伊路(きぢ)に入り立ち真土山越ゆらむ君は(後略)

万葉集巻9(1680)

   後人歌二首
あさもよし紀伊(き)へ行く君が真土山越ゆらむ今日ぞ雨なふりそね

催馬楽レパートリー内の同音
未確認
唐楽・高麗楽との同音
〈催馬楽〉(さいばらく)
  • 〈催馬楽〉は黄鐘調の唐楽曲。「博雅笛譜」に載る。 
  • 我駒》の旋律を確認できないため同音の証明ができない。 
解説
①「こせ」の現代語訳には、希求の意味と、自動詞としての「越す」と、両義とも残した。
万葉集3154歌の「こそ」は字義(「欲」)からして明らかに希求の助動詞であるから、
我駒》の「こそ」をその転訛とみて、希求の意味で理解することとなる。
しかし、「真土山」を詠んだ他の万葉集の用例(294,543,1680等)からみるに、
「真土山」は「越え」るものとして詠まれる場合が多い。
したがって、「行きこせ」と言えば、否応なく「行き越せ」とも聞こえたはずである。
元来の意味はともかく、現代語訳には両義を反映させることにしたのである。
②「す」という詞章内容を、「催馬楽」の語源とする説があるが、
むしろ《我駒》と同音関係にあるとされる唐楽曲〈催馬楽〉を語源とする説をとるべきか。
藤家流の天治本には「或いは絶後数十年に及び、或いは家説に伝えざるに依って書かざるなり。」とあり、
『仁智要録』『三五要録』にも掲載されていないことから、早くに伝承が途絶えてしまったものと思われる。
また、同音関係にあるとされる唐楽曲〈催馬楽〉も、『仁智要録』『三五要録』には掲載されておらず、
こちらも早くに途絶えてしまったものと思われる。

あげまき

本文目録拍子同音1同音2
角総角総10大宮》(目録朱書)
本滋》(目録朱書)
-
角総角総10--
角総角総10大宮
本滋
-
角総角総10大宮
本滋
-
大宮
本滋

あさみどり

本文目録拍子一段二段同音1同音2備考
浅緑浅緑1212-青馬》(目録朱書)
妹之門》(目録朱書)
-目録《青馬》朱書に「浅之門」とある
浅緑浅緑1284白馬
妹之門
-
浅緑浅緑1212-青馬-
浅緑浅緑1212-青馬-
青馬
妹之門
席田
夏引楽

あさや

 浅也
  • 『簾中抄』の催馬楽目録にその名がある。

あさんづ

本文目録拍子同音1同音2
鍋14浅水浅水21(19ママ)--
天12浅水浅水21--
三14浅水橋浅水橋21--
仁14浅水橋浅水橋21--
大芹》《刺櫛》《鷹子
逢路》《道口》《更衣》《何為
整定本文
浅水の橋の とどろとどろと 降りし雨の 
古りにし我を たれぞこの 
仲人(なかひと)立てゝ 御許(みもと)のかたち
消息(せうそこ)し 訪ひに来るヤ サキンダチヤ
現代語訳
浅水川にかかる橋を渡る時の音のように とどろとどろと降る雨ではないが 
すっかりふるぼけてしまった私を 誰が一体 
仲人を立てて お相手の様子を伝えて 
訪ねてくるでしょうか サキムダチヤ
語釈
あさむづのはし 浅水川にかかる橋。
         浅水川は福井県を流れ日野川にそそぐ。朝水川。
とどろとどろ 橋を渡る音。同時に雨の激しく降る音をも意味する。
ふりしあめの 直後の「古り」にかかる序。
ふりにし 年とってしまった。「古る」連用形+完了「ぬ」連用形+過去「き」連体形。 
たれぞこの 《大芹>》の「これやこの」に対応する。 
なかひと 仲人。仲介者。
みもと 貴人への尊称。居所をもって相手を示す婉曲表現。御許。
かたち 様子。
せうそこ 訪ねてきて、案内を請うこと。
とぶらひ 訪問すること。
サキムダチヤ 囃言葉。《浅水》《刺櫛》《鷹子》《逢路》《道口》《更衣》《何為》に共通。
     「サ公達ヤ」(さあお兄さん!)的な解釈(笑)が諸書に多い。
     なお「サ」の表記は『鍋』『天』で「沙」。『仁』『三』は「サ」
校異
 「世宇曾己」(「又説」)
 「トトロトトロ」「フリシアメノ」「タレソコノ」(「同歌藤家」)
 
催馬楽レパートリー内の同音
大芹》《刺櫛》《鷹子
逢路》《道口》《更衣》《何為
  • いわゆる「《更衣》グループ」
  • 浅水》冒頭~「たれそこの」、「かたち」以降が《逢路》《道口》《更衣》《何為》と同音。
  • 「なかひとたてゝ」~「みもとの」まで3拍子分は独立旋律で、《逢路》以下4曲と一致しない。
唐楽・高麗楽との同音
(未確認)
 
解説

あしがき

本文目録拍子一段二段三段四段五段同音1同音2備考
葦垣葦垣3066(6)(6)(6)--三段以降欠丁
葦垣葦垣3577777--
葦垣葦垣3577777-〈西王楽〉序(巻九)
葦垣葦垣3577777-〈西王楽〉序(巻八)
西王楽

あすかゐ

本文目録拍子同音1同音2備考
鍋08飛鳥井飛鳥井9--
天07飛香井飛香井9--二切(4,5)
三06飛鳥井飛鳥井9--
仁06飛鳥井飛鳥井9--
夏引
貫河
東屋
走井
夏引楽
整定本文
飛鳥井に 宿りはすべし ヤ オケ 
陰もよし 御水(みもひ)も冷(さむ)し 御秣(みまくさ)もよし
改行位置は『天治本』の「二切」によった。
現代語訳
飛鳥井に 宿を旅宿りしましょう ヤ オケ  
陰も涼しくていいし お水も冷たい お馬の飼葉もいい
語釈
あすかゐ 飛鳥地方の井戸。
やどり 旅宿りすること。
かげ 木陰など、日のあたらない場所。
みもひ 水の敬称。接頭辞「み」+水を入れる器「もひ」
さむし つめたい。
みまくさ 馬の飼葉の敬称。接頭辞「み」+「まくさ(秣)」。
校異
 「但件也止利波須戸之可有音振二説」(本説)
 「ヤドリハスベシ オケ」(本説、「同」説は「ヤドリハスベシ ヤ オケ」)
 「ヤドリハスベシ オケ」(本説、「同二切」説は「ヤドリハスベシ ヤ オケ」)
 
参考
  • 『枕草子』「井は」

    ほりかねの井。たまの井。はしり井は、あふさかなるがをかしきなり。山の井、などさしもあさきためしになりはじめけん。あすか井は、みもひもさむしとほめたるこそをかしけれ。千貫の井。少将の井。さくら井。きさきまちの井。

  • 『源氏物語』「帚木」巻

    懐なりける笛取り出でて吹き鳴らし、「かげもよし」など、つづしりうたふるほどに、

催馬楽レパートリー内の同音
飛鳥井》と《夏引》一段
       《貫河》各段
       《東屋
       《走井
唐楽・高麗楽との同音
〈夏引楽〉序
  • 〈夏引楽〉序は黄鐘調、序拍子で拍子数は23。
  • 〈夏引楽〉序前半部が、《飛鳥井》(拍子数9)と同音関係にある。
  • 〈夏引楽〉序、破は『三五要録』『仁智要録』にないが、『博雅笛譜』に掲載されている。
     
解説
囃言葉「ヤ オケ」を除けば、短歌形式(5・7・5・7・7)となる。
→「飛鳥井に宿りはすべし陰もよし御水も冷し御秣もよし」

あづまや

本文目録拍子一段二段同音1同音2備考
鍋06東屋東屋1818---
天--東屋------或絶後及数十年
或依不伝家説不書也(巻末)
三04東屋東屋1899--
仁04東屋東屋1899--
夏引
貫河
走井
飛鳥井
夏引楽
整定本文
一段) 東屋の 真屋のあまりの その雨(あま)そゝき
    我立ち濡れぬ 殿戸開かせ    
二段) 鎹も 錠(とざし)もあらばこそ その殿戸 我鎖(さ)さめ
    押し開いてきませ 我や人妻 
現代語訳
一段) 東屋の 真屋の軒先の その雨だれで 
    私は立ち濡れてしまいました 家の戸を開けてください
二段) 掛けがねも 錠もあるのなら その戸を私は閉ざしましょうが
    (どちらもありませんから) 押し開いていらっしゃい 私が人妻とでもいうの?
語釈
あづまや 屋根を四方に葺き下ろした、粗末な小家。
まや 「あづまや」の「まや」を反復した語。棟の前後二方に葺き下ろした家とも解せる。
あまり 軒先。
あまそゝき 雨だれ。
とのど 御殿の戸。ここでは単に家の戸。
かすがひ 戸を閉ざす金具。
とざし 戸をさすために用いる錠。
校異
 「止之」(本説、「」の誤写か)
 
参考
催馬楽レパートリー内の同音
東屋》各段と《夏引》一段
         《貫河》各段
         《走井
         《飛鳥井
唐楽・高麗楽との同音
〈夏引楽〉序
  • 〈夏引楽〉序は黄鐘調、序拍子で拍子数は23。
  • 〈夏引楽〉序前半部が、《東屋》の各段(拍子数9)と同音関係にある。
  • 〈夏引楽〉序、破は『三五要録』『仁智要録』にないが、『博雅笛譜』に掲載されている。
     
解説

あなたふと

本文目録拍子一段二段三段同音1同音2
安名尊安名尊14653新年》(目録朱書)
梅枝?》(目録朱書)
-
安名尊安名尊14554新年
梅枝
-
安名尊安名尊14554新年
梅之枝
-
安名尊安名尊14554新年
梅之枝
-
新年
梅枝
沢田川

あふみぢ

本文目録拍子同音1同音2備考
鍋19逢路逢路?更衣》(目録朱書)-
天--逢路----或絶後及数十年或依不伝家説不書也(巻末)
三17逢路逢路13道口-
仁17逢路逢路13道口-
大芹》《浅水》《刺櫛》《鷹子
道口》《更衣》《何為
整定本文
近江路の 篠の小蕗(をふゝき) 早引かず
子持ち待ち痩せぬらむ 篠の小蕗ヤ サキンダチヤ
現代語訳
近江路の 篠の小蕗を 早く引きとらないので
今頃子持ちの女が待ち焦がれて痩せてしまっているでしょう 篠の小蕗ヤ サキムダチヤ
語釈
あふみぢ 近江路。近江への道、あるいは近江の道。
しの 諸書、地名と解する。野洲郡篠原、また蒲生郡篠田とも。
をふゝき 小さな蕗。子持ち女を暗喩する。『和名抄』「蕗音路 和名布ゝ木」。
子持ち 子持ちの女。 
サキムダチヤ 囃言葉。《浅水》《刺櫛》《鷹子》《逢路》《道口》《更衣》《何為》に共通。
校異
(なし)
参考
『万葉集』防人歌(4343)

我(わ)ろ旅は旅と思(おめ)ほど家(いひ)にして子持(め)ち痩すらむ我が妻(み)かなしも

催馬楽レパートリー内の同音
大芹》《浅水》《刺櫛》《鷹子
道口》《更衣》《何為
唐楽・高麗楽との同音
(未確認)
 
解説

あらたしきとし

本文目録拍子一段二段三段同音1同音2
新年新年14653安名尊》(目録朱書)
梅枝》(目録朱書)
-
新年新年14554安名尊
梅枝
-
新年新年14554安名尊
梅之枝
-
新年新年14554安名尊
梅之枝
-
安名尊
梅枝
沢田川

あをのま

本文目録拍子一段二段同音1同音2備考
青馬青馬1212-浅之門》(目録朱書)
妹之門》(目録朱書)
-
白馬白馬1284浅緑
妹之門
-強不歌仍不注其詞
青之馬青之馬1212-浅緑-
青之馬青之馬1212-浅緑-
浅緑
妹之門
席田
夏引楽

あをやぎ

本文目録拍子一段二段同音1同音2
鍋09青柳青柳1266-〈長生楽〉序
天03青柳青柳1266--
三07青柳青柳1266-〈長生楽〉序(巻九)
仁07青柳青柳1266-〈長生楽〉序(巻八)
長生楽
整定本文
一段) 青柳を 片糸に縒りて ヤ オケヤ 鶯の オケヤ    
二段) 鶯の 縫ふといふ笠は オケヤ 梅の花笠ヤ
現代語訳
一段) 青柳を 片糸として縒って ヤ オケヤ 鶯が オケヤ 
二段) 鶯が 縫うという笠は オケヤ 梅の花笠だ
語釈
あをやぎ 葉が茂って青々とした柳。多く、春の芽吹いた頃のものをいう。
かたいと より合わせる前の、片方の糸。
はながさ 花を笠に例えて言う語。
校異
なし
 
参考
  • 『古今和歌集』巻一 「春歌上」(36)

    鶯の笠に縫ふてふ梅の花折りてかざさむ老いかくるやと

  • 『古今和歌集』巻二十 「神遊びの歌」「返し物の歌」(1081)

    青柳を片糸に縒りて鶯の縫ふてふ笠は梅の花笠

  • 承和の大嘗会主基風俗歌? 要確認
  • 『源氏物語』「胡蝶」巻 春の町の船楽

    夜に入りぬれば、いと飽かぬ心地して、御前の庭に篝火ともして、御階段のもとの苔の上に楽人召して、上達部、親王たちも、みなおのおのの弾物、吹物とりどりにしたまふ。物の師ども、ことにすぐれたる声のかぎり、双調吹きて、上に待ちとる御琴どもの調べ、いとはなやかに掻きたてて、《安名尊》遊びたまふほど、生けるかひありと、何のあやめも知らぬ賤の男も、御門のわたり暇なき馬、車の立処にまじりて、笑みさかえ聞きけり。空の色、物の音も、春の調べ、響きはいとことにまさりけるけぢめを、人々思しわくらむかし。夜もすがら遊び明かしたまふ。返り声に〈喜春楽〉立ちそひて、兵部卿宮、《青柳》折り返しおもしろくうたひたまふ。主の大臣も言加へたまふ。

  • はじめ呂、双調で《安名尊》を演奏。双調は「春の調べ」とされる。
  • やがて返り声で律〈喜春楽〉を奏す。〈喜春楽〉は黄鐘調の曲。
  • そのまま《青柳》を奏したとすれば、《青柳》は黄鐘調で奏されたということになる。
  • 『源氏物語』「若菜上」巻 源氏の四十賀の場面

    唱歌の人々の御階に召して、すぐれたる声の限り出だして、返り声になる。夜の更けゆくままに、物の調べどもなつかしく変りて、《青柳》遊びたまふほど、げにねぐらの驚きぬべく、いみじくおもしろし。

  • こちらも返り声後に《青柳》を奏している。
催馬楽レパートリー内の同音
未確認
唐楽・高麗楽との同音
〈長生楽〉序
  • 〈長生楽〉序は序拍子(拍子数6)、《青柳》の各段(拍子数6)と同音関係にある。
  • 『三五要録』巻九、黄鐘調〈長生楽〉条
    「南宮譜云く、承和の御時、清涼殿の前紅梅の花の賀の時此の曲を作る。笛則ち帝王の御作、舞則ち右大臣信朝臣の所作なり。童男四十人麹塵を著け殿前に舞ふ。此の舞絶えしなり。長秋卿譜云く、序《青柳》の歌の音、破即ち《高砂》の歌の音。中曲。古楽。」とある。
  • 『仁智要録』巻八、黄鐘調〈長生楽〉条
    「長秋卿横笛譜云く、所謂序《青柳》の歌の音、破即ち《高砂》の歌の音。中曲。古楽。南宮横笛譜云く、承和の御時、清涼殿の前紅梅の花の賀の時此の曲を作る。笛則ち帝王の御作、舞則ち右大臣信朝臣の所作なり。則ち童男四十人麹塵を著け殿前に舞ふ。此の舞絶えしなり。」とある。
     
解説

いかにせん

本文目録拍子同音1同音2
鍋21何為何為11ママ--
天16何為何為13更衣-
三20何為何為13更衣-
仁20何為何為13更衣-
大芹》《浅水》《刺櫛》《鷹子
逢路》《道口》《更衣
整定本文
いかにせむ せむヤ 愛(を)しの鴨鳥ヤ 出でゝ行かば
親は歩(あり)くと苛(さいな)べど 夜妻は定めつヤ サキムダチヤ
現代語訳
どうしましょうか どうしよう かわいい鴨鳥よ 私が出歩こうものならば
親はほっつき歩くと責めるけれど 夜妻は定めたのですよ サキムダチヤ
語釈
いかにせむ どうしましょうか。
せむヤ 「いかにせむ」を反復したもの。
をしのかもとり 愛しい鴨。恋人を暗喩。「出で」を導く序とする説もある。
ありく 出歩く。ほっつき歩く。
さいなべど 責めるけれど。さいなめど。
よつま 夜だけの男女の相手。男女ともにいう。
サキムダチヤ 囃言葉。《浅水》《刺櫛》《鷹子》《逢路》《道口》《更衣》《何為》に共通。
校異
 「乎之乃加毛止利_」「左伊波止」「与川万_左太女川也」
 「ヲシノカモトリ_」「サイナト」(本説)
 「ヲシノカモトリ_」「イテテイケハ」「サイナト」(本説)
参考
拾遺和歌集535
  能宣に車のかもを乞ひに遣はして侍りけるに、侍らずと言ひて侍りければ 藤原仲文
鹿をさして馬といふ人のありければかもをもをしと思なるべし
  返し 能宣
なしといへばおしむかもとや思覧鹿や馬とぞいふべかりける
催馬楽レパートリー内の同音
大芹》《浅水》《刺櫛》《鷹子
逢路》《道口》《更衣
唐楽・高麗楽との同音
(未確認)
 
解説

いしかは

本文目録拍子一段二段三段同音1同音2
石川石川15663--
石川石川16664--
石河石河16664--
石河石河16664--
石川楽

いせのうみ

本文目録拍子同音1同音2備考
鍋10伊勢海伊勢海10(8ママ)-〈拾翠楽〉
天04伊勢海伊勢海10--二切(8,2)
三08伊勢海伊勢海10-〈拾翠楽〉破(巻九「龍吟抄云」)
仁08伊勢海伊勢海10-〈拾翠楽〉破(巻八「龍吟抄云」)
拾翠楽
整定本文
伊勢の海の 清き渚に 潮間(しほがひ)に なのりそや摘まむ 貝(かひ)や拾はんヤ  
玉や拾はんヤ
改行位置は天治本「二切」に従った。
現代語訳
伊勢の海の美しい渚で 潮の間に なのりそを摘みませんか 貝を拾いませんか ヤ 
玉を拾いませんか ヤ
語釈
いせのうみ 
しほがひ 
なのりそ 
たま 
校異
 「太万比呂波无_ 加比比呂波无_」(「古説」)
 
参考
催馬楽レパートリー内の同音
未確認
唐楽・高麗楽との同音
〈拾翠楽〉破
  • 〈拾翠楽〉破(拍子数10)は、《伊勢海》(拍子数10)と同音関係にある。
  • 『鍋』、曲題に「《伊勢海》拾翠楽」とある。
  • 『三五要録』巻九、水調曲〈拾翠楽〉項

    序拍子七。
    南宮横笛譜云はく、序十二遍吹くべし。二反を以て一帖、併せて六帖と為す。毎遍拍子七、合わせて拍子八十四。
    長秋卿同譜云はく、序拍子七、五反吹くべし。二反を以て一帖と為す。合はせて拍子丗五、件の曲断了。
    破拍子十五反弾くべし。合わせて拍子七十。長秋卿譜已上の注に同じ。
    南宮譜云はく、破舞に随ひて定数無く吹く。舞迴中、則ち還入。
    承和の大嘗会の時、豊楽殿の前に海浜を作り此の曲を奏す。砂石を集め、樹木を植え、山阜の形を成す。縹布を敷き、萍藻を散らし、海渚の体を像り、其の上に船を引き、飛帆の波に随うに擬す。其の中に舞童を載せ、海人の藻を拾うに似す。曲了りて、即ち撤して復元す。又笛作清上、舞作尾張浜主。
    竜吟抄云はく、序竹河、破伊勢海
    中曲、急拍子十七反弾くべし。古楽。

 

解説

いもがかど

本文目録拍子一段二段同音1同音2備考
妹之門妹之門11ママ11ママ-浅之門》(目録朱書)
青馬》(目録朱書)
-
妹頭門妹欤門1284浅緑
白馬
-強不歌仍不注其詞
妹門妹之門1212---
妹之門妹之門1212---
浅緑
青馬
席田
夏引楽

いもとあれ

本文目録拍子同音1同音2
妹与我妹与我9--
妹与我妹与我10--
妹与我妹与我10--
妹与我妹与我10--

おいねずみ

本文目録拍子同音1同音2備考
-----
老鼠老鼠10--
老鼠老鼠10--亦名西寺
老鼠老鼠10--又名西寺
林歌

おくやま

本文目録拍子同音1同音2備考
奥山奥山9--
奥山----或絶後及数十年或依不伝家説不書也(巻末)
奥山奥山5--
-----

おくやまに

本文目録拍子同音1同音2備考
奥山奥山尓12--
奥山尓----或絶後及数十年或依不伝家説不書也(巻末)
-奥山尓---目録のみ
-----

おほせり

本文目録拍子同音1同音2
鍋13大芹大芹31--
天11大芹大芹34--
三13大芹大芹34--
仁13大芹大芹34--
浅水》《刺櫛》《鷹子
逢路》《道口》《更衣》《何為
整定本文
大芹は 国の沙汰物 小芹こそ 茹でてもむまし これやこの
前盤三たの木 柞(ゆし)の木の盤 むしかめの筒(とう) 
犀角の賽 をさいとさい 両面かすめうけたる きりとほし 金嵌め盤木
五六返し 一六の賽や 四三賽や
現代語訳
大競りは 国で禁止された物 小芹こそ 茹でてもうまい これがその
前盤三たの木 柞の木の盤 虫食いの筒
犀角の賽 をさいとさい 両面にほのかに浮かせたまっすぐな切り目 金嵌めの盤木
五六返し 一六の賽よ 四三賽よ
語釈
おほせり 「小芹」に対して大きな芹。「大競り」(双六)の意を掛ける。
      「樗蒲(ちょぼ)」とする説もある(『入文』)
さたもの 禁制されたもの。「大競り」(双六)の意を掛ける。
こせり 「大芹」に対して小さな芹。
     『入文』はこちらを「双六」の意と解する。
前盤三たの木 未詳。双六盤の材か。『入文』「栴檀珊瑚」の転。 
ゆしの木 これも双六盤の材か。『和名抄』「柞和名由之」 
むしかめのとう 虫の食った、賽を入れる筒。『和名抄』「齲歯 無之加女波」
さいかくのさい 犀の角で作った賽。
をさいとさい 未詳。『仁』『三』「平サイトサイ」
両面かすめうけたるきりとほし 未詳。両面にほのかに浮かせたまっすぐな切り目。盤木の意匠か。
かなはめ盤木 未詳。金属をはめた盤木。これも盤木の意匠か。
五六かへし 賽の五と六の目に関するなにか。なんらかの役を示すものか。
いち六のさい 賽の一と六の目。なんらかの役を示すものか。
四三さい 賽の四と三の目。なんらかの役を示すものか。
     『仁』『三』「シサムサイ」『梁塵秘抄』(17)は「しさうさい」
校異
 「木」(「一説」)「由之乃支乃止奈礼盤」(「又説」)
 「前盤三太乃支
 「センハンサムタノキ」「平(ヒヤウ)サイトサイ」「五ロクカヘシ
 「センハンサムタノキ」「平(ヒヤウ)サイトサイ」
 
参考
『日本書紀』持統3(689)12月丙辰8日

十二月己酉朔丙辰。双六を禁断す。

『続日本紀』天平勝宝6(754)10月乙亥壬戌朔14日

冬十月乙亥、勅あり。官人百姓、憲法を畏れず、私に徒衆を聚め、任意に双六す。淫迷に至り、子の父に順う無し。終に家業を亡ひ、亦孝道を虧く。斯に因りて、遍く京畿七道諸國に仰せて、固く禁断せしむ。其れ六位已下、無論男女ともに。杖一百を决す。蔭贖すべからず。但し五位は、即ち見任を解き、及び位祿位田を奪す。四位已上は、給、封戸、職田を停ず。國郡司阿容することを禁ぜず。亦皆解任す。若し廿人已上糺告する者有らば、无位には位三階を叙す。有位には物■十疋、布十端を賜ふ。

『万葉集』16-3827 長忌寸意吉麻呂

一二の目のみにはあらず五つ六つ三つ四つさへあり双六のさへ

『和名抄』

柞 四声字苑云柞音祚一音昨 和名由之 漢語抄云波々曾木名堪作梳也

齲歯 無之加女波

『梁塵秘抄』治承3(-1179?)巻第一(17)

博打の好むもの 平骰子(ひやうさい)鉄骰子(かなさい)四三骰子(しさうさい)
それをばたれか打ち得たる 文三(もんさん)刑三(ぎやうさん)月々清次とか

『新編日本古典文学全集42』小学館(2000)
催馬楽レパートリー内の同音
浅水》《刺櫛》《鷹子
逢路》《道口》《更衣》《何為
  • いわゆる「《更衣》グループ」
  • 大芹》冒頭~「これやこの」、「五六返し」以降が《逢路》《道口》《更衣》《何為》と同音。
  • 「前盤三たの木」~「かなはめ盤木」まで17拍子分は独立旋律で、《逢路》以下4曲と一致しない。
唐楽・高麗楽との同音
(未確認)
 
解説

おほぢ

本文目録拍子一段二段同音1同音2備考
大路大路1477我門乎-
大路大路1477我門乎-此歌強不歌仍其詞不記
大路大路1477我門乎-
大路大路1477我門乎-
我門乎

おほみや

本文目録拍子同音1同音2備考
大宮大宮10角総》(目録朱書)
本滋》(目録朱書)
-
大宮----或絶後及数十年或依不伝家説不書也(巻末)
大宮大宮10角総
本滋
-
大宮大宮10角総
本滋
-
角総
本滋