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あ行
あげまき
あさみどり
あさや
あさんづ
あさんづのはし(→あさんづ)
あしがき
あすかゐ
あたらしきとし(→あらたしきとし)
あづまや
あなたふ(→あなたふと)
あなたふと
あふみぢ
あらたしきとし
あをのま
あをやぎ
いかにせん
いしかは
いせのうみ
いもがかど
いもとあれ
いもとわれ(→いもとあれ)
うめがえ(→むめがえ)
おいねずみ
おくやま
おくやまに
おほせり
おほぢ
おほみや
あがこま
律 | 本文 | 目録 | 拍子 | 一段 | 二段 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鍋01 | 我駒 | 我駒 | 12 | 6 | 6 | - | - | |
天-- | 我駒 | - | - | - | - | - | - | 或絶後及数十年或依不伝家説不書也(巻末) |
三-- | - | - | - | - | - | - | - | |
仁-- | - | - | - | - | - | - | - | |
★ | 〈催馬楽〉 (さいばらく) |
- 整定本文
一段) いで我が駒 早く行きこせ 真土山 アハレ 真土山 ハレ 二段) 真土山 待つらむ人を 行きて早 アハレ 行きて早見む
- 現代語訳
- 一段) さあ私の馬よ 早く行き越してくれ 真土山を アハレ 真土山を ハレ
二段) 真土山の向こうで待っているだろう人に 行って早く アハレ 行って早く会おう
- 語釈
- いで さあ。相手に行動を促す時に用いる語。
こせ 上代の助動詞で希求を表す「こす」の命令形「こそ」の転。~てほしい。~てくれ。
ただし、音としては「行き越す」の命令形にも通じ、
現代語訳には両義を残した。解説参照。
まつちやま 歌枕。「待つ」にかかる。大和と紀伊との国境にある峠をさす。
アハレ 囃言葉
ハレ 囃言葉
- 校異
- 鍋 「末川乃也万」(「又説」)
「由支天美半 安波礼 由支天美半 安波礼」(「異説」)
愚 「いでわがこま」「ゆきませ」「(二段)つらゝやま」
考 「(二段)つち山」「ゆきて_あはれ」
入 「(二段)つち山」
後 「ゆきませ」「(二段)つちゝ山」「ゆきて_あはれ」
- 参考歌
- 万葉集巻12(3154)
いで我が駒早く行きこそ(早去欲)真土山待つらむ妹を行きて早見む
- 万葉集巻1(54,55)
大宝元年辛丑秋九月、太上天皇(持統)幸紀伊国時歌
巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を
右一首、坂門人足
あさもよし紀人ともしも真土山行き来と見らむ紀人ともしも
右一首、調首淡海
- 万葉集巻3(298)
弁基歌一首
真土山夕越え行きて廬前(いほさき)の角太河原(すみだがはら)にひとりかも寝む
右、或云、弁基者春日蔵首老之法師名也
- 万葉集巻4(543)
神亀元年甲子冬十月、(聖武)幸紀伊国之時、
為贈従駕人、所誂娘子作歌一首、并短歌
(前略)あさもよし紀伊路(きぢ)に入り立ち真土山越ゆらむ君は(後略)
- 万葉集巻9(1680)
後人歌二首
あさもよし紀伊(き)へ行く君が真土山越ゆらむ今日ぞ雨なふりそね
- 催馬楽レパートリー内の同音
- 未確認
- 唐楽・高麗楽との同音
- 〈催馬楽〉(さいばらく)
- 〈催馬楽〉は黄鐘調の唐楽曲。「博雅笛譜」に載る。
- 《我駒》の旋律を確認できないため同音の証明ができない。
- 解説
- ①「こせ」の現代語訳には、希求の意味と、自動詞としての「越す」と、両義とも残した。
万葉集3154歌の「こそ」は字義(「欲」)からして明らかに希求の助動詞であるから、
《我駒》の「こそ」をその転訛とみて、希求の意味で理解することとなる。
しかし、「真土山」を詠んだ他の万葉集の用例(294,543,1680等)からみるに、
「真土山」は「越え」るものとして詠まれる場合が多い。
したがって、「行きこせ」と言えば、否応なく「行き越せ」とも聞こえたはずである。
元来の意味はともかく、現代語訳には両義を反映させることにしたのである。
②「馬を催す」という詞章内容を、「催馬楽」の語源とする説があるが、
むしろ《我駒》と同音関係にあるとされる唐楽曲〈催馬楽〉を語源とする説をとるべきか。
藤家流の天治本には「或いは絶後数十年に及び、或いは家説に伝えざるに依って書かざるなり。」とあり、
『仁智要録』『三五要録』にも掲載されていないことから、早くに伝承が途絶えてしまったものと思われる。
また、同音関係にあるとされる唐楽曲〈催馬楽〉も、『仁智要録』『三五要録』には掲載されておらず、
こちらも早くに途絶えてしまったものと思われる。
あげまき
あさみどり
呂 | 本文 | 目録 | 拍子 | 一段 | 二段 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鍋 | 浅緑 | 浅緑 | 12 | 12 | - | 《青馬》(目録朱書) 《妹之門》(目録朱書) | - | 目録《青馬》朱書に「浅之門」とある |
天 | 浅緑 | 浅緑 | 12 | 8 | 4 | 《白馬》 《妹之門》 | - | |
三 | 浅緑 | 浅緑 | 12 | 12 | - | 《青馬》 | - | |
仁 | 浅緑 | 浅緑 | 12 | 12 | - | 《青馬》 | - | |
★ | 《青馬》 《妹之門》 《席田》 | 〈夏引楽〉破 |
あさや
- 『簾中抄』の催馬楽目録にその名がある。
あさんづ
- 整定本文
浅水の橋の とどろとどろと 降りし雨の 古りにし我を たれぞこの 仲人(なかひと)立てゝ 御許(みもと)のかたち 消息(せうそこ)し 訪ひに来るヤ サキンダチヤ
- 現代語訳
- 浅水川にかかる橋を渡る時の音のように とどろとどろと降る雨ではないが
すっかりふるぼけてしまった私を 誰が一体
仲人を立てて お相手の様子を伝えて
訪ねてくるでしょうか サキムダチヤ
- 語釈
- あさむづのはし 浅水川にかかる橋。
浅水川は福井県を流れ日野川にそそぐ。朝水川。
とどろとどろ 橋を渡る音。同時に雨の激しく降る音をも意味する。
ふりしあめの 直後の「古り」にかかる序。
ふりにし 年とってしまった。「古る」連用形+完了「ぬ」連用形+過去「き」連体形。
たれぞこの 《大芹>》の「これやこの」に対応する。
なかひと 仲人。仲介者。
みもと 貴人への尊称。居所をもって相手を示す婉曲表現。御許。
かたち 様子。
せうそこ 訪ねてきて、案内を請うこと。
とぶらひ 訪問すること。
サキムダチヤ 囃言葉。《浅水》《刺櫛》《鷹子》《逢路》《道口》《更衣》《何為》に共通。
「サ公達ヤ」(さあお兄さん!)的な解釈(笑)が諸書に多い。
なお「サ」の表記は『鍋』『天』で「沙」。『仁』『三』は「サ」 - 校異
- 鍋 「世宇曾己度」(「又説」)
仁 「トントロトントロ」「フリシアメンノ」「タレソコンノ」(「同歌藤家」)
- 催馬楽レパートリー内の同音
- 《大芹》《刺櫛》《鷹子》
《逢路》《道口》《更衣》《何為》
- いわゆる「《更衣》グループ」
- 《浅水》冒頭~「たれそこの」、「かたち」以降が《逢路》《道口》《更衣》《何為》と同音。
- 「なかひとたてゝ」~「みもとの」まで3拍子分は独立旋律で、《逢路》以下4曲と一致しない。
- 唐楽・高麗楽との同音
- (未確認)
- 解説
あしがき
呂 | 本文 | 目録 | 拍子 | 一段 | 二段 | 三段 | 四段 | 五段 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鍋 | 葦垣 | 葦垣 | 30 | 6 | 6 | (6) | (6) | (6) | - | - | 三段以降欠丁 |
天 | 葦垣 | 葦垣 | 35 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | - | - | |
三 | 葦垣 | 葦垣 | 35 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | - | 〈西王楽〉序(巻九) | |
仁 | 葦垣 | 葦垣 | 35 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | - | 〈西王楽〉序(巻八) | |
★ | 〈西王楽〉序 |
あすかゐ
- 整定本文
飛鳥井に 宿りはすべし ヤ オケ 陰もよし 御水(みもひ)も冷(さむ)し 御秣(みまくさ)もよし
改行位置は『天治本』の「二切」によった。
- 現代語訳
- 飛鳥井に 宿を旅宿りしましょう ヤ オケ
陰も涼しくていいし お水も冷たい お馬の飼葉もいい
- 語釈
- あすかゐ 飛鳥地方の井戸。
やどり 旅宿りすること。
かげ 木陰など、日のあたらない場所。
みもひ 水の敬称。接頭辞「み」+水を入れる器「もひ」
さむし つめたい。
みまくさ 馬の飼葉の敬称。接頭辞「み」+「まくさ(秣)」。
- 校異
- 鍋 「但件也止利波須戸之可有音振二説」(本説)
三 「ヤドリハスベシ オケ」(本説、「同」説は「ヤドリハスベシ ヤ オケ」)
仁 「ヤドリハスベシ オケ」(本説、「同二切」説は「ヤドリハスベシ ヤ オケ」)
- 参考
- 『枕草子』「井は」
ほりかねの井。たまの井。はしり井は、あふさかなるがをかしきなり。山の井、などさしもあさきためしになりはじめけん。あすか井は、みもひもさむしとほめたるこそをかしけれ。千貫の井。少将の井。さくら井。きさきまちの井。
- 『源氏物語』「帚木」巻
懐なりける笛取り出でて吹き鳴らし、「かげもよし」など、つづしりうたふるほどに、
- 唐楽・高麗楽との同音
- 〈夏引楽〉序
- 〈夏引楽〉序は黄鐘調、序拍子で拍子数は23。
- 〈夏引楽〉序前半部が、《飛鳥井》(拍子数9)と同音関係にある。
- 〈夏引楽〉序、破は『三五要録』『仁智要録』にないが、『博雅笛譜』に掲載されている。
- 解説
- 囃言葉「ヤ オケ」を除けば、短歌形式(5・7・5・7・7)となる。
→「飛鳥井に宿りはすべし陰もよし御水も冷し御秣もよし」
あづまや
律 | 本文 | 目録 | 拍子 | 一段 | 二段 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鍋06 | 東屋 | 東屋 | 18 | 18 | - | - | - | |
天-- | 東屋 | - | - | - | - | - | - | 或絶後及数十年 或依不伝家説不書也(巻末) |
三04 | 東屋 | 東屋 | 18 | 9 | 9 | - | - | |
仁04 | 東屋 | 東屋 | 18 | 9 | 9 | - | - | |
★ | 《夏引》 《貫河》 《走井》 《飛鳥井》 | 〈夏引楽〉序 |
- 整定本文
一段) 東屋の 真屋のあまりの その雨(あま)そゝき 我立ち濡れぬ 殿戸開かせ 二段) 鎹も 錠(とざし)もあらばこそ その殿戸 我鎖(さ)さめ 押し開いてきませ 我や人妻
- 現代語訳
- 一段) 東屋の 真屋の軒先の その雨だれで
私は立ち濡れてしまいました 家の戸を開けてください
二段) 掛けがねも 錠もあるのなら その戸を私は閉ざしましょうが
(どちらもありませんから) 押し開いていらっしゃい 私が人妻とでもいうの?
- 語釈
- あづまや 屋根を四方に葺き下ろした、粗末な小家。
まや 「あづまや」の「まや」を反復した語。棟の前後二方に葺き下ろした家とも解せる。
あまり 軒先。
あまそゝき 雨だれ。
とのど 御殿の戸。ここでは単に家の戸。
かすがひ 戸を閉ざす金具。
とざし 戸をさすために用いる錠。
- 校異
- 鍋 「止尼之」(本説、「左」の誤写か)
- 参考
- 唐楽・高麗楽との同音
- 〈夏引楽〉序
- 〈夏引楽〉序は黄鐘調、序拍子で拍子数は23。
- 〈夏引楽〉序前半部が、《東屋》の各段(拍子数9)と同音関係にある。
- 〈夏引楽〉序、破は『三五要録』『仁智要録』にないが、『博雅笛譜』に掲載されている。
- 解説
あなたふと
呂 | 本文 | 目録 | 拍子 | 一段 | 二段 | 三段 | 同音1 | 同音2 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鍋 | 安名尊 | 安名尊 | 14 | 6 | 5 | 3 | 《新年》(目録朱書) 《梅枝?》(目録朱書) | - |
天 | 安名尊 | 安名尊 | 14 | 5 | 5 | 4 | 《新年》 《梅枝》 | - |
三 | 安名尊 | 安名尊 | 14 | 5 | 5 | 4 | 《新年》 《梅之枝》 | - |
仁 | 安名尊 | 安名尊 | 14 | 5 | 5 | 4 | 《新年》 《梅之枝》 | - |
★ | 《新年》 《梅枝》 《沢田川》 |
あふみぢ
律 | 本文 | 目録 | 拍子 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
鍋19 | 逢路 | 逢路 | ? | 《更衣》(目録朱書) | - | |
天-- | 逢路 | - | - | - | - | 或絶後及数十年或依不伝家説不書也(巻末) |
三17 | 逢路 | 逢路 | 13 | 《道口》 | - | |
仁17 | 逢路 | 逢路 | 13 | 《道口》 | - | |
★ | 《大芹》《浅水》《刺櫛》《鷹子》 《道口》《更衣》《何為》 |
- 整定本文
近江路の 篠の小蕗(をふゝき) 早引かず 子持ち待ち痩せぬらむ 篠の小蕗ヤ サキンダチヤ
- 現代語訳
- 近江路の 篠の小蕗を 早く引きとらないので
今頃子持ちの女が待ち焦がれて痩せてしまっているでしょう 篠の小蕗ヤ サキムダチヤ
- 語釈
- あふみぢ 近江路。近江への道、あるいは近江の道。
しの 諸書、地名と解する。野洲郡篠原、また蒲生郡篠田とも。
をふゝき 小さな蕗。子持ち女を暗喩する。『和名抄』「蕗音路 和名布ゝ木」。
子持ち 子持ちの女。
サキムダチヤ 囃言葉。《浅水》《刺櫛》《鷹子》《逢路》《道口》《更衣》《何為》に共通。
- 校異
- (なし)
- 参考
- 『万葉集』防人歌(4343)
我(わ)ろ旅は旅と思(おめ)ほど家(いひ)にして子持(め)ち痩すらむ我が妻(み)かなしも
- 唐楽・高麗楽との同音
- (未確認)
- 解説
あらたしきとし
呂 | 本文 | 目録 | 拍子 | 一段 | 二段 | 三段 | 同音1 | 同音2 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鍋 | 新年 | 新年 | 14 | 6 | 5 | 3 | 《安名尊》(目録朱書) 《梅枝》(目録朱書) | - |
天 | 新年 | 新年 | 14 | 5 | 5 | 4 | 《安名尊》 《梅枝》 | - |
三 | 新年 | 新年 | 14 | 5 | 5 | 4 | 《安名尊》 《梅之枝》 | - |
仁 | 新年 | 新年 | 14 | 5 | 5 | 4 | 《安名尊》 《梅之枝》 | - |
★ | 《安名尊》 《梅枝》 《沢田川》 |
あをのま
呂 | 本文 | 目録 | 拍子 | 一段 | 二段 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鍋 | 青馬 | 青馬 | 12 | 12 | - | 《浅之門》(目録朱書) 《妹之門》(目録朱書) | - | |
天 | 白馬 | 白馬 | 12 | 8 | 4 | 《浅緑》 《妹之門》 | - | 強不歌仍不注其詞 |
三 | 青之馬 | 青之馬 | 12 | 12 | - | 《浅緑》 | - | |
仁 | 青之馬 | 青之馬 | 12 | 12 | - | 《浅緑》 | - | |
★ | 《浅緑》 《妹之門》 《席田》 | 〈夏引楽〉破 |
あをやぎ
律 | 本文 | 目録 | 拍子 | 一段 | 二段 | 同音1 | 同音2 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
鍋09 | 青柳 | 青柳 | 12 | 6 | 6 | - | 〈長生楽〉序 |
天03 | 青柳 | 青柳 | 12 | 6 | 6 | - | - |
三07 | 青柳 | 青柳 | 12 | 6 | 6 | - | 〈長生楽〉序(巻九) |
仁07 | 青柳 | 青柳 | 12 | 6 | 6 | - | 〈長生楽〉序(巻八) |
★ | 〈長生楽〉序 |
- 整定本文
一段) 青柳を 片糸に縒りて ヤ オケヤ 鶯の オケヤ 二段) 鶯の 縫ふといふ笠は オケヤ 梅の花笠ヤ
- 現代語訳
- 一段) 青柳を 片糸として縒って ヤ オケヤ 鶯が オケヤ
二段) 鶯が 縫うという笠は オケヤ 梅の花笠だ
- 語釈
- あをやぎ 葉が茂って青々とした柳。多く、春の芽吹いた頃のものをいう。
かたいと より合わせる前の、片方の糸。
はながさ 花を笠に例えて言う語。
- 校異
- なし
- 参考
- 『古今和歌集』巻一 「春歌上」(36)
鶯の笠に縫ふてふ梅の花折りてかざさむ老いかくるやと
- 『古今和歌集』巻二十 「神遊びの歌」「返し物の歌」(1081)
青柳を片糸に縒りて鶯の縫ふてふ笠は梅の花笠
- 承和の大嘗会主基風俗歌? 要確認
- 『源氏物語』「胡蝶」巻 春の町の船楽
夜に入りぬれば、いと飽かぬ心地して、御前の庭に篝火ともして、御階段のもとの苔の上に楽人召して、上達部、親王たちも、みなおのおのの弾物、吹物とりどりにしたまふ。物の師ども、ことにすぐれたる声のかぎり、双調吹きて、上に待ちとる御琴どもの調べ、いとはなやかに掻きたてて、《安名尊》遊びたまふほど、生けるかひありと、何のあやめも知らぬ賤の男も、御門のわたり暇なき馬、車の立処にまじりて、笑みさかえ聞きけり。空の色、物の音も、春の調べ、響きはいとことにまさりけるけぢめを、人々思しわくらむかし。夜もすがら遊び明かしたまふ。返り声に〈喜春楽〉立ちそひて、兵部卿宮、《青柳》折り返しおもしろくうたひたまふ。主の大臣も言加へたまふ。
- はじめ呂、双調で《安名尊》を演奏。双調は「春の調べ」とされる。
- やがて返り声で律〈喜春楽〉を奏す。〈喜春楽〉は黄鐘調の曲。
- そのまま《青柳》を奏したとすれば、《青柳》は黄鐘調で奏されたということになる。
- 『源氏物語』「若菜上」巻 源氏の四十賀の場面
唱歌の人々の御階に召して、すぐれたる声の限り出だして、返り声になる。夜の更けゆくままに、物の調べどもなつかしく変りて、《青柳》遊びたまふほど、げにねぐらの鶯驚きぬべく、いみじくおもしろし。
- こちらも返り声後に《青柳》を奏している。
- 催馬楽レパートリー内の同音
- 未確認
- 唐楽・高麗楽との同音
- 〈長生楽〉序
- 〈長生楽〉序は序拍子(拍子数6)、《青柳》の各段(拍子数6)と同音関係にある。
- 『三五要録』巻九、黄鐘調〈長生楽〉条
「南宮譜云く、承和の御時、清涼殿の前紅梅の花の賀の時此の曲を作る。笛則ち帝王の御作、舞則ち右大臣信朝臣の所作なり。童男四十人麹塵を著け殿前に舞ふ。此の舞絶えしなり。長秋卿譜云く、序《青柳》の歌の音、破即ち《高砂》の歌の音。中曲。古楽。」とある。 - 『仁智要録』巻八、黄鐘調〈長生楽〉条
「長秋卿横笛譜云く、所謂序《青柳》の歌の音、破即ち《高砂》の歌の音。中曲。古楽。南宮横笛譜云く、承和の御時、清涼殿の前紅梅の花の賀の時此の曲を作る。笛則ち帝王の御作、舞則ち右大臣信朝臣の所作なり。則ち童男四十人麹塵を著け殿前に舞ふ。此の舞絶えしなり。」とある。
- 解説
いかにせん
- 整定本文
いかにせむ せむヤ 愛(を)しの鴨鳥ヤ 出でゝ行かば 親は歩(あり)くと苛(さいな)べど 夜妻は定めつヤ サキムダチヤ
- 現代語訳
- どうしましょうか どうしよう かわいい鴨鳥よ 私が出歩こうものならば
親はほっつき歩くと責めるけれど 夜妻は定めたのですよ サキムダチヤ
- 語釈
- いかにせむ どうしましょうか。
せむヤ 「いかにせむ」を反復したもの。
をしのかもとり 愛しい鴨。恋人を暗喩。「出で」を導く序とする説もある。
ありく 出歩く。ほっつき歩く。
さいなべど 責めるけれど。さいなめど。
よつま 夜だけの男女の相手。男女ともにいう。
サキムダチヤ 囃言葉。《浅水》《刺櫛》《鷹子》《逢路》《道口》《更衣》《何為》に共通。
- 校異
- 天 「乎之乃加毛止利_」「左伊波牟止」「与川万_左太女川也」
三 「ヲシノカモトリ_」「サイナメト」(本説)
仁 「ヲシノカモトリ_」「イテテイケハ」「サイナメト」(本説)
- 参考
- 拾遺和歌集535
能宣に車のかもを乞ひに遣はして侍りけるに、侍らずと言ひて侍りければ 藤原仲文
鹿をさして馬といふ人のありければかもをもをしと思なるべし
返し 能宣
なしといへばおしむかもとや思覧鹿や馬とぞいふべかりける
- 唐楽・高麗楽との同音
- (未確認)
- 解説
いしかは
呂 | 本文 | 目録 | 拍子 | 一段 | 二段 | 三段 | 同音1 | 同音2 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鍋 | 石川 | 石川 | 15 | 6 | 6 | 3 | - | - |
天 | 石川 | 石川 | 16 | 6 | 6 | 4 | - | - |
三 | 石河 | 石河 | 16 | 6 | 6 | 4 | - | - |
仁 | 石河 | 石河 | 16 | 6 | 6 | 4 | - | - |
★ | 〈石川楽〉 |
いせのうみ
律 | 本文 | 目録 | 拍子 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
鍋10 | 伊勢海 | 伊勢海 | 10(8ママ) | - | 〈拾翠楽〉 | |
天04 | 伊勢海 | 伊勢海 | 10 | - | - | 二切(8,2) |
三08 | 伊勢海 | 伊勢海 | 10 | - | 〈拾翠楽〉破(巻九「龍吟抄云」) | |
仁08 | 伊勢海 | 伊勢海 | 10 | - | 〈拾翠楽〉破(巻八「龍吟抄云」) | |
★ | 〈拾翠楽〉破 |
- 整定本文
伊勢の海の 清き渚に 潮間(しほがひ)に なのりそや摘まむ 貝(かひ)や拾はんヤ 玉や拾はんヤ
改行位置は天治本「二切」に従った。
- 現代語訳
- 伊勢の海の美しい渚で 潮の間に なのりそを摘みませんか 貝を拾いませんか ヤ
玉を拾いませんか ヤ
- 語釈
- いせのうみ
しほがひ
なのりそ
たま
- 校異
- 鍋 「太万毛比呂波无_ 加比毛比呂波无_」(「古説」)
- 参考
- 催馬楽レパートリー内の同音
- 未確認
- 唐楽・高麗楽との同音
- 〈拾翠楽〉破
- 〈拾翠楽〉破(拍子数10)は、《伊勢海》(拍子数10)と同音関係にある。
- 『鍋』、曲題に「《伊勢海》拾翠楽」とある。
- 『三五要録』巻九、水調曲〈拾翠楽〉項
序拍子七。
南宮横笛譜云はく、序十二遍吹くべし。二反を以て一帖、併せて六帖と為す。毎遍拍子七、合わせて拍子八十四。
長秋卿同譜云はく、序拍子七、五反吹くべし。二反を以て一帖と為す。合はせて拍子丗五、件の曲断了。
破拍子十五反弾くべし。合わせて拍子七十。長秋卿譜已上の注に同じ。
南宮譜云はく、破舞に随ひて定数無く吹く。舞迴中、則ち還入。
承和の大嘗会の時、豊楽殿の前に海浜を作り此の曲を奏す。砂石を集め、樹木を植え、山阜の形を成す。縹布を敷き、萍藻を散らし、海渚の体を像り、其の上に船を引き、飛帆の波に随うに擬す。其の中に舞童を載せ、海人の藻を拾うに似す。曲了りて、即ち撤して復元す。又笛作清上、舞作尾張浜主。
竜吟抄云はく、序竹河、破伊勢海。
中曲、急拍子十七反弾くべし。古楽。
- 『三五要録』巻九、水調曲〈拾翠楽〉項
- 解説
いもがかど
呂 | 本文 | 目録 | 拍子 | 一段 | 二段 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鍋 | 妹之門 | 妹之門 | 11ママ | 11ママ | - | 《浅之門》(目録朱書) 《青馬》(目録朱書) | - | |
天 | 妹頭門 | 妹欤門 | 12 | 8 | 4 | 《浅緑》 《白馬》 | - | 強不歌仍不注其詞 |
三 | 妹門 | 妹之門 | 12 | 12 | - | - | - | |
仁 | 妹之門 | 妹之門 | 12 | 12 | - | - | - | |
★ | 《浅緑》 《青馬》 《席田》 | 〈夏引楽〉破 |
いもとあれ
呂 | 本文 | 目録 | 拍子 | 同音1 | 同音2 |
---|---|---|---|---|---|
鍋 | 妹与我 | 妹与我 | 9 | - | - |
天 | 妹与我 | 妹与我 | 10 | - | - |
三 | 妹与我 | 妹与我 | 10 | - | - |
仁 | 妹与我 | 妹与我 | 10 | - | - |
★ |
おいねずみ
律 | 本文 | 目録 | 拍子 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
鍋 | - | - | - | - | - | |
天 | 老鼠 | 老鼠 | 10 | - | - | |
三 | 老鼠 | 老鼠 | 10 | - | - | 亦名西寺 |
仁 | 老鼠 | 老鼠 | 10 | - | - | 又名西寺 |
★ | 〈林歌〉 |
おくやま
呂 | 本文 | 目録 | 拍子 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
鍋 | 奥山 | 奥山 | 9 | - | - | |
天 | 奥山 | - | - | - | - | 或絶後及数十年或依不伝家説不書也(巻末) |
三 | 奥山 | 奥山 | 5 | - | - | |
仁 | - | - | - | - | - | |
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おくやまに
呂 | 本文 | 目録 | 拍子 | 同音1 | 同音2 | 備考 |
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鍋 | 奥山 | 奥山尓 | 12 | - | - | |
天 | 奥山尓 | - | - | - | - | 或絶後及数十年或依不伝家説不書也(巻末) |
三 | - | 奥山尓 | - | - | - | 目録のみ |
仁 | - | - | - | - | - | |
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おほせり
- 整定本文
大芹は 国の沙汰物 小芹こそ 茹でてもむまし これやこの 前盤三たの木 柞(ゆし)の木の盤 むしかめの筒(とう) 犀角の賽 をさいとさい 両面かすめうけたる きりとほし 金嵌め盤木 五六返し 一六の賽や 四三賽や
- 現代語訳
- 大競りは 国で禁止された物 小芹こそ 茹でてもうまい これがその
前盤三たの木 柞の木の盤 虫食いの筒
犀角の賽 をさいとさい 両面にほのかに浮かせたまっすぐな切り目 金嵌めの盤木
五六返し 一六の賽よ 四三賽よ
- 語釈
- おほせり 「小芹」に対して大きな芹。「大競り」(双六)の意を掛ける。
「樗蒲(ちょぼ)」とする説もある(『入文』)
さたもの 禁制されたもの。「大競り」(双六)の意を掛ける。
こせり 「大芹」に対して小さな芹。
『入文』はこちらを「双六」の意と解する。
前盤三たの木 未詳。双六盤の材か。『入文』「栴檀珊瑚」の転。
ゆしの木 これも双六盤の材か。『和名抄』「柞和名由之」
むしかめのとう 虫の食った、賽を入れる筒。『和名抄』「齲歯 無之加女波」
さいかくのさい 犀の角で作った賽。
をさいとさい 未詳。『仁』『三』「平サイトサイ」
両面かすめうけたるきりとほし 未詳。両面にほのかに浮かせたまっすぐな切り目。盤木の意匠か。
かなはめ盤木 未詳。金属をはめた盤木。これも盤木の意匠か。
五六かへし 賽の五と六の目に関するなにか。なんらかの役を示すものか。
いち六のさい 賽の一と六の目。なんらかの役を示すものか。
四三さい 賽の四と三の目。なんらかの役を示すものか。
『仁』『三』「シサムサイ」『梁塵秘抄』(17)は「しさうさい」
- 校異
- 鍋 「蘭木」(「一説」)「由之乃支乃止奈礼盤」(「又説」)
天 「前盤三太乃支乃」
仁 「センハンサムタノキノ」「平(ヒヤウ)サイトサイ」「五ロクカヘシノ」
三 「センハンサムタノキノ」「平(ヒヤウ)サイトサイ」
- 参考
- 『日本書紀』持統3(689)12月丙辰8日
十二月己酉朔丙辰。双六を禁断す。
- 『続日本紀』天平勝宝6(754)10月乙亥壬戌朔14日
冬十月乙亥、勅あり。官人百姓、憲法を畏れず、私に徒衆を聚め、任意に双六す。淫迷に至り、子の父に順う無し。終に家業を亡ひ、亦孝道を虧く。斯に因りて、遍く京畿七道諸國に仰せて、固く禁断せしむ。其れ六位已下、無論男女ともに。杖一百を决す。蔭贖すべからず。但し五位は、即ち見任を解き、及び位祿位田を奪す。四位已上は、給、封戸、職田を停ず。國郡司阿容することを禁ぜず。亦皆解任す。若し廿人已上糺告する者有らば、无位には位三階を叙す。有位には物■十疋、布十端を賜ふ。
- 『万葉集』16-3827 長忌寸意吉麻呂
一二の目のみにはあらず五つ六つ三つ四つさへあり双六のさへ
- 『和名抄』
柞 四声字苑云柞音祚一音昨 和名由之 漢語抄云波々曾木名堪作梳也
齲歯 無之加女波
- 『梁塵秘抄』治承3(-1179?)巻第一(17)
早博打の好むもの 平骰子(ひやうさい)鉄骰子(かなさい)四三骰子(しさうさい)
それをばたれか打ち得たる 文三(もんさん)刑三(ぎやうさん)月々清次とか『新編日本古典文学全集42』小学館(2000)
- いわゆる「《更衣》グループ」
- 《大芹》冒頭~「これやこの」、「五六返し」以降が《逢路》《道口》《更衣》《何為》と同音。
- 「前盤三たの木」~「かなはめ盤木」まで17拍子分は独立旋律で、《逢路》以下4曲と一致しない。
- 唐楽・高麗楽との同音
- (未確認)
- 解説