ニコチンを塗った針では死なない

Last-modified: 2007-06-15 (金) 00:43:04

『金田一少年の事件簿』をはじめ、多くのミステリー作品で「針にニコチンをつけて刺せば死ぬ」というトリックが登場する。しかし、実際のニコチンはそれほどの毒性はない。

ニコチンの毒性は神奈川県化学物質データベースによれば、以下の通りである。

対象動物種 投与経路 試験時間 毒性数値種類 毒性数値
ラット 皮下注射 LD50 25mg/kg
ラット 経皮 LD50 140mg/kg
マウス 経口 LD50 3.34mg/kg
マウス 静脈内注射 LD50 0.3mg/kg
ウサギ 静脈内注射 LD50 6.25mg/kg
ウサギ 経皮 LD50 50mg/kg
イヌ 経口 LD50 9.2mg/kg
イヌ 皮下注射 LDL0 20mg/kg
イヌ 静脈内注射 LD50 5mg/kg
ラット 経口 LD50 50mg/kg

もっとも強力に見積もっても動物実験で体重1キログラム当たり0.3ミリグラムで半数が死亡というものである。これは体重50キログラムの人ならば15ミリグラムが投与されると半数が死亡、半数が重体という事を意味する。さて、15ミリグラムといえばどれほどに多い量であろうか?
実は米粒一つはコシヒカリで約22ミリグラム、酒米で約28ミリグラムなのである。これよりやや少ない量を、縫い針に塗って刺すだけで人体内に送り込めるものであろうか?

しかも、素人がタバコを煮詰めてニコチンを抽出したとしても100%のものになるわけではないし、半数致死量というものは体質差もあるので確実性がない。
また、あるサイトによれば成人のニコチンの致死量は50ミリグラムだとも言う(動物実験の数値より多いが、全数致死量ということであろうか)。この程度の毒性の物質が、果たして針で刺さっただけで致命的なものであろうか。注射器で注入されたのであれば別だが。多くのミステリー作品でこのトリックが使われているらしい。一度誰かが致死量で考証すれば、使えないと判明したと思う。

ブルガリア人活動家が殺害されたときの毒物・リシンであれば、針の先につけても十分な毒性はあるだろうし、他にもボツリヌストキシンなどの猛毒物質はある。ただし、そのどちらも即効性はないので、即死というわけには行かない。

なお上記サイトによればニコチンは無臭のようだ。純粋物質であれば飲料に混ぜられると危険である。

何事も、量というものを考えなければならない。食塩も茶碗いっぱい摂取すれば死ぬし、猛毒だからといって目に見えないくらいの量でも危険というわけではないのだ。