「男ぉぉぉ!」
女が人目もはばからず抱きついてくる。 「・・・相変わらず暑苦しい奴だな」 普段と変わらぬ光景だった。 「私は男の事がトゥキダカラー!」 「・・・韓国人?」
きっかけはほんの些細な言葉だった。
「・・・お前さ、少し大人しくしたり出来ないのか?」
「無理だ!!!」 「ほら、俺も少し控えめな方が好きかな・・・、なんて」 「・・・っ!?」 何気なく言った一言。 何気ない会話が途切れ、女の肩がプルプルと震えだした。 「おい?」 「・・・こは」 「え?」 「男は・・・、こんなうるさい女は嫌いか?」 突然しおらしくなる女に動揺を隠し切れなかった。 「そんな事は・・・」 「ぅ・・・、うわあああああ!」 「あ、おい!!」 引きとめようとした俺の手を振り払い、女は走っていってしまった。 「なんなんだよ・・・」
カランカラン・・・。
扉に設置してある来客を知らせるベルが店内に鳴り響く。 「らっしゃーい」 気だるそうな店員が出迎えてくれる。 「今日はお一人っスか?」 「うん・・・」 「元気無いみたいっスね」 「・・・。」 美容師の言葉には反応せず、無言でイスに座る。 「・・・さ、今日はどうします?」 「私を・・・女らしくしてくれ」 「・・了解っス」
「出来たっスよ」
「何も変わってないじゃないか」 「今のアンタには必要無いと思いまして」 「しかしっ、それでは・・困る」 「大丈夫っスよ。さ、何もしてないんですから当然お代は結構っス」
サッと髪をとかし、元通りにリボンを結う。
「要は気持ちの問題っスよ」 「・・・」 何処か納得のいかない表情だが、女は店を後にした。 「ありがとうございました」
とぼとぼと帰路を歩く女。
「男・・・」 夕焼けに長く伸びた影。 足音と共に二つ目が重なる。 「はぁっ・・・はぁっ・・」 「お、男!!」 「女・・・っ」 「男、何で・・」 「女ァ!俺はお前の事が好きだぁぁぁ!!!」 「お、男っ!?」 距離は数メートルとあるのに構わず叫ぶ男。 「何度でも言ってやる!お前が好きだ!!」 「・・・男」 「昼間の事は俺が悪かった・・・、だから・・・もうそんな顔しないでくれ」 「男っ!男ぉぉぉぉぉ!!!」 二人で駆け寄り抱きつく。人目とか、そんなものはお構いなしに。
「青春っスねぇ」
タバコをふかし、美容師は暗くなる商店街へと戻る。
「やっぱり俺の見込んだとおり、アンタは十分女らしいっスよ」