SS3 大人しく出来ないのか?

Last-modified: 2013-08-15 (木) 01:38:45

「男ぉぉぉ!」

女が人目もはばからず抱きついてくる。
「・・・相変わらず暑苦しい奴だな」
普段と変わらぬ光景だった。
「私は男の事がトゥキダカラー!」
「・・・韓国人?」

きっかけはほんの些細な言葉だった。

「・・・お前さ、少し大人しくしたり出来ないのか?」

「無理だ!!!」
「ほら、俺も少し控えめな方が好きかな・・・、なんて」
「・・・っ!?」
何気なく言った一言。
何気ない会話が途切れ、女の肩がプルプルと震えだした。
「おい?」
「・・・こは」
「え?」
「男は・・・、こんなうるさい女は嫌いか?」
突然しおらしくなる女に動揺を隠し切れなかった。
「そんな事は・・・」
「ぅ・・・、うわあああああ!」
「あ、おい!!」
引きとめようとした俺の手を振り払い、女は走っていってしまった。
「なんなんだよ・・・」

カランカラン・・・。

扉に設置してある来客を知らせるベルが店内に鳴り響く。
「らっしゃーい」
気だるそうな店員が出迎えてくれる。
「今日はお一人っスか?」
「うん・・・」
「元気無いみたいっスね」
「・・・。」
美容師の言葉には反応せず、無言でイスに座る。
「・・・さ、今日はどうします?」
「私を・・・女らしくしてくれ」
「・・了解っス」

「出来たっスよ」

「何も変わってないじゃないか」
「今のアンタには必要無いと思いまして」
「しかしっ、それでは・・困る」
「大丈夫っスよ。さ、何もしてないんですから当然お代は結構っス」

サッと髪をとかし、元通りにリボンを結う。

「要は気持ちの問題っスよ」
「・・・」
何処か納得のいかない表情だが、女は店を後にした。
「ありがとうございました」

とぼとぼと帰路を歩く女。

「男・・・」
夕焼けに長く伸びた影。
足音と共に二つ目が重なる。
「はぁっ・・・はぁっ・・」
「お、男!!」
「女・・・っ」
「男、何で・・」
「女ァ!俺はお前の事が好きだぁぁぁ!!!」
「お、男っ!?」
距離は数メートルとあるのに構わず叫ぶ男。
「何度でも言ってやる!お前が好きだ!!」
「・・・男」
「昼間の事は俺が悪かった・・・、だから・・・もうそんな顔しないでくれ」
「男っ!男ぉぉぉぉぉ!!!」
二人で駆け寄り抱きつく。人目とか、そんなものはお構いなしに。

「青春っスねぇ」
タバコをふかし、美容師は暗くなる商店街へと戻る。

「やっぱり俺の見込んだとおり、アンタは十分女らしいっスよ」