Nakao/西アジア

Last-modified: 2012-03-16 (金) 14:40:41

§1 西アジア
①アルメニア Armenia
 アルメニアはカフカス地方南部の国で、古くからアルメニア教会派と呼ばれるキリスト教の一派を信仰している。今でこそ旧ソ連の一小国にすぎないが、十字軍の頃には地中海岸にまで広がる大国家であった。現在トルコ領となっているアダナの町なども、かつてはアルメニア領だったのである。その踊りは、村人全員で踊るようなポピュラー・ダンスのほか、激しい男性舞踊や優雅な女性舞踊が中心となり、カップル・ダンスは多くない。男性舞踊としては、アクロバティックなジョ・ジョンが挙げられるし、女性舞踊にはアハチークネルー・パーがある。また、パパックネルー・パーも比較的激しい踊りで、男性舞踊の仲間に入れることができるが、その女子パートはアルメニアの女性舞踊らしい優雅さを残している。ちなみにパパックネルー・パーに現れるシザーズは、カフカス地方の他の国の踊りにもしばしば見られるものである。

 

②イスラエル Israel
 イスラエルは第2次世界大戦後に建てられた国であるから、国自体にはあまり伝統はない。しかしユダヤ人は古くからの伝統を持つ民族であり、イスラエル建国以前には各地に散らばって暮らしていた。そのためその踊りには世界各地の影響が残っている。デブカ・デブカなどに現れるデブカ・ジャンプはアラブ起源のものと言われているし、ホラ・アガダティやホラ・バリエーションの「ホラ」はルーマニアの輪舞ホラと同じものである。また歌詞に聖書の文句が使われていることが多いのもイスラエルの特徴である。

 

③トルコ Turkey
 トルコはいうまでもなくイスラム教の国家であり、オスマン帝国の時代にはエジプト、イラクからバルカン半島にまで至る大領土を築き上げていた。しかしトルコ人は、古くは北アジアで活躍していた遊牧騎馬民族だったのであり、民族の系統としては日本人などに近いらしい。踊りには陽気な音楽に乗った明るいものと、非常に厳粛な雰囲気のものがあり、対照的である。「変われ」という意味のかけ声「ゲチ Gec」が現れるアリ・パシャ、イシュテ・ヘンデクは、大衆的な歌謡曲調の音楽にのって踊られるものであるし、ポピュラー音楽のような曲に合わせて踊られるテュルキスタンという踊りもある。厳粛な音楽を持つものには、男女が一度も触れ合わないカップルの踊りシェイフ・シャミールがあるが、この踊りは随所にカフカス地方の影響が感じられるものである。

 

© 1999 東京大学民族舞踊研究会