走れYamaken
これはMisya部屋の宝物庫から発見された書物であり、FPSの英雄Yamakenの活躍が記されている。
著作権フリーの作品なのでここに一部中略した本文を引用する。
- Yamakenは激怒した。
必ず、かの邪知暴虐のキムキョンジンを除かねばならぬと決意した。
Yamakenには自演はわからぬ。Yamakenは、寡黙なARである。
無音移動を使い、神リコイルを撃って戦ってきた。
けれども風評には人一倍敏感であった。
きょう未明Yamakenは首都プロバンスを出発し、野を越え山越え十里離れたこのオールドタウンにやってきた。
Yamakenには父も、母もない。妻も無い。本国の、多くのファン達に囲まれ、一人暮らしだ。
このファン達は、或る上質な記事を近々、書き足すことになっていた。
それゆえ、ふさわしい戦歴やら立ち回りのうまさを見せつけに、はるばるオールドタウンにやってきたのだ。
まずは空爆を警戒し、それからB部屋の外広場をぶらぶらと歩いた。
歩いているうちにYamakenは戦場の様子を怪しく思った。ひっそりしている。
夜のせいばかりではなく、オールドタウン全体が、戦場の気配がしない。だんだん不安になってきた。
しばらく歩いてInhaleにあい、語勢を強くして質問した。
「我々は、わごむーずWikiに晒されてます。」
「なぜ晒されるのだ。」
「あなたが自演をしている、というのですが、誰もそんな、あなたに自演などさせて居りませぬ。」
「たくさんの自演容疑をかけられたのか。」
「はい、はじめは年齢を。それから、厨房度を。それから、また年齢を。
それから、厨房度を。それから、年齢を。今日はページを凍結されかけました。」
聞いて、Yamakenは激怒した。
「呆れたWikiだ。生かして置けぬ。」
- Yamakenは戦争好きな人物であった。
初心者を、背負ったままで、のそのそWikiに書き込んで行った。
たちまち彼は、巡邏のわごむ銃に自演認定された。
調べられて、Yamakenの懐中からはWikiを編集する為のアカウントが出て来たので、
騒ぎが大きくなってしまった。
Yamakenは、わごむ銃に掘られた。
「このアカウントで何をするつもりであったか。言え!」
「Wikiを粘着の手から救うのだ。」とYamakenは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」わごむ銃は、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの妬みがわからぬ。」
「Wikiで晒すのは、もっとも恥ずべき悪徳だ。わごむ銃は、人の自演さえ疑っておられる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、お前のページだ。あの発言は当てにならない。
人はもともと私欲の塊さ。信じては、ならぬ。」
わごむ銃は落ち着いてつぶやき、ほっとため息ついた。
「わしだって正しい評価を望んでいるんのだが。」
「何のための評価だ。人を貶めて満足するためか。」今度はYamakenが嘲笑した。
「黙れnoob。」わごむ銃はさっと顔を上げて報いた。
「素面ではどんな清らかなことを言える。
お前だって、今に、Wikiの自演がばれてから、泣いてわびたって聞かぬぞ。」
「ああ、わごむ銃は利口だ。私はちゃんと評価を受ける覚悟で居るのに。評価を上げてくれとは絶対に言わない。
ただ、私に情けをかけるつもりなら、評価までに3日間の日限を与えてください。
SuddenAttackにいる大勢のファンに、説得をしてやりたいのです。
私を信じられないのならば、よろしい、Wikiに私の項目があります。唯一無二の私のページだ。
私が逃げてしまって、3日目の日暮れまでに戻ってこなかったら、かみけんの項目をごみけんにしてください。」
「願いを、聞いた。そのページを教えるがよい。三日目には日没までに帰って来い。
遅れたら、かみけんを、きっとごみけんにするぞ。ちょっと遅れてくるがいい。お前の自演は、永遠に見逃してやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる」
「はは。自演バレしたくなかったら、遅れてこい。お前の心は、わかっているぞ。」
- わごむーずWiki、Yamakenのページは深夜、SAプレイヤーに注目された。
YamakenはWikiに書き込みを行った。Wikiは無言で更新された。
Yamakenはすぐに出発した。初夏、満天の星である。
- Yamakenはその夜、一度も野良せず十里の道を急ぎに急いで、首都へ到着したのは、あくる日の午前だった。
取り巻いてくるファンは、よろめいて歩いてくるYamakenの、覇気のない姿を見て驚いた。
そうしてうるさくYamakenに質問を浴びせた。
「なんでもない、わごむWikiに用事を残してきた。またすぐ書き込みに行かなければならぬ。
明日、 CWに来てくれ。早いほうがよかろう」
Yamakenは、またよろよろと歩き出し、クロスポートへ行って野良し、間もなく床に倒れ伏し17デッドもらってしまった。
ファン達は、昼間にプロバンスへ来た。
ファン達に説教したところ、1-8からA設置され、やがて解除が始まった。
何か不吉なものを感じたが、それでも体を隠しながら解除したYamakenは、
満面に喜色をたたえ、しばらくは、わごむ銃とのあの約束をさえ忘れていた。
ラウンドが終わったのは明くる日の薄明かりの頃である。
Yamakenは跳ね起き、南無三、壁抜きで撃ちすぎたか、いやまだまだ大丈夫、これから出発すれば、約束の刻限までには十分間にあう。
今日は是非とも、わごむーず達に、自演でないと見せてやろう。
そうして笑って野良してやる。身支度はできた。
さて、Yamakenは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。
- 私は今夜、評価を受ける。真っ当な評価を受けるために走るのだ。私の評価を救うために走るのだ。
わごむ銃の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、私は評価を受ける。
さらばファンよ。
Yamakenは、つらかった。幾度か、Wikiを更新しそうになった。
えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。
レイプ部屋を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、ログアウトした頃には、
雨も止み日は高く昇って、そろそろ弾が抜けてきた。
折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、
Yamakenは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、
よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。
立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。
今、ここで、評価されずにいらいらするとは情無い。
Yamakenのファンは、おまえを信じたばかりに、お前の項目をごみけんにされなければならぬ。
おまえは、稀代の自演の神、まさしくわごむ銃の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、
全身萎えて、もはやナイフすらかなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった
ファンよ許してくれ。私は、いつでも君達に任せた。君はいつでも更新が多かった。
本当に佳いファンであったのだ。いちどだって、君達の更新を、不満に思ったことは無かった。
わごむ銃は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、私の項目をごみけんにして、
私の自演を見逃すと約束した。私はわごむ銃の卑劣を憎んだ。
けれども、今になってみると、私はわごむ銃の言うままになっている。
Wikiだの、CWだの、信者だの、戦跡だの、考えてみれば、くだらない。
野良で一般人の羨望を受ける。それが私の常道ではなかったか。
ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い自演王だ。
キャラデリートでも、勝手にするがよい。やんぬる哉。
――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
- 続く