アグアド「う・・・・」
目を開ける。
アグアド「アレ・・・ここは?」
辺りは真っ白。
周囲には何もない。
遠くにも、何もない。
アグアド「何も無い・・・俺、イリアに・・・レネスにいたんじゃ・・・?」
立ち上がって、あたりを見渡す。
視界に入るものは何もなく、ただただ無が広がっている。
完全な、無の世界だった。
アグアド「そうだ・・・確か俺・・・アイツの攻撃で・・・」
そして、ハッと気づいた。
アグアド「そうか・・・俺・・・死んじまったのか・・・」
???「まぁ、そんな所だな。」
突然、横から声がした。
アグアド「な・・・貴女・・・は・・・!」
そこにいたのは、赤髪の女性。
アグアド「ミ・・・ミシェナ・・・さん!?」
ミシェナ「ふん・・・ようやく気づいたか。」
そこにいたのは、紛れも無く、ミシェナであった。
ミシェナ「貴様がここに来るのは…まだ早いと思うが?」
アグアド「すみません…俺…せっかく貰った命を…」
ミシェナ「まぁ、仕方ないだろう。あの長月とやら、相当の実力者のようだからな。」
そう言って、ミシェナはくるりと向きを変え、歩き出した。
ただ歩いているだけだったが、アグアドはミシェナがどこか遠くに行ってしまうように感じた。
アグアド「どこに…行くんですか?」
ミシェナ「あっちへ。」
ミシェナはそれだけしか言わなかったが、アグアドには意味が理解できた。
この先…おそらく、本当の死。
アグアド「俺は…まだ死ねない…死ぬわけにはいかない!」
ぴた、と、ミシェナの足が止まった。
アグアド「皆がまだ戦ってるんだ…!俺だけ先に逝くなんて、出来ない…!」
訴えるように、声を張り上げる。
ミシェナに聞いてほしかった訳ではない。ただただ、叫びたかった。
アグアド「こんなところで死んでたまるかよ!クソ…どうにもならねぇのかよ…!」
それを見ていたミシェナは、ふっ、と笑みを浮かべた。
決して嘲る様な笑みではない。とても温かい、優しさの籠った笑みであった。
ミシェナ「あの時、私の肉体は闇龍の攻撃により、崩壊した。」
突然、ミシェナが語り始めた。
ミシェナ「だが、精神はまだ残っていた。最後に一瞬…"まだ死にたくない"と、思ってしまった。」
アグアドのほうをじっと見つめ、言う。
ミシェナ「もっと…貴様等と一緒にいたい、と、思ってしまったのさ。」
アグアド「え…」
ミシェナ「よって私の魂は彷徨う魂となってしまった。このまま成仏できないのか…と思っていたとき、
コイツと出会ったのさ。」
アグアド「え…お前は!」
いつの間にか、ミシェナの背後に立つ人影があった。
それは、アグアドと瓜二つの姿をしていた。
アグアド「は…ハーデンス…?」
ハーデンス「よう…久しぶりだな。相棒。」
アグアド「どうして…お前がここに?」
ハーデンス「俺もこの人と同じさ。最期に"まだ消えたくない"って、一瞬思っちまったってわけだ。」
ミシェナ「そう…同じく彷徨う魂となっていたコイツと出会い、結託したのだ。」
ハーデンス「2人分の魂を使い、もし、テメェが死にそうになったときは、助けてやろうってな。」
アグアド「え…それじゃあ…」
ミシェナ「ああ。もう一度、貴様をそちらへ帰すことができる。」
ハーデンス「ただし…1回きりだ。次ヘマしても、もう無理だぜ。」
アグアド「頼む。俺は、まだ死ぬ訳には…!」
ミシェナ「ふん、それでこそだ。」
ハーデンス「ヘッ、"もうこのまま死にたい"なんて言ったら、ぶちのめしてやるとこだったぜ。」
そう言いながら笑う2人の姿が、薄れていく。
同時にアグアドの体内に、熱い物がこみ上げてくる。
ミシェナ「さて…これでようやく消える事ができる…」
ハーデンス「後はしっかりやれよ…相棒」
そして、無の世界に光が満たされた。