第37話「生死の深淵」

Last-modified: 2011-11-18 (金) 00:47:05

アグアド「う・・・・」

目を開ける。

アグアド「アレ・・・ここは?」

辺りは真っ白。

周囲には何もない。

遠くにも、何もない。

アグアド「何も無い・・・俺、イリアに・・・レネスにいたんじゃ・・・?」

立ち上がって、あたりを見渡す。

視界に入るものは何もなく、ただただ無が広がっている。

完全な、無の世界だった。

アグアド「そうだ・・・確か俺・・・アイツの攻撃で・・・」

そして、ハッと気づいた。

アグアド「そうか・・・俺・・・死んじまったのか・・・」

???「まぁ、そんな所だな。」

突然、横から声がした。

アグアド「な・・・貴女・・・は・・・!」

そこにいたのは、赤髪の女性。

アグアド「ミ・・・ミシェナ・・・さん!?」

ミシェナ「ふん・・・ようやく気づいたか。」

そこにいたのは、紛れも無く、ミシェナであった。

ミシェナ「貴様がここに来るのは…まだ早いと思うが?」

アグアド「すみません…俺…せっかく貰った命を…」

ミシェナ「まぁ、仕方ないだろう。あの長月とやら、相当の実力者のようだからな。」

そう言って、ミシェナはくるりと向きを変え、歩き出した。

ただ歩いているだけだったが、アグアドはミシェナがどこか遠くに行ってしまうように感じた。

アグアド「どこに…行くんですか?」

ミシェナ「あっちへ。」

ミシェナはそれだけしか言わなかったが、アグアドには意味が理解できた。

この先…おそらく、本当の死。

アグアド「俺は…まだ死ねない…死ぬわけにはいかない!」

ぴた、と、ミシェナの足が止まった。

アグアド「皆がまだ戦ってるんだ…!俺だけ先に逝くなんて、出来ない…!」

訴えるように、声を張り上げる。

ミシェナに聞いてほしかった訳ではない。ただただ、叫びたかった。

アグアド「こんなところで死んでたまるかよ!クソ…どうにもならねぇのかよ…!」

それを見ていたミシェナは、ふっ、と笑みを浮かべた。

決して嘲る様な笑みではない。とても温かい、優しさの籠った笑みであった。

ミシェナ「あの時、私の肉体は闇龍の攻撃により、崩壊した。」

突然、ミシェナが語り始めた。

ミシェナ「だが、精神はまだ残っていた。最後に一瞬…"まだ死にたくない"と、思ってしまった。」

アグアドのほうをじっと見つめ、言う。

ミシェナ「もっと…貴様等と一緒にいたい、と、思ってしまったのさ。」

アグアド「え…」

ミシェナ「よって私の魂は彷徨う魂となってしまった。このまま成仏できないのか…と思っていたとき、
     コイツと出会ったのさ。」

アグアド「え…お前は!」

いつの間にか、ミシェナの背後に立つ人影があった。
それは、アグアドと瓜二つの姿をしていた。

アグアド「は…ハーデンス…?」

ハーデンス「よう…久しぶりだな。相棒。」

アグアド「どうして…お前がここに?」

ハーデンス「俺もこの人と同じさ。最期に"まだ消えたくない"って、一瞬思っちまったってわけだ。」

ミシェナ「そう…同じく彷徨う魂となっていたコイツと出会い、結託したのだ。」

ハーデンス「2人分の魂を使い、もし、テメェが死にそうになったときは、助けてやろうってな。」

アグアド「え…それじゃあ…」

ミシェナ「ああ。もう一度、貴様をそちらへ帰すことができる。」

ハーデンス「ただし…1回きりだ。次ヘマしても、もう無理だぜ。」

アグアド「頼む。俺は、まだ死ぬ訳には…!」

ミシェナ「ふん、それでこそだ。」

ハーデンス「ヘッ、"もうこのまま死にたい"なんて言ったら、ぶちのめしてやるとこだったぜ。」

そう言いながら笑う2人の姿が、薄れていく。

同時にアグアドの体内に、熱い物がこみ上げてくる。

ミシェナ「さて…これでようやく消える事ができる…」

ハーデンス「後はしっかりやれよ…相棒」

そして、無の世界に光が満たされた。