『ボヘミアン・アイカツ魚のマイキャラ創作物』

Last-modified: 2015-09-02 (水) 18:00:58

「初対面と、内緒の特訓」


「桜街玉枝です」
「大國智子よ」
これはまだ、私達が進級する前の話。
中等部3年生…これまた微妙な時期にやってきた奇妙な転入生とのお話だ。
そして私のとっても大切な…ひとつの転機のお話。

 

彼女の第一印象と言えば、淑やかな女の子という好印象だった。
ひどく落ち着いた佇まいは、年齢にそぐわない異質さも醸し出してはいたが。
張り付いた様な微笑みの裏に、何処と無く陰りを感じさせた…そんな子だった。

 

「大國さんはどうしてこの学校に?」
「…そりゃ、アイドル目指す為でしょ」
「ふふ、そうですわよね。当たり前の事を訊いてごめんなさい」
「あんたが訊きたかったのは…もっと深い理由?」
「そう…ですかね。周りの皆さんをよく知っておきたいのです」
「私がここに来た理由……幼馴染に誘われて、かな」
大きなライブで見た、アイドルの姿に見惚れた事。
きっかけはそれだった。包み隠さず目の前の転入生に語る。
「そうでしたか…わたくしも、憧れを持っていますのよ」
「まぁ……憧れとか理想とか……
 追い掛けるだけの理由にそんなに意味なんて必要無いと思うけどね」
休み時間の他愛の無い話はそれで終わり。
私が一方的に語って、転入生に聴いてもらうだけだった。

 

転入から数日、桜街玉枝の実力を伺える機会が訪れた。
アイカツシステムを使った実戦形式の小さなテスト。
私達は何度も行った事はあるが、転入生の彼女にとっては初めての小試験。
他生徒のステージを見学する事も出来るので、私は興味本意で彼女のステージを見に行った。
この実戦テストは曲とコーデは本人の申請制となっている。
私は偏見で、彼女はオーロラファンタジーのドレスを使うのでは、と考えていたが…
実際は驚く程予想とは外れていた。
ノイジーピアニストコーデ…クール系ブランド、スイングロックの衣装。
普段の淑やかな雰囲気とは打って変わって、
熱く燃え上がる様な熱唱、キレのある動きの踊り。
最初のステージとは思えない、アイドルとしての地力を感じさせるステージだった。

 

「大國さん」
彼女の試験を見届けた後、私も無事に試験を終えた。
見学者の集まりの中から一歩先に出てきて迎えたのは、ゆうみではなく玉枝だった。
「とても味のある、良い歌声でした」
「そうかな」
素直な賞賛の声と、いつもの張り付いた様な微笑み。
私は彼女の態度とは裏腹に、素直に喜べずにいた。

 
 
 

彼女に対する印象が大きく変わったのは小試験から数日後の放課後の事だ。
たまたま忘れ物をしてしまって、学園に後戻りし教室から帰る途中。
放課後で誰もいない筈のレッスン場から声が聞こえる。
そっと近付き覗きこんでみると、そこには険しい表情で何度もステップを踏み込む玉枝の姿がいた。
「ちっ…こうじゃねぇ。先生に言われた通りだ……もっと大きく動け間抜けが!」
とても普段の言動からは考えられない、口汚く己を叱咤し独りレッスンをする玉枝。
呆然と見届けてしまい、視線に気付かれたのか扉の方に振り向かれた。
「オイ、何見てんだよ」
ここまで態度が豹変すると逆に冷静になってしまう。
私は扉を開けて中に入ると、腕を組んで睨み付ける玉枝を睨み返した。
「それがあんたの本性って訳?気前良く八方美人に振る舞って、陰ではそうやって」
「へっ、それがどうかしたか?何か問題でもあるのかよ」
「馬鹿じゃないの?今時そういうの恥ずかしくないのかしら」
「うるせーな。どうでもいいだろ、こんな事」
「確かにどうでもいいわね」
「何だと…!?」
簡単に挑発に乗る辺り、そこらのガキと変わらない。
こんな本性を隠していた辺り、普段から相当猫被った生き方をしてきたのかもしれない。
「どうでもいいって切り捨てたのはあんたの方でしょ」
「…それもそうだな」
「妙にあっさりしてるわね」
「もうガキじゃねぇんだ。…馬鹿なやり取りしてられるかよ」
吐き捨てる様にそれだけ言うと、再びダンスの練習を始める玉枝。
ステージでも見たがやはり目の当たりにして、
彼女の踊りの実力はこの学年でもずば抜けて高いレベルだった。
それから暫く、目の前の華麗な踊りを間近で堪能させて貰った。

 

「あんた、いっつも居残りしてたの?」
「そうだが」
「授業も熱心だなぁとは思ってたけど、まさかここまでとはね」
「……何が言いたいんだ?」
少し気になる事があって、彼女に声をかけた。
ひたすら踊りの自主練習を続けていた玉枝が動きを止めてこちらに振り返る。
何とも言えぬ怪訝そうな表情だった。
「小試験のステージ、見てたの。あんたの踊りの実力は相当高かった。
 その実力の秘訣はどこから来るのかなぁ~…って。今日は偶然ながら知ってしまったけれど」
「あの時妙に視線を感じたと思ったら…アンタが見てたのか」
「ダンスは確かに良かったけど、歌の方はまだまだね。所々怪しい所があったわよ」
「う…うるせーな。だからこうして自主トレしてるんだろうが」
「良かったら歌…教えてあげようか。これでもあんたにお墨付きを貰えるぐらいには自信があるから」
「……一々気に障るな、アンタは」
「粗暴な言動に比べたらこの程度マシじゃない?代わりと言っちゃなんだけど…
 あたしにダンスを教えてよ」
「交換条件って訳かよ。生意気だな」
「私だって真剣なのよ。高みを目指す為にね」
「…高み、か…」

 

こいつの本性に対する印象は最悪だった。粗暴で、高慢な、普段の態度とは裏腹な陰の部分。
でも、同じアイドルとしての高みを目指す存在としては、その真剣さに共感する面もあった。
話をしてみれば、自分と同じ様にひたむきに実力を伸ばしていく、そんなストイックさもあって。
意見のすれ違いなどで些細な事で口喧嘩はするけれども、それも何だか微笑ましくって…
二人だけの時間を過ごしていく中で、あいつの本性も随分丸くなったかなぁ、なんて。

 

あの偶然の出来事から私達は、何度か二人で居残りをしてはレッスンを続けていった。ああ、今も続いてるけどね。
ゆうみには内緒の特訓。天性の才能は無くても、高みは目指せる。
玉枝とのレッスンは、改めて私にそう感じさせてくれた。
私達にあるのは奇妙な縁と、地道な努力。少しずつでも、上を目指して…
アイドルとして高みを目指すその理由や境遇は違えど、似たもの同士だった。

 

「ちなみに、転入初日にゆうみには素がバレてるんだな、これが」
「えっ…マジ?」
「マジだよ」

~おしまい~