ジェニー・イーグル生誕祭
「あれ?今日は先輩いないの?」
「そうみたい。慌てて帰っちゃったよ」
「そっかー…じゃあくーちゃん、今日はふたりで帰ろうか~」
8月1日。
今日は…そう、アタシにとって大事な1日だ。
悪いが後輩や他の同級生に構ってる暇は無い。
恐らく今日もレッスンか、仕事で出払っているジェニーにコンタクトを取って所在を確認する。
『アロ~ハ~♪今日はラジオ番組に出演してるネ~ 夜頃にお仕事が終わるネ。終わったら折り返し連絡するネ~』
…と、すぐにメールの返信が来た。
時間は充分ある…って事だな。
8月1日はそう、アタシの親愛なる友人…ジェニー・イーグルの誕生日。
普段からよく世話になってるからな、こういう機会はきっちり祝うのがアタシ流だ。
最近始めた料理の練習もジェニーの誕生日を祝う為だったりする。
…しかし、今まで誰にも教えていないもう一つのサプライズがある。
料理から発展してきたものだが…
「よし…レシピ通りなら時間までに間に合うな」
普段する料理とは格段に手間が掛かる。…そう、アタシのサプライズ。
それは手作りケーキ… この日の為だけに一人で練習していた。
ゆうみや他の連中にケーキ作りを教えてやる、という口実の下に着実に練習を重ねていた。
ケーキを作る・作ったという事はいつもの連中には知られたが、それが何を意味するかはアタシ以外知らねぇ筈だ。
「あ…あれだけ練習したんだ…絶対失敗出来ねーぞ…」
オーディションやライブとはまた違った緊張感を身に纏い、アタシは作業を開始した。
―――――――――――
「…ふぅ~」
ひとつひとつ、ノートに書き記した手順を消化していきながら、遂にそれは完成した。
まるで大仕事をこなした後の様な盛大な溜め息が否が応でも出て行く。
「一人で食べるには…少々大きすぎたか?いや、でもレシピ通りに作ったはずだ…うーむ」
ホールケーキが完成した。
…どう考えてもひとりで食べるには大きい。
だが、これで良い。
「もう食べきれないネ~」なんて言う姿を見てみたい。
完成したホールケーキを丁寧に箱に包み、約束の時間まで冷蔵庫に大切にしまいこんだ。
「もしも~し?あっ、たまえちゃん?今お仕事が終わったネ~」
「お…そうか。タイミング良かったな。お疲れ様」
「さっきもメールくれたけど、何かあったのネ?」
「ん?ああ…この後時間貰っても良いか?用事があるんだが」
「ンフフー、まだまだ寝る時間じゃないから大丈夫ネ~♪」
夜、仕事を終えたジェニーから連絡があった。
急ごしらえで悪いが、彼女と会う事を快諾して貰った。疲れているだろうし、手短に済ませるつもりだが。
電話で待ち合わせの場所を指定して、アタシはそこに向かった。ケーキの入った箱を大切に抱えながら…
―――――――――――
「悪い、待たせたな…」
「たまえちゃ~ん!」
いつもの様に明るい声音で名前を呼びながら、とことこと駆けてくる。
愛嬌に溢れた仕草も、今日は別段愛らしく思えた。
街頭に照らされた彼女の碧眼がアタシを見詰める。
「今日もお仕事だったネ~…ンフフ♪」
「やけに機嫌が良いな」
「だってーだってー…今日は~♪」
ニコニコと笑顔を絶やさぬジェニー。
「知ってるよ。…ほれ」
「これは?」
「ジェニー、誕生日おめでとう。それは…バースデーケーキさ」
「ワァオ♪嬉しいネ~!!」
「あ、あんまり騒ぐなって!形が崩れるだろ!」
歓喜の余り飛び跳ねそうになる彼女を制止しながら、言葉を続ける。
「いつもお世話になってるからな…それ、手作りなんだぜ」
「!?」
………硬直した。
いや、そこは信じてくれても良いだろ!?
「…ね、ね、早く食べよう!!待ちきれないネ~!!!」
「ひ、引っ張るなって…!!」
―――――――――――
引っ張られた先はアタシの部屋だった。
ジェニーの仕事先がドリアカに近かったのでゲート付近で待ち合わせしたんだが…うん。
というかこいつは何でアタシの部屋知ってんだ。
「お邪魔するネ~♪」
「いらっしゃーい!」
「ただいま…」
箱を持って大はしゃぎするジェニーが小蜜とご対面。小蜜は事情を察したのか、くすくすと笑っている。
「よう…悪いけど、こいつの誕生会開かせて貰うぜ」
「ふふ、遠慮する事無いよ。私も祝わせてね」
「小蜜ちゃん…ありがとうネ~!!」
感動で泣き出しそうなジェニーを部屋の奥へと迎え入れて、小さな円形の机を3人で囲んだ。
真ん中にはアタシが作ったケーキ。飲み物は小蜜が用意してくれた紅茶だ。
「ジェニー・イーグル!…改めて誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「うっ…ウゥ…ありがとうネ~…ぐすっ」
「おいおい…これから食べるって時に泣くなよな~」
いつも笑顔の彼女がこうして涙を見せるのは珍しいかもしれない。
小蜜が手渡したハンカチで涙を拭いながら、ジェニーは何度も頷いていた。
「うぅ~…嬉しくて…涙が止まらないネ~」
「止めないと食えないぞ~」
「わかってるネ~…」
「ふふふっ…誕生日っていいね~。お友達と一緒の誕生会…素敵だね」
「い、い゛ぇす!…うぅ~…」
「泣きながら肯定しないでいいよ。…ほら、そろそろ泣き止みな」
ジェニーが落ち着いた頃合いを見計らって、小蜜がケーキを切り分けてくれた。
三等分すると、意外にもそれは小さかったのかと錯覚するぐらいのサイズだった。
「わぁ~…チョコのプレートに『Happy Birthday!Jenny!』って書いてあるネ~♪」
「つ…綴り間違えてないかな…?」
「うーん…!が溶けて1に見えるぐらいかな?」
苺の乗ったシンプルなショートケーキ。
力作のネームプレートチョコは当然、ジェニーの分だ。
皆が銀のフォークを手に取り、顔を見合わせる。
「……じゃあ、食べるか!」
「うん!」
「頂きます!!」
ドリームアカデミーの寮、たまえとこみつの部屋の中でひっそりと行われた誕生会。
主役のジェニーは時折涙しながらも、とても幸せそうな時を過ごすのでしたとさ。
おしまい。