| コクリコ 花鳥風月部 |
| ……煤が、積もったねえ。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| これも、元は雪に染められた枝だったんやろか。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| ええ香り……おまえさんも飲むかえ?シュロ。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| は、はい!コクリコ様が淹れてくださるのなら……! |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 先夜はご苦労だったねえ。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| アザミと手を取って、「稲亭物怪録」で百花繚乱を退け……その上、シャーレの先生を捕らえたときた。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| てっきり、いがみ合ってるんじゃないかと案じていたんやけど……ええ子やね、シュロ。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| い、いえ、あれは向こうが勝手に……。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| ふむ……何かあったのかえ? |
| シュロ 花鳥風月部 |
| あっ、その……。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| ……コクリコ様のために頑張りました。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 物語の美しき終幕のためには、苦難がつきものさね。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 何があったかは知らへんけど、シャーレの先生を捕らえたのはおまえさんの功やと思うとるよ。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| アレは、大河を濁らせる流木のようなもの。絶望を希望に、悲劇を喜劇へとすり替え、物語へと介入する―― |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 風聞を怪談とする我らにとっての……いわば天敵。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| あの者と百花繚乱を同時に相手取ることになっていたら……例え怪書の力を以てしても、勝つのは難しかったやろねぇ。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| でも、おまえさんが生徒と引き離してくれたおかげで、捕らえることができた。本当に良い子やね、シュロ。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| コクリコ様ぁ……! |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| ただ――ひとつ、分からんことがあってなぁ? |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 先生は、常に自分の身よりも生徒を優先すると聞くからねぇ。でも、あの時は敵であるはずのシュロを追った……おまえさん、何か秘策でもあったのかえ? |
| シュロ 花鳥風月部 |
| そ、それは……。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| ……え? |
| シュロ 花鳥風月部 |
| ……シャーレの先生? |
| シュロ 花鳥風月部 |
| なんで飛び出して……? |
| "助けにきたよ。" |
| シュロ 花鳥風月部 |
| でも……。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| 手前は……手前を殺そうとしたのに……。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| な、なにを勘違いしてるんですかぁ!? |
| シュロ 花鳥風月部 |
| そんなことで、手前がいい子になるとでも!? |
| "危険に陥った子を助けるのに理由はいらない。" |
| "人として、当然のことだよ。" |
| シュロ 花鳥風月部 |
| ……実は、手前にもよく分かっていないんです。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| 普段から奇行に走ることもあると聞きます。あの時も、気まぐれを起こしたのでは……? |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| ……そうさな。予測不可能……それが、あの者の強みであり、弱みやもしれんね。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| あの、コクリコ様……。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| どうしたのかえ? |
| シュロ 花鳥風月部 |
| シャーレの先生を捕まえた時……。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| ほら、さっさと撃るんですよぉ! |
| シュロ 花鳥風月部 |
| え……? |
| シュロ 花鳥風月部 |
| 「稲亭物怪録」から作られた付喪神は、百花繚乱ではなく手前を襲いました。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| 本来、怪書から生まれた存在は、「味方」に危害を加えないはずなのに……。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| ……そうさな。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| そ、そうですよね?どうして急に手前を……。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 怪談の種となる心が脆く儚いものなれば、そこから生まれるものも然り。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| あっけなく傾く人の心を信じられないというのに……そこから生まれ出ずる怪異を信頼できる道理があるかえ? |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 所詮は噂が静まれば消えゆく陽炎のようなもの。気にしても詮無きことさね。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| 百花繚乱と一緒にいた「アヤメ」は、ナグサの心が生み出した百物語……なんですよね? |
| シュロ 花鳥風月部 |
| ナグサと共に笑い、悲しむ姿は……なんだか本物みたいで……。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| 少なくとも彼女自身は、普通の生徒と変わらないように見えました。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| ……コクリコ様。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| 怪談から生まれた百物語が、自分を生徒の一人だと信じ込むことはあるんですか? |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| ……愚問さね。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 我が答える意味も、必要もない問いやけど……。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 何故、それを聞くのかえ? |
| シュロ 花鳥風月部 |
| もしも……コクリコ様のこと以外、何の記憶も持っていない手前が―― |
| シュロ 花鳥風月部 |
| 噂が、静まった時……どうなって、しまうのか。気になって……。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| おや……お茶が冷めてしまったね。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| それで――話は終わりかえ? |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| さて……少し、様子を見てこようかね。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 百花繚乱も、シャーレの先生も此処にいる。他に邪魔者はおらんからね。 |
| コクリコ 花鳥風月部 |
| 話の続きは――世が焼け落ちたその時に……それでええ?シュロ。 |
| シュロ 花鳥風月部 |
| ……はい。 |