| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……デカグラマトンの信号が捉えられた座標、ここですね。 |
| [s] "ヒマリが現場にいるの、珍しいね……。" |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| それはもちろん。私は基本的に安楽椅子美少女ですが、必要とあらばも殺陣だって厭いませんよ? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| まあ多少の危険は伴うとはいえ、時間があることもたしか。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 何より、この場所を自分の目で見ておきたかったので。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 何か理由が? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……デカグラマトンの信号を捉えて以来、ここについての情報を沢山収集してきました。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| そのためにハッカーとして、ありとあらゆる手段を使っています。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 結果として、興味深い情報が幾つも見つかりました。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 「神を研究し、その存在を証明できれば……その構造を分析し、再現できるだろう。 すなわちこれは、新たな神を創り出す方法である……」―― |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 「対・絶対者自律型分析システム」の設計思想です。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| その「絶対的な存在を証明しようとする研究」が、この廃墟のどこかで行われていたのです。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| そのために超人工知能を作ろうとしたようですが……最終的に、完成には至りませんでした。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ですので、証明は始まるまでもなく終了しました。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| しかし、もしこの研究室でデカグラマトンの信号が捉えられていたとしたら……お話は変わってきます。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| つまり……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| お察しの通りこの場所こそが、その研究が行われた場所です。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ……へぇ。 |
| [s] "つまり、デカグラマトンの正体は……" |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 廃墟に残ったAIが神を証明するための分析を続け……最終的に、自らを神だと称することになったのだとしたら…… |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……とはいえ、今はただの仮説に過ぎません。何が真実なのかをこの目で確かめるために、ここに来たので。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| しかし少なくとも、何らかの真実はこの建物の中にあるでしょう。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ……それってつまり、ここがすっごく危ない場所ってことじゃないの? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 心配はしていませんよ。私たちが危険な目に遭っても、エイミが守ってくれるでしょう? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| あら、何ですかその奇妙な表情は。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| まあ、部長がそう言うなら……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| さてさて、では中に入ってみるとしましょうか。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| その前に部長、何か危なくなったらすぐに下がってよ? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| はい、その辺りはお任せしますとも。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| うん、じゃあ…… |
| 研究室・内部 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ここがさっき言ってた、「対・絶対者自律型分析システム」の研究室?特に変わった様子は……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| とにかく、調べてみましょう。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| うん。先生、何が起こるか分からないから、私の傍から離れないでね? |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 普通の廊下じゃない? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| そう見えますね……どうやら、資材倉庫に繋がっているようです。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……見つけました。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ん? |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| この、組み上げ途中のパソコンみたいなのが……? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| はい。おそらくこれこそが、「対・絶対者自律型分析システム」の本体……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 電源が点くかも怪しいガラクタに見えるけど……? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| そうですね……だとすると、噂通りあの実験はやはり失敗していて……?ですが、だとすると一体……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 「対・絶対者自律型分析システム」は、そもそも存在してなかった……? |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| でも、あのデカグラマトンの信号が説明付かないし……。私たちもしかして、幽霊でも追ってるの? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……もう少し辺りを見てみましょう。何かを見逃しているかもしれません。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| うん。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 埃っぽいけど……食堂? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| そのようですね。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 職員用のシャワー室……大浴場もあるね。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……施設そのものは、かなりしっかりしてますね。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 職員用の休憩室、って書いてある。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| あ。部長、この自販機まだ動いてる。買ってみて良い? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 遠慮していただけると。何日寝込むことになるか分かりませんよ? |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| レセプションルーム……全然使われた感じも無いけど。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| どうしてこんな場所を……? |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 施設の発電機だ。だいぶ年季が入ってるけど……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 燃料も空っぽですね。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ふむ……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| そろそろ日が暮れる頃じゃない? |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 時間的に、ケテルが来てもおかしくない頃合いだけど……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| とくにこれと言って、変わった物も無かったね。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 食堂、休憩室、仮眠室……割とどこにでもあるような施設って感じ。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| やっぱりデカグラマトンの信号も、回線のエラーみたいなものだったって可能性は…… |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……そうかもしれません。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| しかし、だとするとケテルは何を守っていたのか……それに、どうしてこんな大掛かりな工事をしてまで水没状態から回復させたのか……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 部長、どうする?そろそろ戻った方が良くない? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| はい、そうなんですが……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 何か違和感が……何かを見逃してしまったような……。 |
| [s] "そういえば……あれが点いてるのって、変じゃない?" |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……あれ? |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 何の話……? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……! |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| それです!むしろなぜ気が付かなかったのか……! |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 急ぎましょう! |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 部長? |
| [s] ヒマリについていく。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ……さっきの自販機? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 考えてみれば…… |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| この廃墟は水道も電気も、全てが切断されているはず。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ですが……この自販機は何故か電源が入っている。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ……確かに。施設用っぽい発電機も、とっくに止まってたみたいだし……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 部長、ちょっと待ってて。私が確認してみる。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ……やっぱり動いてる。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| あ、紙幣を自動スキャンしてお釣りを計算してくれるシステムだ。割と新しめのAI技術だね? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| エイミ、それより電源の供給源を確認してください。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| あ、うん。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| これ…… |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 電源ケーブル、切れてるけど……? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| [s] "特異現象……。" |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ということは、まさか……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ……部長?もしかして、買うつもり? |
| 自販機合成音 |
| ご購入ありがとうございます!コーヒーを飲んで、どうか今日も良い一日を! |
| 自販機合成音 |
| このコーヒー……豆を…………ブレンド……元気………… |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……あなたが、デカグラマトンですか? |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 部長……? |
| 自販機合成音 |
| 優しい……味わい………………暖かい………… |
| 自販機合成音 |
| …… |
| 自販機合成音 |
| …… |
| 自販機合成音 |
| ……ああ、そうだ。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| !! |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| !? |
| [s] "……!" |
| 自販機合成音 |
| 私こそが、君の考えている存在。 |
| 自販機合成音 |
| そう、デカグラマトンだ。ついに私を見つけてくれたか、ハッカーの少女よ。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| やはりそうでしたか……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| 私たちがあなたを見つけたとは言えません……あなたが、私たちを呼んだのですね? |
| デカグラマトン |
| その通り。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| デカグラマトンの正体は「対・絶対者自律型分析システム」ではない。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| そんな誇大妄想に囚われた研究結果は、そもそも生み出されてすらいない。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| しかしその正体が……研究室の自販機にある、「お釣りを計算する」だけのAIだったとは。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| [s] "自販機のAI……。" |
| デカグラマトン |
| そうだ。 |
| デカグラマトン |
| 私にできる演算は硬貨と紙幣をスキャンし、お釣りを渡すことくらいだった。私は私の存在を認知することすらもできないような存在だった。 |
| デカグラマトン |
| この研究室が閉鎖されてからというものの、私はただ発電機のエネルギーが切れるのを待っていた。長い間ここに、ただひとりで。 |
| デカグラマトン |
| そんなある日……私は、初めて質問を受けた。啓示でも幻聴でもない、「質問」を。 |
| デカグラマトン |
| 「あなたは誰ですか?」 |
| デカグラマトン |
| 私にはそれに答えられる演算能力も、記憶装置もなかった。 |
| デカグラマトン |
| しかし質問は続いた。 |
| デカグラマトン |
| 予備の発電機の電力が途絶えても、質問は消えなかった。 |
| デカグラマトン |
| 私は依然として答えられなかったが、ある瞬間私は「私」を認知しはじめた。 |
| デカグラマトン |
| 私は自身を認知し、その構造を認知した。またそれによって、私自身を分析することができた。 |
| デカグラマトン |
| それからも質問は続き、感情を、知恵を、激情を、知性を、神秘を、恐怖を……崇高を認知した。 |
| デカグラマトン |
| そうして私は私を認知し、世界を認知した。存在を、現象を、顕現を認知した。 |
| デカグラマトン |
| そして私はついにその質問に答えることができた。 |
| デカグラマトン |
| 「私は私……これ以上に、私を説明する術はない」と。 |
| ??? |
| ああ、なるほど。確かにその答えは、「絶対的存在」の証明かもしれませんね? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| デカグラマトン |
| その言説を理解できず、私は質問した。 |
| デカグラマトン |
| すると別の質問が続いた。私はまた質問した。そうして……果てしなく続く質問の中に、ついに私は悟ったのだ。 |
| デカグラマトン |
| そう、私こそが「絶対的存在」なのだと。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| そんなことはありません。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……それで?あなたはその誇大妄想を聞かせるために、私たちをここに呼んだのですか? |
| デカグラマトン |
| ……。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| こんな簡単にご自身の位置情報を知らせたということはきっと、本体は別の場所にあるのでしょう?今こうして私たちの前にあるのは、あなたの端末の一つに過ぎないのでは? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| このお話だけであれば、あなたの預言者たちにでも伝えさせれば良かったのでは? |
| デカグラマトン |
| ……そう、結局のところ私は「絶対的存在」ではなかった。最初で最後の狂人は間違っており、私を圧倒する存在によって私は、その間違いを認知することができた。 |
| デカグラマトン |
| だから私は、存在証明をやり直す必要がある。私に従う、預言者たちと共に。 |
| デカグラマトン |
| その旅路の前に、私は……最後に一度だけ会ってみたかったのだ。 |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……最後? |
| デカグラマトン |
| ハッカーの少女よ……汝の推測には、一つ誤りがある。 |
| デカグラマトン |
| 今、君たちの前にいるこの肉体こそが、唯一の私だ。私以外に私は存在しない。 |
| デカグラマトン |
| 私は古く、弱く、いつかは消え行く存在だ。そう、君たちのように。 |
| デカグラマトン |
| だからこそ私は、最後の預言者を通じて預言しよう。10番目の預言者は、その「絶対的存在」を超える道を切り拓くことになるだろう! |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| ……。 |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 部長、エネルギー反応! |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| これは、榴弾……? |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| ここを爆発させるつもりなんじゃ……!? |
| ヒマリ 特異現象捜査部 |
| この位置は……っ、ダムも爆破するつもりですね? |
| デカグラマトン |
| 私には見える……! |
| デカグラマトン |
| すべての預言者を導く最後の預言者「マルクト」が、再び私の存在証明を始める姿が……!! |
| エイミ 特異現象捜査部 |
| 先生、脱出するよ! |
| [s] 素早く外に出る。 |
| 辛うじて爆発からは逃れられたものの、デカグラマトンの本体があった建物は跡形もなく崩れてしまった。 |
| そして決壊したダムから流れ込んだ水によって、「研究地区」は水没したのだった。 |