まえがき

Last-modified: 2024-11-08 (金) 14:56:50

 昨年(2023年)上半期はNHK連続テレビ小説『らんまん』が放送され、主人公・槙野万太郎(演:神木隆之介)のモデルとなった明治期から昭和期の植物学者・牧野富太郎(1862~1957)が注目の的となり、彼に関する番組が数多く放送され、また彼に関する書籍も出版形態を問わず数多く出版された。
 牧野に関する書籍の中で、必ずと言っていいほど触れられているのが幕末期の植物学者・飯沼慾斎(1782~1865)による図鑑『草木図説』である。これは、牧野の誕生並びに活躍する以前のわが国における植物学に密接に関係する書籍として欠かすことができない。牧野が満3歳の頃に欲斎は亡くなっているため若き日の牧野が慾斎から教えを直接賜ったわけではないのだが、若き日の牧野はこの『草木図説』に触れ、執筆当時すでに最先端であった『草木図説』の内容に感動し、「この書物を現在も通用する書物にしたい」という強い意志のもと、壮年期に入ってから慾斎の子孫とともに解説を付したり、図版に一部加筆したりなどして、明治末期から大正初年にかけて『増訂草木図説』を世に出したのである。また、戦前になって出版したエッセー集『植物一日一題』にも『草木図説』に収録されたアザミ類を題材にしたエッセーを収録しているほど、牧野の『草木図説』への思い入れは深い。
 それほど牧野の思い入れを深くした『草木図説』とはいかなる書物だったのか?また、その執筆者の飯沼慾斎とはいかなる人物だったのか?本書では、これらについて解説していく所存である。