雪融け

Last-modified: 2024-06-27 (木) 20:19:31

私は墓掘りだった。
土を掘る、あの感触、あの音が大好きだった。
今でもその感触は忘れられない。
だからこうして引退してもシャベルを持って歩き回っている。
目的など無い。
ただ掘る。
ただ掘る。
ただ掘る。
何かが見つかることもある。
指輪。誰がが落としてしまったものだろう。遺失物係に届けておいた。
靴。誰がが落としてしまったものだろう。遺失物係に届けておいた。
箱。誰がが埋めたものだろうか。遺失物係に届けておいた。
手紙。誰がが埋めたものだろうか。遺失物係に届けておいた。
そして、死体。
今日の早朝私はそれを見つけた。
蠅はあまり湧いていない。
スーツを着、コートを羽織っている。
これを見つけたのは私だけだろうか?
これを見つけたのは私だけだろうか?
これを見つけたのは私だけだろうか?
上に雪を被せておいた。
雪融けしたら見つかるだろう。


私は猟師だった。
獲物を追いかける、あの興奮、あの音が大好きだった。
今でもその感触は忘れられない。
だからこうして引退しても双眼鏡を持って歩き回っている。
目的など無い。
ただ追う。
ただ追う。
ただ追う。
何かに出くわすこともある。
鞄。誰がが落としてしまったものだろう。遺失物係に届けておいた。
財布。誰がが落としてしまったものだろう。遺失物係に届けておいた。
段ボール箱。誰がが捨てたものだろうか。清掃係に報告しておいた。
タイヤ。誰がが捨てたものだろうか。清掃係に報告しておいた。
そして、死体。
今日の早朝私はそれを見つけた。
蠅が湧いている。
スーツを着、コートを羽織っている。
これを見つけたのは私だけだろうか?
これを見つけたのは私だけだろうか?
これを見つけたのは私だけだろうか?
上に雪を被せておいた。
雪融けしたら見つかるだろう。


私は善良な市民だった。
獲者を追いかける、あの興奮、あの音が大好きだった。
今でもその感触は忘れられない。
だからこうしてナイフを持って歩き回っている。
目的など無い。
ただ刺す。
ただ刺す。
ただ刺す。
気まぐれに刺すこともある。
若い女。何処かに出勤しようとしていたのだろう。胸を刺しておいた。。
老人。何処かの駅に向かおうとしていたのだろう。背中を刺しておいた。
浮浪者。何処の誰だろうか。顔を刺しておいた。
孤児。何処の誰だろうか。腹を刺しておいた。
そして、青年。
今日の早朝私はそれを見つけた。
森を歩いている。
スーツを着、コートを羽織っている。
これを見つけたのは私だけだろうか?
これを見つけたのは私だけだろうか?
これを見つけたのは私だけだろうか?
上に雪を被せておいた。
雪融けしたら見つかるだろう。


私は殺人鬼だった。
獲者を追いかける、あの興奮、あの音が大好きだった。
今でもその感触は忘れられない。
だが今はこうして独房を歩き回っている、
目的など無い。
ただ歩く。
ただ歩く。
ただ歩く。
何かが進むことはない。
看守。何か正義を感じたくてこの職に就いたのだろう。目を睨んでおいた。
弁護士。何か地位を得たくてこの職に就いたのだろう。汚言を投げておいた。
陪審員。何か正義を感じたくてこの職に就いたのだろうか。目を睨んでおいた。
裁判長。何か地位を得たくてこの職に就いたのだろうか。汚言を投げておいた。
そして、協力者。
今日の早朝私はそれを見つけた。
教誨師として振る舞っている。
スーツを着、コートを羽織っている。
これを見つけたのは私だけだろうか?
これを見つけたのは私だけだろうか?
これを見つけたのは私だけだろうか?
雪の中に埋もれておいた。
雪融けしたら見つかるだろう。


私は善良な市民だった。
紙面を見た時の、あの記事、あの内容が始まりだった。
今でもその興奮は忘れられない。