わちき/ルディがいっぱいいる話

Last-modified: 2022-02-10 (木) 18:32:58

もはや何度目か、ルーデウスの助力によってヒトガミを追い詰めるもあと一手のところで負けた俺は、ループのたびにブエナ村で米農家をしている

ルーデウスが生まれたときにすぐ察知できるうえ喜ばれるだろう、協力を得やすくなるだろうという浮かれた考えから始めたことが、今もやめられずにいる
何度ループしてもルーデウスとの二度目の出会いは訪れない、あの時こそが唯一のチャンスだったのだろうかと疑いつつもそれでも甲龍歴407年が近づくと農家として村に潜り込んでしまう
今回もグレイラット家の初子がもうすぐだと聞いただけでどこか期待をしてしまう、どうせ死産だろうにという諦めを抑え付けて、今日も田んぼの世話をする

数か月後、グレイラット家の子が無事産まれたという知らせを聞かされた

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我ながららしくもなく浮かれあがってしまったから聞き逃していたが子供は女児だったらしい、しかし名前はルディア、性別違いのルーデウスなのか?
成長の様子を見るに子供のころはルーデウスから聞いた通りにみえる、精々が剣の修行がなく魔術修行と家事修行が増えているくらいだろう

浮かぶ疑念を抑えきれずに米農家があると聞き浮かれた様子で見に来たルディアの目の前で食事をするためだとヘルメットをほんの少しずらし、口から鼻のあたりを見せることで反応を見る
呪いが効いている様子がない、やはりルーデウスだったらしい、なぜ女になっているかはわからないがまぁ元が特大のイレギュラーだ、そんなこともあるのだろう
分かった以上は取り込みに全力を尽くす、転移事件もある程度解法にもめどが立っている、平穏なままならパウロとてルディアが独り立ちするのを止めはしまい

ルーデウスがまた仲間となる、ただそれだけで柄にもなく口元が緩むのを抑えられなかった

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「ルディア、俺にはある目的がある、お前にも協力してほしい」
「えぇと・・オルステッドさんにはいろいろ教えてもらったし変なことじゃないならいいですけど、何をするんです?」

私が13になった時、この世界に産まれたときから近所で米農家をやっていた妙に博識で腕の立つ超ハイスペック不審者ヘルメットさん、ことオルステッドの元へいつものように行くといきなりそんな話を切り出された
大学に行こうだとか冒険者になろうと思ったこともあるが、家族の元が離れがたいし、オルステッドさんは下手をするとロキシー以上じゃないかとすら思うくらい魔法に詳しく、それ以外のあらゆることにも精通していたため彼に教師をしてもらうだけで満足してしまっていた
実際すくすく成長しつつもどこかで目標なくくすぶっていた感もあるし、明確な目標ができて恩返しもできるなら悪くはない話だろう

「やってもらいたいことは山ほどあるが・・・まずは冒険者としての技量を実地で身に着けることが第一だろう、俺がいろいろと教え、鍛えもしたが結局のところ実戦でしか身につかないものもある、適当な遺跡に連れて行くからそこを踏破してみろ」
「はーい、じゃあちょっと家族のみんなに挨拶してきますね」

言ってみると母様とリーリャからはあっさりと許可が出た、父様は最後まで渋っていたが、なんだかんだで私がやりたいことを見つけたんなら・・・とものすごい渋い顔で許してくれた
アイシャとノルンにはちょっと泣かれてしまった・・・うぅ、姉さんも寂しいよ、すぐ帰ってくるけど

オルステッドさんの家に行くとすでに準備が済んでいた、といっても魔術でテントも火も水もどうにかなる私の旅の準備は着替えやナイフに携行食料くらいだが
「パウロとゼニスからの許可は出たか、なら行くぞ」
「ちょ、はやっ早いですよオルステッドさん!?」
せっかちだなこのひと!?修行の時は根気強いのに、新しい一面だ

それからはもう平穏な13年が嘘のようにいろいろありすぎた、道すがらに身の上話を聞いてあまりの重さに愕然としつつも私を見込んでくれて引き込むためにこれだけの年月を使ったとまで聞かされたり(男に転生した私がすごかったかららしいが、凄い見込まれ方だ)ヒトガミ?なるオルステッドさんの故郷と一族をまとめて滅ぼしたらしい仇に見えなくなる腕輪をもらったり
転移魔方陣なるファンタジーなオーバーテクノロジーに愕然としたりしていたら・・遺跡についた
「ラプラスが作った魔道具があるが、はっきり言ってほとんど死んでいる遺跡だ、それなりの罠や魔物はいるがお前ならどうとでもなるだろう、行ってこい」
「はい!ふふふ、修行の成果を見せますよー!」
色々あったが、私をこうまで見込んでくれる人へ恩返しの一歩だ、やる気をみなぎらせていっぽふみだ・・・あれ?なんか光ってる
「ルディア!?」
「お、オルステッドさん?!これ一体!あ、きえた・・・何だったんでしょう」
「わからん、まさか俺にすら隠しきっていた仕掛けがあったとは・・一度見てくる、待っていろ」
「は、はい!」
びっくりしたぁ・・・・何だったんだろう、というかオルステッドさんはっや・・・もう見えないよ
茶を入れたりして1時間ほどだろうか、わざとらしく立てた足音にオルステッドさんが帰ってきたことに気づく
「あ、おかえりなさって・・・・え?」
「最奥にこれがいた、今まで一度もなかったことだが、この遺跡の本来の目的はこれだったのかもしれん。ほかの機能がすべて死んだ」
「これって・・・それ・・・」
オルステッドさんの腕の中には・・・・私がいた、髪の色が母様譲りの金の私と違って父様っぽい茶色だったりするが顔も体も見慣れたものだ、見まちがいようがない
まぁなにはともあれ・・・・
「あの・・とりあえず、服着せてあげませんか?」

数日後、目覚めた”私”の話は驚くことばかりだった、男に生まれ、いろいろひどい目にあいつつもお爺ちゃんになるまで生きた”私”は人生を最悪なものにしたヒトガミに一泡吹かせるために過去転移を行ったらしい
本来は体が乗っ取られていたらしいが、ここにちょうどいい空の体が出来上がったためそちらに引き寄せられたのだろうとはオルステッドさんの推測だ
・・・あっぶなかったぁ!
オルステッドさんにおびえつつもいろいろと話していたが、ヒトガミ打倒のためと言うとノリノリで協力してくれることになったらしい
「この遺跡のような半ば死んだ遺跡をいくつか回るぞ、俺一人やルーデウス一人で行かせたときは何もなかったが、ルディアと俺で行けばまたコイツのような拾い物があるかもしれん」
「えーっと・・・つまりオルステッドさんの味方の私が増えまくるかもってことですか?」
あ、凄い顔した
「まぁ・・・そうなるな」
「不気味だなそれ・・・俺みたいなムサイジジイが増えるよりは見た目だけはましだが、中身はそのままと考えるとぞっとする」
「ほ、ほかの私には正統派美少女の魂が入るかもしれないじゃないですか!ね、それに期待しましょうよ!」

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結局いくつかの遺跡を回ったが増えたのは二人だけだった、とはいっても片方がものすごい大物だったが
「おい・・・ラプラス、なぜこんな仕掛けでお前が復活している・・・どういうことだこれは」

「オルステッド様におかれてはご機嫌麗しく・・・などと言う挨拶をしていい空気でもないですね」

見た目はそっくりなはずだが緑の髪に、穏やかな目、落ち着いた物腰でどうにも大物感がある・・・さすが魔龍王
「なぜか、と問われたから言っておきますが、これははっきり言って私も想定外の事態です、転生法が失敗した時の予備策として高いラプラス因子の持ち主とオルステッド様が共に訪れたとき私の体として複製を作る機能は残しておきましたが、はっきり言って億に一つ発動するかどうか位のつもりでしたよ、ましてこれだけの数増えるなど・・・本当に何が起こったんですかこれは」
頭痛を抑えるように頭を振ったオルステッドさんが質問を重ねる・・・うわぁあの顔子供見たら泣きそう
「次だ、なぜ正気に戻っている、お前はヒトガミの策略によって狂わされていたはずだが」
「まず言っておきますが、正気に戻ったわけではありませんよ、別物です、武術や魔術などの知識もほとんど本体が持っています。予備も予備として無界への移動方法など必要最低限の知識を詰め込んだ魂の欠片を入れ込んだのが今の私ですね」
「まて、無界への移動方法だと!?龍秘宝による転移以外の方法があるというのか!?」

!?オルステッドさんらしくもなくものすごい取り乱しようだ、それも仕方がないだろう、聞いたことが本当なら戦略の前提がひっくり返る大事だ

「はい、もともとは多数用意してありましたよ、反応を見るに失われたようですが・・ヒトガミが徹底的に移動手段を潰すのは予想されたことですから、そのために私を用意したわけです」

ついに言葉を失ってがくっと座り込み・・・クククって・・笑い出した!?あの無愛想が!?
「ルディア、ルーデウス、ルーディア、ラプラス・・・らしくもないが、俺は今、勝利を確信してしまった。勝つぞ、これで勝てなければ次など俺には想像もできん」
感慨深げなその言葉にそれぞれ答える
「も、もちろんです!オルステッドさん、私はあなたの1番目の協力者ですからね!」
「俺のことは好きに使え、その確信を幻にしないためにもな」
「あ・・私も、拾ってもらった恩は返しますよ」
「是非もなし、この身はオルステッド様の勝利のために」

その日から、ヒトガミ打倒計画が音を立てて動き出したのだった