はい、私、ルーディア・グレイラット。
ピチピチの8歳のかわいい女の子!前世は34歳の不潔な童貞野郎だったけど、今生は両親に恵まれてとってもカワイイ女の子になりました!
ここ一年、お貴族様のお家に奉公に出されたものの、アスラ貴族ってのはどいつもこいつも変態みたいで、俺の可憐なボディに触ろうとする野郎ばかり。幸い、奉公先の旦那様方は紳士だったけれど、お嬢様と違って奉公人にいつでもどこでも目が届くわけでなく。
遂にお嬢様の誕生日会で暴走しかけた客人を見て、ギレーヌがぎぶあっぷ♪
ゼニスに顔向けできないという彼女の涙ながらの懇願に、晴れて私は生まれたブエナ村へと返される事になりました。無念っ。
……別に尻くらいなら、揉ませてもいいんだけどなぁ。お小遣いくれるなら、だけど。それ以上は魔術で吹き飛ばしますけど。
ちなみにパウロはすごすご帰ってきた俺を見て、「なぁんだ、この根性なしめ」と笑い、ゼニスとリーリャに「だから、アスラ貴族の家に娘をやっちゃ駄目って言ったのに」と折檻を受けてた。
それでもって、フィリップから預かった手紙を読むと、パウロは大層お怒りになった。想像力なしか。
「俺の娘に手を出した男どもの名前聞き出して全員ぶち殺してやる」と暴走しかけていたので、俺が「そんな些事で父さまが処刑されたら、私生きていけません」とウソ泣きで訴えると親バカモードに入ってくれたので、何とか抑える事に成功した。全く世話の焼ける父親だぜ。
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さて、目下の問題は何故か我が家に着いてきた上、居候が決まったエリスお嬢様である。
フィリップから俺への家庭教師代と生活費諸々を預かってきたらしく逃げ場がなかった。ちなみに彼女が金とともに預かった手紙には
「君ほど忍耐強く、優秀な家庭教師をエリスから引き離すのは惜しい。ちなみに剣術の稽古はパウロに任せる。定期的にギレーヌも鍛錬の成果を見てくれるようだ」
という内容が書かれてあった。嬉しいけど過大評価じゃない?
この火薬が頭に詰まったような危険極まりないお嬢様が我が家に馴染めるだろうかと不安だったが、幸いゼニスやリーリャにはぎこちないがかしこまってるし、ノルンやアイシャにはデレデレなので家庭内生活に問題はなさそうだ。
パウロには野生の勘が働くのか、物凄く警戒してたけど。あと、俺とパウロを見比べて「あなたの父親というのは納得だわ」と言われた。俺のような淑女とあの男を一緒にされるのは納得が行かない。
ただ、家庭外では爆発した。
シルフィだ。彼女は俺が帰ってきたことを手を握って喜んでくれたが、そこにエリスが立ち塞がったのだ。
「だ、誰よあんた」
「ルディの友達だよっ」
「ルディって呼ばれてるのね、私もそう呼ぶことにするわ」
「今はルディと話してるんだからキミはどいてよ」
「知らないわ、それよりスペルド族かと思ったじゃない、ルディを食べる気じゃないでしょうね」
「キミこそルディをまた誘拐する気?もう諦めなよ」
「生意気ね」
バチン。エリスは俺と初めて会ったときと同じようにビンタをかました。
相手はシルフィだ。元いじめられっ子で内気な彼女は泣いてしまうんじゃないだろうか……
バチンッッッ!そう思った俺の推測をぶち壊すように、さっきよりも強いビンタの音が帰ってきた。あのシルフィが。あのエリスに。
俺は驚くよりも先にマズいと思った。だって、俺の時と展開が同じだもの。あの時はゼニスにキツく言われていたらしいギレーヌが間に入ってくれたけど……
俺の予想通りエリスはシルフィの顎先を狙って握り拳を振るって。
そして、俺の予想を裏切ってシルフィが下にかがんで攻撃を躱し……額を掠めて血が出てたけど……
シルフィは風魔術で反撃して、エリスは吹き飛ばずに拳でそれを打ち破って………って、そうじゃない!
止めないと!
我に返った俺が間に入って、それでも収まりがつかなそうな剣呑な空気を悟ってゼニスとパウロも仲裁に入ってくれて、ようやく二人とも矛を収めてくれた。
シルフィは無詠唱で自分の額に治癒魔術を使って、俺を更に驚かせた。
悔しい、治癒魔術はいくらやっても上手く使えなかったのに。
その後パウロから聞いた話だと、ロールズさんに「ルーディアちゃんだって女の子なんだから、ルフィもルーディアちゃんを守れるようにならなきゃいけないんだよ」と言われて、素直なシルフィは一念発起したようだ。
パウロから剣術を学び、リーリャから礼儀作法を学び、ゼニスの治療院を手伝い、ロールズさんの狩りも手伝うようになったとか。
オーバーワークすぎない?と聞いてて思ったが、そこら辺は大人が頑張りすぎないよう、ちゃんと見ていたらしい。
「二人も女をたらし込むとは、お前も俺のことを言えないな」
と最後に笑ったパウロは、リーリャの肘鉄からゼニスのあいあんくろーのコンボを受けるという罰にあっていた。
だが、実際のところはかなり笑えなかった。
翌日以降。
俺がエリスに勉強を教えてるとシルフィがこれみよがしに難しい問題を解いてエリスが殴りかかり
パウロが二人に剣術を教えているとエリスが自慢してシルフィが魔術を放つ。
そんな日が毎日のように続いた。
シルフィがエリスと張り合えるまで成長したのは嬉しいが、流石に勘弁して欲しい。
ちなみにゼニスの治療院の手伝いやリーリャの礼儀作法の勉強は、二人とも仲良く……かどうかは分からないが喧嘩せずにやっている。むしろ、流れで参加する俺が一番不真面目なんじゃないかと思うくらいだ。
なんで俺とパウロの時だけ喧嘩するんだ。威厳が足りないのか。
気分転換にパウロの魔物退治に着いて行きたいとおねだりした時にも、二人は俺達に着いてきて……やらかした。
「ルディ見ててね、ボク頑張るから」
「ルディは私の方だけ見ていればいいのよっ」
二人は参加した大人も顔負けするほどの戦いぶりで魔物を圧倒した。
そして、啞然とする俺達を尻目に、どちらがトドメを刺しただの、どちらが多く倒しただの
言葉を失った俺にパウロが語りかけた。
「なあ、なんでお前と関わる女の子はみんなこうなんだ……?お前を送り出した日もシルフィは、中級魔術を飛ばしてきたぞ……?」
「……面目ありません」
「いや、責めてる訳じゃないんだが」
パウロも現実を逃避したいらしい。
「でも、エリスはボレアス家にいた時より勉強頑張ってるんですよねぇ」
成果は芳しくないが、やはり競い合うライバルが隣にいると、身が引き締まるのだろう。
「シルフィもだ。剣技自体はまだまだだが、自分の動き方を考えるようになった」
エリスとパウロは感覚派だから合うだろうな、とは思ったけど、シルフィもよくついていっている。
「……いい加減、私にも剣を教えて下さいよ」
「娘にこれ以上強くなられて、父親の威厳がなくなるのはなぁ」
「そんっ、………捨ててしまいましょうよ、そんなもの」
リーリャとの浮気が発覚した時点でそんなものはない、と言いたかったけど堪えて飲み込んだ。
「真面目な話をするが、今のままだと二人は良くないぞ?お前も分かってるだろ?」
二人ともその気になれば簡単に人を殺せる力を持ってる。幸い、シルフィをいじめてた子供達は初日の二人の喧嘩を見て怯えているのか、俺達の所へ近付いてこないが、二人が本気で喧嘩したらどちらかがどちらかを殺す結果になりかねない。
「ですよねぇ。……その事について考えがあるのですが、父さま協力してくださりませんか?」
俺は密かに温めていた策を実行に移すことに決めた。
一週間後。
パウロと俺は家の庭でシルフィとエリスと向かい合った。
「これから私と父さまで二人と戦います。二人がかりでかかってきてください」
パウロを味方につけるのは卑怯な気がしたが、やむを得ない。二人もちょっとむくれている。
「ルディとパウロさんと……?」
「そこの男だけならともかく、ルディもいるんじゃ勝てないじゃない」
「ははは、言ってくれるな……」
パウロからの視線が痛い。エリスってば本当に失礼な。
「ハンデとして父さまは木剣を使いません。それとこっちの勝利条件は二人に一撃ずつ入れることですが、そちらの勝利条件は私と父さまのどちらかに一撃入れることです」
「それなら何とかなる?……いや、でも?」
「……自信ないの?」
「むっ……そっちこそ、足引っ張らないでよ」
すぐにこの二人は喧嘩するなぁ。それにしても、シルフィなんでこんなにムキになってるんだろう……?
「ちなみにそちらが勝ったら、二人の言うことを一つずつ聞いてあげます」
瞬間、二人の目が急に変わり、そして合図もなしにエリスが飛びかかった。正直、野獣過ぎて怖い。
でも、シルフィは一瞬気付くのが遅れた。二人の反応に早まったかな、とも思ったけどこれなら余裕で勝てる。
エリスの木剣を振りかぶると同時に、俺が〈泥沼〉を発動。すぐに後ろに飛び下がるが、パウロに腕を捕まえられて、その腕をしっぺで打たれる。凄い音がして、エリスは手首を押さえて悶絶してる……想像したくないなぁ。
「うそ、もう!?このっ……!!」
シルフィが魔術を乱射するが俺が即座に対応してレジストする。パウロなら俺がレジストしなくても、あの程度の弾幕余裕で潜り抜けられるが、連携の妙を見せたいと思う。パウロがシルフィの眼前まで飛び込み、シルフィが木剣を振りかぶった所で
「父さま!!」
合図と共に花火風にアレンジした〈火弾〉を上空で炸裂させる。その音と光に意識を奪われたシルフィにパウロがデコピンして勝負は終わった。
さて、反省会のじか………
「なんで勝手に飛び出すんだよ!」
「シルフィエットこそ、ノロマ過ぎよ!」
やっぱりこうなるかー。ふむ、どう切り出そうか……と思ってると、パウロがパンッと手を叩いた。
「二人共悪い。特にエリスちゃん、合図もなしに飛び掛かるのは互いに危ないからやめなさい。シルフィもだ、出遅れたとはいえ、魔術一発くらいは援護できただろ?どんなに仲が悪くても意地張って見捨てるのはよくないな」
おぉぅ、流石元精鋭冒険者。語り方に貫禄がある。
二人が押し黙り、俺はパウロに背中を押されて前へ出た。ここからは俺の仕事だ。
「エリス問題です。父さまの強みは何でしょうか?」
「……剣術を3つも使えること」
「その通りです。父さまは鉄砲玉によし、肉盾によし、パシリに使ってよしの超優秀な剣士です。たとえ素手でも、そうそう簡単には倒せません」
「……それは褒めてるのか?」
パウロの文句を右から左に聞き流して、シルフィにビシィっと指を向ける。
「さて、問題、この中で私だけがないものはなんだと思う?」
「……剣術?」
「うん、器の小さな父親が教えてくれないので私は接近戦よわよわなんだよね」
「さっきからお前失礼すぎない?」
パウロの文句を聞き流して、俺は答える。
「つまり、私と父さまなら、私が弱点になります。一対一なら私は二人に連戦連勝できるかもしれませんが、素手の父さまと私を相手に二人がかりなら、あっさり勝てた可能性もあるんですよ?」
ギレーヌに剣術見てもらった事もあったけど、反応が鈍くて、下手に教えるのはかえって危険だって言われたしね。おかげで素振りとランニングしかさせてもらえなかった。
「勿論、私達も弱点は把握しています。弱点を補うために色々頭も使って話し合いましたが、今の二人でもこちらが対抗出来ない戦術は6通りくらいは、ありました。ただ、それには二人が仲良くする必要はありますが」
ちょっと、強引すぎだろうか?でも、二人が本気でいがみ合うのをやめれば、実際パウロと組んでも負ける可能性高いんだよな……。
シルフィとエリスは顔を見合わせると、そのまま踵を返してどこぞへと歩き出した。
「あ、あれ?二人とも何処へ?」
や、ヤベ?怒らせた?
「作戦会議よ!」
「盗み聞きしたらルディでも許さないから!」
二人は息ぴったりに返してきた。
どこかへ行った二人を見送り、俺達はポツリポツリと話し出した。
「上手く行った……んですかね?」
「多分な」
「……私達も作戦会議しときます?」
「だな、簡単に負けたらそれこそ威厳がなくなる」
こだわるな、この男……。これから散歩なのか、ノルンとアイシャをそれぞれ抱えて出てきたゼニスとリーリャも苦笑している。
なんとなしに、二人が向かった方角を見て思い出した。確か俺がロキシーの卒業試験で〈豪雷積層雲〉を覚えた場所だ。懐かしいなぁ。
「ん?」
空を眺めて違和感を覚えた。
「どうした、ルディ?」
「あの赤いの、なんです?」
「あ?ああ、あれか。お前が出ていってから半年くらい後か。ロアの街の方角からフワーっとやってきて、そのままここで浮いてる」
なんだ、それ?この世界の自然現象か?
「何か不気味ですね……」
「そうか?そうだな……きっとサウロスの爺さん辺りは『理解できないものならイイもの扱いした方がいい』とか言うと思うぞ?」
「あー……あの人は言いそうですね。なら拝んでおきます?」
「何を祈るんだよ……?」
「私達が簡単に負けないように、ですよ」
そう言って私とパウロはミリス式のお祈りポーズを決めた。トコトコとやって来たノルンとアイシャも私達の真似をして4人仲良く赤い玉に手を合わせるのだった
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その頃の二人
「ねぇ」
「何?」
「シルフィって呼んでもいい?」
「……いいよ。ボクこそ、今まで名前呼ばずにごめん」
「気にしてないわ」
「エリスは二人に勝ったら何をお願いするの?」
「ルディに敬語やめてもらうわ。シルフィと同じように、私もルディと仲良くしたいから」
「……勝たなくてもやめてもらえると思うよ?」
「でも、勝つの。……シルフィは何をお願いするの?」
「どこに行ってもいいから、今度どこかに行く時は必ず挨拶してから行って、って」
「心配しなくてももう連れて行かないわよ。ルディ、男にお尻触られて凄く嫌そうな顔してたから」
「何それ。許せないんだけど」
「大丈夫よ。お父様たちも許してないから。今頃そいつ大変な事になってるはずよ?」
「そうなんだ、ならいっか」
二人は笑い合ってその日が夕暮れまで話し合った。