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Last-modified: 2014-01-22 (水) 20:08:35

とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール)

 

第一章 日常から日常(いじょう)へ

 炎区立エレブ第四中学校、通称エレブ中学は、その名のとおりエレブ地区にあり、
紋章町内ではアカネイア第一、バレンシア第二、ユグドラル第三に続く四番目
の公立の中学校だ。
その生徒のほとんどがエレブ地区に住んでおり、兄弟家の中ではヘクトル、
エリウッド、リンの母校で、現在はロイが在学中である。
今は朝のホームルームが終わり、一時間目の授業が始まる前の休み時間。
各教室からは、生徒たちのにぎやかな声が聞こえてくる。

「ロイったら、結局チャイムが鳴るギリギリでくるんだもの。話を聞くのは
いいけど、少しは時間のことも考えなきゃだめよ」
「一応、これでも急いできたんだけどね」
「もう!間に合ったから良かったものの、いつも真面目なロイが遅刻なんか
したら、セシリア先生だって心配するのよ?」
 リリーナの説教が続く。あの後ロイは予鈴が鳴った後に学校へ着き、クラス
担任のセシリアが教室に来る直前には席に着くのに間に合ったのだが、そんな
ことはご機嫌ななめのリリーナには関係ないらしい。
「それじゃあ、明日からはあたしと一緒に学校へ来ようよ!
天馬なら、少しくらい寄り道したって余裕で間に合うんだから!」
「・・・シャニーはいつも寝坊して、結局は遅刻直前に来るじゃない。
それだったら、私の馬に一緒に乗ればいいわ」
「だったら、あたしと一緒に登校しよう?朝からあたしの踊りを見れば元気が
出て、走って学校まで来れちゃうんだから!」
「だ、だめよ!ロイはわたしと一緒に登校するの!
それは、ずっと前から決まってるんだから!」
 話に割って入ったシャニーのセリフを皮切りに、とたんにロイの周りが姦しくなる。
「別にそんなの、決まりってわけじゃないじゃない!
リリーナばっかりずるいよ。あたし達にだって権利ってものが・・・」
「私もそう思うわ」
「でも!」
「ロイくん、あたしの踊り、見たいでしょ?
だから、明日からはあたしと待ち合わせしようよ!」
「「「そこ!抜け駆けしないで!」」」
「・・・はぁ」
思わずため息をついてしまうロイ。
彼には、どうして彼女たちがこんな言い争いをしているのか全く理解できていないのだ。
いつもならばここにもう一人、どことなく今朝会ったイドゥンと雰囲気の似た少女、
ソフィーヤも加わっているのだが、今日は学校へ来ていないようだ。


「相変わらず、モテモテだなロイ。あの状況に気づいてないんだから、
ホントもったいないぜ」
「・・・ふん。あんなののどこがいいのか、あたしには理解できないけどね」
 騒がしいロイ達を眺めつつ、教室の後ろで話をしている二人。
一人はくすんだ金髪をツンツンに立たせた短髪の少年で、鋭い目つきはどこか
野良猫を思い出させる。もう一人はオレンジ色の髪が目を引く少女で、その髪
を緑色のリボンで後ろに束ねている。
「・・・たしかに、顔は良いし、運動も勉強もそつなくこなすし、それを鼻に
掛けない性格は、甘っちょろいけど、その、嫌いじゃないけど。
・・・ふん。なにさ、デレデレした顔して!」
 目に見えて不機嫌な様子の少女を見ていた少年が、何かに気づいたような顔
をした後、にやにやして彼女を見つめる。
「なによチャド?気持ち悪い顔して」
「いや、別に~。そういえば、教師を信用できないとか言って学校に寄り付か
なくなったお前を、ここに連れ戻したのもあいつだったな?」
「そ、そうだけど・・・。それが、なによ」
 チャドと呼ばれた少年の小馬鹿にするような態度に顔をしかめる少女。
「どうやってひねくれ者のお前を説得したのか気になっていたけど、そうか、そうか。
やっと納得がいったぜ」
「だから、なんなのよ!言いたいことがあるなら、ハッキリ言ってくんない?」
 その言葉に、さらに面白そうにチャドが続ける。
「いや~。だめだぜ、キャス。怪盗が逆に盗まれているようじゃな?」
「盗まれるって、あたしがあいつに何を盗られたって言うのよ?」
「・・・べた過ぎてあまり言いたくないけど、決まってるだろ?
『奴はとんでもない物を盗んで行きました。あなたの心です』ってか?
ハハハハハッ!!」
「なッ!?」
 そのセリフに一瞬で顔を真っ赤にするキャス。
「な、なに言ってんのよッ!?
あたしが、あんな奴のこと気にするはずないじゃないッ!」
 とっさに反論するが、その態度がますますチャドを愉快にさせていること
には気づいていない。
「いいリアクションすんなぁ。でも、それじゃあ、自分から白状してるよう
なもんだぜ。それで気付かないような奴は、肝心のロイだけだ!」
「だから、あたしはロイの奴なんて・・・!」
「僕が、どうかしたの?」


「ぎゃーーーッ!」
 突然かかってきた当の本人の声に驚きの声を挙げるキャス。
気づけば、いつの間にやらロイがすぐ傍に立っていた。
「よう、ロイ。なんだ、もう逃げ出してきたのかよ?」
「うん。やっぱり、女の子同士の会話にはついていけない時があるよ。
でも、ごめんね。驚かせてしまったようで」
 言いながら、すぐ近くの空いている椅子に腰かけるロイ。向こうではまだ
リリーナ達が言い争いを続けているが、隙を見て抜け出してきたようだ。
「いや、べつに俺は良いけどよ。・・・それにしても、いくらお前でも、
女が『ぎゃーー』はないんじゃね?」
「う、うるさいわね。そもそもあんたが変なこと言うからでしょう!」
 いまだ顔の赤いキャスをさらにからかうチャドに、キャスが食ってかかる。
「そういえば、僕の話をしていたみたいだけど・・・。何の話だったの?」
 そのセリフに、更に顔を赤くするキャス。
「な、な、なんでもないよ。ホント。あは、あはははハハは・・・」
「?」
 訳のわからないロイは、助けを求めるようにチャドを見る。
「いや、本当に大したことはないぜ。ただ、若き獅子(フラグメイカー)の
二つ名は伊達じゃないってのを再認識してただけだ」
「なにさ、その振り仮名はッ!?漢字と全く合ってないうえに、意味が分からないよ!」
「お、さすがだな、ロイ。声を聞いているだけじゃ分からないはずの部分に
まで突っ込みを入れるとは・・・。またスキルを上げたな?」
「好きで上げてるわけじゃないけどね」
 賑やかな学校での時間。友達と話している間に、ロイの頭から今朝の出来事
の記憶が徐々に薄れていく。
 このまま、いつも通り授業が始まり、いつも通りの一日が過ぎていく。
そんな、理由のない決めつけがロイの頭の中の腑に落ちない部分を丸めこんでいくようだった。


 それからは、やはりというか当然というか、何事もなく学校での時間が過ぎていく。
午前中の授業が終わり、昼休みも賑やかに過ぎ、今は午後の最初の授業だ。

「よって、これら自然界の精霊の力を借りる魔法は正しくは『自然魔法』と
呼ばれますが、現在では一般的に『理魔法』と・・・。
そこ、私の授業中に居眠りは許さなくてよ!」
「・・・どわぁっ!」
 教壇に立つ緑髪の美しい女性、ロイ達の担任であるセシリアが指を軽く振ると、
窓際の席で日に当たりながら頬杖をついていたチャドの鼻先に浮かんでいた
鼻ちょうちんが、真空の刃でかき消される。
「せ、先生・・・。声をかければ、俺だって普通に起きるぜ!
目覚ましにエイルカリバーは強烈すぎだろッ!」
「黙りなさい。眠っていた子の言い訳等聞きたくありません!」
「・・・でもよ、理魔法の授業なんて、魔法の使えない俺には意味が無いぜ」
 いかにも勉強嫌いの生徒が言いそうなセリフを吐きながら、なおも抗議を
続けるチャド。
「・・・たとえ自らが使えなくても、知ることには意味があるわ。
魔道士と戦うこともあるかもしれないし、いつか魔道の知識があなた達を救う
こともあるでしょう。
だから、今は意義を感じなくても、しっかりと授業は聞かなくてはだめよ?」
「ちぇっ。はいはい、分かりましたよ・・・」
 一転、静かな口調でたしなめるセシリアにそれ以上の反論はせずに、ノート
に黒板の内容を写し始めるチャド。悪ぶっていても、根は素直で真面目なのだ。
その姿を見て、セシリアも満足げな顔を浮かべ、授業を続ける。
「よろしい。・・・理魔法の神髄は、精霊に語りかけることです。
これは才能のないものには難しいけれど、逆に、精霊に強く語りかけることの
できる人は、その言霊自体がある種の魔法となり・・・」
 チャドがあくびを噛み殺している横では、彼の親友であるルゥとレイの双子が、
授業の内容を食い入るように聞いていた。


(精霊に語りかける、か。僕には魔法が使えないけど、
頑張れば精霊と話だけでもできるようになるのかな・・・?)
 授業を聞きながら、ぼんやりと考え事をするロイ。教室の中ではストーブが
焚かれ、昼食をとったすぐ後ということもあり、チャドではなくとも眠くなり、
授業に対する集中力が落ちててきてしまう。
 ・・・が、そんな眠気を吹き飛ばすような音が、突然教室に響き渡る。
今度はセシリアの魔法ではない。校内放送がかかる前のチャイム音だ。
「―!みんな、静かにして、よく放送を聞きなさい」
 突然のチャイムに騒がしくなりかける教室内を、しかし放送の内容を聞き
逃さないようにすぐさま静めるセシリア。
その耳が、教室上部のスピーカーに向けられる。
『――緊急放送です。
校内にいる職員の先生方は、至急職員室までお戻りください。
生徒は教室内で、静かに自習をしていること。なお、体育の授業等、移動教室
のクラスの生徒は、至急ホームルーム教室に戻ること。繰り返します――』
 放送が終わったとたん、教室内が騒がしくなる。
廊下の方から、隣の教室のざわめきも聞こえてきた。
「静かになさい!――先生は、今から職員室に行きます。次の指示があるまでは、
教室内で教科書の先の内容を読んで自習をしていること。
くれぐれも、教室の外に出てはいけませんよ!」
 言って、セシリアは足早に教室を去っていく。
「一体、どうしたんでしょうね?」
 セシリアが出て行ったのを見計らい、ウォルトがロイの方にやって来て話し
かけてくる。
「・・・さぁ?でも、何かあればすぐに先生から知らせてもらえるはずだ。
すこし待っていようよ」
 答えるロイは平静だ。しかし、それは外面のみであり、彼の中には言いよう
のない不安が湧き出し始めていた。
学校へ着き、友人と話している内に丸めこんだ、今朝の出来事。
ロイの脳裏に、揺れるオッドアイが浮かんでくる。
そんな不安を表に出さないよう、かき消すようにかぶりを振るロイは、
教室の外の青空に目を向ける。
青い空には、この近くでは珍しく、一頭の飛竜が翼を広げていた。