ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~
1
「さて、本日の議題ですが…」
生徒会室の面々を見渡してリノアンが声をあげる。
ルネス女学院生徒会。
代々役職幹部に差をつけず、3名の会長の合議によって運営されてきたルネスの乙女達の最高機関である。
現会長はリノアン、アテナ、シレーネの3人。
翌年その後を継ぐべき3名。
エイリーク、ラーチェル、ターナも席につき、エイリークが熱心に議事録を取っている。
本日の主な議題は各部の予算配分についてである。
「各部の予算請求については手元の資料の通り、請求総額に比して予算は85%。
請求の内容を審査し、適正な配分を行わなくてはなりません。
各位の意見を求めます」
さっそくアテナが声をあげた。
「演劇部ノ・請求額が・大きいヨうに・思えるノだが・もう少し削れないのカ?」
意見というよりはエイリークへの確認である。
エイリークは生徒会の一人であると同時に演劇部にも籍を置いている。
「舞台で使う道具や衣装にはどうしてもお金がかかりますので…
ですが、部長とも話してみて可能な限り削減して請求書を再提出しますね」
「そうシろ。演劇部の審査ハ・私がしヨう」
瞳を輝かせて手を上げたのはラーチェルだ。
「予算が足りないのなら収入を増やせばよいのですわ!
いかがでしてロサ・リザイア?」
ロサとは会長に用いられるべき敬称、生徒会長はこの敬称に得意武器の名を合わせて呼ばれるのが通例である。
「……ラーチェル…予算は学校側から決まった額が下りてくるのですよ?
足りないからといってアルバイトして補填するようなことは容認できません」
「グッドアイディアだと思いましたのに…」
しょんぼりするラーチェル。
こういう無軌道さが彼女の持ち味だ。
2
色々な意見は出たが予算案については纏まった。
議長役のリノアンが次の議題を読み上げる。
「…最近生徒の間で妙な遊びが流行っています。
なんでも裏山の湖に物を投げ込むとよりよいアイテムになるとか…
事の真偽はわかりませんが、万一生徒が湖で溺れるようなことがあってはいけません」
シレーネも相槌を打つ。
「そうね…柵を立てたり看板を立てたりしてみても、そういう噂に興味を持った娘たちは従わないでしょうし…
まずは事の真偽を確かめる必要があるわ。なにしろここは紋章町、なにが起こっても不思議じゃない」
場の雰囲気はシレーネの意見に纏まっていく。
「それデハ・生徒会かラ・確認に・人を出そウ」
「そうね、ターナ!」
名を呼ばれたターナが姿勢を正す。
本来シレーネは家臣に当たるのだが学校では先輩後輩として接している。
「はい、ロサ・ヴィドフニル」
「今日はもう遅いから明日、時間を割いて該当の湖を調査なさい」
「わかりました」
こうしてこの日の会議は纏まった。
3
夕焼けが周囲を染める中、3人は家路を歩む。
話題は湖の調査だ。
「もちろんこんな面白い話、ターナ1人に行かせませんわよ!
ね、エイリーク?」
ラーチェルが声をかければエイリークも応じる。
「もうラーチェルったら…ですが確かに興味深いですね。
ターナはこのお話にくわしいんですか?」
「まあ…噂だけどね。中等部のアメリアが言ってたらしいのよ。
なんでも裏山で槍の稽古をしていたら鉄の槍を泉に落としたらしいんだけど、
そしたら変なおばさんが出てきて勇者の槍をくれたって…
その話を聞いた娘たちが何人か真似したらしいわ」
エイリークは首をかしげる。
はたしてそんな事があるものだろうか。
湖から人が出てくるなんて軽くオカルトだが…
「いずれにしてもまずは先輩方の言いつけどおり、明日調べてみるほかありませんね…
何を投げ込みましょうか…」
「まぁ鉄の槍を勇者の槍にしてもらったと…ならばわたくしのイーヴァルディを投げ込めば、
絶世美王女魔法ラーチェルディに取り替えてもらえるんですわね!
…なんて素晴らしいんでしょう…」
「…何もなかったら神器は湖の底よ…」
呆れ返ったターナが忠告するも、ラーチェルは期待に瞳を輝かせるばかり。
どうやら聞いちゃいない。
「ま…まあ、それぞれ考えて何か持ち寄りましょうか…」
額の汗を拭いながらエイリークが纏めてくれた。
「じゃあまた明日ね」
フレリア家への分かれ道に差し掛かり、ターナは手を振って2人と別れる。
ラーチェルには突っ込んだが自分も投げ込むものを考えなければいけない。
4
夕日が差す道をエイリークとラーチェルは歩んでいく。
「ああ…ラーチェルディ…きっと戦闘エフェクトはわたくしが映るんですわ…
ナーガとかみたいに……まさにわたくしの神器にふさわしいですわ…」
「ま、まあその…まだ時間はあるんですから、投げ込むものはよく考えたほうが…」
「それでエイリークは何を投げ込みますの?」
あまり人の話を聞かないのがラーチェルと言う少女だ。
エイリークは苦笑しつつも、その明るさを微笑ましく思う。
「そうですね…アメリアさんに倣うなら鉄の剣でしょうけど…
家族にも相談してみるつもりです」
「まぁせっかくだからジークリンデを投げ込めばよろしいのに。
ラーチェルディ同様の超・神・器になること請け合いでしてよ!」
「ふふふ、そうですね。ですが調査なのですし、色々なものを試してみてもよいでしょう。
明日は家族のみんなからも投げ込むものを預かってくるつもりです」
そんなたわいのないやりとりも二人を包む優しい時間。
暖かなものに心を満たしながらそっと手を握り合う。
けれどもささやかな幸せは長くは続かないもので…
兄弟家とロストン家の分かれ道に差し掛かった。
「……エイリーク…じゃあまた明日!
エイリークが持ってくるものを楽しみにしてますわ!」
「ええ、また明日。いい夢をラーチェル」
柔らかくも暖かい微笑を浮かべてエイリークは歩み去る。
明日までのほんのわずかの別れ。
わかってはいる。
だがラーチェルの胸を満たすものは微かな切なさ。
離れた手はエイリークの手を忘れがたく、ぎゅっと拳を握り締めた。
寂しさを振り払うかのように…
5
ターナは自室で部屋にあるものを眺めていた。
家具一式、参考書や漫画本、雑誌類、何本かの槍。
エフラム率いるボランティアグループ(ロリコングループじゃないわよ!私もメンバーなんだから!)の文書。
「どうしたものかしら…槍なら何もなくても湖から引き上げればいいけど…どのくらいの深さかわからないし…
鉄の槍でいいかしら?」
それなら万一失っても痛くない。
早速明日の準備を整える。
そこに突然ヒーニアスが入ってきた。
ノックしてよ!…というターナの抗議も聞き流し、いつものように騒ぎ始める。
「ターナ!ターナ!頼みがある!
現在開発中のPCソフト第2弾『ヒーニアスといっしょ おかわり』のテストプレイヤーをやってくれ!」
「はぁ? なんで私がんなもん…」
だがターナの返答などまともに聞いてはいない。
「言うまでもないがこのゲームはエイリークが主人公で私との恋愛を楽しむゲームだ。
で、ある以上テストプレイヤーは女性の視点からプレイすることが望ましいのだ!」
「開発者はルーテさんでしょ…彼女がやれば…」
「そうか引き受けてくれるか!
開発を依頼しておいてなんだが優秀さんは変人だからな。
普通の女性視点でプレイできる者を探していたのだ!
ふふふ、これで完璧なゲームが出来る……」
「いやだから私はやらないって…」
「イベントも増えたし、今回は夏ネタでな。
私の立ち絵の服装や表情パターンも大幅に増加したのだ。
海パン姿やコスプレもあるのだぞ、エイリークも大喜びに違いない…ふふふ」
聞いちゃいねぇ……
「……」
ターナは頭を抱えるとヒーニアスをむんずとつかんで窓から捨てた。
「アッータスケテエイリーク!」
「はぁ…まったくもう…」
頭痛がしてくる。
「どうしてお兄様はああなのかしら?
黙ってればまともなのにエイリークの事となるとひたすらウザい…」
その時ふと夕食時にやっていたTVを思い出した。
FETVのアニメ、ディアドラえもんで、
ライアンがディアドラえもんの秘密道具で綺麗なライアンになるという話だった。
その秘密道具が噂の泉に酷似していた。
「……人間にも効果あるのかしらね……」
この時ターナが投げ込む物…というか人は定まった…
続く