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Last-modified: 2014-01-26 (日) 22:58:00

ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~

 

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「……泉の精霊の噂は事実でした。
 さしあたって人間が誤って落ちないように周囲に柵をつくり注意を呼びかけるべきです」
作成した報告書をエイリークが読み上げる。
調査の目的は達したのだ。
である以上今後どのように対処するかが焦点となる。
「ご苦労様でした。泉そのものは無害なのですし、人身事故にのみ注意すればよいでしょう」
リノアンが結論を出す。
これでミッションコンプリート。ヒーニアスも綺麗になったしめでたしめでたし。

これでこのエピソードは大団円。よってこれからの話は後日談となる。

エピローグ 

「ふんふふ~~~ん、ああご飯が美味しいわ♪」
お昼休みの教室に陽気な鼻歌が響く。
箸を動かすターナの顔から喜びが煌き溢れている。
「ご機嫌ですねターナ」
「だ~ってお兄様がまともになったんだもん♪
 ちょ~っといい人過ぎる気もするけど、以前のお兄様と比べたら月とスッポン!
 は~~……やっと肩の荷が下りた気分よ…」
ターナの脳裏にいままでのヒーニアスが蘇る。
親友のエイリークに付きまとい、メイド、スク水、ウェイトレス、巫女服などを送ってドン引きさせた兄。
絡んできたヤンキーを返り討ちにしようとして囲まれて失敗し、エイリークに助けてもらう兄。
ゼトやサレフと張り合って策謀の王子とかほざいてセコイ陰謀をめぐらす兄。
ターナの片思いのエフラムと喧嘩して負ける兄。
あげくに海に行ったときのターナ一世一代の告白タイムを完膚なきまでにオジャンにした兄。

ターナもかつては兄を心配したり助けたりしたこともあったのだが、
ぶっちゃけどうでもよくなったのでタスケテエイリーク!の悲鳴が響いても、ああまたか…くらいの感じで放っておいた。
だがそれでもエイリークに迷惑かけるのだけはやめてほしいと思って何度も文句を言ったものだ。
好きなら好きでもう少しやりようがあるだろうに…
だが綺麗なヒーニアスになった今、もはやそんな心労からも解放される。
(…そういえば綺麗なお兄様はエイリークの事どう思ってるのかしら?
 …まあ以前みたいに抱き枕や1/1フィギュアを作ったり、コスプレ衣装をプレゼントしなけりゃ問題ないけど) 
ついでに自分の1/1フィギュアをエイリークに送るのもやめてほしい。
困り果てたエイリークに「どうしましょう…これ」と相談されて、ヒーニアス1/1フィギュアをゴミ捨て場に捨ててきた事を思い出す。
(ま、今のお兄様ならエイリークが好きだとしても変な事はしないでしょ、ああ家族がまともって素敵♪)

ニコニコ笑顔でお弁当を食べ終える。
ここ数日のターナのご機嫌ぶりにエイリークもラーチェルも思わず笑みが毀れる。
一人がニコニコしてればその雰囲気は親友達にも伝わるもの。
ついでにいうとエイリークも内心ほっとしていた。
やっぱりコスプレやら妙なものを送られつつ「愛している!」とか言われても困るのだ。
やんわりと断ってはきたのだがヒーニアスは空気が読めない上に思い込みの激しい男であった。
「はっはっは、照れることはないのだぞ」などと何度断っても自分に都合よく解釈してしまうのだ。

「よかったですねターナ、ヒーニアス様が立派になって。
 町でも評判のよい人だそうですよ」
「うふふ、お父様も家臣の皆も喜んでたわ。
 皆に親切で善良なんだもの。これでフレリアも安泰よ!」
「つまりそれだけ今までは問題児だったわけですわね」
ラーチェルの言葉に苦笑せざるを得ない。
エイリークへの過剰な愛とエフラムへの妙なライバル意識さえなければ…まあ…まとも?…かもしれない兄だったのだが。
いずれにしてもヒーニアスがまともになったことは喜ばしい。
まさにめでたしめでたし。

だが…それをよしとしない者もいたのである……

夕焼けの差すフレリア家の庭。
矢が的を射抜く小気味のよい音が響く。
綺麗なヒーニアスは大変な努力家、文武に励んでおり弓の稽古にも余念がない。
「必中!」
放たれた矢が的のド真ん中を射抜く。なぜだろう。
変わったのは人格だけでステータスはそのままなのだが、善人には天も味方しているのか必中が出やすい気がする。
出ても微妙なスキルではあるが…
「ふうっ…いい汗かいた…やっぱり体を動かすのは気持ちいいね」
爽やかな微笑みを称えつつタオルで汗を拭うその姿を、物陰より覗いている視線があった…

「ヒーニアス様…いやっ!
 あんな爽やかでまともなヒーニアス様なんかヒーニアス様じゃないっ!
 いつものヒーニアス様は根拠のない自信に満ち溢れていて、でもやっぱり実力無いからタスケテエイリーク!になってしまって、
 なおかつウザい方なのよ!
 そんな情けない姿が可愛くて素敵なのに…」
フレリア家臣のヴァネッサは感情を抑えることができなかった。
まぁ…蓼食う虫も好き好きというし…彼女の好みが以前のヒーニアスであったとしても責められることではないだろう。
「こうなったら私がヒーニアス様を元に戻してみせます!」
固い決意のもとヴァネッサは作戦を決行する。
それがどのような結果を生むのか…ヴァネッサ本人も知るよしもなかった。

作戦その1  ショックを与える。

3階のベランダに陣取ると、その下を歩いているヒーニアス目掛けて花瓶を落としてみた。
「ごはっ!?」
階下で悲鳴が聞こえた。
さっそくペガサスに乗って下へと降りてみる。
「ヒーニアス様!
 ご無事ですか?」
「いたた…ああヴァネッサ。私は大丈夫だよ…
 傷薬を使えばどうってことないさ」
激痛に耐えつつも心配かけまいと優しい笑顔を浮かべるその姿にヴァネッサは落胆した。
いつものヒーニアスならこのままでは死ぬ!はやくライブを!…などと大げさに喚くはずだ…

作戦その1失敗。

作戦その2 エイリークグッズを用意していつものハァハァを思い出させる。

個人的にはちょっとツライが止むを得ない。
いつかタスケテエイリーク!をタスケテヴァネッサ!にするまでの辛抱だ。
以前のグッズ類は処分されてしまったが予備があるのだ。
綺麗なヒーニアスは覚えていないようだが、以前のヒーニアスは火事などでグッズが失われることを恐れて、
予備の品を地下室の金庫に閉まっているのだ。

「じつ・は・い・い・ひと……こじつけ苦しいわね…」
108111のパスワードを入力して金庫を開ける。
中には無数のコスプレ衣装…ポスター…フィギュア…抱き枕…中にはエイリークをお姫様抱っこするヒーニアスのブロンズ像まであった。
夜を待ってそれらの荷物を運び出すと、こっそりヒーニアスの寝室に配置する。
眠っているヒーニアスのベッドに抱き枕を入れ、かたわらにエイリークぬいぐるみを配置。
壁や天井にポスターを張り巡らし、部屋の真ん中に1/1フィギュア(旧スク)を配置する。
さらに耳元で「エイリーク様のメイド服・メイド服・メイド服・メイド服・メイド服・メイド服………」
とサブリミナル効果を狙って一晩中呟いてみた。

翌朝……
「あれおかしいな? 
 処分したはずの物が…どうしたんだろう?」
ヒーニアスは首をかしげつつもそれらを再処分した。
どうやら効果はなかったようだ。

作戦その3 泉に行く

「こうなったら泉に綺麗なヒーニアス様を放り込んで元のヒーニアス様にしてもらうしかありません!
 …下手したら上位互換のもっと綺麗なヒーニアス様になるかもしれませんが…そこはうまく交渉して!」
決断したヴァネッサはヒーニアスに突撃する。
「ヒーニアス様!」
「なんだいヴァネッサ?」
「御免!」
「ぐふっ!?」
当身を食らわせて昏倒させるとヒーニアスをペガサスで運ぶ。
「見えてきたわ…あれが例の泉ね」
さっそくヒーニアスをペガサスから落として放り込んだ。
デーデー!デーッデデデッ!
泉がモーゼの如く割れて漆黒が出てくる。
「そういえばターナ様が漆黒さんが出てくる場合もあるって言ってたっけ…」
「そなたの落とした物はこの漆黒のヒーニアスか?
 それとも綺麗なヒーニアスか?」
「問答の前に質問いいですか?
 褒美の品って指定できますか?」
「できん」
「そこをなんとか!
 今度空中からミカヤさんのベストショット撮ってきてあげますから!」
「…そなたの情熱にほだされた。よかろう望むものを言ってみるがいい」

ご機嫌ターナはスキップしながら玄関をくぐる。
「ただいま~」
その瞬間ヒーニアスの部屋から悲鳴が響いた。
「な、何事!?」
あせって部屋に駆け込んでみる。
「どうしたのお兄様!?」
「なななななない!?
 エイリークのポスターもフィギュアも画像データもみんななくなってる!?」
そこには絶望に打ちひしがれるヒーニアスの姿があった。
「な、何を言ってるのよ?
 あれは全部捨てたでしょ?
「な、なにいぃぃぃぃぃぃぃぃいぃ!?
 だれがそんな真似を!?
 私の宝を…許せん…」
嫌な予感がする…これはどう見ても以前のヒーニアスだ。
「ちょ…どうしたのよお兄様?
 綺麗なお兄様になったんじゃなかったの!?」
「何を言っている。私は元々綺麗だぞ?」
「な…なんで元に戻ってるのよーーーーーーっ!!!!!!!!
 今すぐもう一度綺麗になれぃっ!」
「うおっ!?よくわからんが泉はもう嫌だぞ!?
 なんだか何度も溺れた気がする!」
脱兎のごとくヒーニアスは逃げていった。
逃げ足だけは相変わらず速い。
「あ……あは…あははははははははは……短い夢だったなぁ…」
さっぱりしたヒーニアスの部屋でターナは一人肩を落とすのだった。

それから数日…

「オラッ囲んだぜ!
 はやく金目の物を出せ!」
「アッー!タスケテエイリーク!」
山賊に囲まれてるヒーニアスの姿があった。
背中にエイリークフィギュアをしょっている。どうやら発注していたようだ。
ペガサスで飛行中に偶然その声をきいたヴァネッサはいつものヒーニアスのタスケテコールに幸福感を覚えた。
たとえ助けを求める相手が別人でも、いつものダメなヒーニアスが帰ってきてくれたことが嬉しい。
ついうっとりしている間にヒーニアスを助け忘れてしまう。
フィギュアを略奪されたヒーニアスが「おぼえてろ!」と喚く声すらもヴァネッサの耳には心地いい。
「ああ…ヒーニアス様…素敵」

かくて綺麗なヒーニアスは元のヒーニアスに戻った。
このことは多くの人をがっかりさせた。(主にターナとエイリーク)
だがたった一人だけ喜んだ人間もいたのである。
ヴァネッサ…彼女がまともな相手を選んでほしいと思う姉の心配をよそに
ヒーニアスを思う心中はわからないが、人の感情は理屈ではどうにもならないもののようだ。

終わり