ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~
19
2人の友が唖然として見守る中、ターナは光り輝く水面を見つめていた。
これでヒーニアスがちょっとでもまともになってくれれば…
再び姿を現したのはかの精霊だ。
「あなたが落としたのはこの綺麗なヒーニアスですか?
それともただのヒーニアスですか?」
「ただのヒーニアスです」
一瞬綺麗なヒーニアスと答えそうになった…あぶないあぶない。
「あなたは正直な人ですね。それでは綺麗なヒーニアスをあげましょう」
精霊が姿をかき消す中、残った者は泉のほとりに佇むヒーニアス。
心なしかいつものヒーニアスより瞳が澄んでるような気がする。
「おや、私はどうしていたのだろう?
ああ、そうか。みんなで泉に来たのだったね。だがそろそろ夕暮れ時だ。
あまり遅い時間に女の子達が外を歩くものではないよ。」
「お…お兄様…やった成功よっ!」
いつものヒーニアスならありえない発言だ。
なんやかやと理由をつけて引き伸ばし、少しでも長くエイリークと一緒にいようと目論むはずだ。
それに反しての良識的な言葉。まさしく綺麗なヒーニアスに違いない。
「ターナ…凄いことを考え付きましたわね…」
「えっと…いいんでしょうか?……」
いまだ驚きから立ち直れないエイリーク。
「何いってるのよ。エイリークもお兄様に迷惑してたんでしょ?
やれスク水だのメイドだの…しかもロミジュリの真似して窓からエイリークの部屋にあがろうなんて、
はっきりいってストーカーよ変態よ」
「あ……あはは…その…ちょっと困った方でしたけど…」
肯定も否定もせずに苦笑いする。
…が、何にでもグレーゾーンはあるもので、限りなく肯定に近い苦笑いであろう。
「おやどうしたんだい2人とも?
そろそろ日が落ちてきている。送っていくから早くいこう」
綺麗なヒーニアスは率先してエイリークの大荷物を手に取っている。
いつもなら押し付けがましく「私が持ってあげよう。はっはっは、礼など結構、淑女に荷物など持たせられん」
などと言うところだが、綺麗なヒーニアスのひけらかすことのない善意は実に自然に堂に入ったものだった。
4人は見送る漆黒の騎士に手を振ると裏山を降りていった。
20
兄弟家の玄関ではエフラムが腕組みして仁王立ちしている。
「何やってるんですか兄さん…」
呆れ果てたような声を絞り出すマルスに、エフラムは振り向きもせずに答えた。
「エイリークの帰りが遅い…何かあったのではあるまいか…」
「部活や生徒会やってりゃ遅くなる時もあるでしょうに…」
生徒会活動に参加するようになってから、エイリークの帰宅は遅くなる事が増えた。
そのたびにエフラムはこんな調子なのだ。
「うむむ…学校まで迎えにいくか…」
「過保護はよした方がいいですよ。姉さんが友達の手前、恥ずかしい思いをするだけですから」
エフラムが何か言いかけた瞬間に玄関が開く。
「ただいま帰りました」
そこにいたのはエイリークとヒーニアス。
先に学校と家が近いターナとラーチェルを送って最後にエイリークを送ってきたのだ。
ラーチェルなどはエイリークとヒーニアスを2人にすることにかなり抵抗があったようだが、
善良そうなヒーニアスの微笑みに脱力してそれ以上なにも言わなかった。
「そうか貴様の仕業かヒーニアス!貴様まだエイリークにちょっかいを出していたのだな!」
「あ…兄上!? ヒーニアス様は私を送ってくださっただけなのです!」
「エイリークは下がっていろ!俺はヒーニアスと話をしているのだ!」
いつもなら売り言葉に買い言葉、あげくにヒーニアスが「2人の愛を引き裂くのか!そうはさせんぞ!」
などとほざいて喧嘩になるところだ。だが……
「ああ、誤解させてしまったようだね。でもエフラム君がエイリークを心配する気持ちもよくわかるよ。
だからこれからはあまり遅くならないうちに帰るようにしないといけないよ。
それとエフラム君、私はエイリークを学校から送ってきただけなんだ。
だからどうかその槍をしまってくれないか?喧嘩はよくないよ」
微妙な空気が流れた…この人は誰なんだ…
「ヒーニアス…貴様悪いものでも食べたのか?」
「何のことかな?
それじゃあまた明日学校で会おう。」
ヒーニアスは爽やかな笑顔を見せると身を翻して去っていった。
心なしか瞳の輝きが違う気がする……
「エイリーク……奴は病気でもしたのか?
それとも頭でも打ったか?」
「まあ…色々ありまして……」
21
その日の話題はアイテム群の事でもちきりだった。
「姉さん、私の香水はどうだった?」
「あ、これですね、どうぞ」
リンに香水の小瓶を渡す。
一見なんの変哲もない小さな瓶だ。
そういえば泉ではチェックしていなかった。他の物のインパクトが濃かったためだろうか。
さっそくリンは栓をあけて香りを嗅いでみる。
エイリークも興味深げに顔を寄せ…そして2人で渋い顔をした……
「なにこれ…金属臭い…」
「それに汗の香りも……あ、裏に説明書きが…」
「漆黒の香り…漆黒の鎧と鎧に蒸れた汗の香りを完璧に再現…だ~~っそんなもんかけれるかいっ!?」
居間の隅ではがっくりと肩を落としたロイが封印を再プレイしている。
再びトライアルでギネヴィアを出すコンプリートセーブを作るまで何週もの長い長いロードへと旅立っている。
……が、漆黒エムブレムは他の兄弟にはわりかし好評のようだ。
セリスとマルスがGBAを覗き込んでプレイしている。
「わぁ主人公の漆黒さんは蒼炎の仕様なんだね。ラグネルしか効かないみたい」
「なんというチート主人公…あ、女王エリンシア姉さんが誇る三筋将が出てきたよ。
バアトルさん、アイク兄さん、紅一点はマチュアさんか…」
セリスの傍らにはレプリカエタルドが置かれている。レプリカとはいえ重さ20は体格のないセリスの手に余るようだ。
本人は「アイク兄さんみたいな逞しい男になってこの剣を使いこなせるようになるぞー!」と発言してエリンシアを喜ばせた。
なおマルスは漆黒シールドを見て一言、「デザインダサい、シーダへの贈り物としてはちょっとなぁ…」
どうやらプレゼントは再考するようだ。性能はいいのだが…
22
アイクはステーキを貪り食い、エリウッドは薬を捨て、エリンシアは漆黒ダンベルで誰をガチムチに鍛えようか思案している。
「はっはっは、漆黒さんのご利益か……orz」
お守りを手にしたシグルドはまったく期待していないようだ。
「ふむ…この黒光り…美しい…」
エフラムは嬉々として槍を磨いている。
妙なネーミングの槍だが、マニアとしては変り物になにかをそそられたようだ。
「冒涜よっ!ミラ様の神像がこげなもんにっ!
しっこくハウス行って神罰を下してやるわっぁあああああああああああ!!!!!!!」
「もう落ち着きなさいセリカ、返り討ちだってば。それに漆黒印の占い師よりいいじゃないの」
水晶にシールを貼る。外見さえなんとかすれば的中率アップは嬉しい。
ガラッ
|┃三 /! _ ト、 |┃ ≡ ,r‐ '/l[[!ト、!:::\ |┃ ___ !l::::::!:.!:l,!:::!::::::::l _ |┃≡ /____ l !!:::::l:.l:::!::::!::::::::!| ,二二、 |┃ヽ___//::::::!| 'l|ト、ヽ:::::/:::::::;' ! !::::::::::::: ____.|ミニニヽ:::::::::::l ,' )ヽニVニイ!r'´! !:::::::::::::::::: |┃:::::::::::ヽヽ:::::::! !ィr(:::ヽ::::::! !:::ノ:ヾ!:::! !:::::::::::::::::::: |┃:.:.:.:.:.:::::!|::〈/:.ヽミト、r‐'┴―‐く:∧ l:::::::::::::::::::: |┃:.:.:.:.:.:.:.:l|::/:ヽ:.:.:.:.:フ::::::::::ll___/:.:.:ヽ ヽ::::::::::::
「食らいやがれ神敵っ!!!!!
ライナロックッ!!!!!!」
「ぐべばぁああああっ!?…ち、違うっ!俺だヘクトルだっ!?」
漆黒の鎧のレプリカを着たヘクトルは、当然だが漆黒の騎士と見分けがつかない。
魔防がアップしているとはいえ、セリカの全力ライナロックはかなり厳しく大ダメージを受けて必死に逃げ惑っている。
「あの、姉さん僕の鍬は?」
「え?」
「いや、え?…って…」
エイリークの額に汗が伝う。
荷物は全て広げたはず、にも拘らず鍬が無いということは…おそらく漆黒が取替え忘れ、エイリークも気づかないまま来てしまったのだろう。
今頃アルムの鍬は泉の底に……
「ご…ごめんなさいアルム…」
「いいんだ…多分こんな展開だろうと思っていたよ…」
ちなみにリーフは庭の木に逆さに吊るされている。
ジークリンデでお仕置きを受けたあげくにこの仕打ち…
だが、リーフの生命力なら死ぬことはないであろう。
辛いことには違いないが…
23
兄弟家が騒ぎに包まれているころ、ターナは綺麗なヒーニアスに勉強を教わっていた。
「だからこの公式が成り立つわけだね」
「なるほど…ありがとうお兄様」
元々ヒーニアスは勉強はできるほうだが、
いつも抱き枕を作ったりパソコンでエイリークの写真を編集するのに忙しく、こうして教えてくれたことはあまりない。
「ははは、これくらいならいつでも教えてあげるよ。ところでターナ?」
「ん、なに?」
「どうして私の部屋はエイリークのポスターや抱き枕で一杯なんだい?
しかもポスターにはキスした跡があるんだが…」
「あ、いや、それはお兄様が…」
「よくわからないが、ああいうのはエイリークに失礼だね。
全て片付けることにするよ」
大量のエイリークグッズが部屋から運び出される。
たちまちまともな人の部屋になった。
「しかもパソコンを開いてみたらエイリークの画像が沢山…
たしかに彼女は美しいが、こうして知らないところで他の人に写真を見られているとなるといい気持ちはしないだろう。
たとえ本人が知らなくともこういうのはよくない」
全て削除。
「よかった…お兄様がやっとまともに……ううっ…エイリーク…いままで迷惑かけてごめん…
でももう大丈夫だから…」
24
その後もヒーニアスの別人ぶりは際立った。
周囲への気配りや紳士的な振る舞い。
東に悪人がいれば懇々と諭して改心させ、西にお年寄りが重い荷物を背負っていれば代わりに持ってあげる。
カシムが母の薬代が…などとほざいても、疑うこともなくサイフごと渡した。
それを聞いたターナはさすがにヒーニアスを諌めた。
「い…いくらなんでもそれはやりすぎよっ!
あれは詐欺師なのよ!?」
「人を詐欺師などと決め付けてはいけないよターナ」
「でも!
カシムの母は健康だって評判よ!」
「そうか、彼の母は病気じゃないんだね。よかった…最近聞いたニュースではそれが一番のニュースだよ」
騙されたと知ってもなお穏やかで慈愛に満ちた微笑をたたえている。
まるで仏様のようだ。
「彼を怒ってはいけないよ。彼にも事情があるんだろう。
あのサイフは騙し取られたんじゃない、私が彼にあげたものだよ。
それで彼の暮らし向きが少しでもよくなるなら私は嬉しいんだ。
むしろ彼に感謝しているよ。お陰で私はよいことをした…という清清しい気持ちにさせてもらったんだから」
ターナはもはや何も言えなくなった。
「ううん…綺麗すぎるってのも問題なのかしら?
…でも以前のお兄様を思うとやっぱこの方が…」
学校でもヒーニアスは善行を行っている。
「エフラム君、この化学式は…」
「むぅ…そ、そうなのか…」
成績の低調なエフラムを心配して何かと勉強を教えているのだ。
クラスメイト達は異様な物を見るように遠巻きにしている。
いつも喧嘩ばかりしている2人を知ってるだけにかなり不気味だ。
「大丈夫だよ。少しずつやっていけばいいさ。
エフラム君は頭の回転が速いから、頑張れば皆に追いつけるよ」
「そ…そうか?
いつもお前にバカだアホだ劣等生だといわれてた気がするが…」
「そうなのかい?
私はなんて酷い事を…学校の成績が人間の全てなんかじゃないっていうのに…
すまないエフラム君、せめてもの罪滅ぼしに君の勉強を手伝わせてくれ」
「いや…俺は助かるが…」
実は綺麗なひとになったヒーニアス…
周囲の戸惑いをよそに彼は善行を重ねていく。
続く