漆黒の守護神
リーフ 「この人でなし―っ!」
いつものことと言えばいつものことだが、今日もリーフは華麗に空を舞う。
安全圏に退避しつつポテチを頬張りながら、それを見て雑談する兄弟たち。
マルス 「……そろそろ飽きてきたよね、このネタも」
ロイ 「その言い方は酷いよ兄さん……」
マルス 「でもねえ……ヘクトル兄さんとエフラム兄さんの喧嘩に巻き込まれるリーフって、この構図もう何回目?」
アルム 「これで通算808回目だね」
ロイ 「なんで記録してんの……」
マルス 「まあまあ、細かいことは言いっこなしで」
ヘクトル 「くたばれロリコン野郎!」
エフラム 「地獄に落ちろピザデブ!」
ロイ 「そしてリーフ兄さんを巻き込んでも全く気にしない兄さんたち……」
マルス 「ひどい話だねえ全く」
のん気に会話する二人の横に、落ちてくる物体が一つ。
リーフ 「ふぅ、死ぬかと思ったぜ」
ロイ 「あ、お帰りリーフ兄さん」
アルム 「おめでとう、このケースでの滞空時間のギネス記録を更新したよ」
ロイ 「だからなんで記録してんの……」
リーフ 「全く、ヘクトル兄さんたちにも困ったもんだよふんとにもう!」
ロイ 「っていうかリーフ兄さん傷はどうしたの?」
リーフ 「ん、空中飛んでる間に傷薬塗って治した」
ロイ 「嫌な特技を習得していらっしゃる……」
リーフ 「ついでにサラに頼んで、『死んだら死体が動き出して勝手に復活の泉の水飲む仕様』にしてもらったからね!
これでいつどこで何に巻き込まれても大丈夫ってわけさ!」
ロイ 「え、それ人体改造されてね?」
マルス 「相変わらず体張ってるよリーフは……」
ロイ 「っていうかなにその仕様。サラさん何やってんの」
マルス 「サイドビジネスってやつじゃないの? 裏でいろいろやってるって話だしね、彼女」
リーフ 「んー……そういや結構前に他の人にも頼まれて同じ改造手術したって言ってたっけ」
ロイ 「え、リーフ兄さん以外にもいるの、そんな手術必要な人……」
リーフ 「どうかなあ。道を歩けば隕石が落ちてきたりエタルドラグネルの衝撃波にふっ飛ばされたりするこの町だし。
需要は結構あるんじゃないのかな?」
ロイ 「リーフ兄さんだけだってば、そんな人」
リーフ 「そう、それだよ! 僕は前から理不尽に思っていることが一つだけあるんだ!」
ロイ 「リーフ兄さんの境遇で理不尽に思ってることが一つだけしかないってのも凄い話だよね……」
マルス 「さすがリーフ、耐久性ならFE主人公一と噂される男よ……」
リーフ 「そんなことはどうでもいいから、まずはあれを見てくれ」
ロイ 「あれ?」
と、ロイたちが未だ続く喧嘩の中心地に目を向けると。
ヘクトル 「サツに突き出すぞペド野郎!」
エフラム 「精肉所に売るぞ贅肉野郎!」
マルス 「やれやれ、相変わらず品のない罵倒だよ」
ロイ 「醜い罵り合いを続けるヘクトル兄さんとエフラム兄さんがどうしたの?」
リーフ 「そうじゃないって! ほら、あれ、あれ!」
ロイ 「んん……?」
言われてよく見てみると、二人のすぐ近くで、
セリス 「あはは、そうなんだ。うんそう、それでね……」
ロイ 「セリス兄さんが何事もないかのように携帯でお喋りしてるーっ!?」
リーフ 「そう、そうなんだよ……! 僕とセリスは割と近くにいて一緒に行動することが多いんだけど、
僕がどんな危ない目に遭おうと、僕が何回三途の河に片足突っ込む羽目に陥ろうとも!
セリスだけは! いつ! どんなときだって! 全くの無傷で生還するんだァーッ!
これを理不尽と言わずして何と言おう! しっこくハウスの理不尽さだってこれには負けると僕は声を大にして主張したい!」
叫び終えて、ハァハァゼイゼイと荒い息を吐くリーフ。
ロイとマルスは顔を見合わせ、
ロイ 「うーん……」
マルス 「確かにまあ、セリスが怪我してるところなんて今まで見たことないけど……」
ロイ 「それはあれじゃない? ほら、神器の力とか」
アルム 「生まれ持った幸運の高さとか」
リーフ 「僕だってそのぐらいのことは考えたさ! でも腑に落ちない、どう考えても腑に落ちないんだ!」
セリス 「そうそう……そうだユリウス、今度の日曜日なんだけど、ミレトスに買い物に……」
マルス 「……なんだろう、今ユリウスの方にも着々と死亡フラグが展開されつつあるような気が……」
リーフ 「そんなことはどうでもいいよ!」
ロイ 「どうでも良くはないと思うけど」
リーフ 「ともかく、これは徹底調査する必要があると思うんだ! 協力してくれるよね、三人とも!」
ロイ 「……はあ」
マルス 「まあいいけどね、暇だし」
アルム 「やった! ちゃんと数に入ってた! さすがリーフ兄さんだ!」
ロイ 「アルム兄さん、そこで喜んじゃ駄目だと思う……」
~三日後~
ロイ 「……とまあ、調査開始から三日が過ぎたわけですが」
アルム 「この間、リーフ兄さんがエフラム兄さんとヘクトル兄さんの乱闘に巻き込まれること八回。
その全てにおいてセリスは近くで編み物したり縫い物したり宿題やってたりしたわけだけど、巻き込まれた数は0回だ」
リーフ 「ほら見ろ、やっぱり理不尽じゃないか!」
ロイ 「……いや、そもそもこんだけ巻き込まれてることに関して理不尽だと思わないの、リーフ兄さん……」
リーフ 「え、何が? 別に僕が巻き込まれるのはいつものことじゃないか」
ロイ 「……ん。僕の、涙か……」
アルム 「しかしまあ実際、改めて注目してみるとちょっとおかしい感じはするね」
ロイ 「確かにねえ……何だろう。やっぱり神器の守護かな?」
アルム 「案外漆黒さんが『乙女の妹は私が守る』って理屈でなんかしてるとか?」
リーフ 「それだったら僕も守ってくれていいと思うんだ」
ロイ 「うーん……一体どういうことなんだろう?」
マルス 「フフフ……まだまだ甘いね、ブラザーたち」
リーフ 「マルス兄さん」
アルム 「と、言うと?」
マルス 「僕も確かにおかしいと思ったんでね。リーフが巻き込まれてる現場を密かに超高性能カメラで撮影しておいたのさ!」
アルム 「おー」
リーフ 「凄い凄い……いや、そんなんやるならついでに僕も助けてほしかったんだけど」
マルス 「え、なんでそんなことしなくちゃならないの?」
リーフ 「うん……まあ、それはそうなんだけど」
ロイ 「納得しちゃ駄目だってばリーフ兄さん……それにしても」
と、ロイは首を傾げて、
ロイ 「超高性能カメラなんてどこから持ちだしたの、マルス兄さん?」
マルス 「ロイの友達のリリーナさんに借りたんだよ。さすがオスティア家のご令嬢。いいもの持ってらっしゃった」
ロイ 「ふうん……リリーナが超高性能カメラか……何に使ってるんだろ?」
リーフ (盗撮だな)
アルム (盗撮だね)
マルス 「まあともかくそういうわけで、準備は整った! 後はこの映像をスロー再生して見てみるだけさ!」
というわけで、四人はテレビを囲んで映像を見始める。
ヘクトル 『潰れろムッツリ野郎!』
エフラム 『弾けろムッチリ野郎!』
リーフ 『この人でなし―っ!』
セリス 『水族館楽しかったねえ、ユリウス。あ、そうだ、今度は動物園に……」
アルム 「うーん、見れば見るほどいつもの光景だね」
ロイ (ユリウスさん生きてるかな……後でエルフさん辺りに確認を取っておこう)
リーフ 「……ねえみんな。今気付いたんだけど」
ロイ 「うん?」
マルス 「なんだい、リーフ?」
リーフ 「いや、こうして客観的な視点で改めて見てみるとさ……僕って相当酷い目に遭ってない?」
マルス 「気のせいじゃないかな」
リーフ 「そうだね、ごめんごめん」
ロイ 「……ん。僕の、涙か……」
アルム 「……あ」
ロイ 「どうしたの、アルム兄さん?」
アルム 「……いや、気のせいかな。今、ヘクトル兄さんがテーブル粉砕したとき、セリス兄さんの方に破片が飛んでさ……」
リモコンを操作して映像を巻き戻すアルム。
アルム 「あ、ほら、ここ、ここ!」
ロイ 「……? この破片がどうかしたの?」
アルム 「うん。コマ送りにするから、よーく見ててよ?」
四人が視線を注ぐ中、その破片はゆっくりとセリスに向かって飛んでいき……
マルス 「……!?」
ロイ 「き、消えた!?」
リーフ 「結構大きな破片だったのに、一瞬で……!」
アルム 「……どうやら、僕らは真相に辿り着いたようだね……!」
ロイ 「そっか。こういうことが毎回起こってたから、どんな状況でもセリス兄さんは傷一つなく生還できていたんだ……!」
リーフ 「こんなのに気付くなんて、凄いねアルム!」
マルス 「ああ、さすが僕らの中でステータス上限だけは一番高い男だ!」
アルム 「はははは、いや、それほどでも……」
ロイ (微妙に褒められてない気がするのは気のせいだろうか……)
リーフ 「でも、一体どういうことなんだろう? セリスはどこかの女神辺りに特殊な加護でももらってるのか?
クソッ、だったら僕も是非ともつけてほしいよ! そうすればおねいさんたちにアタックし放題なのに!」
ロイ 「普通に身の安全だけ考えていようよ、兄さん……」
マルス 「しかし、実際気になるな……よし、ちょっと時間はかかるけど、もっと細かく分割してみよう」
マルスがカメラをノートPCに接続し、動画の解析を進める。
ロイ 「……でも実際、なんなんだろうね?」
アルム 「一瞬チラッと黒い影が見えるような気がするんだ」
リーフ 「うーん……じゃあなんだろ、ユリア辺りがフォルカさんとか雇って護衛を頼んでるとか?」
ロイ 「あり得ない話じゃないかもしれないけど」
マルス 「……なん、だと……!」
呆然と呟くマルス。何だ何だと全員がノートPCの画面に注目すると、そこには。
ロイ 「……! 破片が消える直前、黒い影がセリス兄さんの前に……!」
アルム 「その影が破片を弾き飛ばしている!」
リーフ 「誰なんだこの影は!? やっぱりフォルカさん!?」
マルス 「落ち着けハマーD。もっと細かく動画を分割すれば……!」
カタカタとキーボードを叩くマルス。果たして、そこに写り込んでいた影の正体は……
ロイ 「……?」
アルム 「……黒髪の、女の子……?」
マルス 「……誰だ、この子。こんな女の子は僕も知らないぞ……?」
ロイ 「そんな。マルス兄さんすら知らないだなんて、一体……?」
リーフ 「えっ。僕知ってるよ、この子のこと」
他の三人が「えっ」と注目すると、リーフは画面を見ながら、
リーフ 「マナっていう名前のシスターだよ、この子。セリス兄さんと同じクラスの。すっごい地味ーな女の子でさ。
二人組になってくださいっていうと毎回余るし、遠足のバスに乗り遅れたのに誰も気付かなかったりするし……」
アルム 「なんだろう、凄く親近感が湧くぞ! 是非ともお近づきになりたい!」
マルス 「やめなよアルム、またセリカが邪神降臨させて被害喰らうのは僕らなんだからさ」
ロイ 「でも、そんな地味な女の子が、一体どうしてこんなことを……?」
頭を悩ませる四人。そこへ通りかかる兄が一人。
アイク 「ん。何をやってるんだ、お前ら」
ロイ 「あ、アイク兄さん」
リーフ 「実はかくかくしかじか」
リーフが説明すると、アイクは画面を見たあと一つ頷いて、
アイク 「ああ。この女か」
ロイ 「え、知ってたの、アイク兄さん?」
アイク 「もちろんだ。よくセリスの周りを凄い速さでチョロチョロと動き回っている」
マルス (あのアイク兄さんをして『凄い速さ』だと……! どんだけだ、この子!?)
アイク 「一回捕まえて話を聞こうとしたんだが、真っ赤な顔で逃げられてしまってな……。
どうやら怒らせてしまったようだ。是非とも一度手合わせしたいと思っているんだが、なかなか捕まらん」
マルス 「……これはどうやら、会ってみないといけなくなったらしいね」
ロイ 「え、そうかな……?」
アルム 「でもロイだって気になるだろう、この子のこと」
ロイ 「まあ、それはね……」
マルス 「リーフ、この子の住所は分かる?」
リーフ 「ん。うん、小学校のときの卒業アルバムがあるから……」
マルス 「それじゃあ明日、僕ら四人で突撃だ!」
~翌日~
アルム 「……というわけで、やって来ましたマナさん宅」
ロイ 「うーん……探そうと思わなければ絶対に見つからなさそうな、実に地味な家……
っていうか、リーフ兄さん」
リーフ 「なんだいロイ」
ロイ 「なに、そのでっかい風呂敷包み」
リーフ 「傷薬とか復活の泉の水とか……」
ロイ 「なんでそんな豪華装備なの」
リーフ 「だって、あんな凄いことしてる女の子のところだよ!?
一体何度死ぬ羽目になるか……備えあれば憂いなし、だよ」
ロイ 「……ん。僕の、涙か……」
アルム 「それはそれとして……ええと、呼び鈴押すよ?」
マルス 「ああ、やってくれ。カメラは仕掛けてある。準備は万全だ」
ロイ (もう突っ込まないぞ、僕は……)
アルム 「じゃあ押すよ……せーの」
ぴんぽーん……
マルス 「さあ、鬼が出るか蛇が出るか……」
ごくりと唾を飲み込んで待つ四人の前、
マナ 「はーい」
と、控え目な声と共に、玄関の扉から一人の少女が顔を出した。
マナ 「えっと、どちら様……あっ、セリス様の……!?」
呟いたきり、顔を真っ赤にして口ごもってしまう少女。
その様子をしげしげと観察し、四人が出した結論は、
ロイ (地味だ……)
アルム (地味だな……)
リーフ (やっぱり地味だ……)
マルス (むしろ普通より地味だ……)
無言で目配せし、お互いの認識を確認し合う。
その後、リーフが一歩進み出て、
リーフ 「こんにちは、マナ」
マナ 「あ、リーフ様……こんにちは。あの、何か御用ですか……?」
か細い声で怯えたように言う彼女に、リーフは咳払い一つして、
リーフ 「今日来たのは他でもない。これのことを聞ききたんだ」
マナ 「……あっ! これは……!」
リーフが差し出した写真……破片を弾き飛ばす自分の画像を見て、口元を押さえるマナ。
その顔が見る見る内に青ざめていき、さらには大きな瞳に涙が溜まりだして、
リーフ 「って、ちょ」
マナ 「ごめんなさい! ごめんなさい!」
と、マナは涙目で何度も何度も頭を下げ始めた。
棒立ちになるリーフ。その背後でひそひそと囁き合う三人。
マルス 「ちょっと奥さん、見ました?」
アルム 「見ました見ました」
ロイ 「あーあ、泣かしちゃった、リーフ兄さん……あんないい子そうな女の子を……」
リーフ 「あれ、なんか僕が悪者になってる!? い、いやマナ、誤解だよ! 別に君を責めようとかそういうんじゃなくて!」
マナ 「……そ、そうなんですか……? わたしてっきり、出過ぎた真似をして咎められるものだと……」
リーフ 「いやいや……僕らはただ、君が何故こんなことをしているのか聞きたかっただけで」
マナ 「それは……」
と、マナは顔を赤らめながら、小さな声で説明を始める。
それによると、彼女がこういったことをし始めたのは、相当前の話らしい。
援護防御、ステータスアップ魔法、杖ポコ……ありとあらゆる手段で隠密裏にセリスをガードしているのだとか。
マルス 「すげぇ……このシスター、FEのシステム限界を超えてる……」
アルム 「一体どうやってそんなことを可能に?」
マナ 「はい。ええと、まずローラさんに杖ポコ戦闘術を教えて頂いて、
フォルカさんにスピードを鍛えてもらって、ミラの女神様の下で無限クラスチェンジに明け暮れ、
ネルガルさんに頼んで他の世界に送ってもらったり……ああ、それとサラさんから、自動復活術を授けてもらったり……」
リーフ 「僕の前に改造手術を施されたのは君だったのか……!」
アルム 「だけど、一体どうしてそこまで……?」
マナ 「それはその……わたしが、セリス様のことを……」
言いかけたところではっとして、真っ赤な顔を両手で覆ってしまうマナ。
マナ 「ああ、わたしったらなんて身の程知らずな! わ、忘れてくださいっ!」
リーフ 「うーん……まあ、大体の事情はこれで分かったけど」
アルム 「どうしてそこまでセリス兄さんのことを……?」
ロイ 「そりゃあやっぱりほら、危ないところをセリス兄さんに助けられたとか、そういう……」
マルス 「いや、それはないね」
マルスがきっぱりとした声で断言する。
マルス 「ここ数年来の兄弟の動向は、逐一僕の元に入ってくるようになっているんだ。
その僕の情報を下に考えても、セリスがこうも献身的な愛情を捧げられるほどドラマチックな事件を解決したことはないはずだ」
ロイ 「……うん。今凄い聞き捨てならないことを聞いた気がしたけど、とりあえず突っ込まないでおくよ」
アルム 「となると、ますます謎だね」
リーフ 「マナ。どうしてそうもセリス兄さんのことを慕っているのか……良かったら、話してもらえないかい?」
マナ 「は、はい……いえ、隠すほどのことでもないのですけれど……」
~マナの回想~
それは、今から少し前のこと。
ユグドラル中学に入学したマナだったが、入学式早々道に迷ってしまい、どうやって学校へ行ったらいいのか分からなくなってしまった。
道行く人々に尋ねようとしてみたが、地味なマナに気付いてくれる人はなかなかいない。
途方に暮れていたところで、
セリス 「あれ、君もユグドラル中学の新入生?」
と、気さくに声をかけてくれたのが、通りすがりのセリスだったらしい。
それで二人は一緒に登校し、無事入学式に出ることができたのだ。
~回想終わり~
マナ 「……夢のような時間でした……(うっとり)」
リーフ 「……」
ロイ 「……」
マルス 「……」
アルム 「……」
リーフ 「……あれ?」
マナ 「は、はい?」
ロイ 「いや、えーと」
マルス 「……それで終わり?」
マナ 「は、はい、そうです……な、何かおかしかったでしょうか?」
アルム 「いや、おかしいっていうか……」
ロイ 「それから先は? 学校生活の中でセリス兄さんと一緒に何かしたとかそういうのは……」
マナ 「そ、そんな、恐れ多いです!」
マナは真っ赤な顔で両手を振る。
マナ 「そんな、わたしなんかがセリス様と……そんなの、身の程知らずです。
セリス様のお近くにはいつもラナ様やユリア様やユリウス様がいらっしゃいますし……」
アルム 「えー……それじゃ本当に君は、その……入学式のとき一緒に登校したってだけで、セリス兄さんのことを……?」
マナ 「……はい。あんな安心感と幸福感に満ちた時間は、生涯で初めてでした……」
と、またうっとりし始めるマナ。
そんな彼女を横目に、兄弟たちはひそひそ話を始める。
マルス (……どう思う、ブラザー)
アルム (どうもこうも……嘘を吐いているようには見えないよ)
ロイ (じゃあこの人、本当にただそれだけの理由で厳しい修行に耐えて、今みたいな力を手に入れたんだ……)
マルス (道理で世紀末覇者やら暴走神竜娘やらに囲まれてるセリスが、怪我一つない日常を送れているわけだよ)
ロイ (自動復活術も身につけているらしいし……今まで何回死にかけてるんだろう、この人)
アルム (それでいてセリス兄さんとは、今まで会話らしい会話もなし、か……)
リーフ (け、健気だっ! 健気すぎる……! 僕の周りにもこんな女の子はいないものか……!)
マルス (リーフ。夢は寝てみるものだよ)
リーフ (そうだね、ごめん)
ロイ (……ん。僕の、涙か……)
アルム 「でも、マナさん」
マナ 「はい?」
アルム 「本当に、今のままでいいの? セリス兄さん、少しも君の頑張りを知らないみたいだし」
ロイ 「そうだよねえ。知ったら絶対止めてるもん」
アルム 「何らかの形で伝えた方がいいんじゃ」
マナ 「いえそんな、いいんです」
マナは慌てて首を振り、柔らかな笑みを浮かべてみせる。
マナ 「わたし、本当はあの方の近くにいることすら出来ないような身分なのに、出しゃばった真似ばかりしていて……
少しでもセリス様のお役に立てるなら、なんて、勝手なことばかり考えて」
ロイ (勝手、なのかなあ……?)
アルム (本人は本気でそう思ってるみたいだけど)
マナ 「それに、セリス様はあのときのことなんて覚えていらっしゃらないでしょうし。
いいんです、わたしは、このままでいられるだけで」
そのときであった。
セリス 「あれっ、みんな」
噂の渦中の人の声。その場の全員がぎょっとして後ろを振り返ると、そこにはユリウスと並んで立つセリスの姿が。
マルス 「げぇっ、セリス……!」
リーフ 「どうしてここに……!」
セリス 「えっとね、ユリウスと一緒にミレトスに出かけた帰りだよ。あっ、『逆襲のザサ』って映画が凄い面白くてね!
あと、ロウエンさんのレストランで昼食を取ったんだけど、やっぱりおいしかったなあ。また行こうね、ユリウス!」
ロイ 「ユリウスさん……!」
ユリウス 「みなまで言うな、覚悟はできている……!」
なんだか悲壮な決意を固めているユリウスの横から、セリスがこちらに向かって駆けてくる。
セリス 「だけど、こんなところでみんなに会うなんて奇遇だねえ……あっ、マナ!?」
セリスが兄弟の後ろにいるマナを発見すると、彼女はびくりと震えて、
マナ 「……!! ここここ、こん、こんに……!」
リーフ (うわっ、湯気が立ちそうなぐらい顔が真っ赤に……!)
アルム (言語障害も併発……! 極めて危険な状態だよ、これは!)
ロイ (頑張れ、マナさん!)
セリス 「うわぁ、こんなところでマナに会えるなんて! びっくりしたなあ! ここがマナのお家?」
マナ 「!! セセセセ、セリス様、わた、わたしの、名前っ……覚えて……っ!」
セリス 「名前? マナの名前がどうか……あれ、マナ。顔が真っ赤だよ? 大丈夫?」
マナ 「あqwせdrftgyふじこlp;@:」
セリスがマナの額に手を伸ばそうとした瞬間、彼女は悲鳴というか奇声を上げながら物凄い勢いで何処かへと走り去ってしまった。
後には、ぽかんとした顔のセリスが残される。
セリス 「……どうしたんだろう、マナ……」
ロイ 「いや、どうしたっていうか……」
マルス 「なんというか……」
リーフ 「ねえ……?」
アルム 「きゅ、急用とかじゃないかな……」
ぎこちない半笑いで顔を見合わせる四人。
それを見て、セリスはため息混じりに肩を落とした。
セリス 「……やっぱり避けられてるのかなあ、僕」
リーフ 「避けられてる、っていうと……」
セリス 「うん。マナとは中学校の入学式のとき、一緒に登校して以来ずっと同じクラスなんだけど……
話しかけようとすると、いつもあんな風に……何か嫌われることしちゃったのかなあ、僕」
アルム (凄い誤解だ……)
ロイ (そしてちゃんと彼女との出会いを覚えてるのか、セリス兄さん……)
リーフ (マナがこのこと知ったら凄いことになりそうだな)
マルス (大変面白いことになってまいりました)
ユリウス (マルス自重しろ……)
彼らはその後もしばらく待ち続けたが、結局日が暮れる時間帯になってもマナは帰ってこなかった。
帰宅したアイクが言うところでは、「氷竜神殿であの女に会ったがまた逃げられた」とのことらしい。
~その夜~
マナ 「……ただいま……」
ディムナ 「あ、マナ」
マナ 「……ディムナ兄さん」
ディムナ 「どこ行ってたんだ。心配したんだぞ。お前は最近やたらとどこかに……」
マナ 「……ちょっとね。頭冷やしに行ってたの」
ディムナ 「……ん?」
マナ 「……うふ」
ディムナ 「ま、マナ……?」
マナ 「ウフフフフフ……に、兄さん」
ディムナ 「な、なんだ?」
マナ 「わたしもう、あと十年ぐらいご飯なしでも戦えるかもしれない……」
ディムナ 「……マナ……」
幸せそうに笑い続ける妹を見ながら、兄は頬を引きつらせる。
幼い頃から地味だの影が薄いだのと言われ続けて育ってきたはずの兄妹。
だと言うのに、妹は最近何やら妙な方向に変わり始めているらしいのだ。その気配を感じる。
一体いつから、どんな切っ掛けがあってこうも違ってしまったのか。
そして、地味少女マナはこの先どこへ向かって行くのか。
今は誰にも予想出来ないことなのである。
ふぃん。